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裏・代役勇者物語  作者: 幸田 昌利
第二章
34/138

34◆迷宮六層後:美味しい調理法の伝授希望……素材【蛸】

 引き続き六層の探索を開始する。

しかし、外に出た瞬間に違和感を感じた。

昨日と何かの感じが違う……。

まぁ、いつまでも気にしても仕方が無いので進む事にした。


 六層後半は、とにかく蟹が多い!

よし!!

準備は万端なので、美味しく蟹さんも頂く事にしよう!!!


 私が昨夜用意したのは金属製の網だ。

ゴーレムから大量に獲得した鉄を頑丈な網に錬金術で作り変え、《変換魔法》と《付与魔法》も駆使して強化してある。

念の為に二つ作ってあり、《アイテム》に収納中だ。

これを使用するのはルーク。

ルークは以前、腕を振りながら剣を《アイテム》から出して攻撃するトリッキーな戦い方も試していた。

あの動きを工夫すれば、今回の投網戦法が可能と踏んで作成したのだ。

基本のフォームは野球のボールを投げる感じに腕を振りながら、網を放る様に蟹に向かって投げる。

形状的に、投げる中心から下側は短く、上に行くほど網の長さが長く作られている。

これによって下側が即地面に着き、包み込む様に相手を捕獲する。

下手に頭が良い為、見えない網に反応できずに簡単に蟹が捕まってくれる。

強力な鋏を持っていても、変則《アースシールド》で防御されているので切る事が出来ない内にルーク達が仕留めている。

収納する前に、私がMPを供給して《アースシールド》を再使用可能にしてエンドレス。

大量の蟹の入手でテンションが上がり、


「カニ! 一匹でも多く確保するわよ!!」


そう言って、二人を鼓舞する!

ルークは若干呆れた顔をしたが気にしない!!

美味しい食事は、生きる動力源だ!!!


 蟹狩りは順調に続いた。

蟹は何故か単体で出る事が多く、多くても二匹だ。

昨日とうって変わって雑魚となって居る。

ただし、問題も発生していた。

ここに来て、迷宮の構造が急に変化したのだ。

一方通向のドアや落とし穴、壁にしか見えない隠し扉等が大量にある。

どう考えてもおかしい……。


「六層の後半になって、急にこの変化は怪しいわね」


「そうだシャ――――! 終わりが近い気がするシャ――――!」


ゲルボドもそう感じている様だ。

ルークは疑問を持っていない雰囲気かな。


「六層全体が罠やギミックだらけなら特に問題は無いのよ。でも、昨日攻略した所は何も無かったのに今日の部分は急に色々あるでしょ? おそらく私達が寝ている間に迷宮をいじっているわね」


「迷宮の主が焦っていると考える方が自然シャ――――!」


そう、昨日はただの洞窟風の構造に、時々扉のある小部屋が存在して居る程度だった。

しかし、今日になって急に時間稼ぎを目的とした様な罠が沢山ある。

加えて言えば、一方通行の扉のせいで昨日通過した部分に行かざるを得なかったが、昨日無かった落とし穴が存在して居た。

そこでようやく気が付いたのだが、


「ルークにも魔法物質の濃度が感じられるでしょ? 明らかに寝る前と起きてからの濃度差が激しい。急激に下がっているわ」


小屋の外に出た瞬間感じた違和感については、これでようやく納得できた。

……どう考えても、時間稼ぎかな。


 そうなると、シェリー達の方がどうなっているのか気になったらしくルークがに確認して来たが、特に魔素の流出に変化は無い。

攻撃もされないで放置の様だ。

要は、馬車は放置して籠城させて勝手に死ぬのを待ち、こちらを迷宮内で足止めしたいという事なのだろう。

ルークはこちらを始末する為の罠だと考えている様だが、死ぬような罠が無いので足止めだろうと私は確信している。


「ん~、片付けるというのはどうなのかしらね。おそらくこの迷宮の敵は、ほぼ今のレベルで頭打ちだと思うわ。そうなると、私達を倒せないから時間稼ぎをしているんじゃないかしら?」


魔物での足止めが、予想以上に効果が無いと感じているのかもしれない。


「正直、ここまで攻め込まれるとは思ってなかったんでしょうね。迷宮の主にどこまでこちらの動きが見えているのかは判らないけど、普通ならこの日数でここまで来れるなんて思わないでしょうしね」


逃げ場のない場所に馬車を引きずり込んだ以上、すぐに片が付くと思うのは当然だろう。

ここまで馬車が壊せないなんて、どう考えても想定外だ。

昔から《魔素の泉》は役に立たなかったし、ルークの《ウィンドウ》にばかり気が行っていたが、私自身が《ウィンドウ》を持つ事で、とんでもない効果に化けてしまって居る。

ルークは呆れながらも、羨望の眼差しを向ける事があるのも当然と言えた。




 ☆ ☆ ☆




 暫く蟹狩りを嬉々として行いながら進むと、結構広い空間に出た。

中央に広めの池位の水が溜まっている。

比較的水は澄んでいる様に見える……が、どう考えても何かいるよなぁ。


「はい。予想ターイム」


当然ここは、出て来るボスを予想する時間です。

又は食べたい物でも可。


「俺は烏賊イカシャ――――!」


「じゃあ私はたこね」


「それじゃ僕は魚系で……」


烏賊はおいしそうだなぁ。

蛸は個人的には微妙なんだよね。

何故なら、醤油が無いのだ!

蛸なんて、茹でた物を刺身や寿司ネタでしか食べた事が無い。

そういや、おでんとかにも入ってるんだっけ?

それは食べた事がないんだよね。

普通に煮ると硬くなるって聞いた事があるし、面倒なので他の方が良いかな。

魚は欲しいが、水中戦とかは勘弁してほしい。


 解答は、私が正解でした……。

食材的には若干外れ。


海魔種:ブレードオクトパス:男 LV32

特殊情報:《水陸活動可》《迷宮の虜》


見た事が無いルークがキョトンとしていたので、


「よし、当たった!」


そう言っておいた。


 馬鹿な話をしながらも、油断なく戦闘態勢に入る。

私は無詠唱で《アースシールド》と四種類の攻撃魔法を当てて、各個に当てた部分を観察して効果的な属性を確かめる。

ゲルボドは白い粉の様な物をいて呪文を詠唱し、完成と同時に剣を抜いた。

ゲルボドの白い粉はキラキラと輝きを放った後、敵の周囲に冷気の雲が発生する。

《錬金魔法(異世界)》による範囲継続ダメージ魔法の様だ。

因みに、私を朝起こす為に使うのがこの《錬金魔法(異世界)》らしい。

私が使った魔法の効果を見る限り、氷は余り効いていない。

風はそれなりにダメージは行っている様だが、再生力ですぐに傷が塞がって行く感じかな。

土魔法は石の槍を突き刺していたが、これも再生により刺さった石が押し出されている。

一番効果があったのは、やはり火属性に思える。


 私は火炎系範囲魔法を使用して居たので、広範囲に火傷があるが深い部位にはダメージが通っては居ない。

しかし、続けてルークは単体魔法《ファイアジャベリン》を撃っている。

その魔法は一点に深くダメージを与えたので、効果を確認した。

どうやら再生しない様だ。


「OK。火炎系で攻めるよ!」


「わかったシャ――――!」


その方向で指示を出しておく。

ルークはMPに不安があるので、まずは《スティールMP》の効果を確かめている。

レベル差で厳しいかと思ったが、意外にもルークは四割増し程度で吸収出来ているらしい。

下手をしたら、闇属性に弱いのかもしれないが、熟練度が低いのであまり有効な攻撃魔法が無い。


 ここで先端が刃物の様になった触手が、横なぎに振られた。

動きは鈍く、それ程脅威には感じられないが数が多い。

前面にある四本が、次々と振るわれるのだ。

広範囲に振られる触手をくぐりながら、魔法を使用するのは流石に厳しいらしく、ゲルボドは後衛の位置に陣取って、私とは離れた所で魔法を使っている。

ルークは前に出て回避に集中し、《アースシールド》と《スティールMP》を順次使いながら守りに集中しているようだ。

上手く回避しながら囮としての役割を果たして居たルークだが、徐々に触手の攻撃が激しくなって居るようで余裕が無くなってきた。

不味いかな、そう考えて状況判断と改善の為に考え始めた所で、


「ゲルボド、さっきの氷の雲をもう一度! 加えて、氷系魔法を撃ちまくってくれ!!」


ルークがそう言った。

成程、こいつの動きが速くなった理由がルークには判った様だ。

さっきまであった氷の雲が切れ、触手の表面にあった霜状しもじょうの物が無くなっていた。

開幕で撃った為に動きが鈍くなっていた事に気が付いて居なかったが、実は粘膜状の表面を冷気で覆う事で動きを阻害していたらしい。

地味に、最初の魔法が効果絶大だった訳だ。

それが効果時間切れなのか火炎魔法で溶けてしまったのかは不明だが、効果が切れて動きが良くなってきたのだ。


「わかったシャ――――!!」


こうして私は火炎系、ゲルボドは氷系の連続攻撃を行い、表面が急激な温度変化を短時間に繰り返した事で、より酷い有り様となって動けなくなり、遂には沈黙する事になった。

状態からも、あんまり美味しそうには見えない……。

そう考えていたら、ルークが《アイテム》へ回収した。

処理法は後で考えよう。



 この後をどうするか考えたが、流石にまだ休むには早い。 

私でも結構なMPを消費しているのだが、進行度合いや時間から考えてもまだ進むべきだろう。


「とりあえず今日はまだあまり進んでないから、次の階層の様子を見る位はしておくべきね」


そう言って、まずは階段を探す。

奥へ進むと何の障害も無く階段はあった。

さて、七層はどんなことになって居る事やら。

そう思いながら、階段を降りた。

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