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裏・代役勇者物語  作者: 幸田 昌利
第三章
54/138

54◆壊すより治す方が難しいのは良くある話です

 子供の状態を考え、まずは栄養の補給が必須だと考えて行動に移した。

骨折だけではなく、身体の各所に炎症が起きているらしくて熱が結構高い。

その為か、回復魔法を使用しても意識が朦朧としているらしくて会話が成り立つ状態に至っていない。

試しに少量の水分を口に含ませたが機能と意識レベルが低下しているらしく、気管に入って激しくむせてしまった。

この状態で更に肺炎を起こされると不味いので、細い管を作って胃に直接入れる方向で行く。

胃が動いてない可能性も高いので、出来れば直接腸まで入れたいのだが……上手くいくだろうか……?


 素材は……スライムの死体を使う事にした。

爺の迷宮には魔法生物の階があり、少数ながら魔法生物系のスライムが生息していた。

因みに、通常発生のスライムとは発生方法自体が違い、魔法による実験の失敗作や副産物として生まれるらしい。

今使うスライムは失敗作だと思うが、もしかしたらカオススライムは副産物と言える存在だったのかもしれない……本気で強敵だったし。


 さて、スライム素材を魔素で特性の上書きをしてから細い管状くだじょうに形状を整えて、表面は伸縮の余地を多少残しつつ薄い皮で包む。

スライムの表面にあった再生力の高い皮膜を利用しているので、あまり手荒に扱わなければ破れる事は無い。

使用する魔石には、出力の調整可能な《アースシールド》を組み込む。

基本はプニプニした細い管である為、この機能が無くては食道の奥に送り込めないからだ。

胃酸に対してもこの機能が有れば耐えられるだろう。


 ジムルは子供の父親と昔何回かあった事があるらしく、声を掛けて安全になった事を再度認識させ、とにかく体力を取り戻すために食事を摂るように勧めていた。

勧められるままに食事を口にする父親。

しかし、その間も子供から離れる事は無い。

そんな姿を横目に見ながら、魔法具の動作確認をする。

動作は問題なしだったので、ネイアに頼んでおいた流動食の様子を見た。

まずはとにかく水分と栄養を両立させる必要があるので、カロリーの高そうな食物を煮込んでエキスを出し、布でして管で流しやすくして貰っている。


 さて、管を入れるに当たって、正直私はそこまで人体の構造に詳しくは無い。

さっきから、前世の記憶を動画で見れる機能をフルで検索しながら色々やっている状態だ。

道具は出来た……次は遂に体の中に入れなくてはならない状況にある。

……敵対する相手には容赦なく危害を加えてきた私だが……流石に、この責任のある行為に対しては緊張しない訳が無い!

怪我をさせていい相手と、させちゃ不味い相手では気の持ちようが全く違う訳ですよ!!

特に今回は子供の命に係わるのだ。

失敗は許されない。


 まずは父親に手伝って貰いながら、口を開いて管を入れた。

本当は鼻の穴から入れた方が刺激が少ないので長期間入れるには向いているらしいが、今回の管では子供の小さすぎる鼻の穴には入らなかった。

私の考え通りに行くならそこまで長期間入れる必要は無い筈なので、まずはこのまま試す事にしたのだ。

気管は食道の前側に分かれて行くらしいので、仰向けに寝かせたままゆっくりと管を押し込んで行く。

しばらく進めると少しだけ抵抗があり、更に大きな抵抗を受けたと思ったらその抵抗が無くなった。

どうやら胃の中に入った様だ。

その後は、寝たまま体の右側を下に向ける為に向きを変えた。

この世界の人間の構造自体は前世とほぼ同じなので、胃の中で消化された食べ物は右側から腸に流れて行くはずだ。

そちらを下にしておけば上手くいくと直接腸に管が入るし、上手く行かなくても流し込む液体が奥に流れて行く。

少しづつ管を奥に入れ、上手く入ってくれていれば十二指腸には届くであろう長さを入れて取り敢えず完了した。


 次に、少量づつ管から栄養補給液を流し込む。

焦らずにゆっくりと入れて行くと、小さなお腹がキュルキュルと鳴り始めた。

上手く吸収してくれるかは判らないが、取り敢えずは胃腸が動く状態までは回復している様だ。

ここからは時間を掛けながら、回復魔法を時々使って行く。

現在は栄養が足りていないので回復の効果が薄いのだが、少しでも栄養があれば魔法効果で良い状態に持って行ける。

胃腸が良い状態になれば、栄養の吸収効率も良くなるので更に回復の効果が上がる。

このスパイラル状態まで持って行ければこっちの物だ。

まずはその第一段階はクリア出来ているだろう。

後は根気良くいきましょう!


 そして、この段階で自警団の面子めんつには家に帰って貰った。

夜遅くまで働いて貰ったお礼として、あまり危険な物は渡せないので、支給しておいた短剣をそのまま差し上げる事にした。

魔法が付与してあるので切れ味が上がっており、その切れ味自体が手入れ無しでほぼ落ちない加工がしてある。

ハッキリとした機能が見えるので、田舎の村での生活なら重宝されるだろう……ナタとかの代わりにも出来るし。




 ☆ ☆ ☆




 子供の容体は落ち着いてきた。

良かった……。

怪我に関しては、骨折以外は治っている。

骨折もギリギリ使えるようになった魔法で回復可能なのだが、流石に大量のカルシウム等を消費してしまうのは現状は不味い可能性があるので、自分で食事が出来るようになって安定してからという事にした。

熱はまだ多少あるが、発熱の原因となる物は大半治してあるので、後は徐々に落ち着くはずだ。


「有り難うございました!」


父親から、何度目か分からないお礼の言葉を受ける。


「容体が落ち着いて良かったわ。後は時間が解決してくれるはずだから、あなたもそろそろ寝た方が良いわよ。あなただってあまり健康な状態とは言えないのだから」


そう言って、子供と一緒に寝られる様に王都で用意した寝具を出して準備してあげた。

因みに同じセットで二十組程スタックしてあるので、何かあっても結構な人数が休める準備ができる。

あと、この寝具は素材を除くと実質タダなので、使い潰しても惜しくは無い!

何故なら、掛布団は羽毛布団になっているのだが、実は爺の迷宮に居た猛禽類の羽根を加工した物だ。

魔法物質による強化は色々な方面に進化するのだが、前世では硬くて布団なんかには使えないイメージの猛禽類の羽根なのに、魔物だとしなやかで強靭な耐久力を誇る高級素材になるようだ。

肉を美味しく頂いた後に残った素材を持ち込んだら、半分を経費として渡せば一式をタダで作ってくれるとの事なので喜んで作って貰い、調子に乗ってほぼ全ての羽毛を剥ぎ取って渡した結果がこれだ。

爺の迷宮素材は何気にバリエーションに富んでいて、実に色々と役に立っている。

私の迷宮でも、有効な素材は追々採取可能にしていかなくては!




 ☆ ☆ ☆




 目が覚めると、食べ物的な良い匂いが充満していた。

隣で寝ていたネイアは当然居ない。

おそらく、一階でネイアが冷蔵庫の素材を使って何か料理を作っているのだろう。

軽く身支度をして下へ降りると、親子共々元気な姿になって居た。

まだ骨折部位は動かない様に固定してあるだけだが、痛みを感じない所までは回復させてあるので問題は無いようだ。


 私が顔を出したので、改めて親子にお礼を言われた。

そこにネイアの作った料理がやってきたので、私が追加で《アイテム》から料理を出してみんなで食べる。

子供はしきりに美味しい美味しいと言いながら沢山食べていた。

この食べっぷりなら、必要な栄養もすぐに蓄えられるだろう。

今日はこれから盗賊団関係の後始末の為に残りの村を巡り、お詫びの意味で肉祭りを開催する予定だ。

まぁ、もちろん私と盗賊団の関係は知られて居ないし、教える気も無い。

相手からすると、状況報告と慈善行為な感じかな?

今日は二つの村を回り、迷宮経由でこの村に戻ってから、ジムルの家までのコースを戻りながら肉祭りで行く。

問題は解決したので、そこまで急ぐ必要は無い。

三日位かけて、ゆっくり巡る事にしよう。

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