122◆王女育成と現在の状況に関するまとめ
王女の面倒を引き受けた翌日から、装備を整えた上で迷宮での訓練を開始していた。
場所はルークの迷宮をメインに行っている為、迷宮の主であるルークは同行させていない。
理由としては、単純に私とリーナでサポートする方がリスクの点から見ても最良といえるからだ。
私とリーナなら、自分の相手と戦いながらでも《浸食共有》で繋がっている私のMPを使って、過剰なまでの魔法乱発でいくらでもサポートが出来るからね。
因みに、ゲルボドとミラも同行させている。
本当にルークだけが仲間はずれだ。
ぶっちゃけると、こんな時位シェリーと仲良くやっていればいいんですよ! という姉心です。
王女の強さに関しては……まぁ、及第点かな。
レベル32にしては、若干弱いのかな? と感じる程度。
主な理由として、攻撃手段の幅が狭い事に由来する単調さと、行動パターンの少なさの為と言えるだろう。
これに関しては仕方がないともいえるのだが。
本来王女の持っていた《炎の欠片》は詠唱の必要が無い攻撃方法として使えた為、使わない時でも相手を警戒させる事ができる便利な能力であったのだろう。
その為か、攻撃方法自体に捻りが無く、火炎攻撃による二択が無いとただの単調な攻撃となってしまっているという訳だ。
そこでまず行ったのは、魔送石を装備させた状態で魔素を流し、大量に流しても使いこなせる様にするための練習だった。
これに関しては、ほんの一日で一気に馴染み、次の日からは常時亜人部隊のメンバーと同じ量を流しても使いこなしていた。
……ぶっちゃけると、魔人を少し甘く見ていた!
これ、魔素さえあれば相当凄い能力が発揮できるんじゃない?
次に行ったのは、攻撃パターンの追加とフェイントを織り交ぜた動き、それに加えてルークが行うような足を使った出入りを繰り返す攻撃の練習だ。
王女は魔素を使って動いている為、私や亜人部隊と同じくほぼ疲労無しに動き回れる事もあり、約三日でルークにも剣同士でなら負けない位の手練れになった。
もっとも、ルークには魔法があるので勝つにはまだまだだけどね。
当然だが夜には亜人部隊の迷宮攻略も進めている。
亜人部隊は嫌がらせだらけの七層をクリアして、更に八層と九層をクリア。
現在は十層攻略中だ。
ここまでで新たに得た素材としては、八層でアベチュリン。
九層でシトリン。
十層でアメトリン。
アベチュリンは、正直私には良く判らない宝石だったが、緑色の水晶の一種であり、和名でインド翡翠との事(全く覚えていなかったが、過去に見た映像の中にあった)。
シトリンは黄水晶。
アメトリンは黄紫水晶。
ここまで来るとあれだな。
この階層周辺は、水晶関係の階層なのだろう。
因みに、超嫌らしい構造の階は七層だけだった。
これは、明らかに迷宮の主の趣旨によるものだろう。
おそらくだが、あそこの階で諦めるか否かの振るい落としではないだろうか?
その後は順調に進んでいるが、おそらく他にも嫌がらせ階層が用意されている事は間違いないだろう。
まぁ、徐々に階層毎の大きさも広くなっているから、素材集めと亜人部隊の育成と割り切って呑気に進めて行くつもりだ。
☆ ☆ ☆
四日程で大体の目途は立ったのだが、その後も三日程訓練に費やしていた。
この期間は私だけが同行し、リーナには別な事をお願いしてあった。
その仕事とは、ドール二号と三号の迷宮系スキルを上昇させる事だ。
この二体のマスター用扉が使用できれば、常時行ける場所も一気に多くなるからね。
因みに、リーナに頼むつもりだったミルロード領の迷宮なのだが、ルークが第三迷宮を作れるようになり、配置場所を考える際に譲ってある。
エルナリア領とミルロード領はある意味ルークの管轄と言えるので、これで良かったと言えるだろう。
これでルークの迷宮は移動迷宮に加え、エルナリア領とミルロード領にある事になり、王都のミルロード邸にマスター用扉もあるので、私抜きでも十分に機能出来る様になった。
私にも万が一という事がある以上、これが一番いい形かな。
そして、ルークが帰還した後にゲルボドの突っ込みで判明した簡単な帰還方法があったのだが、蟻の巣の様に迷宮をマスター用扉で繋ぎ合わせた為に見落としていたという……。
図にでも描いて、もう少し整理しておく必要がありそうです。
……過ぎた事は置いておこう!
その他として、王女には訓練の合間に王都の中を色々案内しておいた。
今後は冒険者として王都の迷宮に潜る事になるが、流石に王女は冒険者としてだけではなく、一般常識が足りない事も大きかったからだ。
まぁ、私達も普通の冒険者と言えない事は理解しているけどね!
当然変装用の魔法具もバッチリ作ってある。
先に作っておいた染髪剤や肌の色を変える化粧品に加え、本当は着けていないマスクが他人からは見える幻影の魔法具も作ってある。
光属性と闇属性を併用して作ったこの幻は、闇耐性が低い人族全般に効果が高く、まず見破られる事は無いだろう。
しかも、マスクを外しても王女とは気づかれない位の顔に見えるようなもう一つの幻影が仕込んであり、余程王女の顔だけでなく仕草や癖を知る人物以外には気が付かれないはずだ。
何故そんな手の込んだことをするかと言えば、これまでの経験上……貴族や大商人に会う機会がゼロとは言えないからである。
実際に、私やルークはエルナリア領主から始まって、数人の貴族に会ってしまっている。
その場合、流石にマスクのままでは失礼に当たるからね。
☆ ☆ ☆
この一週間のルークなのだが、シェリーが学校の時間はレックス達の中で非番になっている連中とアイアンゴーレムを狩り、シェリーの帰宅後は一緒にいる生活を繰り返していたらしい。
のんびり幸せな時間が持てて、二人とも良かったねと言っておこう。
エルナリア邸関係も、現在は全員引き揚げて領地に戻っている。
そのお陰でようやく迷宮を一般公開する準備が整い、レックス達が貯め込んだアイアンゴーレム素材も日の目を見る事になり、結構な金額が分配されるとみんな喜んでいた。
この素材の取り分は狩った側に八割、残り二割が迷宮を管理する貴族へ税金として納められ、その多くが迷宮付近の整備や治安維持等に使われるとの事。
最初は特に高値で取引されるだろうから、中々借金が返せずにいたという隊員は晴れて返済生活から抜け出せるとの事。
因みに、借金持ちは大半が親やその前の代からあるらしく、無駄遣いをした訳ではないのに中々返せなかったとの事。
それだけ八爵という爵位には旨味が薄いらしいのだが、実力と少しのコネさえあれば軍の中で上にあがれる可能性はあるので一般市民よりは成功する確率的には良いと言う話だ。
まぁ、あくまで可能性でしかないので、実際の所そう簡単には昇進できないらしいけどね。
レックスと一緒にリリアーナ達宮廷魔道部隊のメンツも稼いでいるので生活が向上しているし、地下幽閉施設関係には私から先生経由で素材を渡して色々便宜を図っているので関係は良好だ。
国の上層部に隠れて行動するのは大変だが、これだけの関係を作ってしまえば逆に色々便利になっている。
それじゃ準備も整ってきたし、本格的に【竜殺し】の称号でも狙っていきましょうかね。
まぁ、一番頑張るのはルークなのだが!
手伝いはしっかりしてあげるけど……ね!!