124◆ようやく再開された迷宮探索、現在は絶賛戦力の底上げ中
王都にある迷宮に潜り始めて数日が経過したのだが、現在は十八層を攻略中。
正直な所、本気を出して攻略している訳では無いので、ゆっくりとした感じで進んでいる。
本気を出さない理由は勿論あり、簡単に言えば実力的にまだまだ物足りない感のあるミラと王女のレベルや熟練度稼ぎをし、今のうちに底上げしようという目論見がある為だ。
下へ行けば行くほど危険になる事が分かり切っているのだから、万が一にでも死ぬ事が無い様に用心して行かなくてはならない。
なんせゲルボドが折角持っているのに、女神から蘇生魔法の使用が禁止されているのだから。
今までが結構上手く行っていた事は認めるが、だからといって油断していいとは思えない。
事実、私と別れていた際にミラが死にかけた事があったとも聞いているし、最終目的が竜を倒す事を考えると全員が最低50や60レベル必要になる。
そのレベルに至る為には当然レベルに見合う敵が必要であり、それを探す段階に下手をすればいきなり強敵と出くわす可能性もある。
例えば、ハヤトの迷宮にいたソードドラゴンみたいな特殊能力を持つ個体などだ。
あのソードドラゴン戦が結構厳しかったのは、忘れられない記憶として今も鮮明に残っている。
特に、今はルークが武器由来の特殊能力として愛用している、断裂攻撃の嫌らしさが強烈だった。
もしあれ程の威力を持った回避困難な能力を、実力が伴わない段階で喰らったら……どう考えても高確率で死に至るだろう。
それを回避するためにも、堅実に実力をつけて貰う方が良い。
急がば回れ、そんな言葉が生まれる位なのだから、先人の経験に従っておいて損は無いはずだ。
現在レベルがもっとも高いのが私、次いでルークとゲルボドとリーナが似たり寄ったり、少し離れてミラと王女である為、しばらくは基本的にミラと王女に頑張って貰う事になっている。
スキルを加味した強さで言っても、私、ゲルボド、ルーク、リーナ、ミラ&王女の順となる為、やっぱりその二人に重点を置く事になる。
二人の特徴やスキル構成に関しては、ミラが弓と魔法に加え、私がヴァルツァー五爵のアジトへ襲撃した際に得た《罠発見》と《罠解除》を教え込んでいる。
何故ミラに教え込んでいるのかと言えば、ゲルボドに関わる色々複雑というか……厄介な【職業】の仕様に関係している為だ。
ゲルボドの居た世界では【職業】という、特定の能力に対する大幅な上方修正と反対に特定能力への使用制限のかかる……特典であり縛りでもある状態変化の一種とも言えるものがあったらしい。
ゲルボドの能力を継承しているミラはその【職業】による恩恵を受けているらしいのだが、ミラの【職業】はどうやら【盗賊】と呼ばれるものらしく、弓や短剣に適性を持ち、罠の発見や解除を得意としているサポート職との事。
特に罠発見や罠解除の成功率は他の職よりも恐ろしく高く、この世界の常識なら斥候職として先頭を歩きながら確認する事を二列目や三列目からでも行えるらしい。
では、何故ミラに私が《罠発見》や《罠解除》を教え込む事になっているのかと言えば、現在の【職業】が神聖戦士とかいう(ゲルボドを見ている限りどこが神聖なのかは不明)戦士と僧侶の能力を併せ持った職だった事が原因であった。
過去に盗賊の【職業】を経験した事があるというゲルボドだったが、現在はその使い方を全く説明できないとの事なのだ。
本来であれば職に就いた段階や転職の際に修錬場で能力の使い方を学ぶらしいのだが、そんな施設はこの世界には無い為、基本能力である鍵開けや罠発見・罠解除が使えないという有様だった。
そこで試しに《罠発見》《罠解除》を教えた所、やり方さえ分かれば無問題とばかりに簡単に解除しまくり状態となった。
一度理解すれば同種の罠は発見も解除も簡単に行えてしまう為、熟練度の低い私とルークとリーナで何とか初回をクリアすれば、それ以降は障害とは言えないレベルまで危険度が減ったのはありがたい話ではある。
【職業】補正、どんだけスゲーんだって話でしたわ。
因みに毒針や矢が飛んでくる程度の罠は、熟練度上げの為に私かルークが開けていく方針になった。
バラバラで行動する事もあるし、一時的にミラが解除できない状況に陥る可能性も否定できないからだ。
次に王女に関してだが、こちらは基本的にそこまで大きな変化は無い。
とは言っても本当に全く変化が無いわけではなく、一番の違いとしては《火魔法》を習得した事かな。
これは元々ミラに対してゲルボド由来のスキルだけでは色々不都合もあるからといって、MPを有効に使う事を視野に入れて各自然魔法を教えてみた際に……元々《火の結晶》由来の火炎攻撃を得意としていた為か……王女もアッサリと使える様になってしまったのだ。
しかも、覚えはしたものの純粋な《火魔法》はあまり好みではなかったらしく、呪文を詠唱した際の魔法物質の変化を直接再現する事で習得できる魔法剣技の一つ、《爆炎剣》というスキルを習得していた。
魔法剣は詠唱が必要ないメリットと近接戦闘にしか使えないデメリットがあるが、元々前衛で戦う王女には向いているスキルといえるだろう。
自在に炎を操る《火の結晶》の能力とは少し使い勝手は違うようだったが、すんなりと馴染んでいる様なので問題は無い様に見える。
因みにこの《爆炎剣》もそうなのだが、武器系のスキルに魔法系スキルを付与する系統の場合、威力は高いが使用する際に様々な消費がある。
例えば、《爆炎剣》の場合は大半の技でMPとSP両方使う。
SPは一部スキルや技系に使用するもので、ステータス画面にはSPとしか書かれていないのでスキルポイントなのかスーパーポイントなのか、もしかしたらスペシャルポイントなのかもしれないが……答えは闇の中といった感じだ。
SPを消費する場合は、大抵効率良く身体を動かす場合が多い。
ルークを例にすると、《ダブルステップ》や《トリプルステップ》といった《回避》スキルによって得られた技を多用している。
初期の頃は片手剣の《二段突き》等も使用していたが、現在はほぼステップ系にしか使っていない気がする。
私の場合は《格闘術(異世界)》にこの世界でいう《技》と呼べるものは無く、あくまで【型】と呼ぶべきものしかなかったため、最近までは単純に殴っていただけなのだが……先日の悪夢の様な戦闘によって《格闘術(ヴァリアム流)》を得てしまった為にSPを使用可能な技が存在している。
因みに《簒奪の聖眼》で得た直後は《格闘術(異世界)》と《格闘術(ヴァリアム流)》は別スキルとして存在していたのだが、熟練度が上がっていくといつの間にか《格闘術(多世界)》に統合されていた。
ゲルボドのスキルを得た際にはそのまま《~(多世界)》へと統合されていたのに、今回は違った事に少し違和感があったのだが、おそらく順番の問題だったのだろうと最近結論づけた。
私やゲルボドが居た世界にはSPやMPという概念が無かった為に後から追加されても即統合され、《格闘術(ヴァリアム流)》の様にSPやMP消費がある物を後から追加した際には熟練度が追いつくまで統合されなかったのではないかという事だ。
もっとも、これらの《識別》で得られる情報は女神や邪神の配下とやらが管理してるのではないかとハヤトが言っていたので、ただ単純に滅多にない手順だから対応できなかっただけの可能性もある訳だが!
まぁ、現状《~(異世界)》の物はゲルボドから得た幾つかしかなく、熟練度が存在した上でこちらの世界にもありそうなスキルとなると恐ろしく限られてくる。
この謎が解明される事は……ぶっちゃけるとかなり低いだろう!
しかも!! 解明されてもほぼ意味が無いという!!!
気にしない方が良かった事に気が付いてしまったという……どうでも良いことなので忘れよう……。
まぁなんだかんだと言いつつも、ようやく再開された王都の迷宮探索の出だしは順調!
情報が多少は残されている二十一層までに、ミラと王女を鍛えまくるよ!!
最低でも戦闘で死なない位には……ね!!!
ここしばらく、以前後書きに書いた迷宮の位置と扉の位置をもっと分かりやすくしたいという件で修正バージョンを書いていたのですが……残念ながら変更を加え始めると相当な部分を修正する事になるのに加え、確認の為に矛盾が無いか通しで何回か読む必要がある事を考えると今すぐ対応するのは時間的に厳しいと判断しました。
幸い(?)幕間2でも分かる様に、五章以降は迷宮が大量発生するため今後はその問題が若干緩和されますので、取り敢えずは五章を進めながらゆっくりと作業を進める方向にします。