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裏・代役勇者物語  作者: 幸田 昌利
第一章
16/138

16◆不愉快な冒険者達(もう出て来る事はありません)

 ルークと共に予定通りの時間にギルドへ到着した。

そこから馬車での移動となる。

当然の疑問ではあるが、ルヴェールさんから質問が出た。


「エルさん。今までこなした依頼内容を確認させて頂きましたが、基本的に採取系の依頼しか受けていない様なのですが今回の依頼に必須である戦闘関係は大丈夫なのですか?」


大丈夫と言った所で信憑性は無い。

ここはルークに答えさせよう。

ルークへ視線を送ると意図が伝わったらしく、


「同様の疑問を持って僕が確かめました。ハッキリ言いますが、今の僕より強いです」


そう答えてくれた。


「ルークさんも恐ろしいスピードで実力をつけた様ですが、エルさんは更に上だとは思いませんでした……」


「まぁ、実際に領主様の前で実力を見せる事になるでしょうから、楽しみにしていてください」


と、余裕な態度に見えるように答えておいた。


 領主の屋敷へ着くと、応接間らしき所へ案内された。

待っている間は出された紅茶を飲みながら、ルヴェールさんと話しをしていた。

しばらくしてから白い髪の執事が扉を開け、後ろから領主、お嬢さん、メイド服姿の少女が二人、順に部屋へ入ってきた。


「ルーク殿、それに姉上殿もわざわざ出向いて貰い感謝する。姉上殿にまずは挨拶させて貰おう。私はこの六爵領の領主、ウィグレナス=ヴァリ=エルナリア、そして隣に居るのが娘のシェリー、後ろに控えているのが今回の件で娘に同行するメイド達でラナとルルだ」


シェリーは優雅に一礼し、メイド達も綺麗な動作でお辞儀する。


「はじめまして、ルークの姉のエルと申します。この度は私の為にこのような機会を設けて頂き有難うございます。皆様の期待に報いられる様に頑張りたいと思います」


失礼が無い程度には挨拶出来ているだろう、と思う事にする。

正直、礼儀作法とか前世でもあまり学んでは居ないから知らないのだ。


 世間話とかが始まっても面倒なので、実力を見せますと言って早々に場所を移動した。

見た目的にも派手な《灯油火炎竜巻》……もとい、強化版《ファイアストーム》辺りをまず見せる予定だ。

燃える物が無く、広い場所へ案内して貰う。

どうやら館の前にある広場の様だ。

少し離れた位置に領主軍の人達もまばらに見える。


「では、まずは《変換魔法》の使い手としての実力をお見せしますね」


そう言って強化版《ファイアストーム》を発生させる。

変換魔法は元々詠唱が無いので《ショートカット》から使ってもいいのだが、私が知らないスキル等で調べられたりする可能性もあるので敢えて使っていない。

予想した通り、領主側の人間が何らかのスキルを使った。

使った人物は白髪の執事、使ったスキルは……何故それを持っている……。


スキル:識別…………聖眼獲得率80%


サクッと習得する。

そして自分に発動。


人間:女 レベル18

 冒険者登録:有

 特殊情報:《女神の加護》《???》《???》


よし! 《女神の加護》がバレた!

……もう隠す必要は無いな。

そう決めました。


 取り敢えずはその後もシェリーのリクエストを受けて、幾つかの魔法を披露した。

シェリーには気に入って貰えたらしく、かなり興奮している様だ。

問題は、どうもさっきからこちらを見ながら仲間内で何か言っている連中だ。

結構離れてはいるが、遠くの方からこちらを見ている。

こいつ等は見た事があった。

商店で迷惑をかけていた連中だ。

ついに領主から呼び出された訳か、いい気味だ。

そんな奴等が領主軍の兵士と何か話を始めたのだが、しきりにこちらの方へ指を指しながらわめいている。

どうやら私の魔法程度大した事は無い、俺達の方が総合的な経験が違う、前衛とのコンビネーションも考えていない大道芸だと言いながら批判しているらしい。

……へぇ、いい覚悟だこと……。

シェリーのリクエストで、自分が起点となる火炎竜巻と同じタイプの魔法をメインに見せていた為だろうが、壁役が居ない魔法使い等いくら火力があろうと役に立たないと騒いでいる。

ほう……面白い事を言う物だ……。


「口だけは達者な連中が居るのですね。あのような者達を使うのは考えた方がよろしいかと思います」


そこまで言われたらこいつ等も引っ込みがつく訳も無く、更に暴言を吐きまくっている。

まぁ、相手にしないが。

ルークはかなり悲壮感漂う顔をしていたが見なかった事にする。


 お抱えの冒険者としては引っ込みがつく訳も無いので、当然実力勝負での決着という話になった。


「姉さん、流石にこの状態は不味いよ……」


ルークは心配そうな顔で話しかけてきた。


「大丈夫よ、あんな奴らに私は負けないわ。自信過剰ではなく、しっかり根拠があっての事だから心配しなくていいわ」


と言っておいた。

もちろんそんな言葉では信用出来ていないようだが。

ルークも一緒に戦うと言い出したので、


「邪魔」


と言って断った。


 どうやら準備が整ったらしく、


「それでは、領主様及び冒険者ギルド公認の試合を行う。この試合での基本として、故意に殺害する事は禁止されている。双方、正々堂々戦い、悔いの無い戦いをするように」


ギルド公認である為に、ガラエスさんがお決まりの注意を促す。

シェリー達が心配と期待に満ちた眼差しでこちらを見ている。

ルークは駄目だなぁ。

心配し過ぎだ。

ルヴェールさんとガラエスさんが審判として側面へ移動して準備が整ったようだ。

こちらも準備を始めるとしますか。

戦闘前にやっておく事は一つ。

左手の魔素を掌で隠せる程度の大きさに切り離して握る。


 領主の号令でついに戦いが始まった。

まず行う事、それは左手の魔素を敵の頭上に移動させる事だ。

もっとも、これは普通認識出来る速度では無い。

現にルークすら気が付いていない様だ。

切り離した魔素でも少しの間は自由にコントロール出来るようになって居る。

そこで、敵の頭上まで行った魔素を一気に霧散させた。

これは攻撃では無い。

後衛に居る魔法使いに対しての煙幕みたいな物だ。

魔法物質の変化が見える魔法使い達に《ショートカット》からの魔法を見せたくない、その為の物。

下手に魔法物質が見える為に魔法使い達は一瞬戸惑い、更にこちらをしばらく視認出来なくなる。

そこで八個の《ショートカット》を一気に上から下へ『押す』。


 魔素で強化された、通常の《エアシールド》の倍はある真空の盾が恐ろしい速さで七枚現れる。

自然魔法である《エアシールド》の展開より、若干の時間がかかって《フルブースト》が発動した。

力を強化する火魔法《ファイアブースト》、敏捷度を強化する風魔法《ウィンドブースト》、身体強度を強化する土魔法《アースブースト》、魔法威力と冷静かつ的確な判断力を強化する《ウォーターブースト》、それらを全て同時に発動するのが《フルブースト》だ。

そこに、私の肉体に常時流している魔素を供給する。

これで準備は整った。

何回かお試し程度に使った《フルブースト》の感じでは、前世での魔素を使った感じに似ていた。

私に迷いは無い。

まずは数人を一気に決める。

さぁ行こう!


 先ずは私から見て右前方へ移動する。

よし! 十分なスピードだ。

前世での戦いと比べて、移動は遜色の無い動きが出来る。


 敵は前が三人、後ろは魔法使い二人+弓一人か……。

あまり耐久性の高さは見せない方が良いかな。

それに、もし自分で思ってるよりダメージが通る様なら危ない。

安全策で行こう。


 向かって右の前衛の攻撃は《エアシールド》にすら当たる事無く回避し、そのまま後衛の横まで一気に距離を詰める。

まずは遠隔系を沈めてしまおうと言う作戦だ。

その段階でようやく詠唱時間が短い、おそらくこちらの詠唱中断が目的だった魔法を完成させて、二人共撃ちこんできた。

魔法使い二名で放った魔法に二枚の《エアシールド》が微かに消耗する程度ではじいた。

その程度の単体攻撃魔法では、全く役には立たない。


 魔法発動後に慌てて離れようとするが逃がす気は無い。

手前の魔法使いの腕を捕って、一気に振り回して弓持ちに当たる様に投げ飛ばす。

投げた瞬間、即次の行動へ移る。

もう一人の魔法使いへ一気に近寄って、持っている杖と一緒に指を蹴った。


スキル:格闘術(異世界)…………再取得


突然、取得のメッセージが流れた。

移動はスムーズだが、身体の動きは思うように行かないなと思ったらそういう事か。

魔素込みの《フルブースト》で、強引に身体能力だけで戦っている訳だ。

そうなると……再度《格闘術》が身体に馴染むのが楽しみだ!


「ギャァァァァ!!」


おっと、戦闘に集中しなければ。

蹴った魔法使いから絶叫が起こった。

指が数本変な方向へ向いている。

……ん~、骨位ほねくらいなら領主軍の回復担当、最悪師匠に頼んで直して貰おう。

そうなると……仕返しに来ない位、心も折っておくか……そうしよう!!


取り敢えず蹴った杖を追いかけて拾う。

人数差があるし、容赦しないと決めたので使い道はある。

一気に反転して、一人目の魔法使いがぶつかってもたついている弓使いの腹部を、右足の爪先で一気にえぐった。

しばらく息が出来ずに苦しむな、これは。


「ぐふぉ…………! ……ゲハ……ゴフォ…………」


大人しく、終わるまでそこで転がってなさい。

再度攻撃に加わるなら、もう一度同じ事をするから覚悟するように。

そう勝手に決めておく。


 折角なので近くに転がっている一人目の魔法使いの腕を踏み潰す。

かかっていたテンションが嫌な音と共に無くなった。

うん、前腕の骨がどっちか折れたな。

位置から考えると尺骨かな。


 これで後衛はしばらく役に立たないだろう。

前衛三人に向き直り、一気に左横へダッシュ。

対応に遅れた両手斧を持った戦士の左肘の内側が見えた。

関節部、防具で守る事が難しい位置へ持っていた杖を投げた。

杖がぶつかった瞬間に恐ろしい程嫌な音が響き渡り、左腕が有り得ない方向へ曲がった。

骨折三人目か……どうせなら全員折るかな……?

いや、流石に回復の手間が増えるから無理に折る事は無いか。


 残った二人の戦士が果敢に攻めてくるが私の移動速度について来れて無い。

単純なスピードだけで移動し、攻撃してきた後の隙だらけの時だけチョコチョコと攻撃する。

時間にすれば精々二分程度だと思うのだが、二人共心が折れた様だ。

戦闘中なのに、武器を放り投げて座り込んだ。

片方は泣いてすらいる。

まぁ、自業自得だ。

これに懲りて迷惑な行為は慎むようにして貰おう。

ちなみに……勝手に諦められてしまったので、若干殴り足りないは内緒だ!!

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