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裏・代役勇者物語  作者: 幸田 昌利
第二章
27/138

27◆突然現れた迷宮と私の失敗……完全にやられました

 翌日からの移動は人数が増えたので、配置を変更する事になった。

ミラは当然荷台の中で、シェリー達と一緒だ。

問題となるのは、ゲルボドである。

愛嬌があるので地味にシェリーとララに人気だが、荷台に入るには図体ずうたいがデカすぎる。

それに加え、戦力として役に立つ人材なので取り敢えず働かせなければ駄目だ。

問題は、すぐに戦闘出来る場所に置いておいた方が良いのだが、簡易ゴーレムの代わりに馬に乗っても目立ち過ぎる為に却下。

仕方が無いので、御者席でフード付きローブを被りながら移動する事になった。

ルークが馬車前方、簡易ゴーレムが馬車後方につく隊列での移動となる。


 移動は比較的順調に進んだ。

出て来る魔物もそれ程多く無く、ルークが先行して魔法を撃つだけで終わる程度の敵ばかりだ。

しかし、問題が無いとは言えない事が一つ発生しているらしい。

時々だが、ルークの《危険感知》に引っかかる存在があるようだ。

残念ながら私の《危険感知》は熟練度不足で役に立っては居ない。

特に何かをしてくるでも無く、時々見えない程度の距離へ近寄って来ては離れて行く。

その繰り返しらしい。

何回か追いかけてみようとしたが、近寄って来るのは大抵林等の馬で追いかけるには適さない位置ばかりだった。

《フルブースト》を使って強引に追いかけてやろうかとも思ったが、追いつけても罠があると危険だ。

正直、私もそこそこ実力が付いてはいるが、用意周到に準備された状態で罠にかけられ、未知の魔法具等があった場合に対処できるかは怪しい。

野盗にしては追いかけて来る距離が長すぎる気がするので、私達を付け狙っていると考えるのが妥当だろう。

そろそろバルツァー五爵とやらの手の者が来たのかもしれない。

気を引き締めてかからないといけない時がやってきたかな。


 周りをウロチョロとされる事二日、未だ襲撃される事無く進んでいる。

夜にウロチョロされると流石にイラッと来るが、夜はどうも遠くから見て居るだけで敵意をほぼ感じない。

完全に監視役っぽいな、コイツ。

まぁ、例え攻撃されても、師匠と一緒に作った緊急帰還用魔法具の失敗作を使って小屋の《アースシールド》も強化されているから、余程の事が無い限りはまず攻撃が抜けない。

強化の方式はいずれ語る時が来るかもしれないが、正直今の段階ではルークにすら話していない。

勿論、有効に機能した時に、こんな事もあろうかと! と、言う為だ。

……私の趣味なので、あまり気にしないでくれると有り難い。

何にしても、安心して寝て居られるのが救いだ。


 結局相手の出方が不明なまま進むと言う状況が続く。

次の日も、特に何事も無く移動が終了した。

小屋が設置出来る場所を決めて、馬車を止める。

そして、ついに状況は動いた。

御者台からゲルボドと私が降りた時に、周囲を取り囲む様に《危険感知》の警報が鳴り響く。

即座に馬車の中に居るメンバーへ声を掛ける。


「馬車にも《アースシールド》が張ってあるわ。危険だからその中から出ないようにして」


中から全員の返事が返って来ると同時に相手が来た。

相手は約三十人程度。

見えた瞬間、即魔法を撃ちまくる。

敵意が明らかだ、容赦する必要は無い。


 消費MPなんて気にしないで範囲魔法を撃ちまくり、範囲から漏れた相手に単体魔法を合間に撃つ。

次から次へと吹き飛ばされる様を見ながら、違和感を感じた。

身のこなし方から、相手の実力はある様に見える。

しかし、あまり積極的に攻めてきている感じに見えない。

現に、距離がありすぎて魔法のいい的だ。

私の魔法発動速度は《ショートカット》のお陰で異常に速い。

その為に、敵がどんどん駆逐されていく。

……それなのに、何故か《危険感知》が嫌な警報を鳴らしているのが気になる。

ルークもそれに気が付いているのか、その様子には警戒している感じを受ける。

そう考えているうちに敵が後退していく。

方向は、視界に入る全方向へ分散している。

範囲魔法では効率が悪くなって来たので、次々と単体魔法で追撃する。

ルークは馬車の反対も攻撃出来る位置に居るが、後ろにあまり攻撃を行っていない……。

すなわち、私の前方に全員移動していた?

不味い!!

そう思った瞬間に後方に突然、魔法物質の大きな変化が起きた。


 私が居る反対側の馬車の横にいきなり巨大な扉、高さで三mを超える物が突然現れた。

即扉が開いたかと思えば中から巨大な牛の様な魔物が三匹現れ、身体に巻き付いた金属の鎖がうごめいて馬車に絡みついたのが、馬車の上の方に少しだけ見えた。

自動で動く様から見ても、魔法具の類だろう。

巨大牛を攻撃魔法で即殺すのは無理だ。

魔素込みでの《アースシールド》を進路に置けば……駄目だ! 馬車で目的地点に視線が通らない!

そう思った瞬間に、一気に馬車が扉の中に引きずり込まれた……。

攻撃と判断された場合は《アースシールド》を構成する魔法物質が物質化して地面と同化するのだが、場所を移動させるだけの場合は危険と判断されなかったのか、あの鎖が攻撃と見なされない特殊な魔法具である可能性もある。

私は自分の失策に茫然としてしまった。

ルークとゲルボドが即、扉の中に追いかける。

少しだけ立ち尽くしてから、その後を追った。

しかし、そこに馬車は無かった…………。

……鎖で繋がれた馬車を地面に固定する方法はあった。

しかし、即座にその答えに至らなかった私のミスだ……悔しさが溢れて来た。


 中に馬車が無い事を確認して、外へ出た。

外で倒れていた怪我人二名を通常の魔法で肉体を魔法で強化して、荷物の様に持って中へ入った。

おそらく私の表情は相当酷いのだろうが、気にしてはいられなかった。

冷酷に対処する。

今の私にはそれ以外に、自分の心を落ち着かせる方法が無かった。

通常の《ファイアブースト》を使用して持って来た男達を、ゴミのように放り投げる。

痛みにうめいていたが、容赦なくこの状況を説明させる。


「知って居る事が有ったら説明しなさい。嘘を言えば両手両足を折って放置する。何も言わなくても同じよ。外にいくらでも変わりが居るから好きに選びなさい」


本当に酷い顔をしているのだろう……私の表情に恐怖した男達は、顔を引きつらせながら知って居る事を次々に話した。


「俺達は雇われただけなんだ。餓鬼共だけの冒険者と小娘を拉致るだけでいいって言われてな」


「この扉は何? そして馬車は何処へ行ったの?」


「俺達も詳しくは聞いて無い。ただ、この扉は移動型の迷宮だって話だ。雇い主が迷宮の主も雇って今回の仕事に参加させているらしい」


「迷宮の主っていうのは人なの?」


「詳しくは知らないが、雇い主の代理の奴が丁寧な言葉で話しかけていた爺がそうらしいって噂はあった。俺が知ってるのはその程度だ。しっかり情報は話したんだ、助けてくれ!」


更に聞く事を考えたが、特に思いつかない。

このままこいつらの顔を見て居たら、約束を破って手足位は踏み砕いてしまいそうなので、無言で扉の外に二人とも放り出した。


「迷宮の主が敵とか……厄介な事になったわね。最悪、全階層制覇とか必要なのかもしれないと思うとゲンナリするわ」


一応、落ち着いた振りをしながら二人に話しかけた。


「姉さん、そんな悠長な事言ってる場合じゃないよ! 一刻も早くお嬢様達を助けないと!!」


「落ち着きなさい、ルーク。当然急ぐわ、それでも最低限必要な時間は相当なものになるのは確かよ」


これから、おそらく長丁場になる。

ここは余裕を感じさせる位の態度で臨むべきだろう。


「こんな事もあろうかと! 師匠と一緒に用意したこの腕輪が役に立つわ!!」


そう言って最近腕に装備していた腕輪を見せる。


「この腕輪にはある能力が付与されているわ。ルークが熊から取り戻したシェリーの魔法具、あれに付与されていた転移の力を応用した魔法具で、その名も魔送流の腕輪(仮)」


そう!

これこそが強制帰還魔法具の失敗作!!

シェリーの魔法具に付与されていた、登録された場所に転移する秘術は一部の錬金術師にだけ伝えられている物であったが、師匠は自分の師匠から教わっていた。

原理までは解明されていないが、作り方の手順自体は秘伝として伝えられていたので実際に作ってみた。

幾つかの試作品を作ったが、残念ながら同じ効果の物は出来なかった。

効果が得られた品としては、二つの品を繋げて片方からもう片方へ特定のものを流せる程度の品。

流せるものとしては、物質は駄目だったが回復魔法を流す事が出来た。

魔法が行けるなら魔素はどうかと流してみたらこれも行けたのだ。


 そして、その魔法具が現在ここにある。

実はこっそりと毎回馬車や小屋にセットしていたのだ。

すなわち、今も馬車についている。


「現在、腕輪から私の中の魔素がガンガン吸い取られているわ。恐らく馬車に攻撃を加えているのでしょうね。しかし! 魔法物質が超濃密になって居る魔素の供給さえ行っていれば余程の破壊力での同時攻撃じゃなければまず破れないわ!! 試した所では、現在の流入魔素の半分に対して、私の最大火力魔法を《ショートカット》から八発、魔素ブースト付きでぶち込んでも壊れなかった位の強靭な耐久力よ」


私が行える最大火力に魔素を込めると威力だけなら師匠の魔法を超える。

それが八発でも耐えられたのだから、そう簡単には壊す事は出来ない。

ちなみに、魔素は常時流れて居るので、本当の一瞬しか同時に攻撃するチャンスは無い。

ただし、この方法に問題が無い訳では無い。

現在、肉体に負荷を与えない魔素供給量の大半を送り込んでいる為、《フルブースト》は勿論の事、その他の魔法も魔素で威力アップする余裕はないのだ。

それでもやるしかない。

それも早急にだ!


「大丈夫シャ――――! 俺も頑張るシャ――――!」


とゲルボドは張り切って言う。

私も魔法しかないのが痛いが……覚悟を決めて行くしかない!!

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