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裏・代役勇者物語  作者: 幸田 昌利
第四章
128/138

118◆第三王女の王城への帰還とこれからの身の振り方について

 ルークの迷宮から王女と一緒に来た老魔術師じじいは、事前情報の通りに老魔術師じじいとは呼べない姿をしていた。


 以前見た老魔術師じじいの状態では、日本人そのままの容姿である私よりも色が白い人種に見えたのだが、現在は褐色の肌をした十台後半から二十代前半位の若者の姿をしており、一番の違いはその瞳の輝きだろう。

以前は淀んだ瞳をしていたのだが、今は希望に満ちた輝きをしているように見える。


 軽く王女や魔人じじいと挨拶をし、まずは王女を王城へ連れて行くことを優先すべきなので、その準備を始める事にした。


 まずは事前に作っておいた染髪剤を使用し、髪を私やルークと同じ黒に染める。

これは、一緒に行動する私達と同じ方が目立たず、金髪である王女の髪が真っ黒へと変わる事で一気に雰囲気が変わる事を意識した色の選択となっている。

この染髪剤は魔素を含む特別製のもので、普通に生活しているのならば滅多な事では剥がれ落ちる事が無い強力なものであり、効果期間は約一ヶ月もある。


 前世でよく見かけた、頭皮付近の伸びてきた部分が本来の色という残念な感じの染髪はマズいので、毛根付近の頭皮まで覆う上に伸縮性があるので髪が一~二cm伸びても覆い続け、材料に使用している薬草等の効果で髪はしっとりと滑らかに維持、小さな穴が無数に空いているので蒸れて痛む事も無い、恐ろしく薄い皮膜の様な構造をした逸品だ。


 実の所、これは元々あった変装用に使う極秘魔法具の作り方を参考にしている。

伸縮性があり、魔法物質を吸収して温度を一定に保つ特定の素材を主原料として作られる、顔や身体の表面に張り付ける様にして使う使い捨ての魔法具で、皮膚呼吸を阻害したり着ぐるみを着た様な蒸し暑さを緩和する為に細かな穴が無数に空いているという、中々頑張って作られた品だった。

製作された目的が諜報用だというのがアレだが、敵にバレない様に改良に改良を加えたお蔭でとても良い代物となっていた。


 当然私にこれを教えてくれたのは先生なのだが、師匠も加えた三人で魔改造を繰り返し、極薄なのに全身パックの様に張り付けたままで二週間は快適に過ごせる程の改良が行われ、この染髪剤はその一部であり、頭部専用に特化した素材で更に改良してある代物なのだ。

もっとも、あくまで私の魔素が前提なので、私かリーナが居ないと作れないんだけどね。


 因みに、髪自体に色を付ける訳ではなく、まずはコーティング剤で全体を覆い、そこに様々な色を付ける感じとなっている。この方が後で綺麗に除去できるし、様々な色に対応しやすいからだ。

着色料だけならば本来の魔法物質吸収型でも問題は無いので、私が居なくても作れるという利点もあるしね。


 この特殊な染髪剤を使用する事でイメージを一新し、腰まで伸びたストレートの髪を若干趣味に走った形に纏め上げる事でより一層雰囲気を変化させる。

細かい三つ編みを複数作り、それを更に絡み合わせて、後頭部からうなじに掛けて一つに纏め上げる感じの複雑な形とだけ言っておこう。




 ☆ ☆ ☆




 私としては早く魔人じじいと話をしたかったのだが、後でゆっくりと話す事にして私の迷宮で別れた。

ルークが一緒に行くかどうかを聞いた所、


「流石に私はいまだにお尋ね者だしね。姿は完全に変わっているのでバレない可能性もあるが、ここは安全策をとって辞退させて頂くよ」


との答えだったからだ。

私的にはどちらでも構わないので(王子には魔人じじいの事は問題にしないとの了承を得ている、誰にも言ってはいないが!)、私の迷宮内に魔人じじいの移動迷宮を呼び出して貰い、マスタールームへの直通許可を出しておく様に頼んでから別れた。


 その際に王女から、


「エ――――ッ! ハヤトも一緒に行こうよ!」


と、駄々っ子の様な発言もあったのだが、


「残念だけど、そういう訳にはいかないんだよ。ルーク達とは今後も連絡をとる事になるだろうから、少し落ち着いてから機会を作って貰えばまた会えるさ」


と言って断っていた。


 その後もしばらく駄々を捏ねていた王女だったが、魔人じじいが何とか説得して、私の別の迷宮へと去って行った。

移動した理由は、駄々を捏ねる王女に対して行き先や連絡方法を知られない為だ。

全く、困った王女様である。


 王城へのルートは仮のエルナリア邸経由なのだが、流石にルークとシェリーを会わせるのは時間的な問題で後にして貰った。

王女を待たせたままにして、後で難癖つけられても困るからだ。

王城に居る奴らはそれぞれの思惑で動いているので、何を言い出すか分からないしね。


 屋敷を出る前に近くにいたメイドに至急王城へ行かなくてはならない事を伝え、シェリーにそれを伝える様に頼んでおいた。


 私達の格好では馬車を用意しても目立つだけなのでそのまま王城へ向かったのだが、王女の身体能力は予想以上に高く、結構なスピードで歩くルークとさほど変わらない速度でも全く遅れを取らずに疲労も感じさせなかった。

元々の身体能力が高く、劣化魔人(仮称)になった事もあり、これならば今後もそこまで困らないのではないかと予想させる動きだった。


 王城のいつもの入口へ近づくと、そこにレックスが待っているのが見えた。


「おう! 無事に戻ってきたな、ルーク!!」


と、いつもの感じで挨拶してくる。

事前にリーナ経由で教えてあったので、ここで待っていたのであろう。


 レックスが居る為、王子の所へはいつもの兵士は同行しない様なのだが、それはそれでちょっと寂しい気がしないでもない……これが慣れというものか……。


 レックスに先導されていつもの応接間に移動を始めるとミルファがすぐに合流し、そのメンバーで奥へ向かっているのだが、ミルファは王女を時々観察する様に見ており、当の王女は大人しく優雅な動きながらも自分の記憶と現在の王城の違いを見つけては、興味深そうに観察している感じだった。


 もっとも、魔人じじいが一緒に来なかった事が気に入らないらしく、基本的には若干拗ねた顔をしたままなので、折角の美人が台無しな感が否定できない所ではあったのだが、まぁ……子供っぽい顔をしてくれているおかげで王女だとバレなくてちょうど良いとも言えた。


 いつもの応接間に着くと、中には王子と二人の女性が座っていた。

いつもなら壁際に数人のメイドや執事が待機しているのに、今回は全く居ない。

王女の姿自体を人に見せたくない為、いつもなら後で人払いをするのに今回は最初からという事なのだろう。


 女性二人のうち片方は、エルナリア邸の防衛に関する依頼をした時、話にならないと言いながら退場した女騎士の方だ。

もう一人は会った事のない人だな。


 王子の勧めで席に座り、お互いに簡単な自己紹介を行った。

一人は予想通りの人物で、もう一人は王女が所属していた魔導騎士団の上司らしい。


 二人とも王女の事は聞いているらしいので、私は早速変装用に施した髪の色や軽く見た目が変わる程度に施してあったメイクを落としていく。

当然だが、その間にルークは王子と話をして貰う。


「お疲れ様、ルーク君。メリルリアナの為に苦労をかけさせて申し訳なかったね。何にしても、無事に戻ってきてくれて一安心だよ」


「はい。ただ……王女様が無事と言える状況なのかは……その、何とも言えない状態なのです」


と言った会話が聞こえてくるが、基本私は口を出す気は無いので放置の方向で。


「ああ、大体はエル君から聞いて知っている。むしろ、あの状況からこうしてここに戻れる事自体が奇跡とも言える事なのだ。君が負い目を感じる必要は全くないよ」


といった王子の発言内容は、正直当然だと思えるのだが、残念ながらルークの表情には苦いものが混じったままだ。


 しかし、《狂信者》系の特殊情報を得てしまった場合、ほぼ確実にその対象に対して暴走してしまう為、王女は既に幽閉する以外は無いという所までいっていたらしいし、その事が分かっていた王女が対処される前に様々な魔法の品を持ちだして逃げだした訳なので……どう考えてもルークに非は無いとしか言いようがない。

むしろ、幾つかの問題は残っているものの、今回の結果は最良と言っても過言ではないだろう。


 もっとも、あくまで最良であって、問題が無い訳ではない。

その問題となる点の一つは王女が有名過ぎた事に関係しており、二人の女性が王子と一緒にいる理由でもある様だ。


 その二人の女性なのだが、私やルークに関しては全く気にせず、王女だけを見つめている。

もっとも、最初に王女を見た時には懐疑的な雰囲気が漂っていたのだが、今となっては落胆の色が濃厚だ。


 染めていた髪の色を落とされ、メイクも落とした王女が子供っぽい仕草で、プハッ――――! と息を吐き出したのを見た時の絶望感漂う表情は……流石の私もご愁傷様と言いたくなるほどのものだったし。


 同じくその様を見ていた王子の方はやや認識が異なるらしく、少し困った顔をして見ていたが、こちらはどうやら話しかける言葉について悩んでいる感じだ。

時々口が動くが、それを飲み込む感じで繰り返しているしね。


 それも王女の準備が整った段階で覚悟を決めたらしく、


「メリルリアナ、私の事が判るかい?」


と、優しく微笑みかけながら語りかけた。


 王女は少し戸惑いつつも、


「アレスクルトお兄様?」


と答えた。


 王女はルーク達と一緒に居た数日間の間に、何度も何度も鏡や水に映った自分の姿を何度も見ていたらしいので、十年の歳月を重ねた王子の姿もそれなりには想像できたのだろう。

実際の所、兄であったアレスクルトは六歳のメリルリアナよりも年上であった事から、当時の面影が色濃く残っている為に予想の範囲内だったとの事。


「ああ、私はアレスクルトだ。君の記憶より随分大人になってしまっていると思うがね」


という王子の同意に、王女は少し硬いがほほ笑みを浮かべた。


 その様子を見て、二人の女性は席を立ち、


「メリルリアナ様の事は理解できました。納得出来た訳ではありませんが……予定通りの処理をさせていただきます」


と言い、そのまま部屋を出て行った。


 それを見届けてから、部屋に残っている私達に向かって、いや……正確にはルークに向かって王子が頼み事をする。

王女をこのまま連れて行って欲しい、と。


 何故ルークに対してなのか?

答えは簡単だ。

私はその事を知っていた。

そして、了承もしている。


 そう、この件に関して、後はルーク次第なのだ。

まぁ、ルークが断りきれるとは思えないけどね!

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