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裏・代役勇者物語  作者: 幸田 昌利
第四章
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112◆ルークとからの相談と、それに関する王子との相談4

 エルナリア邸と王都にあるエルナリア邸(仮)の家具入れ替えをほぼ終えてからリーナの所へ向かったのだが、先程と違って何かの処理を行っている様だった。


「あら、リーナ。何を作ってるの?」


と聞くと、


「……おにいちゃんが、乾燥させるお肉が欲しいって言ってたの。お腹が空いてる人が一杯いるからだって。だからお手伝い。……駄目だった?」


そう言いながら、心配そうな顔でこちらの様子を窺うリーナが愛らしい。


「大丈夫よ。ドール関係はそこまで急ぐ必要も無いから、先にやる必要がある事が出来たらそれを優先して構わないわ」


そう告げると、安心したように頬を緩ませながらニッコリとほほ笑んだリーナが、歳相応の子供の様でとても可愛かった。

……う~む、完全に親馬鹿というか馬鹿親化してきてる自覚がある!

だが後悔は無い!!

だって可愛いんだもの!!!


 それにしても、向こうだけで処理が追いつかない程の食糧不足とか、どんだけ酷い状況なのかと言いたいのだが……まぁ、必要だと言うならば実際にそうなのだろう。

領主を片付けたら早急に国として対応して貰える様、しっかりと王子にも伝えておく必要があるな。


 因みに、リーナが行っているのは肉を乾燥させる前処理だったのだが、魔物の皮や骨などを素早く剥ぎ取り、肉だけにした物の水分と塩水を置換する作業の様だ。

この肉を用意しておけば、ルークの方で乾燥させるだけなので楽になるとの事。

しかも、リーナが行っているのは《錬金術》による純粋な水分と塩水の置換なので、ルークの《錬金術》の熟練度では厳しい上、MPも足りなくなるのは間違いない。

リーナに頼むのも当然と言えた。


 何故私ではなくリーナに頼んだのかが最初謎だったのだが、よく考えたら私はルークの所へ移動中という事になっている為の様だ。

ドールに関しても教えていないので、そのまま勘違いさせてある。

ある程度の数を揃えてからのお披露目の方が面白いという理由で、今はまだ教えない方向なので訂正する気が無いからだ。


 私の方はこの後予定もない事だし、リーナが黙々と続けている作業を手伝う事にしたのだが、使用している塩水がなんとなく気になった。

使用する前に不純物を《錬金術》で取り除いて使用していたからだ。


「リーナ、この塩水はどこから調達しているの?」


と聞くと、


「……おにいちゃんが樽みたいな物に入れて《アイテム》に入れてくれてるの。え~と、リーナがカオススライムの時に居た迷宮の、タコさんが住んでた池って言ってた」


との事。

ああ、あそこの水か……。


 老魔術師じじいが同行しているのだから、確かにあそこから採取して使うのは問題なく出来るのであろう。

というか、私も迷宮内に塩水を含む池を作成出来ないか試してみよう、塩を採るのに便利そうだしね。


 その後はルークが仕留めて《アイテム》内に保管してあった魔物の肉を加工し、足りなくなってきたら亜人部隊に収集させる方向に切り替えて作りまくって行った。

その際に《アイテム》を使用する為のドール二号を亜人部隊に同行させたが、敢えて戦闘には参加させずにいる。

迷宮系スキル習得の関係で、余計なスキルを使用させたくなかったからだ。


 相当量の処理済み肉が出来上がった段階で、試しにコンロの魔法具を出して乾燥作業までやってみたのだが、保存が効く様に乾燥作業を入念に行うと硬すぎて噛めない程の強度になってしまった。


「……これ、食べられるの……?」


と、なんとなくつぶやくと、


「……おにいちゃんは、草と一緒に煮込むって言ってた。柔らかくなるんだって」


との答えが。


 詳しく聞いてみたところ、オグリス草という雑草がルークの今居る場所ではそこら辺に生えているらしいのだが、この草を煮込むとトロミのある液体ができあがるらしい。

これ自体にはほとんど栄養は無いらしいので空腹を紛らわせるために飲む人がいる程度なのだが、これの副効果として恐ろしく硬い食品でも柔らかくする事が出来るらしいのだ。


 リーナに説明する為にルークが少しだけ《アイテム》に入れておいたらしいので、試しに乾燥させた肉をナイフで削って細かくし、適当な水にオグリス草をぶち込んで一緒に煮込んでみた。

結果、これは面白い食材だった!


 実験としてただの水で煮込んだ物も作ってみたのだが、その差は歴然だ。

お湯でふやけた乾燥肉は食べられなくはないが美味しくは無く、食感も微妙すぎる。

それに対してオグリス草を入れた方は、肉の大きさは乾燥前の二~三倍にもなり、水だけの場合は塩気がきつ過ぎたのに対して、こちらは程良い塩分を含んだトロミのある汁が噛んだ時に若干滲みだす程度。

全然ベチャベチャとした感じはしないで、良い感じにまとまってすらいる。

どうやら、トロミ成分が肉と触れた部分で適度に硬くなりつつも奥まで浸透し、膨張した感じだが十分な硬さも保っているらしい。


 腹持ちも良く、生きていくために必要な塩分も補充でき、弱った胃でも食べられるであろう柔らかさ。

確かにこれは良い調理法といえるだろう。

今後、飲み込みに問題がある人に対して、これは有効かもしれない。

この草の成分を《錬金術》で再現できればそれで良し、出来なかった場合には雑草の様に生えているらしいから、ドールの迷宮でも群生地へ配置して定期的に採取すればいいかな。




 ☆ ☆ ☆




 翌日、まずは王子の所へ行くと軽い挨拶の後で、


「こちらの準備は整ったよ。女神神殿から判定役を二人。これは、虚偽の結果が報告されないようにする配慮となっており、慣例的に実力が拮抗する者同士で任務にあたることになっている。ハッキリ言えば、ライバル視している相手を同じ任務に充て、お互いを見張らせるという目的になっている。女神神殿の聖職者とはいえ、内部では大きな組織特有の結構ドロドロとした話もあるという事だね」


という報告があった。


 まぁ、聖職者云々を信じていない私にとってはどうでも良い話ではあったのだが、やはりそんなものかというガッカリ感は多少なりとはあった。


 それに加え、地下の幽閉施設関係者でヴァルツァー五爵襲撃に同行していたメンバーが同行するとの事なのだが、この面子に自走式のゴーレムを誘導して貰い、神殿関係者には迷宮の事を見せないで終わらせる予定との事。


 こちらの準備的には、昼過ぎ位にドール一号が目的の領主の屋敷に着く予定なのでその事を伝えたのだが、準備が出来次第決行したいらしく、昼までには全員揃う様にさせるとの事だった。

こちらとしては特にこれと言ってやる事は無いので一応ドール一号の様子を確認したのだが、問題なく進んでいる様なので、こちらの準備が出来次第連絡すると伝えて退室した。


 そして、王女の件もあるのでそろそろルークへ一度連絡を入れておかなくてはならない為、現在の状況を《通話》で話しておく事にする。

因みに王女の件をすぐに連絡しなかったのは、領主の件がある程度まとまってから連絡したかったからだ。

先程の話で、まず間違いなく潰せると思われる算段はついたので、ぬか喜びにならないで済む情報を与える事が出来るだろう。


 ルークに《通話》すると、延々と魔物の肉を乾燥させる作業を続けているとの事。

噂が広まって周辺の村からも次々と人が集まっているらしく、移動しないで同じ村で作り続けて居るらしい。

まぁ、出来る範囲で頑張れ、超頑張れ。


 その頑張っているルークに伝える内容として、まずは王女に魔物の肉がOKという事なのだが、


『むしろ、出来る限り与えて欲しいみたいよ。《炎の欠片》が無くなった代わりとして都合が良いみたい。記憶が無い以上は元の所属部署には戻せないらしいけど、療養という名目でしばらく隔離して再教育した後で、表舞台に戻る為にはそういった能力が必要になる可能性が高いかららしいわ。まぁ、【炎の王女】として有名らしいから、今更引っこめる訳にいかないんでしょうね』


と伝え、王子からOKが出た後、片手間で作った魔法物質を多量に含んだ錠剤も《アイテム》経由で渡しておく。

そして、


『物としては、単純に植物系の魔物由来の甘味料に極々微量の魔素を流してから固めた物よ。子供でも美味しく食べられるはずだから、精神年齢が低くなった王女でも好き嫌いを言わずに食べられるはず。ただ、必ず歯磨きは忘れずに!』


との補足説明も一応つけておいた。


 そしてある意味本題であるルークが居る領の件なのだが、王子も知って居た事と、人材不足&法の抜け道がある事を簡単に伝えた。


 ただ、今回の件では王子に良案があるらしいと伝え、


『邪気に侵された領主に対して、勇者様への支援の為に邪気の測定に引っかかった領主に断罪を行うって名目で動いてくれるらしいわ。まぁ、同じ様な立場の領主達による暴走を防ぐために表立って大々的には動けないかもしれないらしいけど、大義名分を持った正規の活動らしいから結構期待できるかもしれないわ』


と、それらしく言っておく。

私が関与するとは言っていないが、関与しないとも言ってないので嘘はついては居ない……!

うん!!

若干騙している気はするが、悪い事ではないので気にしない方向で!!!


それ以上の詳しい内容は秘密事項になるが、この件に関しては領主が間違いなく十分断罪できる量の邪気を持っているので、早速対処を始めるらしいと伝えた。


 ルークとしても取り敢えずはそれで納得してくれたため、折角なので研究目的に使用する分のオグリス草の回収を頼んでおいた。

足りなくなったら面倒なので少し多めに頼んだのだが、そこら辺に生えているらしいから村人に頼めばすぐに集まるだろう。


 そんな感じで必要な事は伝え、最後に到着はもう少しかかるとだけ伝えて《通話》を切った。

こうしてドール一号が目的地に着くまで、再びリーナと一緒に魔物の肉との戦いを始めるのであった。

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