29◆迷宮二層:汚い、近寄らないで!!あと骨がデカすぎ
迷宮探索を何度も経験しているらしいので、ゲルボドに行く道を決めて貰って移動している。
私はついて行きながら、《ウィンドウ》を一回閉じて別アプリを起動してマップを描いている。
表計算ソフトが残って居たので、それを利用して方眼紙代わりにしているのだ。
ゲルボドが先頭で移動しているこの迷宮探索だが、どうやら進む道を決めるのにはルールがあるようだ。
分かれ道があると、必ず右に曲がる。
「漢なら右シャ――――!」
だそうだ。
ルークが不安そうにこちらへ視線を向けてくる。
「迷宮攻略の手段の一つで間違い無いわ。常に右か左を決めて進むの。そうすれば単純な迷宮ならいつかは階段が見つかるわ」
前世の友達が、ダンジョン攻略系のゲームをやりながらそう言っていた。
もし最初の出口に出るようなら行ってない場所に移動して、同じ事を繰り返して全てのルートを埋めると単純な構造はOKのはず。
ワープや回転床、下の階への落下等は別対応になるが、そこは随時対応という事で。
ルークに地図を描かなくて暗記出来るのか聞かれたので、表計算ソフトで描いていると伝えておいた。
どう描くのか気にしているようだったが、これは戦闘に使う《紅の剣》を一度閉じる必要があるので、前衛で即戦闘に参加するルークにはお勧めできない。
「今回は気にしなくて良いわ。とにかくシェリー達の救出が最優先なのだから、移動と戦闘に集中する事」
そう言っておいた。
ゲルボドを先頭に黙々と進み、この階層でも数回の戦闘を行った。
第二層の敵は不死系の様だ。
確認した魔物は亜人タイプのスケルトンが数種類。
次にゾンビ系……いやぁ~……ナイワァ~……。
……汚い!
本当に汚い!!
絶対に触りたくない!!!
……ハァハァ……ハァ……。
……こいつ等、本当~~~~に汚いのよ……。
そのくせ、元が獣だけに意外と素早い。
汚い腐敗した肉が右に左にステップしながら走り回るとどうなるかと言うと…………。
絶対に嫌だ!!
即ち、ゾンビ系が出たら、即大火力火炎魔法を連発して焼き尽くす。
「あんなのに触られたくない! 触られた奴らに近づきたくない!! 即燃やす!!!」
そう宣言した!!!
不死系ばかりで、敵からMP補給も出来ないが関係ない。
MPが無くなったら寝る。
それで良いのだ!
「流石に自分のMPの多さを過信していたわ。ここまで連戦させられる迷宮なんて想定してなかったしね」
更に進んだ時についに私がそう言ったら、ルークがちょっと微妙な感じの表情をした。
わかってる! わかってるのよ!!
MP使いすぎだって言うんでしょ!!!
だがやめる気は無い!!!!
しかし、その後は順調に進んだ。
そう! 順調だ!!
ゾンビ系が殆ど出なかった!!!
加えて、スケルトン系にはスキルを持つ敵が偶にいた。
スキル:両手槍 耐性:毒 どちらも聖眼熟練度15
槍とか要らない気はするが一応取っておいた。
そして現在、目の前に可哀想なスケルトンが居る。
ボロボロの杖とローブを装備しているのだが……崩れる、再生する、又崩れるのエンドレスで他に何も出来ないようだ。
こいつ……何?
ギャグなの……?
能力 :自動HP回復…………勝手にダメージを受ける
スキル:肉体再生…………骨が折れても再生できる為か、肉は無いのに効果がある様だ
能力 :自動MP回復…………肉体再生は自動ではなく、任意タイミングでMPを使うようなので減ったら発動
以下繰り返しのようだ。
スケルトンは聖魔法の浄化系か、魔法核を砕く必要がある。
自動HP回復ではダメージが少なくて魔法核が消滅出来ないらしく、この無残な姿をいつまでも晒している。
取り敢えず、ゲルボドには攻撃しない事を指示して、生暖かく見守る。
何周かした段階で全てが100%になったので即習得した。
これは効果が楽しみなスキルだ。
一定値なら回復量次第でガッカリだし、割合なら私の為にあるような効果と言える。
MPの変化はしばらく要観察だ。
それにしてもこの可哀想なスケルトン、本当にいつからこうしていたんだろう?
全ての聖眼熟練度が50を超えている……。
不死&無限機関の恐怖と言えるだろう。
そのスケルトンはルークが聖魔法で浄化して終了。
南~無~。
流石にここまでに要した時間は結構なものになって居る。
襲われたのが夕方だった事も有り、夜を撤して探索を続けてきたがここらで一時休むべきだ。
しかし、幾ら私とルークには《危険感知》による強制目覚ましが付いて居るとはいえ、寝ている最中に襲われるのは勘弁して貰いたい。
そこで、一つだけの扉で仕切られた部屋に入り、その扉を塞ぐように小屋を出して休む案を採用する事にした。
「それじゃ、扉を開けて他に出口の無い部屋を見つけたらそこで休みましょう」
「わかったシャ――――!」
私の発言に答えたゲルボドが、近くにあった扉を開ける。
いつもなら、即踊り込んでいくゲルボドが三秒程硬直してから勢い良く扉を閉めた。
「…………なんかデカい骨が居るシャ――――!!」
骨か……デカいゾンビじゃなくて良かった!
もしゾンビなら、二人に任せて私はここから支援だけする所だ!!
そうなったら当然小屋に入る前に全裸にして、装備は私の洗濯魔法で洗い、《アイテム》内に保管してある大量の水で逃げ出したくなる程の行水をさせる。
心配しなくても、私はトカゲも弟の裸も興味は無いから大丈夫!
馬鹿な話は置いておくとして、ゲルボドの言葉を聞いて今度はルークが覗き込んだ。
その後ろから私も見る。
確かにデカい骨だった。
「あれ、サイクロプスのスケルトンね」
眼窩が一つしかなく、額から角が生えているので間違いないだろう。
《識別》すると、
アンデット族:サイクロプススケルトン:男 LV25
特殊情報:《不死》《迷宮の虜》
となっていた。
サイクロプスは一つ目で身長十mを超える巨人。
亜人扱いされる事もあるが、ここで難しいのは、話が通じる巨人も居る為に全てを亜人扱いに出来ない事だ。
それ故、そのまま巨人として扱われる事の方が多い。
この部屋自体は結構大きい。
しかし、高さは他と変わらない。
即ち、三mの高さで立てる訳も無く、まるで匍匐前進するような態勢ででこちらを見ている。
当然の話だが、コイツが動き回るには狭すぎる。
骨だけなので隙間を利用して色々動く事は出来る様だが、窮屈すぎてあまりうまく動けていない。
今は肘をついた状態でこちらに手を伸ばそうとしている。
摑まったら流石に面倒なので、まずは室外からの火炎系魔法を連続発射。
これまで魔法を使っていなかったゲルボドも、広範囲爆発魔法を使用した。
詠唱魔法:魔術師魔法(異世界)…………現在取得不可能
だそうだ。
これも現在習得不可能か……。
いずれ条件を絞り込まないとな。
魔法核は頭部の額部分に生えた角だ。
明らかに魔力をそこから吸収している。
集中砲火で魔法を撃ち込んだが、破壊するのは流石に厳しいかな。
相当なサイズの魔法核なので魔素程では無いまでも、高密度の魔法物質が存在していて魔法の効きが悪い。
後、正直に言おう。
あれはそのまま欲しい。
魔石にしたら今まで手に入れた物より上の物が、間違いなく出来るはずだ。
しばらく魔法を撃ちこんだ事により、現在は両腕とも広範囲魔法の影響で肘関節を破壊されて分離しており、上腕骨も相当なダメージで攻撃に使える状態では無くなっている。
私が指示するより早く、同じ判断をしたルークとゲルボドが一気に接敵して攻撃を開始した。
ゲルボドは長さと破壊力を取って、両手剣で魔法核周辺を斬りつける。
ルークはリーチが足りないので、一旦胸部側へ抜けてから骨を伝って下顎骨に着地、そこから一気に魔法核のある角の裏側へ剣を突き入れている。
こんな時に鈍器があると良いのかもしれないが、今の所そこまで手が回って居ないので仕方が無い。
流石に大量の火炎や爆発を喰らって、ボロボロになっていた骨は容易く崩れた。
内と外の両側からの衝撃に角を支えていた周囲の骨が耐えられなくなって崩れる。
落ちて行く角を私が追って、即《アイテム》へ収納。
「これだけ強力な魔法核なら、核だけで相当高ランクの魔石が作れるわ」
おそらく勝ち誇った笑顔をしているであろう私が高らかにそう言った。




