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裏・代役勇者物語  作者: 幸田 昌利
幕間二
135/138

幕間二の2◆学院組(クレイス)

 シェリーの友人で、クレイス=フェイ=ラミナスです。

お姉様のお蔭で平穏な学院生活が送れるようになったため、あの決闘騒ぎ以降はシェリーやメイと共に楽しく過ごしています。


 学校が休みの時には、皆で集まったりお姉様をお招きしてもいますが、いまだにルーク様とはお会いできていないのが残念です。

しかし、そんな事が些細な事に感じる話を、本日お姉様が持って参りました。


 お誘いした時以外は我が家へ来た事が無いお姉様が突然いらした時には驚きましたが、その内容がお父様に取り次いで欲しいとの事だったので更に驚いてしまいました。


「あくまで今回は取り次ぎのお願いかな。会って貰えるかどうかの確認をして貰い、会える様なら都合の良い日程をシェリーに伝えて欲しいのよ」


と言うお姉様からのお話だったのですが、お父様は既にお戻りになられているので直ぐに会って貰えるかもしれません。

当然、即お父様の所へ聞きに行く事にし、お姉様には私の部屋で待って頂く事にしました。


 お姉様を私の部屋まで案内し、お父様の部屋に行ってノックするとすぐに中から入るように声がかかりました。


「珍しいね、クレイス。どうしたのかな?」


部屋に入った私に、お父様がそう微笑みながら問いかけてきます。


 お父様は基本的に王都で四割、領地で六割仕事を行う生活を繰り返しており、現在は丁度こちらで仕事をしておりました。

我が家は領地運営と同程度で商業にも重点を置いた経営方針となっている為、お父様がこちらへ来る事も珍しくはないのです。


「あの……実は、お父様にお会いしたいという方がいらっしゃいまして。私がとてもお世話になっている方なので、是非お会いして頂きたいのですが……」


私がそうお願いすると、


「ふむ。クレイスの知り合いなら勿論構わないが、今すぐかい?」


と、快く返事を貰い、


「お姉様からは面会の申し込みとその後の連絡方法についてのお話だったのですが、もしお父様の都合がよろしかったらすぐにでもお会いして頂けるのではないかと私の方で考え、少し私のお部屋の方でお待ちして下さいとお願いしてあります」


と伝えた。


 お父様は少しだけ考える素振そぶりを見せた後、


「もしかして、例の決闘騒ぎを収めてくれたという冒険者の方かい?」


と聞かれたので、


「はい。そうです」


と答えました。


「ふむ……。確か、エルさんと言ったかな? クレイスはどのような話なのか聞いているかい?」


と更に聞かれたのですが、聞いておりませんと答えると更に考え込む様に黙ってしまいました。


 もっとも、その沈黙もすぐに終わり、


「とてもお世話になっている相手に初めてお会いするのに、このままクレイスの部屋というのは流石に砕けすぎているので応接間の準備をさせよう。お前はそのエルさんを迎えに行ってくれるかい?」


と言われたので私は部屋に向かい、お父様はメイドにお茶の準備を指示しながら応接間へ向かっていきました。


 お姉様にその事を伝えると、


「ありがとう、クレイス」


そう言われましたが、お父様が考え込んでいた事が少し引っかかってしまっていた為、


「それでお姉様……、どのような要件なのでしょうか?」


と聞いてしまいました。


 どうやら私の不安が態度に出てしまったらしく、


「別に何かを要求したりする訳じゃないから安心していいわよ。どちらかと言えば、あれば便利な物を押し付けに来た感じかな? 要らないならそれでいいけど、折角だからクレイスとメイの領地に設置したらどうかなぁって確認にきただけ」


と言われてしまいました。


 良く考えれば、お姉様は色々と特殊な能力や単純に実力もあるので収入はとても多いと聞いていますし、わざわざ私のお父様にとってマイナスになる事をする必要性を感じません。

シェリーの話によると、魔法具作成の練習結果だけで一財産作ってしまうような御方ですし。


 安心したためか笑顔でお父様の待っているはずの応接間へ案内したらしく、その私を見たお父様は少しだけ安堵した雰囲気を見せました。

更に、


「お初にお目にかかります、ラミナス卿。エルと申します。突然の訪問に対し、快くお時間を作って頂きありがとうございます」


というようにお姉様が丁寧な御挨拶をすると、今度は少し驚いた顔を見せていました。


 お父様は商人としても優秀な方なのであまりそういった表情を見せる事は無いはずなので、私としても色々と新鮮な感じがします。


「いえ、本来ならば我が家がいた種とも言える決闘騒ぎを解決してくれたエル殿にはこちらから出向いてでもお礼を言いたかったので、むしろ当然の事ですよ。遅くなりましたが、その件ではシェリー嬢やエル君には多大な迷惑を掛けた事をお詫びさせていただきます」


「いえ、その件に関しては既に書状を受け取っておりますし、お会い出来なかったのはお互いの都合がつかなかった為なので御気になさらずに」


その後もそんな感じで挨拶が続いていきましたが、


「それで、今回の訪問はどのような御用件でしょうか?」


というお父様の質問で、遂に本題に入りました。


 室内に控えていた使用人を部屋の外に出した後に語られたその内容は……正直に言えば、お姉様の口から出た言葉でなければ到底信じられない内容でした。

私だけでなく、お父様も愕然とした表情と信じられないという懐疑的な色が窺えます。

お父様にこんな表情をさせるなんて……流石お姉様です!(注:単純に褒めています)


 そして肝心のお父様にこのような顔をさせた内容なのですが、


「私は迷宮を作成するスキルを持っております。現在、エルナリア領にて一般公開を始めました。冒険者が集まって軌道に乗るのはもう少し先でしょうけど。それで、クレイスやメイの為にもそれぞれの領に迷宮を配置してはどうかという話なのです」


という内容と共に、迷宮を作る一番の利点は迷宮を利用して王都からその迷宮まで短時間で移動可能な点だという事も説明されました。

しかし、


「少し待って欲しい……。私はこう見えても商売を生業として家を支えてきた一族の者だ。領主見習いとして現場を知る為にと、迷宮から産出された素材の買い付けにも行った事がある。当然領内に迷宮を持つ事による莫大な利益に関しても理解している。しかし、現存する迷宮や過去の資料を見ても迷宮を故意に作ったという話は前例が無い……。本当に迷宮を作る方法を見つけ出したというのかね?」


と、お父様は今までの常識としてそれが無理である事実を突きつけ、お姉様の真意を探るように問いかけました。


 おそらくお姉様はその問いを予想していたのでしょう。


「信じられないのは当然だと思います。ですから、直接見て頂きたいと思います」


と言い、人の来ない場所に案内して欲しいと言われ、商売の関係で屋敷の裏にある倉庫の中へ案内すると、


「ここに迷宮を呼び出します」


その言葉と共に、私の身長の二倍を超えるかもしれない高さの巨大な扉の様な物が突然現れました。


 唖然とする私やお父様に微笑みを浮かべたままお姉様が扉へと進むと、両開きとなった扉が奥へ向かって開いて行き、中から地下へと続く階段が現れました。

私は慌てて扉の横に移動し、更に驚きを増す事になります。


「奥に向かって扉が開いていたのに……裏側から見ると地下へ続く階段や開いた扉が無いなんて……どうなっているのかしら?」


そう、横から見ると、本来なら奥行きがあるはずなのに……扉しか無かったのです。


 そもそも扉だけがそこにある事自体が異常なのですが、事実そこにあるのです。

横幅は精々私の両方のてのひらを足した分より、やや小さい位でしょうか?

裏から見ると更に異質で、石でできたかの様な硬質な壁の様に見えます。

正面から見た時にはそこにある様に見えた階段も開いた扉も無く、静かにそそり立っている姿を呆然と見つめる事しかできませんでした。


「これは動く迷宮と言われる物だね……? 実物を見るのは初めてだが、確かに以前迷宮を見た時と同じ様な威圧感を感じるね」


「私達は移動迷宮と呼んでいますが、その中でも必要に応じて今いる場所に呼び出せるタイプなので重宝しています。そして、移動しない通常の迷宮を固定迷宮と呼んでいますが、そちらの方は迷宮の主と許可された者だけが使える転移門を作り出して使用できます。それこそが今回の最重要ポイントでもありますが、領地に設置した迷宮と王都を行ったり来たりする事が可能になります」


お父様とお姉様がそんな話をしていましたが、私にとっては実感の無いお伽話の様で……ただただ、その圧倒的威圧感を持つ扉を眺めている事しかできませんでした。

四章部分の修正をどうしようか色々悩んでいる為、幕間部分の間は大体週1ペースになると思います。

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