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裏・代役勇者物語  作者: 幸田 昌利
第四章
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115◆料理人三と王子のお陰で一苦労だった、ある夜の話

 領主館を制圧した私がまずやる必要があったのは、野郎共の中に一人だけ居るはずの粛清対象外を探す事だった。

適当に移動迷宮のマスタールームへ放り込んだ野郎共の中から探す訳だが、明らかに対象と違う奴らはある程度わけてあるからそこまで手間はかからないはず、……だった。


 探す人物は、例の邪気判定結果に料理人三と記載されていた人物である。

糞領主の所で甘い汁を吸っていただけあり、ほとんどの男性使用人が邪気に微量ながらおかされていた。

逆に女性使用人は人買い同然の扱いで連れて来られた弱い立場だったため、領主やその家族の道具や玩具扱いだった事もあり、邪気判定では一応対象外とされていた。


 一応……の意味は、邪気の質による区分で、今回の対象から外された人物がそれなりに居るからだ。

邪気には大まかに二つあり、加害者による悪意と、被害者による怨嗟や苦しみ悲しみの念によるものらしく、前者は改心しない限り膨張し続け、後者は状況によって変わるらしい。


 後者の状況次第というのは、時間の経過で心の傷が癒えていく人も居れば、延々と憎しみを増幅させていく場合もあるため、双方で全く方向性が変わってしまうからだ。


 今回の場合はまずは私が放置して、領主の行方不明が発覚した後に各個に調べる方向となっている。

怨嗟による邪気を持つ人は王都で監視されながらの生活をする事になり、悪化しないと判断された者達はその後に開放されるとの事。


 さて、女性はそれでいいのだが、問題は当初簡単だと考えていた料理人三が、現在識別不明な状況に発展している点だ。

深夜の襲撃だった為、仕事着を着ていなかったり部屋に仕事着が無かった事がより一層面倒な状況になっていた。

明らかに兵士だったり、部屋に仕事着があった場合は簡単に見分けが付いたのだが、この世界では仕事着を複数支給されない事は多いらしく、そこそこの人数が洗濯等で部屋に仕事着が無かったのだ。


 正直悪人の命を奪う事に躊躇いは無いのだが、流石に邪気判定に引っかからなかった人間を面倒だからと殺す事はありえない。

明日にでも、王子と相談しながら考えるしかなさそうだ。


 問題はそれまでこいつらをどうしようかという点なのだが、ここに放置しても……問題は無いかな?

ただ、目を覚ました後に色々やらかす可能性があるので、後片付けが面倒になる可能性は高い。

そこで、今まで試してなかった昏倒状態から、もう一度昏倒させる事ができるかのテストも兼ねて少し試しておく事にした。

起きる予定の少し前位、あと四~五時間後に試せば良いだろう。

それまでは時間潰しでもしながら、亜人部隊に見張らせておくとしよう。




 ☆ ☆ ☆




 四時間と五時間経過した段階で《スティールMP》を大体半々で掛けた結果、本来起きる時間には誰も起きることが無かった。

何故半々で掛けなおしたのかと言えば、実験の為である。

元々の昏倒させた時間が、館内を捜索しながらなのでそれなりにずれているため、起きるのが単純に六時間の追加なのか、再昏倒してから六時間後なのかを確かめたかったからだ。

今回の件で思いついてしまったので、当然今やるしかない訳ですよ、折角の機会だし。


 二度目が効いた以上、更に継続して昏倒させる事も可能だとは思うのだが、何らかの副作用があると不味いので、その前に料理人三をどうにか探したい。

その為、翌日は朝早めに王城へ向かう予定で居た。

流石にまだ時間がある為、一時間程寝てから亜人部隊と交代して見張りを行いつつ時間を潰そう。

見張りと言うより、何らかの副作用でいきなり状況が悪化したりすると不味いからと言うのが正しいかな。

流石に、料理人三を殺したり廃人にするのは極力回避したいからだ。




 ☆ ☆ ☆




 リーナと共に一時間の睡眠を終え、亜人部隊と交代してマスタールームに入って色々と作り始めた。

《錬金術》や《付与魔法》、各種属性魔法の鍛錬には都合が良いし、大量に確保してある素材の消費にもなる。

売れば恐ろしい位の金にもなるし、レックス達だけでは無く、リリアーナ達の宮廷魔道部隊、地下幽閉施設関係者等とも結構な繋がりを持ってしまっている。

それらと共闘する機会も増えるだろうから、事前に役に立ちそうな物は大量に作って置いて損は無いだろう。


 そういった作業を手伝ってくれているリーナも、既に私と同程度と言える位に各スキルへの慣れをみせ、大半が違和感なく行使出来るようになっているとの事。

実際に、製作や戦闘時の無駄な動きや怪しい挙動は、ここの所ほとんど見られなくなっている。

正直な所、今ならルークとも互角に戦えるはずだ。


 そんな事を考えながら、黙々と二人で次から次へと製品を作り出してはりるのだが、流石に熟練度の上がりが厳しくなってきたのを実感し始めた。

理由は簡単で、師匠や先生の熟練度に追いつき追い越してしまっている為、《簒奪の聖眼》の成長速度短縮効果が効いていない事と、単純に素材の質が物足りなくなってきているからだ。

今なら40レベル以上、出来れば50レベルクラスの素材は欲しい所なのだが、生憎と実家近くの迷宮から得たゴーレム素材以外は三十中盤ばかりである。


 そのゴーレム素材でも40レベル前後である為、やはり王都にある迷宮の奥底まで進み、もっと高レベルな素材が確保出来ないかを確かめるしかないだろう。

普通の冒険者には無理だろうが、私達には移動迷宮とゲルボドの転移魔法がある。

十分に攻略していけるはずだ。




 ☆ ☆ ☆




 作業が簡単になりすぎて色々考えながらやってしまったが、王子の所へ訪問しても問題が無いであろう時間になった。

そこですぐに訪問したのだが、例によってアッサリと案内された。


 昨夜決行する事は決めてあった為、むしろ大分前から待っていたようで、挨拶もそこそこに結果を聞かれたのだが、


「作戦自体は成功しました。ただ、料理人三と記載されていた人物の判別に困難しており、その件で良い方法が無いかを相談に来ました」 


と言うと、


「ああ……すまない。それならばこれを渡そう」


と言って、例の聖職者達が作成した、料理人三が記載された紙(羊皮紙っぽい奴)を渡された。


「それを持ちながら《識別》を使えば、種族の後にそこに記載されている名称が追加で表示されるそうだ」


との事。

…………先に渡せよ! と、言いたい!!!


 若干ムラムラ……もとい、モヤモヤする感じはあったが、お陰で無事料理人三が見つかり、残りのメンバーは実家の横にある固定迷宮の中の、以前盗賊共を隔離してあった所へ放り込んだ。

ここを内部から開ける為には専用のアイテムが必要になるのだが、強制的に入れられている以上は中に持っている人間は居ない。

結果、完全に孤立したエリアとなり、出る事が不可能となっている。


 因みに、ここの専用アイテムは迷宮のマスター限定ドロップアイテム……即ち、入手手段は私を倒すことだ!

ルークですら開けることが出来ない、超安心仕様というわけです。


 ここならば誰にも見つからずに放置できるし、実の所……他の要因も大きい。

その要因とは、邪気の扱いについてだ。


 邪気が世界に放出される条件には幾つかあるのだが、その一番簡単な原因は死亡した時との事。

その際には無条件で世界に拡散される為、現在溜め込んでいる邪気が全て流れ出る事になる。


 しかし、ここがどこなのかと言えば、迷宮の中である。

迷宮は扉が世界の壁に小さな穴を開けているだけで、迷宮本体は世界の壁の外にある。

即ち、ここでこいつ等が死ぬ事で、邪気の拡散を抑える事が出来るのだ。

しかも、邪気も聖気も迷宮にとってはただの養分となるため、邪気に冒された迷宮とかにはならずに成長するらしい。

ぶっちゃけると、王都で見た過去の文献に研究資料と一緒にそう書いてあったので、それが事実だと信じておこうという訳だ。

まぁ、もし邪気に冒された迷宮とかになった場合、サックリ破棄して作り直すだけなんだけどね!


 ここから後は全て王子に任せる事になるが、私に残されている仕事は前回領主館に送り込んだメンバーを再度送り届けることだった。

王都へ戻る際に再度廃屋に移動迷宮を配置してあるので、時間帯が違うだけで完全に昨日の再現である。


 再び領主館に向かう表向きの理由は、昨日訪問したメンバーが街を離れるから挨拶をしに来たという事になる。

偶然今回の失踪事件が発覚……そういうシナリオな訳だ。


 流石に帰りまで迷宮経由だと往復の時間がおかしい為、馬車ゴーレム及び兵士に扮した護衛の人数分の馬型ゴーレムを貸す事になっている。

これらのゴーレムは最も新しいタイプで、レベルも30を軽く超える奴らだ。

それらに乗る人物達も30レベル前後の猛者達なので、もし魔物が出ても相手が可愛そうな位の火力となるだろう。

お陰で、安心して後の事は任せられるというものだ。


 これで大体は片付いたので、後はルークの回収と王女関係なのだが、なる様にしかならないので行き当たりばったりで良いかなと思っている。

まぁ、変装用の品位は作っておきましょうかね。

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