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裏・代役勇者物語  作者: 幸田 昌利
第四章
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104◆エルナリア邸襲撃に関するその後の後始末7

 直接対峙したヴァルツァー五爵を見た感想は……これまで聞いてきた悪事の首謀者とは思えない風貌をした男だった。

……いや、むしろ漢だった……。


 簡単に言えば、マッチョなハンサム……と言えるだろう。

歳は三十前後、銀色の腰まである長髪をオールバックにして首の後ろで纏めており、顔も悪くない(注:私の好みではない)。

しかし、首から下は明らかに肥大した筋肉が恐ろしいまでに主張している。

前世でいうなら細マッチョな感じの顔に……ア~ニキ――――――――――――――ッ!!!と叫びたくなるほどのムキムキな体が備わっていた。


 正直、キモイッ!

マッチョは嫌いではないが(注:知り合いまでなら可、友人になるなら場合による)、こうアンバランスなのは勘弁して貰いたい。

もっとも、これだけ追い詰められているのに余裕を窺わせる雰囲気のまま、見下したような表情なのも気に食わない一因ではあるだろう。


 まぁ、倒す事には変わりはないので私の好き嫌いはどうでも良いのだが、問題はそのマッチョな肉体の性能の方である。

ただの筋肉バカで、見た目だけのマッチョならば問題は無い。

しかし、この筋肉が実戦向きな物だった場合は脅威になる可能性がある。


 現在、私のレベルは41。

最近はドールに《浸食共有》しての戦闘が多かったので魔法系のスキルばかり上昇しているが、レベルアップまでの間にある程度他の能力値を使用する行動も意識的にとっているのでステータスは万遍なく上がっている。

能力値の上がり方についてはある程度仮説は立っているのだが、今回は割愛させて頂く。

一つだけ重要な点だけあげておくと、ステータスの上がりはそれぞれ独立、使用頻度で乱数幅がそれぞれ変化していく様だ。


 使えば使うほど上がるのならば普通に理解できるのだが、ランダムで上がるとか……流石にふざけているのかと問い質したくなった。

まぁ、どうやらスキルは熟練度の方が重要であり、そこにかかる補正がステータス値の様で、多少の差は重要ではなさそうではあるのだが……。

それでも、ランダムは酷いと思う!


 さて、私の憤りは一先ず置いておこう。

レベルが高い上に魔素《フルブースト》で強化された私の方が有利だと思うのだが、ヴァルツァー五爵が持つ未知の魔法具次第ではどう転ぶか判らない。


 私は油断せずに戦闘態勢をとり、相手から見えない位置に左手を持っていった。

ヴァルツァー五爵は相変わらず武器も構えずに、悠然とこちらを見下ろしている。

このキモ筋肉男の身長は百八十cm程あるので、本当に見下ろされていた。


 逃げるでもなく、何らかの魔法具等の発動やその準備をしている感じでもない状態でこちらを見ているのだが、それならそれで私としては好都合だ。

この時間を使って相手から見えない位置に持って行った左手に、《アイテム》取り出したMPを封入した魔石を取り出して《スティールMP》で吸収する。

念の為に十個ほど繰り返してMPを千位吸収しておいたのだが、その間に相手がした事はこちらの観察だけであった。


 観察……そう、観察なのだろう。

この男の視線は、ほぼ動かない。

しかし、同行者の動きに対して、本当に微妙ではあるのだが時々反応している。

おそらくルーク程ではないが、視線を動かさずに視界内の情報を取得する訓練をしているのだろう。

まぁ、敵が多そうなこの男には、必要な技術だったのかもしれない。


 見下しているのは間違いないと思うのだが、人数が多い私達に油断もしていないのだろう。

魔法攻撃と泥弾の複合効果のある《エクスプロージョンブレット》改を完全に防いだ何らかの効果も自信の根拠となっているのだろうが、高レベルの手下を一発で無力化した未知の攻撃を警戒はしている可能性も高い。


 こちらの準備が大体整った段階で向こうも納得いくまで観察したのか、


「まさか、ここを嗅ぎつけてくるとは思わなかったぞ……小娘」


と、私に声をかけてきた。


 まぁ、私が中央に居る事は間違いないのだが、まさか私に声をかけてくるとは思っていなかった。

そこで、


「あれだけ予想通りの行動をしてくれれば、どう考えてもバレると思うけど?」


と、少し小馬鹿にした雰囲気を出しながら挑発してみた。


 しかし、その程度で平静を失う事は無く、


「ふん、よく言うものだな。先程の奇妙な魔法効果の様な物と同様に、相当量の魔法具を持ち込んでようやく運良く調べが付いただけであろう? そうでなければ時間的にもここを攻め落とす兵力的にも説明がつかないからな」


と言ってきた。

正直に答えてやる義理は無いので、間違いはスルーしておく。


 更に、


「そして、貴様がこの部隊の隊長なのであろうが、その異常なレベルとスキルにどんなカラクリがあるか気になる所ではある……しかし、流石に余裕を見せて負けては意味がないからな。全力で潰してやろう。かかって来るがよい」


と言われたのだが、それでようやく先程の観察に合点がいった。


 先程から、何一つスキルの発動は無い。

私の《簒奪の聖眼》用スキル欄には、これまで相手が使用したスキルが必ず表示されている。

たとえそれが、既に覚えているものや絶対に覚える事が不可能なものだとしてもだ。


 そうなると、スキルすら見る事が出来る高熟練度の《識別》と同様の効果がある魔法具を持っているのだろう。

使用した感じはしなかったので常時発動型かな?


 そしてこの態度は、私のレベルとスキルを見て、それでもまだ余裕を保つ事が出来る手札を持っているという事でもある。

これは……余裕があるうちに《ショートカット》の変更をしておいた方が良いかな。


 現在の《ショートカット》は《アースシールド》が4つ、《エクスプロージョンブレット》改、《フルブースト》、《アースウォール》、《スティールMP》となっている。

いつもなら回復系も入れているのだが、今回は枠の関係で入れていない。

もし回復が必要ならば詠唱すれば使えるので、侵入する為に無詠唱や瞬間発動、気づかれないない内に敵を昏倒させる魔法を優先させていた結果こうなっている。

しかし、この状態になっては優先順位が変わっているので、ここはサックリと変更してしまおう。


 入れ替え中も油断はしていなかったのだが、作業が終了した直後にヴァルツァー五爵がついに動きだした。

目の前からいきなり消えたのだ!


 《聴覚強化》によって得られる音で、移動している気配は認識できる。

《危険感知》の働きで攻撃がこちらへ向いている事も判った。


 私は《スルブースト》で強化された肉体を全力で駆使し、両足で縄跳びでもするかのような姿で一mほど真上に跳ねる。

その直後に自分の後ろに《アースシールド》を一枚張り、左足で《アースシールド》を蹴るようにしながら前方へ飛んだ。

二m程離れた前方にもう一枚《アースシールド》を張り、今度は右足で蹴って、元居た場所に左足での全力の回し蹴りをお見舞いした!


 何も見えなかった空間だが、蹴りが到達した瞬間にグニャリという感覚で勢いが殺される……私の感覚としては、薄いゴムの膜を蹴った感じと言えばいいのだろうか?

水や風系の防護壁と言うより、薄い弾力がある物質の感触の様に感じた。


 攻撃が当たった事によって透明化していた相手が見えるようになり、その姿は……何故上半身裸なのかと!

イヤイヤイヤイヤッ!!

どう考えてもオカシイでしょっっっっっっ!!!!


 ハァハァハァ……!

前世の劇画調の漫画にでもありそうな姿でこちらへ対峙する、某五爵との戦いはこうして始まった……。


 正直に言おう!!

戦いたくねぇぇぇぇぇぇぇぇぇ……!!!

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