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裏・代役勇者物語  作者: 幸田 昌利
第二章
35/138

35◆迷宮七層前:亜竜登場……流石に危険な相手の様です

七層に降りると、大きな広間にいきなりデカい奴が居た。


「あれ、竜?」


私はそうつぶやいた。

前世のフィクションにあった竜から翼を無くし、頭の先から大きな平たい角が生えている。

《識別》を使って判明したのは、


亜竜種:ソードドラゴン:男 LV35

特殊情報:《迷宮の守護者》《迷宮融合》《迷宮の虜》


だそうだ。

どうやら竜の亜種との事。

襲ってこない様なので、じっくりと相談する。


「《迷宮の守護者》は迷宮自体のボスって事かしら? 今までの階層ガーディアンには無かった情報だし。そして怪しいのは《迷宮融合》ね。迷宮と同化するのか、又はエネルギーか何かを常時迷宮から得ているのか……」


「どう戦うシャ――――?」


ゲルボドはやはり指揮官タイプでは無いようで、基本的にリーダーの指示に全力で従う。

自分の考えや意見も言うが、自分から指示して方向性を決定する事がほぼ無い。

その点でも、今後【竜殺し】を目的に動くのであれば、欠かせない人材と言える。


「理想は階段から遠隔攻撃を繰り返し、危なくなったら上の階に退避……なんだけどねぇ。《迷宮融合》が気になる所ね。下手に迷宮自体の何処でも移動できるなら危険が増す可能性が高いし」


敵の強さは、私やゲルボドよりもさらに上。

最も、竜種に属するとは言え、所詮は亜種。

しかも、おそらく物理系を主体にするタイプのようだ。


「種族耐性は判らないけど、名前からしても物理メインだとは思うんだけど。そうであれば《スティールMP》で吸収しながらやれる気はするわね」


ルークはこのまま戦うべきかを、迷っている感じが見える。

しかし、《迷宮融合》が正直怪しいのだ。

本当に融合してどこにでも移動出来るなら、今後はMPを回復する事が出来ずに追いかけられる事になる。

迷宮の主自体も構造の再構築などで妨害を行っていると思えるこの状況では、二重で追い詰められる可能性が出てきてしまうだろう。


「取り敢えず、ってしまった以上、コイツはってしまわないと不味いかもね」


意を決した様に、ルークがそう言った。

私も同意見だ。

MPは半減しているが、それでも普通なら異常と言えるMP量だ。

何とかなる! そう信じよう!!

まぁ、ヤバそうなら逃げるけどね!!!


 まずは戦ってみて、どうしても厳しそうなら一時撤退と伝えた。

相手の体長は、頭から尻尾の先まで十五m以上。

戦闘の位置取りはゲルボドが正面に、多少軸をずらしてその後方に私。

ルークは状況に合わせて遊撃だ。

まずは、強化魔法をゲルボドと一緒に使っていく。

私は通常発動の《アースブースト》を、全員にかけて防御を厚くした。

物理攻撃の威力が判らないので、数分しか持たないが保険でかけておいて損は無い。

ソードドラゴンの現在位置は階段からはそれなりに距離があるので、まずは魔法で仕掛ける。

《アースシールド》を全員の前に張り、《スティールMP》を使用する。

ルークも同じく《スティールMP》を撃つ。

ゲルボドは先程の蛸と同じく、広範囲氷結呪文を使用。

見た目が爬虫類なので、今回ももしかしたらと言う期待があるのかもしれない。


 《スティールMP》の効果は、消費MPの約七割程度だった。

ルークが二回、私が三回使った。

私の結果は全て同じだったので、無効化はされてはいないが耐性が存在するのかレベル差や熟練度の影響で抵抗されているかだろう。

ゲルボドの氷結系魔法も、それ程動きに影響は出て無い様だ。


 敵との距離がまだあるので、次の魔法を発動する。

しかし、その瞬間に相手の角に魔法物質の反応が見えた。

風属性に反応が変化した瞬間、ゲルボドの居る空間に真空による断裂攻撃が発生する。

ゲルボドの剣を持つ右腕辺りに当たり、真っ赤な血を吹き出しながら腕が地面に落ちる……。。


「ルーク! あいつの角に魔法物質反応があったら移動しなさい! 真空系の断裂能力を使ってきてる!!」


マズったな……。

ちょっと予想外……。

見た目に反して、こいつ遠距離戦も得意な様だ。

この威力なら、もしかしたら遠距離こそ得意距離かもしれない。


 ルークは移動しながら、氷系単体攻撃魔法を撃ち込む。

ゲルボドに攻撃が行かないように、囮となるような動きをしながら攻撃している。

そこに、再度敵の角に予兆があった。

複雑な曲線を描くように移動するルークに対し、地面から湧き上がる様に真空の断裂が発生した。

改めてしっかり見たが……あれはヤバいわ……。

《アースブースト》有りですら直撃した場合、耐えられるかどうかわからないレベルの威力だ。

ゲルボドはその間に右腕を拾い、《快癒》の魔法を発動して元に戻った腕を回して、動きを確認している。

腕が無くなってからも、平然と行動しているのがすごい。

と言うか、下手をすると慣れているのかもしれない。

私達とは違う意味で凄い奴だ、ゲルボド。


 相変わらず敵は動いてこない。

リキャストタイムがあるらしく、一定間隔で真空攻撃を行っているようだ。

ルークに対して何度か真空攻撃を続けて行っているが、回避に専念すればどうにかなるようだ。

しかし……まぁ当然私は無理だった。

《ウィンドブースト》を使用して回避も試したが、魔素を使用しない状態では基本能力が低い為に焼け石に水だ。

そして、ついに攻撃が私に来て……真空攻撃を喰らった。

……これ! マジでヤバイ!!

取り敢えずは大丈夫だったので、


「これ、相当痛い。あと装備が駄目になる!」


そう言っておくに留める。

下手に余計な事を言って、ルークが私の方に注意を向けてしまうのは怖い。

敵に集中していないと、本気で不味い相手だ。


 私の状況としては、ダメージはほぼ無い。

相手の攻撃が線状に近い断裂攻撃なので、当たった部分で相殺に使用された魔素の部分に、すぐ近くから追加を供給できたのが幸いした。

喰らった部分の装備が切り裂かれて肌が露出していたが、身体の表面付近でギリギリ相殺できたのだ。

だが、本当にギリギリな感じがした。

おそらくだが、威力が一~二割上がるだけで一気に抜けられるのではないか?

そう思える位の魔素の消費量だった。


 魔素は肉体に染み込む様に存在している為、物理ダメージにはそこまで貢献しない。

正確に言えば、格下の相手にならば十分と言える強度なのだが、同等以上になると一気に有用性が落ちてしまう。

根本の肉体が弱い事が大きく響いている。

それに対して魔法は魔素に触れると存在自体が薄められ、打ち消されていくので、一定量の魔法ダメージをカットする効果がある。

魔素の許容量を超えた分は全部ダメージになる為、大火力範囲攻撃の方が魔素の消費が激しく危険なので、今回は範囲の狭い魔法で助かった。

最も、それは魔法カット範囲内の火力だったから言える事ではあるのだが。


 敵の攻撃が、今受けた物が最大とは限らない……。

私はこの危機に対して、自らに植え付けてしまって居る、ある種の恐怖すら感じる行動を選択する。

《魔素の扉》をいつもより意識して開いたのだ……。

肉体に負荷がかかるのが分かった。

一瞬、前世の肉体崩壊のイメージを思い出してしまった。

しかし、思った程の負荷では無い感じがする。

それでも、あまり長くこの状態を続けるのは不味そうだが……。

だが、そうは言ってられない!

とにかく、なんとかここを乗り切らなくてはならないのだから!!


 そうなると、後はゲルボドだ。

詠唱中はどうしても動きが遅くなるゲルボドでは、詠唱破棄をしても避けられる可能性は半々と言った所であろう。

しかし、腕が飛ばされた以降はダメージを受けて居ない。

攻撃自体はゲルボドにも行っているのに、だ。

足元に真空攻撃の予兆は出るのだが、真空が現れる前に消えてしまう。

《スペルセービング》が、良い仕事をしている様です。


「ゲルボド! 《スペルセービング》の発動条件は?」


「俺の現状では95%シャ――――!」


ルークが確認の為に聞いた答えは、このような酷い物だった……。

高いとは思っていたが、まさかの95%無効。

ただし、抜けてきたら全量被弾とか、ギャンブル過ぎるスキルだな。

なんとなくゲルボドっぽいな、と思ってしまったが!


 状況はそこまで悪くは無いが、若干硬直しているのは確かだ。

ルークもそう思ったらしく、


「姉さん! 僕は前に出る!」


「OK、まずは回避を中心にして攻撃パターンを把握しなさい!」


ルークの決断を受け入れ、近接戦は決行された。

攻撃魔法は全般的に氷系統を皆で撃っていたのだが、その効果があった可能性はあるようだ。

この亜竜、動きが鈍くなって居る。

もしかして、近寄って来なかったのはそのせいなのだろうか?


 ルークは接敵して回避をメインにしながら攻撃していたのだが、相手の攻撃手段は角の打ち下ろしと爪による引っ掻き攻撃の様だ。

その動きは遅く、ぎこちなく予備動作をしてから十分な溜めを行ってから攻撃してきた。

これが余りにも遅いのだ。

当然ゲルボドも、前に出て行って殴りに加わる。

撃ちまくった氷魔法のお陰だとは思うけど、ここまでの効果とはね……。

後は、どんな能力を持っている事やら……あまり酷くないのを希望します!

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