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裏・代役勇者物語  作者: 幸田 昌利
第四章
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113◆駄目領主の自慢話と邪気判定に関する私的ガッカリ話

 丁度昼過ぎ位に、ドール一号からの合図が来た。

地図を確認させながらの移動であったが、大雑把すぎる地図だった為少しだけ心配ではあったのだが何とかなったようだ。


 時間潰しも兼ねて行っていた肉の加工も、恐ろしい数の塩分調整生肉を作成できたので後はルークに頑張って貰おう。


 ドール一号達が居るのは、領主の館が何とか見える程度の距離にある大きな木の上だ。

《浸食共有》による視覚の同調で私自身でも確認したのだが、これがまた無駄に大きくて豪勢な屋敷だった。


 館を取り囲むように、三m以上ありそうな強固な壁が見る者を威圧するように構築されており、見事に手入れが行き届いた樹齢数百年はいきそうな大木が庭の中に数本そびえ立っている。


 領主館の門から伸びた入念に整備された道の先にある、少し離れた位置の街並みとは明らかな異質感を感じた。

エルナリアの領主館を圧倒する豪華な屋敷と、エルナリアの街を恐ろしく衰退させた感じのみすぼらしい街並みに関してだ。


 ここからではよく見えないのだが、街にも豪華な家が一部にはあるように見える事から、搾取する側に回った奴らは随分と羽振りが良いのだろう。

まぁ、それもここまでになるだろうから、これまで良い思いをした分、相応に苦しんで貰う様に手をうって貰おう。


 後はリーナが移動用扉を呼び出すだけなのだが、流石にこの位置では遠いし領主館までは足場も悪い。

もう少し近い位置まで移動してから呼び出す事にしよう。

因みに、私の移動迷宮とリーナの移動迷宮はヴァルツァー五爵の隠れ家にどちらも置いてあるのだが、その両方にドール二号と三号を迷宮関係の熟練度上げが終わる度に戻してある。

今回移動させると一度に使えるのは一つだけになるが、そこまで不便にはならないのでそれでいいとの許可は王子に取ってあるので問題は無いはずだ。




 ☆ ☆ ☆




 移動迷宮を呼び出す場所は、先程の居た位置から三分の二程距離を詰めた位置にあった廃屋の中にした。

元々は領主の関係者が使用していたらしい建物であったが、最低でも数年は使われていないらしく、屋根の一部が崩れて雨風を凌ぐのも困難な位荒れている。

埃が床一面に分厚く積り、ここしばらくは誰もここを訪れていない事を裏付けていた。


 場所さえ決まれば、即行動。

リーナに移動迷宮を呼び出して貰い、用事が終わったドール一号と四郎には移動を続けて貰う。

ここから先は、私達が迷宮経由で自由に行き来できるからだ。


 因みに、迷宮への出入りが見られたくないので廃屋の中に設置したのだが、基本的には遥か上空に移動させるので余程タイミング悪く人が来ない限りは見つかることは無いだろう。


 さて、準備は整ったし、王城へ行くとしましょうかね。




 ☆ ☆ ☆




 王城へ行くと、流石にここの所毎日王子の所へ通っている私の顔は覚えられていたらしく、すぐに案内役の衛兵が目的の部屋まで先導してくれた。

正直、いつもの部屋なので案内は居なくても問題は無いのだが、規則として訪問者を放置はできないのであろう、ご苦労な事にいつもの様に案内をしてくれる。


 部屋に入ると、王子の他にいかにも聖職者といった感じの服を着た女性が二人程座っていた。

この人達が、例の邪気判定を行う人達なのだろう。


 その表情はにこやかにほほ笑み、いかにも聖職者といった雰囲気を醸し出しているが、お互いの動きを気にしながら牽制している感じがする。

先日王子が言っていた、ライバル同士でお互いを云々というのは確かな様だ。


 正直この二人に興味は無いので、簡単に挨拶だけして王子に準備が完了した事を伝えた。


「それでは、早速だが行動を開始しよう。何か質問や意見がある者は?」


という王子の問いには特に反応は無く、すぐに移動を開始する事になった。


 今回使用する移動経路は、王都にあるエルナリア邸(仮)からスタートしてリーナの移動迷宮まで行くルートになるのだが、流石にエルナリア邸(仮)の室内にあるマスター用扉の外へ馬車ゴーレムを出すのは厳しいので、扉が設置してある隣の部屋から目隠しをして貰いながら馬車ゴーレムへ誘導し、そこからはゴーレムによる移動をして貰った。


 リーナの移動迷宮から出てもそのままゴーレムで移動し、どうせ邪気判定には堂々と領主への面会を求める事になる為、そのまま過去に廃屋まで続いている道だった形跡を進んでいった。


 領主館に着くと同行していた例の地下幽閉施設の精鋭達が扮する王国兵士が領主へ面会を求めたのだが、金に汚い領主への手土産にと用意した品を受け取らせ、喜んで受け入れて貰った様だ。

因みに、渡した品は私が錬金術を使って製作した指輪やネックレス等だ。

ゴーレムから得た金や銀が大量にあるので、それを使用して作り出した物だが、価値自体は恐ろしく高いらしい。

賄賂だと思って、喜んで面会に応じるのも頷ける一品達であった。


 私は聖職者達の世話役を装って同行していたのだが、流石に領が貧困で苦しみぬくまで搾り取っただけあり、趣味は悪いが金額だけは高そうな調度品で溢れていた。


 応接室へ通された後、下らない領主の自慢話を延々と聞かされてウンザリしてきた頃、一人目の聖職者が御不浄ごふじょうへと言って席を立った。

案内役のメイドが一人トイレへ案内してくれたのだが、私は世話役として自然な振る舞いを心がけながらついていった。


 大きく悪趣味なトイレの入り口でメイドが待機するようなので、私は聖職者と一緒にトイレに入った。

中は更に別れて個室が四つ程並んでおり、


「では、邪気判定のスキルを使用します」


そう言って、聖職者は個室へ入ってから女神に祈りを捧げる句の様な物を小さく口にしていたようだが、敵対行為を感知する魔法具等が無いとは限らない為、私は音を漏れなくする魔法を使う事は避け、メイドがこちらの様子を監視していないかの確認するだけに留めておいた。


 邪気判定は使用者の実力にもよるが結構広い範囲を感知できるらしく、引っかかった反応はしばらく感じ取れる状態のままになるらしい。

領主館の外からでも上手くいけば感知出来る位に範囲は広いらしいのだが、個人を特定するには結局直接見る必要がある為に面会する必要があったという訳だ。


 メイドが魔法具やスキルを使用しないかをギリギリ見える位置でさり気なく確認し続けて居ると、


「先ほど居た部屋辺りでそれなりに大きな邪気反応がありました。後は戻って本人を視認すれば完璧です」


トイレの個室から出てきた聖職者にそう言われたので、メイドと共に応接間へ戻った。


 戻ってすぐにもう一人の聖職者もトイレへ行ったのだが、場所がわかっていても案内のメイドは付いて来ていた。

まぁ、素性のわからない人物を野放しにするほど、ここの領主も間抜けではないのだろう。


 二人目の邪気判定が発動して目的は達成したのだが、ここで一つ判明した事があった。

この邪気判定なのだが、一応スキルではあるものの、女神からの洗礼を受けた者にしか使えない特殊スキルだったらしい。

《簒奪の聖眼》で習得出来なかったのが惜しい。

この便利スキルがあれば、今後何かと役に立つ可能性もあったのに。


 その後も、ウンザリする程の自慢話を聞く事になったが、あくまでも失礼のない対応で流し、また機会があればいつでも寄って欲しいとの言葉すら貰っていた。

この後で奴に降りかかる惨劇を考えると、ここで不審者扱いされるのは不味い。

穏便に済ませる事はとても重要な事なのだ。


 馬車ゴーレムに乗り込み、直接廃屋に戻るのは避けて、適当に街を見て回ってから移動迷宮へと戻る事にしたのだが、街が予想通りの酷さでゲンナリしただけであった。


 廃屋へ戻る最中に再び聖職者達に目隠しをして貰い、来た時と逆の手順で王城へ戻った。

二人の聖職者は女神の加護が付与されたという紙(羊皮紙っぽい見た目)に女神スキル(本来はそんな言い方はしないらしいが、面倒なのでそうまとめて呼ぶ事にした)を使用すると文字が浮かび上がり、結果は黒……邪気がバリバリ検出されたとの事。


 このスキルは使用者が使った邪気判定結果ををそのまま記載してくれるらしく、領主館で姿を確認した使用人も記載されている様だが、名前までは判らないらしくて使用人四とかメイド三となっていて個人の特定は無理なようだ。

精々人数確認と重症度の分布状況が判る程度かな。


 因みに、こんな便利な物があるならば二人居なくても誤魔化せないのでは? と思うかもしれないが、一つだけだと犯罪臭のする虚偽系スキルで改変される可能性がゼロではないらしい。

私なら《簒奪の聖眼》の使用スキル欄に出るのでスキルの使用が即判るが、通常は高価で希少な魔法具を用意する必要があるとの事。

王城にもその魔法具はあったらしいのだが、現在は絶賛第三王女が持出し中。

本当に面倒な事をしてくれたものだ……。


 二枚の紙を見比べる様に確認した王子が、全員に見える様にテーブルの上に置き、


「両者の判定に食い違いは見られず、その双方共に邪気判定:中の下を示している。これにより、勇者様が魔王を討伐する為の邪魔をする存在とみなし、王家の名において正式に排除を行う事を命じる」


と、宣言した!


 それでは、今晩にでも百鬼夜行(注:亜人部隊四体+ドール一体しかいない!)の始まりと行きましょうかね。

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