120◆西崎 隼人に告げられた事実に驚きを隠せない私が居た
エルナリア邸(仮)へ着くと、ルークは少しだけ領主への挨拶を優先するか悩んだようだが、そのままシェリーの部屋に行く事にしたようだ。
まぁ、確かに普通なら領主への挨拶を先にすべきなのだが、あの領主なら大目に見てくれるだろう。
シェリーの部屋の前に着き、ノックをするとすぐにシェリー自身が扉を開け、
「お帰りなさいませ、ルーク様」
と、とても嬉しそうな顔で出迎えてくれた。
全員が部屋に招かれたのだが、私はやる事があるからと辞退し、王女を連れてエルナリア領にある師匠の工房へ移動する。
事前に連絡しておいたので、工房ではリーナが準備をしていてくれていた。
リーナと王女を互いに軽く自己紹介させてから作業に入る。
やる事はドール五号の起動と、ドールが入る小屋の作成だ。
小屋と言ってもドールは呼吸もしなければ食事もしない為、本当に収まる事が出来ればいい位の大きさにしておく。
あまり大きくし過ぎると興味本位で誰かが入ろうとする可能性もある為、わざと立てた棺桶四個分程度にしておく予定だ。
魔送石を付けて《アースシールド》を常時発動でも良いのだが、今後もこういった場所を増やす可能性を考えると得策では無い為、棺桶四個分位の鉄の箱を作り、内側に鍵を付けておく方法でいく。
因みに、戸の作りは引き戸にしてあるので、見た目は前世で屋外に置いてあった物置なんかと同じ様な感じになっていた。
当然生物ならアウトだが、呼吸をしないドールならば問題は無いので空気穴などは存在していない。
更にこれが収まるような木製の小屋を建て、こちらにも内側に鍵をつける事で外部からの侵入を防ぐのだが、基本的な役割は金属の塊が外部から見えなくする為なので、そこまで手の込んだつくりにはしていない。
一応、植物の魔物由来の素材を使い、強度を上げる土属性の付与は行っているのでそうそう壊れる事は無いだろうけどね。
これらを作り終えるまで、王女は興味深そうに見ていた。
大人しくしていてくれたのは良いのだが、その後の質問攻めは若干面倒であった為、リーナにサックリと任せてしまった。
ハイテンションな王女と淡々と説明するリーナが面白く、時間が経つのも忘れて聞き続けてしまったのだが、途中でリーナが呼んでいたメリルリアナという名前を使う事が今後駄目である事に気が付いた。
本人に聞いた所、親しい家族からはリアナと呼ばれていた事から、是非そう呼んで欲しいと言われた。
リアナか……。
リーナと恐ろしく被っている気がするが、まぁ本人の希望だし良しとするか。
さて、二人の話を聞いてるのもこれ位にして、私は作業に戻るとしよう。
次にやる事は、魔送石を付けた腕輪と装備一式の作成だ。
これからは王女もパーティーの一員となるのだから、相応の装備を用意しなくてはならないのだ。
もっとも、王女はルークと同じく回避タイプの前衛なので、基本的に同じ物で良いだろう。
そういや……うちのパーティーって、回避タイプしか居ないな。
まぁ、全員が回避出来るのならば、重戦士タイプはいらないから問題は無いけど。
ゲルボドは回避しながらも位置をあまり移動しないメイン盾なので、中央は任せられるしね。
◆ ◆ ◆
ある程度の製作を終えた段階でも、リーナと王女は話を続けていた。
見ていて面白いのは、ハイテンションな王女と淡々と話すリーナの温度差がありつつも成立する会話の流れだ。
どちらも真面目に話しているのだが、外部から見ると笑えて来る位のテンションの差だ。
もっとも、リーナにとってはここまでハイテンションで話をする相手は今までに居なかった為、私の事を気にする事なく興味深げに延々と話をしている。
これは、もうしばらく放置していても大丈夫そうかな? と考え、少し席をはずすと伝えて工房を出た。
向かう先は、魔人の居る固定迷宮のマスタールームだ。
そろそろ話を聞いておきたいしね。
◆ ◆ ◆
マスター用扉を経由して実家にある迷宮のマスタールームへ行くと、魔人が寝ていた。
まぁ、暇だったのは確かだろうが、実の所王女に付き合って居た数日間の間は追加で能力を定着させるのは中止していたらしいので、暇な時間を見つけて実行している所なのだろう。
私も詳しく聞いてはいないのだが、どうやら魔人という素体に特殊な手段で得た様々な能力を貼り付けることで特色を出すらしく、今の所は元々持っていたスキルだけを貼り付けてはあるとの事なのだが、手元にあるスキルを封じた魔法具から吸収したり、王女から得た《邪炎の結晶》を使いこなしたり出来るとの事。
スキルを封じた魔法具は希少なのでそれほど出回っては居ないのだが、彼は色々と入手しているらしく(非合法な経路から色々仕入れやがってたらしいからね!)、それらも後で吸収すると言っていた。
ただし、現在は使用しないように頼んでいる。
取りあえず、どんな魔法回路なのかを調べさせて欲しいからだ!
それぐらい待てるよね!! と言ったら、素直に頷いてくれた。
中々話がわかる奴だ!!!
寝ているなら出直そうかと思って部屋を出ようとすると、魔人が目を開いた。
どうやら、私の気配に気が付いて起きたらしい。
「これは失礼。お待ちしていました、絵里奈さん」
その魔人の口から出た言葉は、久しぶりに聞く生の日本語であった……。
◆ ◆ ◆
魔人改め、西崎 隼人という名前である、彼の話は私にとって驚愕の事実の連続だった……。
彼は私の前世を知る人物であり、それ故に私との面会を求めていたらしい。
しかも、ただ知るだけではなく、ある意味私の知らない所で深くかかわっていたとの事。
私自身とは接点のないまま……ね。
彼の仕事とは、私のクローンを監視、管理する事だったそうだ。
私的には、クローンとか……可能だったのか、そんな事が! という感じである。
話によると、一応完成したクローン技術自体は存在していたらしいのだが、倫理的な問題や実際の経年的劣化に関する安全性などを調べる段階だったとの事。
この件に関しては軍事的技術として発展していた為、正確な情報が表舞台に出ないうちに《襲来者》との戦いが始まり、幾つかの研究施設で戦闘用クローンの実験が行われていたらしく、その一つが私のクローンだったという話だ。
何故、私が選ばれたのか?
それは、年齢の関係なのかは不明なのだが、女性の中で私の《魔素の泉》に関するデータが他の娘達より安定していたためだとか(野郎二人は入手できなかったらしい)。
そこで、私達が受けていた定期健診の際に収集された私の細胞を使い、密かに培養実験が行われ、最終的には二人の《魔素の泉》を使いこなせるクローンが完成し、そして死んだとの事。
死因は《襲来者》との戦闘による戦死。
私の名前から命名された絵里と里奈の二人のうち、里奈とハヤトは恋仲になり……彼が居た建物を守る為に死んだそうだ。
絵里もその直後に《襲来者》と相打ちになり死亡。
そうして残されたハヤトも、数日後の《襲来者》の出現時に死んだらしい。
ただ、そこからの話は更に色々と謎が深まる話となっており、絵里と里奈が死んだ直後に私が生還したようなのだ。
正確には、生まれ変わったと言っていたらしい。
当時は理解できなかったらしいが、
「迷宮経由で今も移動できる」
との発言があったと、人づてに聞いたらしい。
ハヤトがこの世界に生まれ変わり、女神や邪神、勇者や魔王の存在に疑問を持った時にその言葉を思い出し、魔法や迷宮の事を学んで自力で世界を渡る努力をした結果が今現在という訳だ。
……あれ? 私の迷宮を知ってハヤトが迷宮を手に入れ、そのスキルを《簒奪の聖眼》にて得た私が居る訳で……。
いや! そもそも私より後で死んだハヤトが、既にジジイになっていた事自体がおかしいのか!!
ファンタジーかと思ってたら、ここにきてSFときたか!!!
……あ、ごめん。
そもそも、元の世界が異世界から《襲来者》に攻め込まれた時点でSFだったわ……。
まぁ、そんな現実逃避は置いておこう。
どうやら世界を渡る際には、色々と時間の流れがおかしい現象が存在する様だ。
それによる、タイムパラドックスとかがあるのかどうかも現在は不明である。
ハヤトには私が既に向こうへのルートを確保していないかどうかを尋ねられているが、残念ながら持っていない事を伝えると軽くガッカリとされた。
しかし、すぐに立ち直り、私も帰る方法を探している事を伝えると是非協力させて欲しいと言われた。
私としても好都合だし、実際に帰る手段がある事も確認できたので希望が出て来た。
因みに、別の全然違う世界に生まれ変わった私がもとの世界に戻ったのでは? という可能性は低いと考えている。
理由は、帰ってきた私が五人の同行者を連れてきたらしいのだが、普段は人の姿だが戦闘時に変化するとの情報があったからだ。
一人は身体の一部を、スライムの様に変化させる少女。
一人は牛男。
一人は蛇女。
一人は小鬼。
一人は邪鬼。
……そう、どう考えてもリーナと亜人部隊なのだ。
まぁ、もし私とハヤトがここで出会う事でその未来ではなくなってしまったとしても、元の世界に戻る手段さえあれば問題は無い。
そう考えると、希望が見えて来たよ!
ハヤトという、私とは別に動ける仲間が増えたのも大きい!!
これからに期待が持てそうです!!!
後書きを追加しておきます
今回名前の出た絵里と里奈に関しては、短編で書いた『ヴェルクザード オフライン RPG』における結末となっています。
短編以降の話はそのうちハヤトの話の中で多少は語られるとは思います。