14◆冬の到来と共に面倒事もやってきた
冬が訪れて、工房にも仕事の少ない時期がやってきた。
採取系の素材を使う薬品は、この時期までに各商店と工房で十分な量を確保してあるはずだ。
工房で確保してあるのは、売れた分を補充している商店用だ。
これからの工房の仕事は、付与魔法がメインとなる。
この街ではあまり強力な魔法具が必要になる事も、素材が用意出来る事もまず無い。
魔法具を作る為には、魔法物質との親和性が高い素材が主に用いられる。
大量のMPを流しながら制作される魔法金属や、魔物由来の素材、魔石等が主な原料だ。
この六爵領付近で得られる魔石・魔物素材では、日用品や最低レベルの冒険用魔法具が精々だ。
師匠の工房にも魔石の在庫はそれ程無い。
魔石にはランクがあり、魔法具の燃料として使用される場合はランクだけ合っていれば問題は無い。
しかし、魔法具の作成に使用する際には、出来るだけ素材との親和性が高い魔物から作られた魔石が好ましい。
必要に応じて他の素材に合わせた魔石を購入した方が良い物が出来、加工難易度も下がる為、付与魔術師が魔石を大量に持つ事はあまりない。
この工房では偶に依頼がある程度なので、冬は暇になると言う訳だ。
魔石に余裕が無いので、私が練習で作る魔法具はMP発動型魔法具が殆どだ。
こちらはエネルギーの供給を魔石から行わない。
冒険者等が、自分の使えない魔法が付与された魔法を使いたい場合に用意したりする物だ。
魔法使い以外の冒険者も少ないながらMPは持っているので、こういった物で利便性を増している。
魔石を使った品は、色々なタイプに別れている。
組み込まれた魔石を内部への供給専用に加工して、電池の様に消費用の魔石をセットして使うタイプ。
魔法物質吸収用に加工されたり、高位エネルギー物質である魔法物質を純粋なエネルギーに変換したりするタイプ等、大きな分類でも相当数あり、細かな分類に至っては数えたくない域となって居る。
私としては出来るだけ実際に色々作ってみたいのだが、素材が無いという現実から断念せざるを得ない状況だ。
一応ルークには、付与魔法で作る事ができ、素材が近場の河原で採取できる適した石を使うだけと言う、お手軽な原魔石を渡してある。
ゴブリン用とブラッドウルフ用の二種類だ。
ギルドからの報酬を捨てて作る為、一人で倒した時に適当に作って置いてと言ってある。
最低ランクの魔石なのでそこまで良い物は出来ないが、出来るだけ練習はしておきたい。
因みに私自身でも偶に行ってはいるが、この時期は遭遇率が悪すぎて諦めかけている。
今日は特に仕事の予定は無いので、午前中は自由で午後から修行という事になって居る。
私の予定としては、商店回りを終わらせてしまう位だ。
最近、午後からはあまり行きたくは無い状況になって居るのでそうしている。
理由は、ガラの悪い冒険者グループが頻繁に現れては、商店等に被害を出しているからだ。
この困った連中は、領主軍の手が足りない分を補う形で仕事を与えられる、お抱え冒険者といった感じの立場の奴らである。
私がその現場を見てしまうと、まず間違いなく殴ると思われる。
以前試した《ファイアブースト》だけでなく、四属性のブースト魔法を同時に使用する《フルブースト》すら制御出来ることは確認済みであるので負ける気がしない。
私自身、そんな現場で我慢できるとは思えないので、師匠には会わない時間に行くように言われている。
現在、被害をまとめている最中で、領主に対する報告書を制作中との事。
もうしばらく我慢しておこう。
☆ ☆ ☆
工房の掃除をしているとルークから《通話》で連絡が来た。
『あらルーク、どうしたの?』
『姉さん、少しやって貰いたい事があるんだけど今時間ある?』
ふむ、珍しいな。
『どの位時間のかかるかによるけど大丈夫だと思うわ』
『それじゃあ、《アイテム》の中にあるクリムゾンベアの死体から内蔵を取り出して欲しいんだけど、出来そう……?』
《アイテム》の中身を確認すると確かに入っていた。
解体作業はあまりと言うか、相当苦手な部類なのだが……まぁ我慢しよう。
ルークから得られたスキルに《素材解体》と言うスキルがあるのだが、これの効果でグロ耐性が得られている。
本当に効果は絶大で、血を見ても何とも感じなくなっていた。
しかし……苦手意識は変わる事が無かった……。
『問題ないわ。内蔵を抜く程度なら熟練度が低くても《素材解体》スキルでどうにか出来るから』
上質な加工を行う必要が無ければ内蔵を取り出す位はどうとでもなる。
掃除の途中だが、頼まれた仕事をまずやってしまおう。
流石に成長はほぼ止まっているとはいえ、十四歳の少女の身体でこの熊をひっくり返したりとか無理!
うつぶせで出て来たので仕方なく、《ファイアブースト》で力を底上げして解体に入る。
魔法具を飲み込んでいる可能性があるので調べて欲しいとの事なので、腹部を切り裂いて内臓を取り出し、食道に沿って口まで裂いたが特に何もない。
肉がもったいないからすぐに《アイテム》へ戻す。
素材として使える肝臓、胆嚢、膵臓を錬金術で加工する。
流石に腸を全部調べるのは面倒だったので、時間をおいて細胞崩壊を起こした後に確認したが何もなかった。
『結果としては特に何も無かったわ。内臓のうち錬金術で薬に調合できそうな部位は加工して、それ以外は全て崩れ落ちるまで放置して確認したけど何も無かったわ』
そうルークには伝えた。
さて、クリムゾンベアなんて言うこの辺りでは大物と言える魔物と、魔法具を探して居る事。
さっき出ていくまでは特に何かがあった雰囲気でも無かった事から……持っていたクリムゾンベアの素材を売りに行くか何かして厄介ごとに巻き込まれた感じかな……?
まぁ、何があっても良いように覚悟だけはしておこう。
☆ ☆ ☆
はい、やっぱり厄介ごとがやってまいりました。
概要としては、領主に届けられるはずだった魔法具の探索に参加する事になり、ギルド職員と二人で二匹のクリムゾンベアと戦闘。
続けて悪質な四人の冒険者との戦闘になって、思いっきり《ショートカット》による無詠唱魔法と闇魔法を見られたとの事。
無詠唱魔法は基本的に勇者専用スキルのはずだから、これは嘘が通じないな……。
素直に話してしまおう……その上で交渉だな。
『そこまで能力を見せてしまったのなら下手に嘘をつく方がリスク高いわ。納得して貰いつつ穏便に済ませる為に、私もそちらに行くわ』
もう完全に隠す事は無理と諦めているから、まぁギルド職員だけなら何とかなるかな。
そう考えながらギルドへ向かった。
事前に案内するように話が付いていたみたいなので、すぐに部屋に案内された。
「失礼します。お久しぶりですルヴェールさん」
素材買い取り用の受付をメインに担当しているルヴェールさんとは、採取系担当だった私は良く会っていた。
「こんにちは。早速だけど、あなたもルークさんの能力を知っているという事で間違いないのね?」
「はい。生まれつき持っていた能力です。ただし、勇者様の能力よりかなり劣るものですし、問題は無いはずです」
レイクから色々聞いて勇者の仕様は大体理解している。
「問題が無いという根拠はあるのですか?」
「はい、この能力自体は私が女神様から貰うはずだった能力の一部です。他言無用でお願いしますが、私は生まれて来るのが遅れた勇者様の代わりに勇者になるはずだった存在です。しかし、勇者様が無事降臨した為に私は少しだけの能力を除いて普通の人として生まれてきました」
流石に驚きの表情を浮かべたルヴェールさんだったが、
「そうなると、ルークさんでは無くエルさんが能力を持っている事になりませんか?」
予想通りの流れになった。
その言葉を聞き終えると同時に《ライト》の魔法を無詠唱で使った。
光属性の、周囲を照らす魔法だ。
「このように無詠唱魔法を私も使えます。ルークは双子だった為に、どういう訳か一緒に使えるようになっただけです」
面倒なので、順番は逆だがそう説明しておく。
「流石に私も気になって勇者様について色々調べましたが、勇者様の無詠唱魔法や多彩な能力の一部は私達も持っています。ですが、一番重要な成長の速さに関わる能力は殆ど無いのです。その能力が無いと、勇者として魔王軍と戦う事は無謀である事は分かりきっていますので私達では役に立たず、そして勇者様の成長の邪魔もしない訳です」
まぁ、私はすでにその辺りのスキルも持ってはいるが、オフにしているので問題は無いだろう。
「勇者様の成長の速さの邪魔をしないと言う点が良くわからないのですが?」
「勇者様は世界に満ちている聖なる気を吸収して成長すると言われています。これは私が生まれる前に女神様が言っていた話と合致する為、おそらく間違っていないでしょう。私達はその能力を持っていないのです」
そこまで聞いてルヴェールさんは少し考える様にやや下を向いたまま黙り込んだ。
しばらくして私達の方をしっかり見てから、
「分かりました、今回の件でお二人の能力については私の胸にしまっておきます。ただし、今後お二人が能力を使用した事により周囲からその能力について聞かれた場合に、肯定すべき内容にだけは答える事になります。それで宜しいですか?」
「「よろしくお願いします」」
ルークと声が重なって、同時に答えた。
しかしここで話は終わらず、
「とりあえずルークさん、今回の件なのですがまだ終わってはいません」
ルークの顔が一瞬引き攣った。
「今回の件は領主様の依頼で捜索が行われていた事はすでにご存知だと思います。クリムゾンベアの討伐を冒険者が行い、職員が魔法具を見つけて密かに返還する事が理想だったのですが……ルークさんは完全に関わってしまっています。こういった場合には、領主様から直接会って感謝の言葉と相応の御礼がしたいとの通達が事前に来ています」
「それは間違い無く、余計な事を言うなとの念押しの為ですよね……?」
確実にそうだろうと思いながらも一応聞いておいた。
「まぁ、その意味合いが強いでしょうね。ただ、領主様はそのお人柄に定評がある御方ですから無茶な要求や威圧的な態度での口封じ等はしないと思いますよ」
横目でルークを見ると茫然としていた。
まぁ……頑張れ。




