12◆魔法と魔素での実験(反省はしているが後悔はしていない)
ルークは丸一日を実家で過ごしたが、その後はすぐにこちらへ戻るようだ。
往復で六日かかるのであんまりゆっくりも出来ないのだろうが、もう少し居ても良いのではないかとも思うのだが。
特に妹のルナが寂しがって居ないかが気になったが、私とルークが居なくなって一人になってしまったすぐ後に、村の反対側に最近移り住んできた少年と仲良くなったらしい。
ルナは私の採取作業を見たり手伝ったりしていたので、幼いが意外と上手にこなす。
移り住んだばかりで全然生活に余裕の無い少年は、少しでも食べられる物が無いかと探している最中にルナと会ったらしい。
そして毎日、昔の私とルークの様に食べられる物を探したり、ゼンさんに引き取って貰える収穫物を探して処理しており、忙しい毎日なので僕は必要無さそうだ、との事。
ちょっと寂しそうだが、私達が家を出たのが原因なので因果応報だ。
気持ちは理解できるが……我慢しなさい。
……次回、私が帰る時にはその覚悟で向かおう……そう心に刻んだ……。
☆ ☆ ☆
ルークは帰り道で、魔法の練習もしたいと言って色々聞いてきた。
ここで重要な情報を一つ提供。
闇魔法は人間には使えないと聞いてオフにしていたのだが、師匠に詳しく聞いた所、闇魔法が人間に使えない理由は覚えられる条件が悲壮すぎる為なので、使えない訳ではないとの事。
覚える為には、心が闇に染まる程の狂気や絶望の深淵を覗いた末に、正気を取り戻す必要があるらしい。
大抵は狂ったまま終わる為、闇魔法を使用するまともな人間はほぼ存在しない。
逆に使用できる場合は暗黒戦士や暗黒騎士と呼ばれる強力な魔法戦士として名を残す事が多いと言っていた。
これで安心して闇魔法も使えるようになったので、ルークも使ってみるようだ。
MPはきついが変換魔法も使ってみると言っていた。
広げられるなら幅は広げておいた方が良いので、取り敢えずは何でも使ってみて決めた方が良いとは言っておいた。
☆ ☆ ☆
レイクは最初に工房に顔をだしてから五日間、毎日やってきていた。
折角なので毎回採取に付き合わせて、帰ってから練習をする事にしている。
そこそこ魔物も出てきたが、流石に危険と言う言葉が全く無縁の戦闘能力だった。
暗くなる前に街へ戻り、師匠の工房の前で少し立ち話をしている。
「明日からは少し神殿の方達との長時間に渡る訓練を行う期間に入るんだ。なのでしばらくは来れ無い事になると思う」
「OK。それじゃここ数日に貯め込んだ素材を使って、頑張って調合していくわ」
「頑張って。それじゃそろそろ時間なのでお暇させて貰うよ」
「じゃあね、レイク。今日も有難う」
「いやいや、別に構わないさ。また暇を見つけて来させて貰うけど構わないよね?」
「構わないわ。それに、必要があればまたこき使ってあげる」
そう言ってレイク別れ、しばらく見送っているとルークが現れた。
「お帰り、ルーク」
「ただいま姉さん。今の人は?」
そう聞いて来たので、若干意地悪そうに見えるであろう微笑みを向けて、
「名前はレイク、私達と同じ歳よ。後はまだ秘密ね」
そう言っておいた。
流石に勇者云々は伝えない方が良いだろう。
ルークの言動を見ている限り悪印象は持っていないようだが、教えたらいずれ紹介せざるを得なくなる。
その場合、ルークの事をレイクに説明するのが面倒くさい。
ここは敢えてバレるまで放置の方向でいく。
うん、そしうしよう。
☆ ☆ ☆
ルークはパーティーに入れて貰って順調に成長しているみたいだ。
収入もそれに応じてそれなりに稼ぎ、私も練習がてら作っている物が地味にいい稼ぎになっている。
私が自作で作った品が十分に売り物になるとの師匠のお墨付きから、商店に並べて貰える事になったので有り難く売らせて貰っている結果だ。
もうすぐ冬になるので、そろそろ本格的な修行期間が始まる。
それまでは採取と調合練習を時間の限り繰り返して、熟練度と蓄えを増やす方向で行こう。
因みに、レイクは毎日ではないがちょくちょく顔を出すので採取には付き合って貰っている。
もう私自身が十分に戦闘が出来るスキルではあるのだが、まだまだ低い《危険感知》スキルに頼ってもリスクはある。
やはり護衛は居たほうが良いし、レイク自身も私と一緒に採取に行くのは嫌々という訳では無さそうなので問題は無いだろう。
そう言えば一つ試したい事があるので今日の夜にでもやるかと、ふと思いついた。
丁度ルークは仲間と一緒に泊り掛けの仕事で居ない。
基本的に私はルークに自分の能力は見せない。
それは何故か?
ルークの驚く顔を見るのが楽しいからです。
ルークは素直なのですぐに顔に出る。
今回の件も上手くいけば驚く顔が見られるだろう。
実に楽しみである。
☆ ☆ ☆
レイクは帰り、多少合成をした後に私は裏庭に出た。
師匠が明日必要になる素材の下準備とやらで工房で作業をしているが、私は自分の練習をしていても構わないと言われているので素直にそうさせてもらっている。
今日試したい事は、つい昨日使用可能になった魔法、火水風土の四属性が各熟練度12になると覚える魔法である《~ブースト》と言う物だ。
まだ全属性は覚えていないが、火と土が使用可能になった。
これら魔法は、力を強化する火魔法《ファイアブースト》、敏捷度を強化する風魔法《ウィンドブースト》、身体強度を強化する土魔法《アースブースト》、魔法威力と冷静かつ的確な判断力を強化する《ウォーターブースト》、それらを全て同時に発動するのが《フルブースト》だ。
因みに《フルブースト》は多属性同時魔法である為変換魔法になるのだが、自己を錬金釜と見なして発動する特殊な発動形式である。
しかし使う人がまず居ない為、正直どうでもいい話となっている。
理由はMPが丸々四魔法分かかるくせに、効果は周囲の魔法物質の消耗に依存する為に四分の一となる。
覚える条件がきついのに、極短時間で決着がつくような戦いでしか役に立たない魔法なので当然そういった扱いになるのは必然である。
まずは普通に《ファイアブースト》を使ってみる。
《ステータス》を確認するが変化は無い。
残念ながら内部での上昇だけで、外部に見える形での表記はないようだ。
もしかしたらステータスチェック系のスキルでなら確認できるのかもしれないが、現状は無理……と。
効果時間は約三分。
適当に重い物を持ったり振ったりしてみたが、確かにそこそこ楽になった感じはある。
問題は魔法効果が一律なのかステータスの割合なのかと言う点が知りたいのだが、すぐには結論は出せないようだ。
さて、本番と行こう。
私の目的は、この魔法に魔素を供給する事によって威力や効果時間に変化があるのかの確認だ。
まずは《ファイアブースト》を再度使う。
肉体に火属性の魔法物質が拡散して存在するのが感じられる。
不思議なのは埋め尽くす程の魔素が存在するはずなのに、お互いは干渉しない。
まずは試しに右腕の部分にある魔素を全体の流れから切り離してから、《ファイアブースト》に融合するイメージを持つ。
この瞬間、右腕が燃えるように熱くなった。
右手で置いてあった杖に触れた瞬間、腕が文字通りの意味で燃え上がる。
かなりの熱さを感じた。
人事のようにそれを見ていた私の後ろから声が聞こえる。
「エル、魔法を止めなさい!!」
振り向くと工房から駆けてくる師匠が見えた。
意識して魔法を中断すると、燃えていた腕も一瞬で鎮火する。
あれだけの炎だったとは思えない程度の火傷ではあったが、それでも良くて水ぶくれ、悪い所ではケロイド状になっている。
「エル……大丈夫?」
「はい……大丈夫です」
私は腕の状態と自分の認識の違いに戸惑っていた。
確かに熱い感じはした。
しかし、これほどの火傷を負う程の熱さは感じなかった。
その違和感が戸惑いの原因となっていた。
「訳は後で聞くわ。とりあえず手当てをするから腕を出して」
師匠はそう言って《ハイリジェネレート》の魔法を使ってくれた。
私ではまだ使うことが出来ない光と水の複合魔法だ。
火傷がどんどん治っていく。
その様子に師匠は怪訝な様子を見せたが、特に何も言わなかった。
正直な所とても助かった。
ルークに見られたらなんと言われる事か。
ルークには散々無理をするなといい続けているのに、自分では結構無茶や無謀な事を平気でする。
自覚はしているが、正直止める気は無い。
今はまだ、それ程危険な事も無いし、私が戦えなかった為にそんな機会は無かったが、ルークを守る為なら私は自分の命すらも賭ける事を躊躇わないだろう。
私の馬鹿は死んでも治らなかった。
勝手に死なれて、後に残された人の気持ちを考えろと言われるかも知れないが、残念ながら私はこの考えを変える事は出来ない。
例え自分が死のうとも、愛する家族や仲間の為なら命に代えてでも守る。
それが私の生き方なのだから。
当然ながら私はこの後ガッツリと怒られた。
それはもう泣きたくなる程に!
自業自得なので何も言えません……。