108◆事件は終わる、しかし今後の面倒事は増えそうな予感……
手錠と鎖を組み合わせた拘束具同士で繋がれた雑魚達と、更に手足全てに鉄球状の重りをつけたヴァルツァー五爵は、本来は内部を守る為に作った《アースシールド》の魔法具(小屋用に作ったサイズが大きなもの)を使って簡易的な牢獄代わりにしている。
そこまで強度は無いので攻撃力さえあれば壊れる代物なのだが、壊れてもすぐに私の魔素で再生するので通過出来るほどの破壊となると相当な難易度になる。
事実、老魔術師程の実力者からシェリーを守り切った実績があるものと仕組みは変わらず、大きくなった分で強度は低下しているが再生速度は変わらない。
現在の武器も無い状態では、こいつらがどんなに頑張っても脱出は不可能だ。
念の為に私は捕虜達の監視をし、屋内の罠が発見できる地下幽閉施設の部隊員一人に対してレックス達の部下を数人つける事で分担して隠れ家を隈なく調べている。
隠れている敵がいる可能性もあるし、この場所を使う状況を考えて資金もそれなりに隠してあるかもしれないからだ。
私は油断せずに捕虜達を監視しているが、雑魚は完全に諦めていて死んだような眼をしているので、余程演技が上手い奴が混ざっていなければ行動を起こす奴は出ないであろう。
ヴァルツァー五爵だけはまだ死んだ目をしてはいなかったのだが、念入りに装備を奪い取った後でタオル一枚腰に巻いている状態で昏倒している。
原因は勿論私である。
その理由として、この筋肉男に関しては、まず身体検査が必須であった。
体の内部に、色々と埋め込んである可能性が否定できないからだ。
その点を調べるのに、私が最近身に付けた技術で確認したのだが、その技術とは簡単に言えば魔素の流れを感じる方法だった。
魔送石が量産できるようになってからルーク達に微弱な魔素を魔送石経由で送っている私には、他人の人体に流れる魔素の流れも感じ取れるようになっていた。
これを利用し、魔送石を対象に装着させて微弱な魔素を流す事で、相手の魔素の流れが判るのだ。
魔法具は基本的に魔法物質を含む為、微弱な魔素だと流れを阻害されたり、逆に吸収されたりする。
即ち、流れに乱れが生じる事になる。
魔送石を仕込んだ魔法具経由でなくては人体内部へスムーズに流す事が出来ない為、戦闘中には使えないのが難点と言えば難点ではあるが、捕虜とした相手には十分有効な手段だと言えるだろう。
結果、魔法物質が吸収される為に送り込む量は意外と多くなっていたのが予想外ではあったが、右の肩辺りに一つだけ魔法具が埋め込まれていた。
この魔法具が魔法物質を吸収して迷彩能力を発揮する物だったため、未だに魔法は効かない様だ。
《スティールMP》で昏倒させる事も出来ないので、そのままナイフで切り開かれた後に抉り出されている……拷問とかする趣味は無いので、当然私はパスしておいた!
情報を引き出す前に死なれても困るためしっかり回復はしておいたが、面倒なので同時に昏倒もさせておいたという訳だ
残りの雑魚だけでどうこうする事は無いと思うのだが、万が一何かしらの行動を起こされた場合の事を考えて、私が見張り役となっている。
まぁ、一郎達もここに居るので、余程の事が無い限りは私の出番は無いかな。
☆ ☆ ☆
翌朝、リーナがトコトコと駆けながら私に近寄り、ポフンッという感じで抱きついてきた。
「お疲れ様、リーナ」
頭を撫でながらそう声をかけると、嬉しそうな顔をしながらもう一度抱きしめてくる。
最初の頃から比べたら、随分と表情が豊かになって来た様だ。
リーナがここに来たのは、向こうの捜索も一段落付き、そろそろ必要な人員以外は撤収する事にしたからだ。
こちらも隠れ家の中はほぼ調べつくしたので、今すぐにどうこうする必要は無いので一時撤収してしまっても問題は無いとの事。
そんな訳で、念の為に隠れ家のある洞窟の入り口と隠し通路を《アースウォール》で封鎖し、魔送石をセットして効果時間を無制限にする事で隔離しておいた。
後は移動迷宮を他で使っても再度戻って来れる為の手段として、ドール三号を起動させる事にした。
素体自体は更に数体作ってあり、リーナが身体の一部を移植する事でドール部隊を作り出す事も可能なのだが、リーナの《共有浸食》に数の制限や許容量がある可能性も否定できないので慎重に一体づつ増やしていく事にしている。
ドール三号の起動を行っても、リーナには問題が無いようだった。
感覚的にはまだまだ余裕がありそうな感じっぽい。
それを確認して、まずは捕虜達を私の移動迷宮のマスタールームへ移動させる。
ぶっちゃけるとすぐにここで監禁した方が楽だったのだが、移動は朝になってからの予定だったので、なんとなく彼らに汚されるのが嫌だったからだ。
そんな訳でこの段階で移動させたのだが、入り口はマスターが認めた認証式の扉であるため既に通れず、迷宮側からは武器もない状態で七層全て攻略しなくてはならない。
逃げる事は、自殺行為としか言えない状態な訳だ。
多少逃げ出して魔物の餌になっても問題は無いのだが、確認の面倒が増えるだけなので私とレックスだけで王城の地下施設近くまで行ってから迷宮を呼び出す事に決め、残りの面子で監視して貰う事にした。
レックスに入城の手続きは全て任せ地下幽閉施設へと行き、捕虜を全員移動させて引き渡した。
これで完全に私の仕事は完了だ。
後は情報を引き出すプロ達に任せておけば良いだろう。
残った私の役目としてはお偉いさん達への報告となる訳だが、流石にまだ朝も早いので少し待って欲しいとの事。
用意されたゲストルームで待つように言われたので、少しのんびりさせて貰いましょうかね。
☆ ☆ ☆
二時間程経って部屋がノックされるまで、実に暇だった!
寝る必要も無い為、結局は《アイテム》から素材を取り出して《錬金術》によるアイテム製作にほとんどを費やしていた事を考えると、結局はのんびりして居なかったという結果に。
まぁ、気にしないでおこう。
私やルークが王城へ来るとよく案内される応接室へ行くと、出発前の話し合いに居た面子に加え、王様まで居た事にはちょっと驚いた。
所詮は北の辺境にある五爵や六爵レベルでの揉め事に、まさか国王自らが出てくるとは……と思ったのだが、よく考えたら筋肉男は裏社会の四天王とか自称していたっけ。
それが事実だとすれば、確かに大事ではあるかな。
簡単な挨拶が終わった後は、私に同行した幽閉施設所属の小隊長さんが報告をし、彼が理解できなかったり私しか知らない事実があった場合にだけ補完する形で発言しながら進んだ。
色々バラしてしまったが、レイクの奴が余計な事を王子に吹き込んでいた為に今さら勇者関係の事を隠しても仕方がないので、外部には出来るだけ漏らさない様にという約束をしたので問題は無いだろう。
王家や王城関係者からの依頼等は増えそうな気はするが、そこで実績と信頼を得る事で有利に働く事もあるはずだ。
特に、ドラゴンを倒して【竜殺し】となる事を目指している私達としては、万一ドラゴンが見つからなかった場合に他の条件を提示して貰える可能性を育てておいて損は無い。
そういう意味では、これで良かったのかもしれない。
報告が終わると、
「エルよ。よくやってくれた。礼を言わせて貰おう」
との王様からの言葉や、
「四天王と呼ばれる裏社会の実力者の噂は昔からあったのだが、まさかこの一件でその一角が露見する事になるとは思わなかったよ。ようやく糸口が得られたんだ、ここは一気に攻めに転じさせて貰う予定だ」
との王子様の言葉。
それに対し、
「ヴァルツァー五爵からは、責任をもって情報を収集させます。お任せください」
との地下幽閉施設の責任者からの発言もあり、後はお任せで良さそうな雰囲気だった。
もっとも、ヴァルツァー五爵には最初にまんまと逃げられた事が今回の原因なのだから、流石に全てお任せでは不味いかもしれない。
一応、私にも情報は随時貰える様にとは言って置いた。
今回の件の報酬や、王家に仕える気は無いかといった話も出て来たのだが、今の所はその気がないので断った。
報酬にしても、シェリーやエルナリア六爵の為にこちらが起こした行動に協力して貰った流れなので、今回は遠慮しておく事にした。
その代り、こちらから王子へ相談事がある場合にはいつでも連絡を取っていいという許可を貰った。
急ぐ場合には、出来るだけ至急での面会をするという約束をして貰えた。
その後は細々とした話しが続いたが、ルークが戻るまで少し時間がある事を伝えた際、時間があるのならば魔法具の作成をお願いしたいと頼まれてしまった。
まぁ、四天王が突き止められた際に使用する物らしいので受けておく事にした。
どうせすぐにやる事もないし、このまますぐに製作を開始すると告げ、師匠の工房に移動してからサクサクと製作を開始した。
因みに念の為、二~三日の間はエルナリア邸を現状維持で様子を見る事にしている。
何も無いとは思うのだが、一応は警戒しておいて損は無いだろう。
特に、第三王女が何をやったのかが不明なまま終わってしまっているしね。