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裏・代役勇者物語  作者: 幸田 昌利
第三章
55/138

55◆ようやく問題は全て解決した…気がする

 盗賊団の問題が解決した翌日の朝、村長と最終的な話をした。

問題は解決し、この後各村を回る事。

予定としては明日の朝から、肉祭り再びを行うので準備しておいて欲しい事も伝えた。


 ジムルは移動に付き合って貰うのでそのまま外で待機して貰い、移動迷宮でネイアと保護した親子には待っていて貰う。

因みに父親がロイ、娘がクーと言う名前だ。

ジムル同様、奥さんを亡くしているのだが、この世界の一般的な村はどうしても栄養状態はそこまで良くない。

衛生面も甘い所がある為……出産した後に容体が悪くなって亡くなってしまう事もそれなりにある。

この二組の親子は、そういった典型的な例と言える様だ。

クーの様子を見る限り、後遺症やトラウマと思われる症状は出ていない。

このまま何事も無く落ち着いてくれれば良いと願いながら、私はジムルと移動を始めた。




 ☆ ☆ ☆




 四つ目の村に着いたが、この村が今までで一番状態が悪かった。

盗賊団にやられたと思われる焼けた家が数件あり、怪我の手当をした跡が目立つ人も多くいる。

村には数人の男が見張りをしていたが、今までの村より明らかに無気力な感じを受ける。

事実、私が近寄った際にも、手斧を持った若い男性が一人しか反応を示さなかった。


「お前達……何者だ……?」


一人だけ反応を示した男性がそう聞いてきた。

ジムルはともかく、明らかに女性の私は盗賊団では無いと考えているのか、それとも本当に無気力でどうでも良くなっているのかは判断が付かない。


「盗賊団の事で村長さんとお話しが有ります。お取次ぎを願いたいのですが」


そう言うと、


「こっちだ」


それだけを言って歩き始めた。

村長宅だと思われる建物は……酷い物だった。

半分が焼け落ち、良く全焼しなかったな……と言う状態のままで住んでいる様だ。


 村長に会った私は……流石に愕然とした。

全身が火傷を負っているらしく、包帯の様に巻いた布の隙間から所々見える部分が痛々しい。

意識はあるようで、起き上がる事も出来ずに片目が熱で白濁している瞳でこちらを見ていた。

口が時々少しだけ動くが、言葉を発する事は出来ていない。

……これは、クーの時にやった事をもう一度かな……。


 一応、確認の為に家族と話をした。

そうすると、思ったよりは状況が良い事が判明。

液体の様に柔らかくした、お粥の様な物を毎日少しではあるが口にしているらしい。

もっとも、当然それだけでは衰弱していくばかりなのは家族も判ってはいたが……死ぬ時までは世話してあげたいと奥さんが頑張っていたらしい。

これは朗報といえる。

消化も吸収も出来るのならば、後は流し込んで魔法をかけまくるだけだ。




 ☆ ☆ ☆




 まずは迷宮を呼び、ネイアに例のカロリー摂取用スープを作って貰う。

消化機能も多少は残っているのだろうが、水分オンリーで流し込んでしまった方が良い。

私はちょっと悩んだ末、クーに使った管を洗浄してから外皮だけを剥いで作り直した。

どうせ魔法でガンガン何でも治しまくるんだから、万が一感染とかしても大丈夫!!

実際には、魔法のお陰で感染もあり得ないんだけどね。


 村長の年齢はまだ四十になったばかりらしいので、体力的には問題無いはずだ。

家族には何をするのか、ある程度説明してから治療を始めた。




 ☆ ☆ ☆




 現在、肉祭りがスタートしている。

村長はクーと違って身体も出来上がっており、吸収も十分に出来る状態だった為、スープを流し込んで魔法さえかければすぐに動けるようになった。

危険な状態を脱したのでまずは一安心。

次に行う事は、タンパク質を摂取してから肉体と皮膚の再生である。

……という訳で、肉祭りがスタートした訳だ。


 無気力だった村人を集め、まずは保存食を作らずに調理して食べさせていく。

ある程度食べた段階で怪我人を集め、回復魔法を使って怪我を治す。

その後に、村長の所に行って回復魔法を使う。

迷宮で狩って渡す。

以下、エンドレス。


 無気力だった人達に生気が戻り、ようやく順調に動けるようになって来たので、今度は食べる分以外に保存分も作り始めた。

そこで気が付いたが……怪我を治す事ばかりに気を取られ、盗賊団の壊滅を知らせてなかった。

村長にさり気なくその事を伝えると、思いっきり唖然としていた。

その事が徐々に村人に伝わり、本当にお祭り騒ぎとなった事は言うまでも無いだろう。




 ☆ ☆ ☆




 五つ目の村は、比較的物々しい感じは受けない対応だった。

実際の所、この村は今まで被害を受けていないらしい。

ここからしばらく森側へ行くとロイやクーが住んで居た場所らしいので……運が良かったとしか思えない。

もう暫く放置しておいたら、確実にここも被害を受けていただろう。

ロイは事情があり、この村には入れないとの事なので、第二迷宮の方へ行っている。

今度はすぐに盗賊団壊滅の報告をした。

襲われていないとはいえ、他の村と差を付けるのは何かあった際の確執となる可能性もあるので……同じように肉祭りを行う。

これで、取り敢えずは全部の村を回った。

後は最初の二つの村への報告だが、食料は置いてきてあるし……実際に襲われる心配は無いのに警戒態勢が続くだけだし……まぁ、そこまで急がなくても良いかな。




 ☆ ☆ ☆




 村を出て、しばらく移動した段階でロウとクーに迷宮から出てきて貰った。

そこまで急ぐ必要は無いので、歩くのとそれ程変わらない速度で移動する。

理由は……ジムルは余裕だったが、ロウには簡易ゴーレムの最速移動での揺れが耐えられなかったからだ。


 村を出て一時間程歩いた段階、もう陽が落ちてしまった位にようやくロウの家に着いた。

しかし、その場所は無残な状態だった。


「……盗賊達に襲われた時の状況を考えると……こうなっているのは当然ですね……」


家は燃えてほぼ何も無く、放置された畑は踏みにじられた上に手入れや水も与えていなかった為、これから頑張っても収穫出来るのは二~三割が限度だろう。


「それでも、娘と一緒に無事生きていられただけで満足です……それ以上を望む方が欲張りすぎですから……」


そう言いながらも、途方にくれた感は隠しきれて居ない。


「……答えたくなければ答えなくて結構ですが……。そもそもロウさんは、何故こんな場所に住んでいるのですか?」


答えが返ってくるかは半々かな……位に考えていたが、


「それ程珍しい話ではないと思いますが……私の妻は最後に行った村に住む、村長の娘の一人だったのです。しかし、私との結婚はどちらかと言えば反対されていました……。それなのに妻に苦労をかけた上に病気で失った事で……怒りを買ってしまったという訳です」


との事。


「他の村に行かずに、こんな場所に住んでいるのは奥さんのお墓か何かがある為とか?」


そう聞いてみたが、そうではないらしい。

墓は当然、村長が用意したらしくて場所も判らない。

その上、クーを引き取る条件として、絶対に村へ近づくなと言われて居るとの事。

ここはロウが子供の頃に住んでいた場所らしく、行く場所が無いためにここに戻ってきたらしい。


「ここに居る理由が無いなら、私の生まれた故郷に行かない? 私は元々その為に移動している最中だし」


ロウは予想外の言葉をかけられて呆然としている。

何故私がこんな事を言い出したかといえば……一番の理由はクーの事だ。

今は特に症状が出ていないが、心の傷が今後どうなるかわからない。

直接は関与していなくとも、盗賊団に関する事で若干の負い目を感じているのは事実だ。

何か起きた場合に、面倒を見てあげられる場所に居た方が都合がいい。

有り難い事に、師匠と迷宮のお陰で生活には困らない様になっている。


「しかし……ご迷惑になりませんか……?」


ロウはそう聞いてきたが、


「迷宮があれば収入的にはどうにでもなるから問題は無いわ。私の手伝いをして貰える人が居た方が良いから、来てくれると助かる事も多いかな」


そう答えた。

事実、これから村へ戻って色々生活を良くして行く為に動く予定だ。

直接私を手伝ってくれる人が居ると助かる。


 しばらく迷っていたが、私の案に乗ってくれる事になった。

ロウだけならまだしも、これからのクーの事を考えればその方が良いとは思う。

少し離れた位置で簡易ゴーレムの椅子に座りながら寝ているクーを起こし、ここを離れる事を告げたが特に駄々を捏ねるような事も無く、私と一緒に行ける事を喜んでくれた。

私はクーを抱きかかえながら迷宮を呼び、撤収する。

あと少しだけ後片付けが残っているが……ようやく終わったかな。

そう感じながら今日は終了した。

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