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裏・代役勇者物語  作者: 幸田 昌利
第二章
24/138

24◆トカゲ男登場。 亜人? いえ、ある意味私と同類の様です

 う~ん。

朝だ……。

朝の様だ…………。

意識が遠のく……。

浮遊感を感じる。

揺れる感覚。

ん~、座らさせられた?

眠い……。

揺れる。

かなり大きく揺れている。

地震とは違う揺れ方。

そこに鼻を刺激する紅茶の匂いが感じられた。

良い匂いだ。

ようやく意識が覚醒してきた……。


 私は早起きが苦手だ。

昔から起こされないと、朝は起きられなかった。

むしろ前世からだ。

ちなみに、私があまりにも起きないので、ルークが二階から私を一階へ運んで座らせて、根気強く揺すり続けたと言うのがここまでの流れだ。


「私の魂が早起きを拒否しているから仕方が無い」


ルークには昔からそう言ってある。

無理な物は無理なのだ!


 朝食を摂りながら、


「朝のお勤めご苦労」


と、ルークにはいつもの様に言っておく。

若干ゲンナリした感じを見せるが、黙々と食事を食べている。

まぁ、昔からの流れなので、お決まりと言えるやり取りだ。


 食事を終えたら朝はすぐに動き出す。

ルークは馬や馬車の準備を始め、ルルは食器の片付け、ラナはシェリーと自分の準備、私は魔法具の状態確認等をする。

私達が準備を終えて外へ出ると、既にルークの準備は完了している。

さて、今日も頑張って移動しましょうか。




 ☆ ☆ ☆




 順当に行けば、今日でようやく六爵領の端まで着く予定だ。

そこまでには林と言える程度の地帯が幾つかあるが、昨日程の魔物との遭遇は無いと思われる。

街道沿いにある領の境には、少人数ながらも領主軍の詰所が存在するらしい。

幾つかある他の領への道沿いに設置されている物で、ここで検問を行う訳では無い。

不可能な人員しか配置していないのだから、当然ともいえる。

あくまで何か問題があった場合や、隣接する領の動きを知る事が主な任務だ。

税等は基本的に街への持ち込み持ち出しに掛けられ、隣接する他国からはどこにも接していない北の外れである六爵領では、そこまで厳しい警戒態勢は維持費の無駄でしか無いらしい。


 今日の移動は商人らしき人達とすれ違う以外は、特に何事も無く進んだ。

所々に畑が見えるが、まだ植物は殆ど見られない。

呑気のんきにそんな事を考えながら周りを見ていると、前方から誰かの怒号とこちらへ走る人影がちらりと見えた。

そろそろ領主軍詰め所のはずなので、その絡みだろうか?

街道からは少し離れた位置を誰かが追いかけられ、後ろからは四人の武器を持った兵士風の人影が見えた。


 《危険感知》は働いては居ない。

しかし、先に走っているのはどう見ても亜人。

二足歩行で歩く蜥蜴とかげの様な魔物、リザードマンの様だ。

前世での想像上のリザードマンそのままと言える姿なので、即納得できる容姿だった。

湿地帯や大森林地帯を好み、この辺りではあまり見かけない亜人だったと記憶している。


 ただ、問題はこのリザードマン、装備がおかしい。

話に聞くリザードマンは槍を好み、湿気の多い場所や沼に入りながら行動する事が多い為に腰布程度しか装備しないはず。

しかも、この大陸に居る茶色い鱗をもつリザードマンと違い、緑の鱗を持っていた。


 装備にしても、純白の布を幾重にも折り畳んだ様な厚みのある加工を施した鎧? それとも服?

金属製の小さな鎖を使用した鎖小手、おそらくミスリルなんだろうが……魔力付与の回路がおかしい?

と言うより、回路自体が無い様だ。

これ、《付与魔法》とは違う方法で魔法物質を込めているな。

その他にも竜の鱗から作られたと思われる盾。

美しいフォルムをした頭部装備。

鞘に入った両手剣と片手剣を各一本。

見ただけで一級品かそれ以上、相当な魔法物質を込められた品ばかりだ。


 様子を見ていたが、このトカゲはこちらに向かって来る事は無い様だ。

相手は亜人なのだが、正直危険は感じていない。

このリザードマンは腕を両方前に出して、十歳前後に見える女の猫獣人(人型)を、お姫様抱っこで運んでいる。

抱き方がとても丁寧で、知性を持った相手だと感じる。

明らかに亜人とは違う。

少女からはリザードマンに対する恐怖が感じられない。

引き攣った様な顔をしているが、追いかけられている状況に対しての様に感じる。

リザードマンに掴まる様に手は布製の鎧(又は服)を掴んでいるが、すがるような印象を受ける。

ただ、後ろから追いかけているのは領主軍で間違いないようだ。

もし私の予想が外れていたら不味い。

そこでが選んだ手段が、護衛役に使っている簡易ゴーレムを使うことだ。

しかしそこで、ある意味予想していた事が起きた。


「俺は何もして無いシャ―――――! 見逃してクレシャ――――!!」


トカゲ男が声を発したのだ。

やはり知性的な存在のようだ。

ルークは、茫然とそのリザードマンが通り過ぎるのを眺めていた。

まぁ、その反応が普通なのかもしれないが、まだまだ甘いなルーク君。

馬車の三十mほど離れた位置を、走りながらすれ違う。

私はそのまま座席から立ち上がりながら後ろを見ていた。

取り敢えず、簡易ゴーレムを追走させる予定だ。

しかし、そこで衝撃の瞬間を目撃した……。


スキル:移動力強化(異世界)……聖眼獲得率40%


「なっ!」


つい驚きの声を上げてしまった。

そして同時に《フルブースト》を発動する。


「私はあのトカゲに用があるわ! ルークは後ろから追いかけてきている人達にあのトカゲが何かやったのか聞いておいて!!」


そう言い残して、走っている馬車から飛び降りた。

あのトカゲ、私と同じ転生者か……もしかしたら転移者かもしれない。

……あの装備、この世界の物じゃないな……。

おそらく転移者だ!

そう確信した。


 正直に言えば、前の世界に未練が無いとは言えない。

すでに死んだ私が、今更どうこうしようと言う気は無い。

諦めても居る。

未練と言うのは、その後の結果を知る事が出来ない事に対してだ。

自分の命を捨てる覚悟で助けた仲間たち。

自分が命を使って繋いだ未来。

無駄だったのか、それとも平和な世界を手に入れたのか……。

その結果が知りたいのだ。

双方の時間の流れが同じなのかは判らないが、流石にこちらで十四年経っている。

決着が付いて居ても、おかしくは無いと思う。

平和になって居ればいいし、滅亡させられたのなら……私の手であの来訪者達を倒したい……。

その想いは、未だ心の中に燻っている。

こちらの世界で能力を磨き、異世界への移動手段を見つけ出す事は、私の密かな目的だ。

もっとも、最低限の条件として、必ずこちらへ戻れる事が条件となる。

こちらの家族を捨てる気は全くない。

結果を知った上で、あくまでこちらへ戻る手段が必要だ。

では、そんな事が可能なのか?

可能だ。

前世で会った事がある、唯一の転移者……名前はラス=ニール。

こいつは世界の壁さえ超えられれば、単独で魔素の海を超える事が出来た。

……まぁ、壁を抜ける為の魔素が無くて、前世の世界から帰れなくなったと言う男だが……。

一応彼の名誉の為に付け加えると、魔素が無くても帰る手段はあるそうだ。

ただ、世界の壁を強引に壊すらしいので、その後の世界がどうなるかは運次第との事。

魔素が無い世界に一気に魔素が流れ込むために、相当酷い事になる可能性が特大とは言っていた。

まぁ、あいつの事はどうでもいいや。

そういう訳で、転移者にはとても興味がある。

移動手段を知っている可能性があるからだ。

知って居なくとも、他の世界の知識が何かの切っ掛けになる可能性もある。

取り敢えず、あのトカゲは確保する方向で!




 ☆ ☆ ☆




 トカゲの速度はかなり速い。

その上、近くにあった林に入ってしまったのだ。

私の《フルブースト》状態でなら何とかついて行けるが、如何いかんせん私の身体の動きは速いものの小回りが利いてない。

おそらく、体術系か格闘術辺りを鍛えなければ上手く扱い切れないだろう。


「待って! 私は敵じゃないわ! 止まって!!」


そう言ってはみたが……。


「騙されないシャ――――! 悪い奴はそう言って油断させるシャ――――!!」


駄目だ、聞いてくれない。

まったく!

こうなったら根競べだ!

魔素による、強化《フルブースト》の持久力を見せてやる!!

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