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裏・代役勇者物語  作者: 幸田 昌利
第二章
40/138

40◆王都到着。ゲルボドの件は何事もなく終了

 その後の旅は順調に進み、迷宮脱出から五日が経った。

その間にシェリーに気持ちを確認した所、ルークに対して特別な感情を持っているとの事だ。

そんな話をしながらも、ルークの事を思い出しながら頬を染めていた。

お熱い事で!!

ルークとしては、こういった事を人に頼ってしまう軟弱さを気にしている感じがあったが、相手が相手だ……気にするな、と言っておこう。

最終的な話し合いは二人に任せるので、それとなく程度でルークの気持ちをシェリーにも伝えた。

そして、この話はラナに全て話してある。

駆け落ちの心配は無く、ルークが立場的に問題なくなる様にする事を前提とした話になっているので、ラナに迷惑がかかる事は無くなる。

そのお陰で、最近はラナのルークへの態度はかなり軟化している。

その辺の事情も、ルークに説明した。

ラナの事を誤解したままなのも、余り気持ちが良くないしね。




 ☆ ☆ ☆




 旅は順調に進み、途中で出て来る魔物も正直雑魚しか出ない。

今となってはあの迷宮の敵から比べればとなってしまうので、本気で雑魚しか居ないのだ。

途中で、旅立ち直後に出て来たグリーンオーガと同等の強さを持つブルーオーガが出た。

こいつは、冒険者ランク四のパーティー推奨の敵だ。

今更こいつに苦戦とかは有り得ない。

……ここはハンデ戦、しかもルーク一人が丁度良いかな。

ルークだけレベルが低いし。


 戦闘のルールはソロ。

魔法使用不可。

素手と盾で《握り潰し》オンリー。

以上。

結果、中々見ごたえのある戦いだった。

ルークは格闘系のスキルが無いため、どうしても剣を持った戦い方に近い構えを取ってしまう。

しかし、その間合いからでは《握り潰し》を使用するのは厳しい。

そこで、盾で攻撃を流し、すり抜ける様に近づいてから握る。

その直後に一気にアクロバティックに逃げるのだ。

姿勢を低くして左右に《跳躍》したり、後ろに倒れる様に下がりながら《ダブルステップ》で強引に立ち上がったりする。

時には片手で逆立ちしながら、地面を《握り潰し》で固定して勢いを止めたりもしていた。


「ルークも相当強くなっているから、その位でやった方がスキルの上りが良いわ」


まぁ、当然の様に若干渋い顔をしていたが、


「三年しかないんだから、死ぬ気で頑張る!!」


そう言ったら、諦めた顔をしていた。

シェリーと一緒になりたいなら頑張れ!


 更に、道中は《騎乗槍》と《戦闘馬術》の訓練をして貰う。

私は《フルブースト》で、馬と同じ様な速さで移動しても現在では苦にならない筈だ。

しかし、魔素が無いルークは、高速移動戦闘で馬が必須になる可能性もある。

折角得たスキルだ。

身に付けておいて損は無い。

実際の練習としては、馬車の二頭以外の三頭を順に使って馬車の前方を百m位全力で行ったり来たりして動きに慣れさせた。

まずはこの程度が妥当だろう。


 夜になるとルークとシェリーも顔を合わせる事になるのだが……初々しい感じもするカップルが、頬を染めながら見つめ合ったりする訳だ。

その浮かれまくって居るルークには、


「浮かれるのもいいけど、全ては今後の三年間にかかっているんだから、気を緩めない様に!」


と、最近は毎日言い聞かせている。


「ルーク様はとても頑張っていらっしゃいますもの! 絶対に【竜殺し】になれますわ」


そう言って、真剣な眼差しでルークを見つめるシェリーの為にもルークには頑張って貰わないとね!




 ☆ ☆ ☆




 順調に旅は続き、出ても雑魚ばかりだったが、終いにはほぼ魔物は出なくなってしまった。

後一日もすれば王都に着くらしい。

ここで、ルークがゲルボドについて再度確認してきた。

あまり細かい説明はして居なかったので、今でも心配なのであろう。

まずは余計な事にならない様に、ゲルボドには話をさせないで大人しく私の指示に従う事だけを徹底して貰う。

そして、手足に拘束具に見える金属の輪を付けて、鎖によって動ける範囲が制限されている様に見せる。

もっとも、これの使い道は二つ。

拘束具と……武器だ。

マスター登録した者と、製作者の私だけが操作可能な品となって居る。

これも旅立つ前には作成出来なかったが、今は私の実力でなら製作可能な回路となって居るので作ってみた。

拘束具状態ではあまり自由に動けない為、歩く事には支障は無いが、走る場合には邪魔になる。

腕を振り回す事も、鎖の長さ的に厳しくなって居る。

しかし、これが一転して凶悪な武器となる。

手首に付いた環状かんじょう部分はそのままで、足の方は外れる。

外れた足の環状部分は中から、十得ナイフの様に数枚の刃が現れる。

これを、鎖分銅くさりふんどうの様に使用するのだ。

鎖鎌の鎌を外した感じと言えば伝わるかな?

これには、幾つかのモード変更が出来る機能もある。

鎖分銅形態、棒状形態の二つを基本に、どちらでもドリルモードを発動できる。

周囲の魔法物質を吸収しながらエンドレスで高速回転するドリルモードは特に凶悪だ。

この鎖は使用者には弾かれる効果が付与されているので、振り回しても自分に当たらず、回転した棒形態でも素手で持てる。

師匠が結構細かい調整や魔法効果の変化を得意としていた為、色々と応用がきいて楽しいです。

因みに、棒状にしているのは《アースシールド》の応用で、身体に当たらない様にしているのは風魔法系の応用だ。

効果の規模的に厳しいかと思ったが、周囲の魔法物質でまかなえる規模で抑えられたのが嬉しかった。

これからも色々作りたいと思わせてくれた作品となっていた。

当然だが、マスター登録はゲルボド本人であるので、拘束されてるように見えて、実は武器を持っていると言う状態な訳だ。

基本的に使用しない事になって居るので問題は無い。


 見かけ上は拘束した姿で王都へ行き、私が師匠から貰った錬金術師である証とゲルボドの行動に対する保証責任を記載した文書を提出する。

これに加え、シェリーが書いてくれた保証書を提出する事で問題なく入れるはずだ。

入った段階で冒険者としての護衛依頼は終了。

そこから先は、例えゲルボドが人として認定されても依頼には関係ない。

人扱いされて無い時期の同行者は、やはり人では無い事になると決まっているからだ。

この情報は六爵領を出る時に領主から渡された旅のしおり的な物の中に記載されていた。

この国では、現在奴隷を認めて居ない。

ただし、隣国では一部認められている居る為、その扱いについて書かれていたのだ。

奴隷は人としての扱いを受けて居ない事から記載された物らしい。

この国の人間ならば、基本的に奴隷と一緒に行動する事は無いので本来無駄な説明であるのだが、今回は

非常に役に立つ情報だった。




 ☆ ☆ ☆



 ようやく私達は王都へ着いた。

王都の城壁はとても高く大きい。

しかし、そんな事はどうでも良い。

私の目を引いたのは、壁に組み込まれたゴーレム達だ!


 頑丈な石で出来たブロックを積み上げた城壁の所々に、身長五mクラスのゴーレムが配備されていた。

レンガ状のブロックを組み上げたような姿のゴーレムは、圧倒的な威圧感を持っている。

ここまで大きなゴーレムならば、相当なコストがかかっているだろう。

間違いなく中級クラスの魔石ではきついだろうから、上級クラスの物を使用していると思われる。

因みに、上級クラスはほぼ出回らない。

倒す相手が国営ギルドに属する冒険者では中級クラスが限度。

大陸全土に支部を持つ、選ばれた冒険者だけが所属できる大陸ギルドのメンバーですら、上級クラスの最下級の魔石を何とか確保できる程度が現在の状況だ。

その希少な上級魔石と、それに適合する素材を大量に使ったのがこのゴーレム達という訳だ。

恐ろしい金額がかかっているという事は、言うまでもないだろう。


 入口は王都へ入る人で、行列が出来て居た。

私達はこの列から離れた位置にある、貴族専用の入口に行く事になる。

出発時に渡された、旅のしおりに書かれていたからだ。


 衛兵がやって来て、丁寧に挨拶をしてくる。

シェリーが優雅に挨拶し、入学時の王都入りに対する手続きに必要な書類を渡した。

そこに記してある内容とシェリーが一致するかを、担当のスキル保持者に確認して許可が出た。

次に私達の年齢確認を行う。

六爵領から来たメンバーは、年齢を確認出来る物を所持している。

ミラは持っていないので、スキルによって調べて貰った。

当然ゲルボドは驚かれたが、私が自信満々な態度で準備してあった書類を渡すと、確認してすぐに許可が出た。

流石にリザードマンは珍しいらしいが、無力化された亜人を連れて入る事自体はそこまで珍しくないらしい。

もっとも、たまに問題を起こして賠償責任に発展する事もあるから、十分気を付けてくれと言われた。

大丈夫だと信じていたが、それにしてもあっさりとした物だったと言うのが正直な感想だ。


 後は、ゲルボドが何かやらかす前に登録だ!

私が人の事を言うのはどうかと言う意見は置いておくとして、ゲルボドの行動は意外性に富んでいる。

何をやらかすかと、何が問題になるかが正直不明だ。

それ故、早めに責任関連を切り離す必要がある。

個人同士ならフォローし合えるが、一蓮托生では私が庇えないからね。


 何にしてもようやく王都だ!

どんな所なのか、楽しみではある。

さぁ、行ってみようか!

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