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裏・代役勇者物語  作者: 幸田 昌利
第三章
49/138

49◆使用説明と焼肉祭りと保存食

 村人達に用意してきた魔法具の使用法と威力を確認してもらう為に、使用者側だけではなく受ける側も体験して貰う。

使用するには誤使用や盗難を考慮して、キーワードで解除した後でないと使えない様にしてある。

このキーワードは村長と自警団の長にだけ教え、管理責任はそこに一任する。


 実際に使用した感じでは、多少大きい球状(ハンドボールの球位)になっているが問題無く投げられる様だ。

受けた側は粘着質で身動きが制限され、いくら頑張っても網から出られず、破る事も出来ないで終わった。

上手く行けば一度に二~五人位まとめて捕獲でき、一度捕獲してしまえば今回の相手程度なら十五分は魔法の効果で網を破る事も出来ずに無力化できる、となれば……当然貸して欲しい、となる訳だ。


 村長と数人の村人が文字を読み書き出来る様なので、賃貸である事や悪事に使用した際における相応の罰則を明記した文書を作成して、お互いで保管する事で明確な契約とした。

因みに、この件で盗賊達の扱いや生死に関する点は一切触れていない。

正直、盗賊がどうなろうが自業自得としか思えない。

前回の襲撃では死者こそ出ていないが、怪我人はそれなりに出ている。

盗賊達には自分達が狩る側であると同時に、狩られた場合の覚悟はしておけとしか言いようが無い。

しかも、食料の強奪は直接的には殺さなくても、間接的な死因になるのだから……どんな殺され方をしても文句など聞いてやる事は出来ない。

……こちらの世界に来て、私も殺伐とした考え方が身に付いてきたものだ……。


 一応、盗賊達が通ったと思われる経路を辿ったが、有力な手掛かりは見つからず、ルークから受け継いでいる《追跡術》は熟練度が低すぎて森に入った瞬間に役に立たなくなった。


「我が村の猟師も足跡を追って森へと入りましたが、残念ながら途中から形跡が不明になっておったらしい。何でも、浅く水が流れている一帯が有り、そこを使って足跡を消している様じゃ」


森の中の水場だと、危険な気がするがそうではないらしい。

硬質な岩場に綺麗でそこそこ大きな流れがある場所が点在しており、そこを使っている様だ。

飲料水にも使える、本当に綺麗な水であるとの事。

大きな岩盤の上に、湧いた水が流れを作っているのだろう……。

森の中で、そんなに大きな流れなんて出来るのだろうか……?

前世でも、余りそんな事に関しては詳しく無かったので良くは判らないのだが、この周辺の森には結構あるらしい。


 ジムルがそれとなく聞いてくれた結果、現在の食糧事情は相当不味いらしい。。

少し悩んだが、こんな小さな村程度の規模なら何をやっても大事にはならないだろう……と、堂々と迷宮を呼ぶ事にした。


「村長さん。盗賊団の警戒の為に人員を割いている状況では、只でさえ被害が出て苦しい状況に拍車がかかっているのでは?」


「勿論その通りだ……。作物を育てている者達は手を抜くと収穫時に大きく影響するので、川で漁をしている者や森で狩りをしている者達で自警団を維持しておる。村の備蓄を削りながら何とかしておるのが現状と言う事だよ」


私の迷宮の第一層はルークにも勧めたのだが、魔獣系の階層にしてある。

ハッキリ言えば食糧だ。

鳥系も捨てがたいのだが、捕獲の手間は増えるのに一匹当たりのボリュームが少なすぎる。

取り敢えずは、魔獣系が無難なのでそうしている。


「猟師の方にお聞きしたいのですが、魔物を食べた事は?」


ここに来ている、中年の猟師にそう聞くと、


「小型の魔獣なら、たまに倒して食べている。大きなものになると村の猟師だけで倒す事など出来ぬので、ずっと前に師匠やその仲間達と一緒に倒した時位だな」


そう答えて来た。


「今お聞きになった様に、魔物は食べられます。その点はご存知ですか?」


今度は村長にそう聞くと、


「食べられる事は知っておるよ。ただ、痛みが速すぎて、その場に居ないと駄目だとも聞いている。儂自身はその為に食べた事は無いな」


との返答。

OK、事前確認は終わった。


 私は村の中心にある広場に移動して貰い、迷宮を呼びだした。

当然驚きの声が上がるが、私は当たり前の様に扉に近づく。


「これは、私が支配する迷宮です。この中には魔獣が沢山存在しています。村長さん、これからその魔獣を狩りますので、手の空いている村の人を集めて処理をお願いします」


迷宮の出現で唖然としていた村人達が、徐々に理解をしていく。

ただ、半信半疑と言った感じなので、猟師さんに付いて来てくれる様に合図をして迷宮に入った。


 中には、入口付近にも大量に魔獣が居た。

私に対しては攻撃する事は無いが、猟師さんに対して威嚇を始めている。

まぁ、無視して《フルブースト》を発動させた直後に魔獣の首を抱え、捻った。

ゴキンッ!!

良い音がして、首が捻じれた。

そのまま担いで、猟師さんと一緒に外へ出る。


 外に出た瞬間に騒然となった。

気持ちは分かる。

だが、さっさとやって次の村へ行く必要があるので、運んで来た獲物を村長達の前に置き、きびすを返して今度は迷宮のマスタールームへ入る。

そこで《アイテム》から大型の魔法コンロを出し、外へ出た。

そこではさっきの魔獣を見ながら軽く騒ぎが起こって居たが、私が出て来たのでこちらに視線が集まる。


「それじゃ、処理を始めるから聞いて下さい。まず、猟師さんが中心になって素材になる物を処理していきます。毛皮を剥いでその他の使える部位も解体して下さい」


先程の猟師さんに加え、もう一人の猟師さんも来たらしく早速解体に入った。


「それでは、男性陣にはその後の肉をバラして頂きます」


そう言って、男達に大きな肉をある程度の大きさに分解させる。


「この魔物の肉はとても美味しい代わりに、すぐに加工しないと食べられなくなります。時間との勝負なので頑張って下さい」


村人達の疲れた表情に活気が出てきた。

次に女性陣を集め、


「今、この魔法具に火を点けます。皆さんはどんどん焼いて行き、順番に食べていってください」


その言葉を聞いた瞬間、辺りに驚きと喜びの声が響き渡った。




 ☆ ☆ ☆




 既に何頭目の魔獣か覚えていないが、相当数狩っているのは確かだ。

外へ持って出ると即解体されて行き、肉は食べる分と保存食用に分けて処理に入る。

あの後、更に追加で出した二台目の大型魔法コンロで保存食用に燻製を作っている。

即席で金属板を作成して組み合わせ、周囲を囲っていぶす為に加工した台を作った。

コンロのMPは私が補充するので余裕で燃え盛っている。

久々に……いや、むしろ初めてお腹いっぱいに肉を堪能して、広場はお祭り状態になって居るようだ。

仕事から戻った村人もどんどん参加して行くので、食べる方も終わらないのだ。

正直、今日の移動はここまでにしたので問題は無い。

暗い雰囲気を一時的にでも振り払い、ここで英気を養って貰う事で、これからの盗賊退治を頑張って貰えればそれでいい。


 因みに、魔法コンロの使用中に一つ思いついた事がある。

これに使用している魔石は、MPを供給する事で貯めておける物だ。

これ、実は他の事に利用が出来ないかな?

そう考えて試したら、一つの有効な使い方が見つかった。

実際の検証はこれが終わってからやる事になるが、上手く行けばルークの役に立つだろう。

ちょっと楽しみだ!




 ☆ ☆ ☆




 夜になっても、燻製やその他の加工は続けられている。

女性陣が試した新しい保存方法がいくつか上手く行き、燻製以外の方法が見つかったお陰だ。

その一つが、表面はしっかりと焼き、中にも熱を通してから調理用の保存液に漬け込む方法である。

熱が通る事で肉が崩れる事を防ぎ、調理液のお陰で燻製のようなカチカチの状態にならずにしばらく保存出来るらしい。

腐敗しない様に成分を調整してあるらしく、それなりに長持ちする。

そして、普段は魚を入れる為の味付けらしいが十分にこの肉にも合っていたのでそのままで使用した。

猟師さんは解体した毛皮の処理等もしっかり行っているので、街で売ればいい収益が得られる事もあり、この村に対しては、十分損害を補填する以上の事は出来たはずだ。


 食事に集まって来た時、怪我人に対して魔法で治癒も行っておいた。

一人だけ骨を折った人が居たが流石にまだ魔法で治せないので、金属で出来た固定具を作って渡しておいた。

村長だけでなく、村人全員から感謝されたが……正直に言って、奴らを迷宮の時点で殺しきれなかったのは私の実力不足とも言えるので、少し後ろめたい気持ちがあったのは事実だ。

素直に感謝の言葉は受けるが、多少は申し訳無さも感じる複雑な感情と言えた。


 取り敢えず、食事する人が少なくなった段階でお開きを宣告した。

まだまだやる気だった人も居たが、捕獲用魔法具の回収の時にもう一回行うと予告した事で納得すると共に、歓喜の叫び声が村に響き渡った。

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