103◆エルナリア邸襲撃に関するその後の後始末6
ベッドの下に隠された通路は一階へ続き、そこから更に地下へと続いていた。
地下の通路は高さ百七十cm、幅百三十cmといった所だろうか?
標準サイズの女性である私なら問題なく進めるのだが、同行する男性陣は頭が当たるのでかなり窮屈そうだ。
通路を進む順番は、私が二番手となっている。
これはスキルの問題で、《罠発見》スキルを持つ本職に先行して貰う為だ。
下手に私が破壊や誘発で罠を発動させる方針で進んだ場合、追跡者向けの罠で通路が崩れでもしたら一気に逃げられてしまうからね。
因みに、崩れる前に《アースシールド》の魔法具で空間を作り、迷宮を呼び出せばいくらでも逃げ出せるので一秒の猶予があれば崩落で潰される事は無い。
念の為に天井部分には《アースシールド》を張りまくって安全を確保しているのだが、本格的な崩落だと魔素で強化されているとはいえ、本当に一秒持つかどうかだと思うので、結構図太い私でも若干緊張しながら進んでいるのは否定できない。
もっとも、同行者達は意外とそこまで危機感を持っていないらしく、
「エルさんが迅速に進行ルートを抑え、隠し通路を塞いでいたベッドも除去してくれたお蔭で恐ろしい速度で追跡を始められていますから、おそらく差は三十秒程度しかないと思いますよ。そうなると、下手に通路を崩落させたりすると自分も巻き込まれる為に出来ないでいるはずです。事実、奥を歩く三人分の足音に余裕が感じられませんし」
との事。
確かに三人分の足音を私も捉えているが、余裕が感じられない音ではある。
前を歩くヴァルツァー五爵達の足音は、早足で移動してから停止、何かの作業を行ってから再度移動、を繰り返している。
「移動した足音の距離と設置されている罠の位置がほぼ一致していますので、一つ一つ通行許可がある事を認証させているのでしょう」
だそうだ。
そのお蔭で罠の位置が大体判り、即解除可能な物は解除し、通過を感知するタイプは《アースシールド》で目隠ししたまま通り過ぎた。
《アースシールド》の効果時間が切れたら発動する事になるのだが、その時には誰も居ないという訳だ。
因みに、《罠解除》は当然ゲットさせて貰った!!
さて、ある程度進んでいるのだがまだ外は見えてこない。
現状でも進む速度はこちらが若干速い様だが、出口までに追いつけた方が面倒が無い事は間違いないので、更に速度を上げる為に少し罠の解除法を変えてみる事にした。
その解除法とは、設置されている罠を《アイテム》にぶち込んでしまおうというものだ。
相当強引な方法に感じるだろうが……本当に強引な方法である!
もっとも、当然だが設置された魔法具をそのまま《アイテム》に入れる事はできない。
土台が埋まったままの家を《アイテム》に入れる事が出来ないのと同じ理由である。
そこで実行したのは、先程塹壕を掘ったのと同じやり方だった。
魔法具を含む壁面ごと簡易錬金窯を発生させる事で内部に封入し、もし罠が発動しても窯の中なので外部には漏れず、隔離された部分はそのまま《アイテム》行き。
有毒な物や周囲に影響を与える様なものは、全て簡易錬金窯の消滅に巻き込んで消し去る事が可能な様だ。
因みにこんな強引な使い方も魔素の影響らしく、普通なら障害物がある場所には簡易錬金窯を設置できないはずなのだが、窯を発生させる際に魔素を使ってゴリゴリと強引に構築しているのが見て取れた。
現在はまだ生物にぶつかると簡易錬金窯の構築が終了してしまうのだが、そのうち魔素の方が押し勝って切断出来るようになりそうで少し怖い。
今までは無意識だった為に徐々に増えていたらしい魔素の供給量を、今後は少し注意して観察しておこう。
こうして新たな解除法を得た私達は、即解除出来るものは任せ、手間がかかりそうな物は簡易錬金窯に取り込んだ上で《アイテム》行きにする事で、先行するヴァルツァー五爵が認証作業にとられる時間分だけ追い上げていき……遂に目視できるところまでやってきた!
しかし、そろそろこの通路も終了らしく、ヴァルツァー五爵達は上に向かう階段の最上段辺りで外へ出る為の作業を行っている。
どうやら出入口は魔法具によって封印された扉らしく、これによって出入り口を封鎖していたらしい。
相手も私達の事に気が付いているため、ゴゴゴゴゴゴゴッという音を立てながら石の扉が開くまでの間、こちらが近寄れない様に投げナイフや火属性の弾を発射する魔法具を使用して攻撃してきている。
遂に追いついてしまった以上、ここまでの行程で相当無茶なMP消費を続けている私としては、流石に少し余裕をもっておきたい所ではある。
ルークのMP回復用に製作した魔石が大量にある為、それから吸収可能なので困るという事は無いのだが、どうせならば手間は省けた方が良いだろうと考え、まずは護衛の二人に対して《スティールMP》を使ってみた。
効果があるならば、敵も減って一石二鳥という訳だ。
しかし、残念ながら魔法は発動したのだが効果が微妙という結果に終わった。
どうやら闇耐性のある装備か、魔法自体を緩和する装備を着けている様だ。
ここは相手の装備の効果を確認する意味でも、直接ダメージもいきそうな物で試してみよう。
そう考え、相手の攻撃を防ぐために《アースシールド》を前方に複数枚維持する形で張りつつ、《ショートカット》から再使用可能になる毎に順番に《アースウォール》を自分達が居る天井部分と左右の壁にギリギリに設置し、強靭な囲いを作る。
単品の《アースシールド》と違って、これなら多少なら崩れた場合でもしばらく持つだろう。
それじゃ行ってみましょうか。
もう少しで男性でも出られる位に扉が開くという段階で、私はヴァルツァー五爵達に向けて相手の目の前に設置した簡易錬金窯から《エクスプロージョンブレット》改を放つ!
ぶっちゃけると、《ショートカット》を入れ替えるのも面倒なので、今回はこれで通すつもりだからだ!!
熱波と衝撃が三人を襲う。
二人はその影響をモロに受けたようだが、ヴァルツァー五爵はあまり影響を受けた感じには見えない。
しかし、吹き飛ばされた二人がぶつかり、そこに追加で襲来する泥の塊を受けて、開いたばかりの扉の外に壊れた人形の様に押し出されて行く。
衝撃で通路が崩れる事を心配していたのだが、《アースウォール》が衝撃の大半を吸収してくれたおかげなのか崩れはしなかった。
すぐに私は追撃に入り、扉の外へ踊り出ながら状況を確認した。
お付の二人は結構な量の出血を伴うダメージがありありと見え、泥が混ざって血を流す泥人形の様になっている。
おそらく爆発によるダメージと泥弾の衝突の両方が効いている為、レベルは33と35という高さなのに起き上る余力は無さそうだ。
まぁ、単純に考えて放射状に威力が拡散して行くタイプなので、至近距離だと恐ろしいダメージなんだろうなぁと改めて思う。
一点から放射された光は距離の逆二乗で減衰するので、それと似たような感じなのだろう……詳しくは知らないが!
……もっとも、普通の魔法使いが戦闘中にあんな至近距離で魔法を撃つのは命取りなので、使い方が非常識なせいと言われたら否定が出来ないのだが。
さて、問題は残っているヴァルツァー五爵本人なのだが、見た感じでは無傷だ。
それどころか、汚れの一つも無いように見える。
いくら目の前に部下が二人居たとはいえ、泥の汚れが無いのは流石におかしい。
爆発による熱と衝撃はともかく、泥弾がかすりもしない事はあり得ない……これは、個人用の対物理魔法具で、おそらく威力を減少タイプではなく、シールド系魔法の様な一定量を無効にする感じの奴なのだろう。
風属性を持たない衝撃なので熱による火属性しか判断材料は無いが、こちらも効果を表していない事を考えると、実際の効果は全ダメージを一定値まで無効……辺りかな?
その他にも色々と魔法具を持っているであろう、ヴァルツァー五爵のレベルは39。
中々の強者だ……。
そんなに強いんだから真っ当に働けよ! と言いたいが……領地持ち貴族に強さなんてあまり意味は無いか。
戦時ではないんだからね。
それじゃ、ここでボスを倒して最後の締めにさせて貰いましょうかね。