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裏・代役勇者物語  作者: 幸田 昌利
第二章
28/138

28◆迷宮一層:ルーク君、《識別》は今後しっかり使うように

 まずは全員で状況を整理した。

シェリー達に直接危害を加える為には、相当な瞬間火力が必要だ。

シールド系魔法で基本的な物は四種類。

《エアシールド》は攻撃を逸らす事がメイン、《ファイアシールド》は攻撃してきた相手にダメージを与え、《ウォーターシールド》は魔法攻撃に強く、《アースシールド》は物理攻撃に強い特性がある。

ただし、私が魔素を本気でつぎ込んだ場合は、どの系統でも魔法が通らなくなる。

これは、周囲の魔法物質を集めて発動する程度の魔法では、濃密な魔素の壁を抜ける事など出来ないからだ。

魔素は弱いエネルギーや物質を分解してしまう。

前世の私の肉体の様に……。

この特性を考慮した結果が《アースシールド》の採用だ。

魔法も物理も通らない上に魔素を継続して流している間は効果時間が無制限に近い、夢の防御性能だ!


 次に、私達が入ってきた扉と馬車が引きずり込まれた入口が違う点だが、別出口が自在に使えるのならば、私達がこの奥に進んでいる間に外へ連れ出されてしまう可能性もあるのではないか? と言うルークの質問だったが、答えは不可能だ。

《アースシールド》の発動条件には、魔法が地面と接地する必要がある。

使っている魔法具は、同時に五面分の《アースシールド》を発動させる事によって周囲を囲ってしまっているのだが、魔素でほぼ実体化した土の壁は地面に完全にくっついている為に、発動した後では馬車を移動出来ない。

最初の段階で攻撃と見なされていてくれれば、扉に引き込まれる事も無かったのに!

そして、私が失敗したあの場面での固定方法がある。

《アースシールド》の発動は攻撃に無差別に反応する。

即ち……私が攻撃すれば良かったのだ!

そうすればあの場で発動したのに!!

まぁ、悔やんでも仕方が無い……。


 更に、その他の問題点をルークが聞いてきた。

空気の入れ替えが出来ないので酸素欠乏症の危険性は? と言う質問の答えは、


「普段から馬車の中には空気清浄化の魔法具を使用しているから大丈夫。燃料に使用する魔石の予備も置いてあるわ。最短でも二週間は持つ予定」


 では食糧に関してはどうか?

普段食べている食糧自体は《アイテム》の中だ。

移動用の小屋にも食糧は入っているが、これも《アイテム》の中。

馬車に積まれているのは基本的にシェリー達が移動中に食べる間食用のお菓子等と、飲料用の水や果実ジュース等位となる。

馬車の後ろから見られたり入られたりしない為に積んである荷物が、実はこのお菓子や飲料だ。

《アイテム》の様に時間停止の機能は無いが、冷蔵の魔法具を使用して居るので傷みは遅いからとそれなりの量を積んである。

暴飲暴食をしてなければ、十日以上は持つ量を置いてあるはずだ。

ちなみに、私のこだわりにより作った魔法具、移動用トイレが積み込んである。

これは腰から下を箱状のトイレに入れ、そこで用を足すと消音機能で音は漏れず、排出された物は即分解されて跡形も無く消え去る。

正確には対になった魔法具を通して外へ空気と一緒になって霧散して行く。

これも強制帰還魔法具の失敗作で作られている。

気体まで分解すると送れる失敗作が存在していたので、それを使用したのだ。


「トイレも無い移動なんて、この人数の女性相手じゃルークの方が困るでしょ?」


ルークにそう言うと、感謝されたものだ。

トイレの度にルークに馬車を止めさせるのは、女の子達にも気の毒だしね。


 保証は無いが、制限時間はおそらく十日程度だろう。

この迷宮がどの程度の大きさなのかが判らないが、予想ではそこまで大きくない可能性を有力視している。

理由は、


「一応迷宮についての文献も見た事はあるけど、迷宮には二種類あって、固定型と移動型があるらしいわ。で、これは移動型。一般的に移動型の方が小さい事が多いらしいから、移動する事に対するデメリットが生じているのかもね」


「さっきの奴が迷宮の主を雇ったって言っていたけど、それって人間なのかな?」


「俺の世界では、大魔術師がダンジョンマスターになって居る事は結構あったシャ――――!」


「雇われるような迷宮の主ならば、人族である可能性が高いわね。人間でも老魔術師と呼ばれる位まで学び続ければ習得出来るスキルらしいわ。妖精種は人間より長寿だから更に可能性が上がるわね。最も、さっきの情報が正しいなら人間のじじいらしいけど」


迷宮かぁ、それもスキルで管理しているのかな?

もしそうなら欲しい所だが……。

シェリー達の救出優先ではあるが、スキルならどうにか入手したいなぁ……。




 ☆ ☆ ☆




 迷宮の見た目はレンガの様な色合いと大きさの石で構成された、通路が横幅五m、高さ三m位。

隊列は先頭にゲルボド、後列に私とルークで移動する。

人数が少ないのでバックアタックの警戒の為にルークが後ろに居て、戦闘になったらすぐに前へ出て戦う。

迷宮の中はうっすらと明るいのだが、これは迷宮自体が魔法物質を吸収して成長する際に微量の光を発する為と言われている。

そして、迷宮の特徴の中で厄介な物として、魔法効果の低下がある。

迷宮自体が魔法物質を吸収してしまう為に、迷宮内は魔法物質濃度が低い。

大体五割~八割程度の威力になるようだ。

この迷宮はさっきここに来たばかりなので、まだ八割程度の威力は出せる模様。

今は魔素が使えない以上、この威力低下が致命的にならない事を祈るしかないな。



 ☆ ☆ ☆




 迷宮は初めて入るが、ぶっちゃけると前世のゲームとイメージは変わらないかな。

約三時間の探索で遭遇した敵との戦闘はすでに二十回に及ぶ。

ここまでに遭った魔物は全て昆虫型だった。

普通の探索では有り得ない遭遇率だが、他に入る人が居なかった閉じた迷宮ならこんなものなのだろう。

まぁ戦闘が多いおかげで、ゲルボドの戦い方もわかってきた。

基本的には敵と接敵してから盾で守りながら片手剣で斬るのだが、動き方が独特だ。

変幻自在でとにかく細かく動き回る。

盾は敵に向けてずっと持っているのに身体の向きを正面から真横に変えたり、しゃがむ様に急に高さが低くなったと思ったら敵に向けて一気に突っ込み、斬った瞬間には後ろへ低空ジャンプの様に下がる。

最初会った時も感じたが、尻尾がとにかく細かくバランスを調整し、時には足の様に体重を支えている。

体勢保持や色々な姿勢になる補助も行う事によって、人間には不可能な戦い方だ。

ルークの回避がかなり大きな空間を動く事によって成り立つ戦い方だとすれば、ゲルボドは前後上下に動く事だけで成立させている。


「俺の世界の冒険者は基本的に前衛三後衛三の六人パーティーが基本だったシャ――――! 迷宮も沢山潜ったシャ――――! 迷宮で横三人だとこの程度の動きじゃないとお互いの邪魔になるシャ――――!」


だそうだ。


 これらを見て私も戦い方を決めた。

《フルブースト》が使えない私は当然格闘戦が出来ない為、後ろから魔法を使うのだがあまり大きな魔法は使わない事にした。

敵を発見した場合に自然魔法系の範囲魔法を一回当てた後は、単発魔法で順次弱点部位や武器として使用している部位を狙い撃つ。

とにかく戦いが多いのでMPの節約も考えての方法だ。

ちなみに、ルークには使用を禁止しているが、私は《スティールMP》を使用して居る。

あくまでMP補充用として使っているのだ。

私達の《ショートカット》ならこの使い方で問題は無いので、ルークもその内有効性を再確認するだろう。

あくまで私が使用を禁止したのは、昏倒を目的とした《スティールMP》のみでの戦闘だ。

しっかり戦い方を考えてスキルを使うように言ってあるので、有効な方法だと感じれば使う事は当然止めない。

まぁ、頑張って戦いに慣れて行って欲しい。

ただし、あんまり人前では使わない事を忘れるようなら、ハリセンでブン殴るけどね。




 ☆ ☆ ☆




 ここまで出てきた魔物は数こそそれなりに多くはあったが、強さ的にはそれ程では無かった。

移動中にルークがその話をしてきたので、


「まぁ、所詮十五レベル程度の敵だし、今から強敵ばっかりじゃこっちがもたないから丁度いいわ」


そう、ここまでの虫は数が多いだけで、そこまで強くは無かった。


「これで十五レベル位の敵なのか、迷宮は基本的に先に進むほど強くなるんだよね?」


ん?

今の言い方は気になるな……もしかして……。


「大抵の迷宮はそうなる傾向が強いらしいわ。……それよりも、ルークの言動にちょっと気に入らない点があるわね」


「え、どんな点……」


「ルーク、もしかして《識別》してないんじゃない?」


「…………はい」


すっかり忘れていた様だ。

まぁ、私も師匠から項目が増える話を聞いて無かったら使っていたか怪しいし、仕方が無いかな。


 その後、二時間の探索と二十五回の戦闘をこなした頃に下へ降りる階段を見つけた。

戦闘回数が多いのでちょっと大変だが、まぁ閉じられた迷宮の定めだ、諦めよう。

やっと二階か、どんどん頑張りましょうかねぇ。

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