23◆ラナとの話し合い。はい、ラナの言い分が正しいです
ラナの後から二階へ上り、寝室の用意を始めた所で声を掛けた。
「ラナ、ちょっと良い?」
「……はい、何でしょう?」
若干硬い表情で、真っ直ぐ私の顔を見ながら返事をした。
「ルークの事なんだけど、率直に聞くわ……嫌い?」
「……嫌いでは無いです……」
「でも……態度を見ている限りでは、いつも威圧しているようにしか見えないけど?」
「……私がルークさんに抱いている感情は、好感と警戒……ですね」
「好感と警戒?」
「はい。私の個人的感情としては好感を持っています。優しく誠実で、若干押しに弱い所もありますが《女神の加護》すら持ち、冒険者としても異例の成果を残している有望な方です。好感を持つのは不思議では無いと思います」
「となると、それでもあんな態度を取らざるを得ないような、警戒すべき事があると言う事か……」
「はい。お姉さまならばおそらく予想はつくと思うのですが、ルークさんがお嬢様と今以上に親しくなるのは危険なのです。……ハッキリ言えば六爵家の危機に発展する恐れがあります」
ん~、そっちかぁ。
まぁ、全く可能性を考えていなかった訳では無いが、貴族の常識なんてあんまり知らないからそこまでは考えないようにしてたのだが……。
「お嬢様がルークさんに対して、かなり好意的な態度を示している事はご存じだと思います。今までお嬢様は同年代の男性と直接お会いした事はありませんでした。そこに現れた、自分とそれ程歳も離れていない冒険者が、危険を顧みず自分の為に魔法具を取り戻してくれる。誠実で優しい人柄を持ち、女神の祝福とも言える《女神の加護》を持つ未来の英雄候補。私でも魅力的に感じるのですから、お嬢様にはそれこそ運命の御方位に感じてしまって居るかもしれません」
「あ~。うん。有りえそうね……」
「問題は、ルークさんは有望ではありますが、お嬢様との結婚が出来る立場に無いという事です。貴族の婚姻には面倒なルールが幾つか存在します。この一つに、継承順位が高い場合の婚姻相手の条件があります」
「ルークの場合では、いかにも拙そうなルールがある訳ね」
「はい。特に継承順位が一番だと、余程の事が無い限り結婚相手は必ず領主の伴侶となる為、他の貴族から文句が出ない立場的な幅が有るのです。基本的には上下一段階までの爵位を持つ家で、男性だと次男か三男、女性だと長女か次女までが該当します。それ以上離れた立場の方だと利権の兼ね合い等で色々と他の家から苦情が出ます」
「要は、貴族以外にシェリーが結婚するのは他からの苦情がある訳か」
「苦情程度ならまだマシです……最悪、その後は他の貴族から相手にされなくなる可能性が有ります。特に、ルークさんの様に男性だと反発が酷い可能性が高く、領主様の親族からも相当酷い扱いを受けます」
「それでラナは、ルークとシェリーがこれ以上親密にならないように頑張っている……と」
「正確にはそれだけが問題なのでは有りませんが……。私が危険視しているのは、その……駆け落ちについても危惧しています」
「……ルークはちょっと押しに弱いから、両想いになってシェリーに懇願された場合には、可能性が無いと言えないか……」
「私はそう考えています。お姉様は六爵家の家系についてはどこまで知っていますか?」
「領主様の奥様が亡くなっているのは知ってるわ。流石にこの領で育ってるしね。それ以外は田舎育ちの私には知る機会は無かったから殆ど知らないかな」
「高位の爵位をお持ちの方達は複数の奥様を娶り、多数のお子様を持つ事が多いですが、六~七爵位だと奥様が一人の場合も多いのです。領主様はお嬢様が二歳の時にお亡くなりになった奥様を愛して居た為に、後妻も迎えずにお嬢様だけを大切に育てて参りました。その結果、お嬢様の次に継承順位が高いのは領主様の従妹様になります」
「その従妹は結婚しているのよね?」
「はい。遠方にある五爵家の次男の方ですが……実家の言いなりになって居る、能力的にも領主には向かない方だと聞いています」
「シェリーが駆け落ちなんてしたら、今の家臣は大打撃を受ける訳だ」
「間違いなく実家の言いなりになって、属領扱いでしょうね……。当然、現在の家臣は邪魔なので排除されるでしょう」
「そりゃ不味いわね……」
「もしそうなったら、私は家族に合わせる顔が有りません。絶対に阻止しなくてはならないのです……」
結論。
これは参ったね!
正論過ぎて文句が言えない!!
思った以上に厄介な状況だと教えられてしまった私としては、どうにか打開策を考えるしかない。
領主を残してシェリーが駆け落ちする事は無いと思うが、ルークに対しての熱が結構な物なので絶対とは言い難い。
まぁこれは正直、問題ばかりなのでさせるつもりは無い。
次の可能性としては、ルークが貴族になる事だろう。
今、思いつく方法は二つ。
一つは御伽話でも偶に出て来る、【竜殺し】の英雄になると言う物だ。
竜を殺した英雄がその力を王に捧げて家臣となり、末永く国の平和の守護者として称えられるという物語だ。
この物語が影響しているのかは知らないが、実際に【竜殺し】になれば爵位が貰える。
実情としては、竜を倒す程の実力者は国で囲っておきたいという事だろう。
詳しい条件までは知らないが、竜を倒したパーティーのリーダーにのみ爵位を与えられる。
他にも条件があるはずだが、取り敢えず仲間の支持が得られないと駄目だとか、しっかりと仲間集めから気を付けておかないと危険だと聞いた気がする。
リーダーとしての資格がないと仲間が言った瞬間に、貴族になる資格が無くなる恐怖の仕様だったはず。
竜を倒した後に裏切られ、仲間だった者同士で殺し合いに発展して死亡。
その未練から、アンデット化して彷徨う【竜殺し】の話とかもあったはずだ。
もう一つの方法は、五~七爵を持つ貴族に気に入られ、養子として貰う方法だ。
六爵の知り合いに迎えてくれる貴族があるなら出来ない事は無いだろうが、やはり自分の息子を婿候補として押している貴族から反感を買うのでお勧めは出来ない。
やはり、竜でも殺すしかないかな……。
私とルークの二人で倒せるだろうか?
竜の強さが判らないが……流石に、無謀に感じる。
最終的には、他に方法が無いかを調べてから決めよう。
うん、そうしよう。
☆ ☆ ☆
ルークがお風呂から上がれば食事となる。
基本的に天候の問題や、小屋を出すのに適した場所を確保する為等で早めに小屋に入る時以外は料理等はしないので、食事をして食器の片づけをしてしまえば後は自由時間となる。
最も、明るくなれば移動を開始しなくてはならないので、あまり遅くまで起きている事は無い。
小屋自体には、当然明かりとなる魔法具を設置してあるので、陽が沈んでも問題なく活動は出来るのだが。
ルークは領主館から借りて来た本を読んでいる事が多い。
女性陣はある程度で二階へ上り、天井が低いので寝るか座るかしながら各自で行動する。
基本的にはシェリーは毎日、日記を書いている。
ラナは本を読み、ルルは生活が若干お子様なのですぐに寝てしまう。
私は魔素の流れを操る訓練をする事が多い。
前世と比べて、圧倒的に魔素の充填量は多い。
だが、流れを自在に操れているかと言えば、多少だが前世に劣る感じがする。
この違和感を埋める為に、操作の練習を欠かす事は出来ない。
役に立たないと思っていた《魔素の扉》が、現在では完全に主力能力となってしまって居る。
手を抜かずにこの能力を伸ばしていけば、更に応用がきく可能性は高い。
私だけが与えられている能力だ。
これからの為にも、頑張るとしましょうか。
しばらく頑張ったが、流石に肉体にかかる負担がきつくなってきた。
そろそろ寝る時間の様だしここまでかな。
では、おやすみなさい。




