33◆迷宮六層前:今度は海産物だったが魚が居ない……
六層でも美味しそうな獲物が大量らしい。
この階層はどうやら水棲生物、それも海の生物の様だ。
「これ、イルカっぽい魔物ね」
「これはクジラシャ―――――!」
そんな話をしながらゲルボドと一緒に、魔法メインで倒しながら進んでいく。
この階層には色々と、海の哺乳類っぽい魔物が落ちている。
そう、落ちているのだ。
ルークに至っては、頭を抱えてこの迷宮の主の正気を本気で疑っていた。
私としては、そこまで気にしていない。
ルークはこの非常識な配置に気をとられすぎて居る為、こいつらに《迷宮の虜》の情報が無い事に気がついていない様だ。
そこまで重要ではないので、敢えて教えてはいない。
私としては、ここに居る魔物を主自身が召喚している訳ではないと考えている。
魔物が移動している訳でも、棲み易い環境を整えている訳でもないのに分類で階層を分けている。
ここから考えられるのは、階層で指示した魔物を迷宮が自動召喚か生成していると考える方が納得がいく。
そして、手段は不明だが気に入らない相手は《迷宮の虜》の状態にしてないのだろう。
私としては正直こんな敵が続いてくれれば楽でいい。
問題は、MPが少ないルークがまともに攻撃するためには、近くへ寄る必要がある。
しかし、近くに寄ると流石にいくつか持っている攻撃手段を食らう可能性が出る。
しかも、それが小型とはいえ、クジラのボディプレスとなると流石にお勧めできない。
結果、MPを吸収しつつ、たまに攻撃魔法程度しか出来ていない。
因みに、ルークと敵のレベル差や熟練度不足の影響が大きすぎて、吸収量が精々一~三割増位しか吸収できていない。
是非とも、闇魔法の聖眼熟練度を大幅に引き上げてくれる敵に会いたい。
それはルークにとって、切実な希望になってきている。
まぁ私としては、そんな相手に戦うのはあまり気が進まない所はあるのだが……。
さて、一応言っておこう。
私はクジラを食べていた世代ではない。
だが、今回の件で大量に確保出来た。
有り難く頂きたいと思う。
問題は、イルカの方なんだよなぁ……。
正直、食べるのは問題ない。
味に関しては、クジラとあんまり変わらない部分が多いらしいし。
そもそもが、クジラと称して缶詰にして売ってたとかも聞いた事が……。
イヤ、そう言う闇に葬るべき事は置いておこう。
普通にクジラは食用、イルカは魔石だな、うん。
ルークはどうしても攻撃にあまり参加出来ないのだが、ゲルボドは色々な魔法を好き勝手に撃ってる感じだ。
それを見たルークは、前階層であった石化の様に危険な状態異常対策に、ゲルボドにはMP節約を頼んでいた。
しかし、返ってきた答えは、
「シャ――? 魔法毎の回数制だから、下級の攻撃魔法は使い切る位でも良いと思うシャ――――!」
覚えた魔法毎の回数なので、《快癒》は最大六回使え、他の魔法回数とは非干渉との事。
それなら逆に、もう少し開幕を魔法で攻撃しても良いのではないか、とルークが質問を続けると、
「エルみたいに詠唱無しでは撃てないから、接敵との兼ね合いで開幕即という事は無理シャ――――!」
との事。
ゲルボドの詠唱は、それ程短くは無い。
加えてゲルボドの見た目や言動からはあまり想像できないが、戦いに関しては実に合理的かつ効率的に動いている。
頭の中でどんな思考が巻き起こっているのか、見てみたいレベルの判断能力だ。
まぁそういう訳で、これからも現状維持の方向で行きます。
この階層の前半はとにかく海の哺乳類ばかりだったが、進んでいくと現れる傾向が変わって来た。
先ずは海月だ。
哺乳類系とは違って、しっかりと攻撃してくる相手だ。
魔法物質を使用しているらしいが、こいつはしっかりと空中に浮いているのだ。
その上で、色々な属性攻撃を行って来る。
ただし、移動は遅い。
遠隔属性攻撃の対策に《ウォーターシールド》を使用し、相手の遠隔攻撃を防いでいる間に魔法を撃ち込んで終了。
手順自体は一手間増えるが、さほど手間は変わらなかった。
次の魔物は貝系の魔物だった。
水流系の範囲魔法を使い、硬い殻でこちらの攻撃を防ぐので若干倒しにくい。
そしてここで、ゲルボドの更なる強さが発揮された。
ゲルボドが魔法を受けると、
特殊耐性:スペルセービング(異世界)…………習得不可能
との表示が現れる。
海月の攻撃は単体攻撃が殆どだったので防げていたが、こいつの魔法は範囲攻撃かつ流れのある攻撃なので、《ウォーターシールド》を回り込んで若干は受けてしまう。
それに対して、見ている限り全てを無効化してしまって居る。
魔法物質の流れ的には、ゲルボドの身体に触れる瞬間に魔法物質へと強制変換させて無力化している。
スペルとあるが、魔法物質を利用した攻撃は全てに効果が有りそうだ。
ルークがスペルセービングは、どの様な効果なのか聞いていたが、
「一定確率で魔法を無効にするスキルシャ――――!」
だそうだ。
敢えて確率は聞かなかったが、ほぼ無効化していたので相当高いはず。
最後に強敵だったのが、蟹系の魔物だ。
こいつ等は強靭な甲殻に身を包み、恐ろしく鋭利な鋏を持っていた。
見た目はタラバ、タカアシ、ケガニっぽく見えるがサイズは超ビッグサイズだ。
そして揃って風系魔法と、《スキル:双刃》を使用する。
《双刃》は、刃物系二刀流スキルを強化する補助スキルらしい。
瞬間的な威力の底上げや、専用技を使用出来る厄介なスキルの様だ。
この蟹の面倒な所は、意外に頭が良い所だ。
一番面倒なのは《ウィンドブースト》を駆使して、縦横無尽に動き回る。
範囲魔法を使われない様に、ルークとゲルボドから離れない程度の距離を凄い勢いで移動しながら攻撃を繰り返す為に、私の魔法があまり有効に使えない。
では、単体魔法ならば?
単体魔法も仲間に当たれば、当然ダメージを受ける
そしてこいつは、魔法物質の流れも感じている可能性が高い。
そうでなければ納得が出来ない位に、魔法を使用する瞬間にルーク達へと当たる位置取りをするのだ。
《双刃》を駆使して行われる連続攻撃のせいでルーク達は防戦になる事が多く、私の単体魔法すらルーク達を盾にして撃たせない様にしたり、酷い時には壁や床に当たる様に誘導して純粋に回避したりする。
面倒極まりない敵だった。
流石に魔法攻撃主体での戦闘はMP消費が激しく、蟹戦で時間もかかってしまった為、小部屋になって居る場所で再び睡眠を取る事にする。
ルークに聞かれたので、馬車への大量な魔素流出は時々しか起きて居ない事を伝えた。
相当な攻撃を加えたのに破壊出来なかった為、持久戦に移行したのかもしれない。
水不足や、食糧の枯渇を念頭に置いての行動が予想できる。
攻撃が無い方が有難いが、その分何を考えているを予測しにくいのが難点だ。
とは言え、ここでいつまでも考えても仕方が無い。
やる事をやってから早く寝て、明日に備えた方が良い。
最も下の階に、また寝付けない困った子が居るので引導を渡してくるとしよう。
「おやすみ、ルーク」
そう言って、一気にいつも通りMPを全て削った。
私はその後に少し、《変換魔法》と《付与魔法》で明日の準備をする。
アイアンゴーレムの残骸と、持ち込んだ魔石を使用して金属の網を作る。
魔石に込める効果は《アースシールド》の変化版だ。
網の表面だけを防護するように、薄い膜が出来る様にした。
結構調整が難しいが、《変換魔法》の柔軟さで何とかカバーする事で完成した。
フフフッ!
明日は見てろよ、蟹共!!
前の階で、鳥は手に入れた。
次は蟹鍋用に、お前たちも効率良く狩ってあげるわ!!!
◇ ◇ ◇
今までは早起きが苦手だった。
目覚ましを数段階に分けて、何度も何度も覚醒させながらようやく本当に起きる。
これが私の朝だ。
しかし! 最近は違う!!
今もスッキリと覚醒している!!!
その枕元には、ルークとゲルボドが居る。
何故居るのかといえば、起こした張本人だからだ!
超便利野郎であるゲルボドは、何と睡眠回復魔法と言うとても便利な魔法を持っていた!!
「普通は戦闘中にパーティーメンバー全員を強制的に起こす魔法だシャ――――!」
そう言っていたが、こんな便利魔法を今使わないでどうする!
そう言い切って良い程の、使い勝手の良さだ!!
起きたらすぐに食事を摂り、ルークに促されて魔素の流れを再度確認する。
元々違和感は無かったので問題は無いだろうと思っていたが、一応しっかり確認したが大丈夫だった。
その後は、迷宮について気が付いた事を幾つか話し合った。
その一つに、思ったよりは階層移動による敵レベルの変化が無い事が上げられた。
「30レベルチョイって所がこの迷宮の限界なのかもね。まぁ、それでも普通なら十分な脅威となるはずなんだけどね」
私は感じていた感想を言った。
最も、ボスクラスは多少強めの可能性もある。
能力次第では強敵も居るだろう。
気を引き締めながら、今日も食材と素材稼ぎと行きましょうか。




