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裏・代役勇者物語  作者: 幸田 昌利
第四章
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106◆エルナリア邸襲撃に関するその後の後始末9

 ヴァリアム流格闘術の使い手、ヴァルツァー五爵との戦いは今の所ほぼ互角と言えた。

私が使う《格闘術(異世界)》は、殴りあり蹴りあり関節技ありの実践的な格闘技だったのだが、こちらの世界と違ってスキル上昇に伴って使用できる《技》自体は存在していない。

当然、向こうで呼んでいた技名は存在しているのだが、SPやMPを消費する《技》として認識されていないという感じだ。


 では相手であるヴァルツァー五爵の方はと言うと、《イーグルクロウ》という名前で小指以外の四本の指を使い、鷲の足に見立てて指を突き立てる様に前腕や下腿を捕縛する技や、《バイパーファング》という人差し指と中指を蛇の牙に見立てて突き立てる技(この技はMPも消費する代わりに毒を付与する効果があるらしい)、《ドラゴンヘッド》という両手の指を竜の牙に見立てて挟み込み、MP消費によって手首辺りから発生させた火炎で焼くというトンデモ技が使用されていた。

流石、魔法が当たり前の世界で発達した格闘術だけの事はある。


 因みに、技名はスキルと違って《簒奪の聖眼》に関係しない為か、《ウィンドウ》の左にあるスキル表示関係ではなく下段にあるメッセージログとして表示されているが、魔法名やルークが使う《ダブルステップ》等が普段から頻繁に出ているので基本的にはここの表示はあまり気にしていない。

今回は興味があったので確認しただけである。


 さて、これらの技をいきなり使われた時には驚いたものだが、存在する事さえ理解していれば警戒しておくことができる。

その結果、既に使われた三つは二度目以降は完全に回避しているし、未見の物も予備動作の段階で潰したり離れて発動を不発に終わらせる事に成功していた。


 その事で、


「ふむッ! 予想以上の使い手の様だな……我がヴァリアム流格闘術をここまで凌ぎ切るとはっ!! しかも、これまでに一度も技を使わずに温存とは……随分とコケにしてくれるな!!!」


という評価を頂いた訳だが……いえ、単に《技》が無いだけです! 言わないけどね!!


 現在、戦闘開始から約五分。

これまでに受けたかすり傷や打撲、水膨れを伴う若干の火傷は無詠唱の回復魔法で回復済み、毒を付与する攻撃もかする程度に喰らいはしたのだが、毒自体は抵抗レジストに成功して効果を発揮する事は無かった様だ。

闇属性は使える人がほぼいない事を考えると、水か土属性辺りに属するのかな?


 ここまでの攻防で《格闘術(ヴァリアム流)》の聖眼値が67%まで来ているのだが、ここは……一度試しておいても良い頃合いかな。

もっとも、入手しても効果があるのか不明ではあるのだが。

変に《格闘術(異世界)》と混ざって、おかしな事にならない事だけは祈っておこう。




 ☆ ☆ ☆




 ヴァルツァー五爵との戦いも既に十分が経過していた。


「小癪な! まさか貴様もヴァリアム流の使い手だったとはな!!」


というヴァルツァー五爵の怒号が聞こえる。

そう、サックリと《格闘術(ヴァリアム流)》を手に入れた私は、現在その動きで戦っているのだ。


 《簒奪の聖眼》によって得られた時の熟練度は、何とも言えない中途半端な18という値だった。

本来なら《ウィンドウ》にある《ショートカット》を瞬時に使えるようにしておきたいのだが、これまでの感じからすれば少し確認する間ならば問題ないだろう……と、誘惑に負けて《裏ウィンドウ》にある《ステータス》を確認した結果である!


 決して相手を舐めている訳ではないのだが、《格闘術(ヴァリアム流)》を得た瞬間から相手の動きが手に取る様にわかるようになってしまった事が確認しておきたかった理由だ。

まだまだ《簒奪の聖眼》の仕様には不明な所が多いので、今後の為にも検証しておきたかったのだ。


 そしてその検証結果なのだが、まず重要な点は熟練度の上がり方。

相手の動きに合わせて頭に浮かぶ《格闘術(ヴァリアム流)》の流れに乗って行動する事で熟練度はどんどん上がり、動き自体も一~三回程繰り返すだけですぐに馴染んでいく。


 ここで面白いのは、上半身を使っての回避や受け流しをメインとする《格闘術(ヴァリアム流)》と足を使って身体全体で回避する《格闘術(異世界)》のどちらが適した回避法なのかが頭に浮かぶようになった事だ。

攻撃もそうなのだが、何を使えばいいのかが選択式で思い浮かぶようになっている。


 それらを選びながら攻撃を回避し、逆に隙をついて攻撃していると徐々に選択が浮かばなくなり、最終的には選択肢は出なくなった。

その代り、意識する事無く身体が動くようになり、これまで使った事が無かった《格闘術(ヴァリアム流)》も自然と使えるようになっていた。

簡単に言えば、状況に合わせての説明みたいなものだった様だ。


 その際に使ったヴァリアム流の動きは、


「おかしい……貴様の動きは明らかに不自然だ! ま、まさか……この私から、この短時間でヴァリアム流格闘術を盗んだと言うのか!! 私が二十年かけて会得した技までこんなに簡単に使いこなせるなど……認めん、認めんぞ!!!」


と、相手を激昂させるほどの状況の様だ。


 熟練度を見る為に《ステータス》を開いていたのだが、《格闘術(ヴァリアム流)》の急上昇は確認できたのでそろそろ元の《ショートカット》を使える状態に戻しておく。


 ルークがゲルボドの《片手剣》を得た時はすぐに《片手剣(多世界)》に統合されたはずなので、今回の《格闘術》が二つ並んでいる状況がどういった条件なのかが気にはなるが……まずは安全を確保してからにしよう。

それでは、真面目に倒す方向に移行させてもらいましょうかね。




 ☆ ☆ ☆




 現在は戦闘開始から、十五分が経過していた。


「バカな! バカな!! バカなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


そう言いながら片膝をついたヴァルツァー五爵は、往生際の悪い事に腰についているポーチの様な物から使い捨ての魔法具を取り出してこちらに投げる。


 その魔法具の効果は、閃光を放つ光属性の魔法だ。

取り出した事を把握した瞬間に《アースシールド》を張り、その陰に隠れた事で閃光は免れたのだが、その一秒程の時間に反対の手で取り出していたらしい回復用の魔法薬を一気に飲まれてしまった様だ。


 動きを試す際に何度か当てたダメージに加え、熟練度上昇に伴って普通に使い方が理解できるようになった《ドラゴンヘッド》という技を使って左腕に与えてあったダメージが完全に回復されている。


 もっとも、回復された事に何の衝撃も落胆も無い。

何故なら、もはやこの相手に脅威を感じていないからだ。


 この世界は情報がどこかに記録されており、熟練度上昇によってその情報を得る事が出来る事が改めて分かった。

そのお蔭でヴァルツァー五爵の使用する技も完全に理解できるようになった為、手の内が読める上に手札の多い私の方が明らかに有利となっている。


 回復薬の瓶をこちらに投げながら向かってくるヴァルツァー五爵には既に余裕の表情は無く、苦し紛れにしか見えない《キラービーニードル》からの《ベアハッグ》……毒を付与された一本指による刺突からの熊式鯖折りへと続けようと襲いかかってきた。

ここにきて《ベアハッグ》という、聞き覚えのある技が出るとは思わなかったよ!


 勿論喰らう訳にはいかないので、《イーグルクロウ》で《キラービーニードル》を押さえ込んでから、そのまま強引に《ベアハッグ》に移行しようとした所を《エレファントノーズ》という技で中断させた。

因みに《エレファントノーズ》は、風属性を纏ったみぞおちへのボディブローの様な攻撃だった。

私的には、ちょっと象の鼻の印象と違う気がするかな。


 相手の動きが読める事でクリーンヒットを狙える様になり、魔法具による防御壁で威力を減少されながらでもダメージを累積できるようになってきた。

ここまで来たらそろそろ一気に畳み掛け、決着を付けてしまった方が良さそうかな。

バカなっ! とか、何故だっ!! とか、こんな事はあり得ない!!! と、既に余裕のない言葉しか聞けなくなってきたし、もう隠し玉も少なそうだしね。

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