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裏・代役勇者物語  作者: 幸田 昌利
第四章
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102◆エルナリア邸襲撃に関するその後の後始末5

 ついにヴァルツァー五爵本人の捕縛作戦が開始された。


 《消音移動》の効果もあり、私は物音一つ立てずに廊下へ続く扉まで移動する。

《聴覚強化》の効果が上乗せされた状態でも、廊下を歩く音は聞こえてこない。


 移動はしていなくとも、この廊下の先には起きている番兵が居るのは間違い無い為、安易に扉を開ける訳にはいかない。

流石に貴重品の無いただの物置内部に罠をはって無いと事前情報があったので現在位置までは来たのだが、ここから先はその危険性もあるので先制での奇襲は狙うが潜伏自体は終了だ。

因みに、事前情報でもヴァルツァー五爵の部屋付近には、常時稼働させてある罠の為に立ち入り制限されていた場所があったとの証言があり、それ以外はランダムで動かしていたとの事。


 ここからは殲滅で行く方向なのだが、私が選んだのは《エクスプロージョンブレット》と言う、火と土属性の複合呪文だった。

この《変換魔法》により作り出される魔法効果は、爆発による熱と衝撃に加え、ブレットの名に相応しい程の石の塊をバラ撒く魔法だ。


 魔法の効果範囲は指定方向を中心に約百六十度の上下左右方向全てへの放射状。

もっとも、百六十度もあると扇とか放射状という名称が相応しくない程に前方を埋め尽くす訳だが。


 グロシーンをあまり好まない私が、何故この魔法を選んだのか?

実は、今回使う為に若干変更を行ったこの魔法の殺傷性は意外と低いからだ。


 ショットガンの様に石の塊を撃ち出す訳なので、本来ならば当たり所が悪ければ即死する魔法である。

しかし、《変換魔法》は習熟する事で効果の追加や変更が可能になる。

もちろん変更する度に消費MPが追加されて行くため、普通ならあまり変更する人はいないらしいけどね。


 そんな訳で、MPが潤沢にある私が今回変更した点は石の性質だ。

恐ろしく硬質な質感だった石を、小粒かつ粘土質に変える。

個人的に人間のスプラッタを見たくない事も理由の一つではあるのだが、進行方向の床を撃ち抜く事は足場に問題生じる恐れがあるのでお勧めできない事が大きい。


 水分はそこまで多くない泥に調整してあるので、知ってさえいればそこまで足を取られる事は無いはずなのだが、念の為に全員が靴に巻くタイプの、革と鉄で出来たスパイクを装着している。

これは農村の開拓で足場の悪い場合に使う為、以前大量に用意した事があったので先程の準備の際にサックリと作って配ってあった。


 開幕時の行動を同行しているメンバーへ簡単に伝え、私は廊下への扉を開けて行動を開始した。

音を立てない様に扉を開け、《広視界(異世界)》の効果を利用して、ほんの少しだけ顔を出して廊下の確認する。

よし!

気づかれてないし、反対側に人がいる様子は無い。


 ヴァルツァー五爵の部屋の前は広間となっており、そこには微弱な申し訳程度の灯りがあって、ほんの少しだが人が居る気配もする。

この時間の不寝番ふしんばんなのでほとんど動いていないのであろうが、最低でも二人が息を殺す様に居る事が判る。


 こちらから見えない死角となる位置にいるらしい事が《聴覚強化》のお蔭で何とか判るのだが、息の殺し方から考えても侵入や暗殺を得意とするタイプの可能性が高い。

《嗅覚強化(異世界)》によって得られる情報が徹底されて無い事から、においにも常に気を使っているのだろう事が読み取れる。

この場では臭いをそこまで気にする必要を感じないので、普段からそういう事を気にする仕事を行うのだろう。


 そっち系のプロ相手だと、私の《消音移動》程度だと看破される可能性が高い。

元々が強襲予定なので、やはり欲を出さずに突っ込むとしよう。


 同行者に突入の合図を手の動きで示し、背後から挟み撃ちされない様に反対側の廊下を《アースウォール》で塞ぐ。

音自体はほとんど無いのだが、床から生えるように発生した壁の動きによって発生する空気の揺らぎは隠せなかった。

正確には、今の実力でもやる気になればどうにでもなるだろうが……《ショートカット》の八枠にそこまで入れている余裕がない。


 特に重複して入れている《アースシールド》だけで四枠食っているのだが、これは安全の為にはずしたくは無いので他は色々と妥協せざるを得ないのだ。


 空気の揺らぎに気が付いたであろう不寝番の二人が、こちらを確認する為に移動を始めた音が微かに聞こえる。

私は自分の通るルートに《アースシールド》を床に敷くように次々と四枚全て設置し、そのまま流れるような操作で《ショートカット》からオリジナル魔法になってしまっている《エクスプロージョンブレット》改を選ぶ。


 魔法の発生場所に選らんだ地点に簡易錬金窯が発生し、一瞬で魔法効果を練り上げた。

その位置はヴァルツァー五爵の部屋の目の前、不寝番達が居る広間の中だ。


 簡易錬金窯をこんなに離れた位置で発動する事も本来ならば出来ないらしいのだが、最近試したら出来るようになっていた。

MP消費が増えているのと、私自身から魔素の供給を行っているのは間違いないので、そういった条件付きでの裏ワザ的な物なのだろう。


 発動する角度は、現在見えていない不寝番がいるであろう範囲を網羅して、加えてこちらへ飛んで来ないギリギリの角度に指定する。

この際に、ヴァルツァー五爵の部屋へと続く扉も範囲に入る様に調整した。


 どうせ発動した際に音が響き渡る為、気が付かれるのならばついでに罠が発動してくれたりすれば儲けものという感じだ。


 簡易錬金窯の出現と共に動き出した不寝番達は狙いを窯に向けて攻撃しようとして、私からも見える位置に来た瞬間、ズドドドドドドッっという音と共に発射された土の塊に押されて視界外へ再び消える。

即座に追加で《アースシールド》を四枚とも床に設置して、私は一気に前方へ駆けた。


 ヴァルツァー五爵の部屋の扉に命中した泥の塊は見事に罠を発動させたらしく、紫色をした火花のような物をパチパチッっと音を立てながら発している。

しかし罠が一つとは限らないため、どのような仕掛けがあるかは不明な状態ではあまり近寄りたくは無い。


 一瞬だけ考え、《ショートカット》を入れ替えるよりもこのまま行ってしまえ! という結論によって再度《エクスプロージョンブレット》改を扉の目の前に設置して発動させた。


 開けた際に発動するタイプの罠も幾つかあったようだが、《エクスプロージョンブレット》改の発動時の衝撃で扉がひしゃげながら蝶番ちょうつがいが外れ、泥の塊に押される形で室内へ踊るように飛んでいった。

罠は虚しく何らかのエフェクトを残しながら消滅し、ほんの数秒で室内へのルートは確保出来たのだった。


 私は先行して扉があった場所へ到達した際に、二人の不寝番が泥に染まった姿で転がっているのが見えた。

出血状態は見た目が泥一色になっているので不明だが、至近距離から弾を受けた影響で軽傷では済んでいないだろう。

最低でも一人が腕、もう一人は足の向きが関節を無視した方向を向いていた。


 彼らを完全に無効化するかどうかは後続に任せ、私はヴァルツァー五爵の部屋の中にも《アースシールド》を敷きながら一気に奥まで駆け抜けた。

先ずは様子を見るべきかもしれないのだが、停まっている方が罠が発動する可能性もある為、敢えて突っ込んだのだ。


 正直《フルブースト》状態で突っ切る時の私の速度は尋常ではないし、《危険感知》が発動するようならば迷宮を呼んで逃げるなり《アースシールド》の魔法具を発動するなりでどうとでもなる可能性のほうが高い。

ほぼ同じ危険度なら突っ込んでしまった方が状況判断は楽、と言うのが結論だった。


 結果としては、《危険感知》に引っかかる物は無い。

即座に部屋の中を見渡すが、室内には誰も居なかった。


 こっちがハズレか? そう考えた瞬間に、追従してきた五人が室内を調べ始めた。

残りの一人は、不寝番の二人を完全に無力化するために行動中の様だ。


 ホンの三十秒程しかかからず、隠し通路が発見された!

いや~……流石プロだわ!!

因みに、この際に《室内探索》《隠蔽看破》スキルを得た!!!

ラッキー。


 そして当の隠し通路は豪奢ごうしゃなベッドの下にあり、本来ならば魔法具の力で持ち上げる仕掛けなのだが、逃げる際に魔法具が抜かれている為に重くて動かないという、物理的な方向でも時間稼ぎが可能なものだった。


 どうせ同行者達には《アイテム》の能力は見せまくっているので、容赦なくベッドを《アイテム》にぶち込む。

破壊する方法を考え出した面々からは、一瞬呆気にとられた感じの雰囲気が伝わってきたが敢えて放置。


 ヴァルツァー五爵には色々お世話になっている事だし……いい加減、引導を渡してあげましょう!

さぁ、最後の追い込みだ!!

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