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裏・代役勇者物語  作者: 幸田 昌利
第二章
26/138

26◆ゲルボドは人でなし。もとい、人扱いでは無いのですよ

 ゲルボドに対して、ようやくルークも納得した様子を見せた。

そして、ミラの方へ視線を向ける。

ミラの外見的特徴としては、髪が銀色をしていて肩にかからない位の長さの若干癖のある髪の中に猫の耳がある。

着ている質素かつ、くたびれたワンピースの中に尻尾があるはずだが今は見えない。

その二点以外は人間と変わらないので、見た目はほぼ人間と言える。

耳が四つあるが、機能しているのかどうか気になって聞いた所、普通に全て機能しているとの事。

そうなると違和感が無いのかと最初は疑問に思ったが、どうやら無意識のうちに使い分ける事が出来るらしい。

会話等は普通に人間の耳を使い、猫の耳で拾った情報を聞き流しつつ違和感や必要な内容の時だけ認識するそうだ。

普段は無意識に聞き流しながら必要な情報だけ取得するのだが、集中すれば任意で猫耳の方をメインにも出来るとの事。

その場合は雑音も多くなるが、《聴覚強化》と同じ様な効果があるらしい。


 若干怖がっている雰囲気ではあるが、


「こ、今晩はです。私は猫人族で名前はミラと言います。よ、宜しくお願いします」


緊張しながら、ミラが挨拶をした。


「僕はルーク。そこに居るエル姉さんの弟です、よろしく」


ルークも挨拶をする。

ミラは現在十一歳で、住んでいた村から事情があって出てきたばかりである事。

人間の街へ向かう最中にガラの悪い連中に捕まって、街に着いたら売られる所だったがゲルボドに助けられた事。

とりあえずはゲルボドもこの世界の情報が必要なので一緒に街まで行く事になって移動していたが、今回人間に出会って、魔物として話を全くする機会を与えられずに追いかけられる事になった。

それがさっきの追走劇だと伝えた。

ルークから追いかけていた人からの情報も聞いたが、ミラをさらって連れ回しているとの認識をしていたとの事。

まぁ、予想通りだ。


 ルークもある程度納得した様なので、、


「それじゃ、そろそろ中に入って皆に紹介して御飯にしましょう。流石にお腹が減ったわ」


そう言って小屋に入る。


 中にシェリー達が三人ともそろって居る事を確認して、


「皆注目! さっき会ったんだけど、このリザードマンはゲルボド。その後ろに隠れているのがミラね、仲良くしてあげて」


「エル、違うシャ――――! ゲルボドはリズーマン族シャ――――! リザードマン族とは違うシャ――――!」


OK! そういう言葉が欲しかった。

私が全て語るよりも、ゲルボド自身の意思表示があった方が人間性をアピール出来る。

そして、ゲルボド自身がその違いを付け加えていった。

リザードマンと人間との中間に位置するのがリズーマンで、蛮族であり、モンスター扱いのリザードマンと違って立派に人間側の扱いを受けるのがリズーマンなのだとか。

間違い無く異世界の話だが、敢えて何も言わない。

そう言う地域もあると思って貰えば良い。

ゲルボドの風貌に最初はかなり引いていたシェリー達も、私とゲルボドの会話を聞いている内にゲルボドが危険では無いと判断したのか、普通に接するようになった。


 今日はイレギュラーな事があったので、いつもと違って食事を先にしてからお風呂に入る事になった。

お風呂の用意だけ先にしてから食事をとり、食後の紅茶を飲んでから順番にお風呂へ入る事にする。

シェリーとラナがお風呂に入っている間に、ルークにこれからゲルボド達をどうするかを聞かれたので、


「もちろん、ゲルボドは私が連れて行くわ」


と言っておいた。

そこでルークが疑問を投げかける。


「ゲルボドは今何歳なの?」


「シャ――? 俺は今二十四歳シャ――――!」


流石に十八歳以下では無いと思ってはいたが、予想通りだった。

だが、年齢などどうでも良いので気にしない。


「姉さん、今回の旅の最低条件が十八歳以下での旅にある以上は流石に問題になるんじゃない?」


「フフフッ! そこは大丈夫! 現在のゲルボドの扱いは人じゃないから!!」


そう!

人扱いされないから、年齢なんて関係ないのだ!

現実的な問題なんて……関係ないんですよ!

法は法です。

穴があるのを、向こうが正していない部分を気にする必要は無い。

ワタシハ、イハンシテイマセン。

以上。

……ただ、一言。

私はどちらかと言えば、法は守ります。

日本で生まれ育った私には、むしろこちらの人間より法を守る気質はある。

要は……この世界の法が微妙すぎるんですよ!

あらと、それぞれの利権による歪みが酷い。

まぁ、そういう事です。


 それでもルークは、まだ悩んだような顔をしている。

そこで、


「確かにゲルボドは亜人では無いわ。でもね、今の王都での法ではリザードマンは亜人であり、リズーマンは存在自体が無いのよ。すなわち王都へ入るまではゲルボドは亜人扱いするしかない。勿論中に入ってリズーマン族を認めさせる申請をするけどね」


「そうなると、亜人を連れて居る事になるけど、問題にはならないの?」


当然の疑問だろう。


「師匠から聞いた事が有るんだけど、安全が保障された状態なら亜人を街へ持ち込む事も出来るらしいわ。研究の為とか悪趣味な貴族のペットとかでね」


そこで、シェリー達がお風呂から出て来たので、私が簡単に説明をすると、快く賛同してくれた。


「ゲルボド様は立派な知性をお持ちなのに、亜人扱いされるなんて許される事ではありません。私でお役に立てるのなら出来る限りのお手伝いをさせて頂きますわ」


「有難うシャ――――! とても助かるシャ――――!」


それでも少し難しい顔をしていたルークからは、予想外の質問が出た。


「ゲルボド。少し気になるんだけど、その『シャ――――!』って言う語尾、自分で言ってるの?」


「自分で言っているので正解シャ――――! まぁ口癖みたいなものシャ――――!」


まさかの、そっちかよ的な質問だった。

しかも、この後も説明が続く。

ゲルボドはリズーマンの村から冒険者になる為に街へ出たのだが、この時に共通語を教えてくれた同族があまり上手く発音出来なかった為に息漏れが多かったらしい。

特に最後に『シャ――――』とハッキリと聞こえる位、息が漏れていた為に、ゲルボドがそういう物だと真似をしてしまい、後で違う事が判った時には癖になってしまっていたので開き直ってそのままと言う訳だ。

……敢えて言おう。

どうでもいい!


 さて、次は私とルルがお風呂に入る番だが、三人位は余裕で入れる大きさなのでミラも連れて行く。

妹が二人に増えた気分。

以上。


 その後はルークとゲルボドが入る。

生態的にお風呂に入れるのか確認したが、問題無いとの事。

ただ、個人的に湯船の中で浸かるのは苦手らしいので体を洗う程度にするとは言っていたが、お湯自体は好きらしい。


 ルーク達がお風呂に入ると、ミラを中心に色々話をしながら盛り上がっていた。

シェリー達よりも更に年下なので、妹の様に可愛がっている感じなのかもしれない。

暫くはそのまま話をしていたが、ここ数日の野宿で疲れが溜まっていたのか、ミラの意識が怪しくなって来たので私達は二階へ移動する。

ルーク達は少し前にお風呂から出てゆっくりとしていた。

ミラ一人増えた位では二階は問題無いが、一階に用意してある分はルーク用しか無い為、ゲルボド用の寝具は無い。

……おそらくゲルボドなら、どこで寝ても気にしないだろう……気にするのは止めておく。


 私達が二階へ上がって少しした時に、


「それじゃオヤスミシャ――――!」


そう言って、なんの迷いも無くゲルボドが馬小屋へ入って行った音がする。

そう来たか。

流石、ゲルボド。


「ゲルボド、そんな所じゃなくこちらで寝たら?」


ルークが声を掛けている様だが、


「シャ――――? 冒険者の基本は馬小屋で泊るシャ――――!」


と言って、断られていた。

本人が言うんだから放置で良さそうだ。

はい、おやすみなさい。

まぁ、私は習慣にしている魔素容量拡大の鍛錬をしてから寝るけどね。

それじゃぁ、今日も頑張ります。

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