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裏・代役勇者物語  作者: 幸田 昌利
第四章
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101◆エルナリア邸襲撃に関するその後の後始末4

 ヴァルツァー五爵の隠れ家への襲撃準備は整った。

一郎とリーナが、もし見つかっても魔物扱いされる姿による目視出来る位置での探りを入れてみたのだが、その距離までは魔法具による探知等は無い事が判明している。


 深夜の十二時という、この世界では普通寝静まっている時間帯に私達は作戦を開始する事にしたのだが、扉の前にいる番兵は一人が居眠りをし、もう一人が欠伸をしながら目を閉じていた。


 まぁ、現在居る隠れ家のある場所は、近隣に村も無い入り組んだ山の中だ。

持ち主は山からしばらく行った先にある農村の村長という事になっているのだが、こいつは完全にヴァルツァー五爵の息がかかった悪党らしい。

しかし、基本的には善良な村長を演じつつこの隠れ家を維持するためだけに行動していた為、この地域に駐留している部隊の捜査からも優先度が低いとされ、探索の順番が後回しにされていたとの事。

もっとも、よくこんな場所を見つけたなと言いたい位にこの隠れ家を見つける事は困難であろう事から、もし事前に探索が来ても見つけられたかどうかは怪しい。


 もっとも、その安全性が逆に気の緩みを生み、襲撃するにはもってこいの状況を作っているのは確かで、この様子なら入口の二人を排除してから作戦を開始しても問題ないであろう。


 作戦方針としては、正面入口を確保した後に内部の確認をしてから状況に合わせて行動する……ただそれだけだ。

ぶっちゃけると、臨機応変とも言える。

ただし、基本的には潜入するような行動はほぼせず、破壊による制圧を基本とする事だけは決定している為、それに合わせた状況判断ではあるのだが。


 因みに、この破壊活動をしながらの制圧という、どう考えても強引すぎる手法を行うのには理由がある。

私達自身がエルナリア邸に仕掛けまくった罠で敵を無力化して勝利を収めている事を考えると、相手が事前に何を仕掛けているか分からない状況で潜入する方がリスクが高いと判断したからだ。


 おそらくヴァルツァー五爵には隠し通路から逃げられる可能性が高いが、転移系の魔法具が無い以上は、追跡の専門家に加えて人間より匂いに対して敏感なエグフォルドタイガー達もいるのだ。

どう考えても、逃げ切る事は困難であろう。


 さてと、時間も迫ってきたし、そろそろ始めるとしましょうか。




 ☆ ☆ ☆




 時間になり、リーナに作戦開始を告げてから、まずは侵入経路の確保が開始された。

まずは入口の二人の排除なのだが、元々いつ寝てもおかしくない姿勢なので、そのまま《スティールMP》により昏倒させる。

お蔭で、倒れるような物音を出さずに無力化できた。


 慎重に隠れ家に近づくと、隠れ家の外観がようやく見渡せるようになった。

実はこの隠れ家、結構大きな洞窟を利用して作られているのだ。


 入口の高さは二mで横幅五m程度が二十m程続き、その先が大きな空間になっている。

そのせいで一郎の偵察も入口付近しか目視出来なかった為、ようやく全貌をうかがう事が出来たという訳だ。


 崩落防止の為なのか、隠れ家自体を支えている支柱が洞窟の天井まで伸び、それらを支えにして無数の板が天井を見えなくなる程張られていた。

それらの板が無い部分でも特に落石した形跡は無いようなので、あくまでも補強という意味合いの方が強いのだろう。

用意周到で用心深い悪党というイメージを、更に強く裏付ける建築に感じる。


 建物の大きさは木造二階建てを基礎とし、一階部分の壁はレンガにも見える素材で囲ってある。

そこそこの人数が滞在できるようにする為だろうが、洞窟の大きさに合わせて正面側は十五m程だが、奥行きは最低でも四十m以上あるようだ。

側面と洞窟は基本的には一m程離れているのだが、所々で柱のような物が横に伸びて壁に突き刺さっている為、縦からも横からも突き出た柱で随分といかつい雰囲気を醸し出している。


 洞窟内なので空気の流れに気を付けているのか、所々に空気穴の様な物が各部屋から正面側にあいている様だ。

流石にこの時間なため、音を出さないように気を付けている雰囲気は無いのに、その穴からは人が動いている感じの物音はほとんどしない。

むしろ、正直ぶん殴って止めたくなるような、癇に障るイビキが多くて若干ゲンナリする。


 事前情報によると、ヴァルツァー五爵がこちらに居るとしたら洞窟の奥側二階部分らしい。

中々に嫌らしい位置取りだ。

何故なら、隠し通路があるのは間違いないと思うのだが、その位置からだとどの方向でも怪しくなってしまうからだ。


 入口側は無いにしても、二階からなら天井にある板の向こうに地上への逃走ルートがあるかもしれないし、自分の部屋からしか通れない階段を作って地下道を作っている可能性もある。

同じような仕掛けとして、二階部分に自分専用の廊下を作り、その先の側面に作った普段は見えない様に偽装してあるルートという線もあり得るのだ。


 一番簡単な封鎖方法は隠れ家自体を私達が愛用している小屋用の《アースシールド》の魔法具で覆ってしまうか、《アースウォール》の魔法で囲ってしまって魔素を流し続ける事なのだが、残念ながら規模が大きすぎて現在の手持ちの魔法具では収まりきらないし、《アースウォール》の場合は魔法発動時に射線が通っている必要がある為、視界が届かない部分が多すぎる今回の場合は囲みきれないだろう。

それに加え、床からり出してくる《アースウォール》が建物の側面から出ている柱を破壊しながら構築される事で大きな破壊音を発し、折角の奇襲可能な状況を無駄にする事になる。

 

 流石に奇襲できる状況を無駄にしない為、最善策として入口と奥に続く通路の双方を《アースウォール》で塞ぐ事により逃げ道を無くし、発動中の《アースウォール》は魔送石をセットする事で効果時間を無制限にしておく。


 レックスとロイドの部隊には、それぞれ前後に配置した《アースウォール》付近で待機して貰い、遠隔攻撃対策に一小隊が余裕で入れる大きさの塹壕モドキを必要な数以上に掘っておいた。

この任に当たるのは六小隊なので、宮廷魔道部隊には各一人をサポートに付けた。


 普通は魔法で穴を掘るには適切な魔法であるかとか、特に今回の場合は音の問題等で色々面倒なのだが、《錬金術》によって簡易錬金窯を発生させた後に加工したい部分に移動させ、範囲内の土を圧縮した上で《アイテム》に放り込んでおくだけで簡単に穴が掘れるので私には簡単にできる。


 もっとも、簡易錬金窯を移動させる事は普通出来ないらしいので、魔素の影響か錬金窯発生時の消費MP増量か何かで可能になっていると思われるのだが……サンプルが少なすぎて判断が出来なかった。

便利な事だけは間違いないので、あまり気にしないでおこう。


 音を立てない様に慎重に行動していたのでやや時間がかかってしまったが、可能な限り逃げ道を封鎖した。

後は突入部隊の侵入経路なのだが、ヴァルツァー五爵の部屋の位置は判明しているが扉の近くには二十四時間体制の番兵がいる。

こちらは入口と違って訓練された自前の親衛隊なので、サボる事無く忠実に仕事をこなしているはずである。

その為、そこから少し離れた位置にある物置の壁を排除して侵入する事にした。


 方法は簡単で、塹壕を掘った際に圧縮した土のブロックを積み上げ、二階の壁は塹壕を掘ったのと同じ様に簡易錬金窯を穴をあけた。

簡易錬金窯内部でならMPの消費量さえ気にしなければ色々な反応をさせる事が出来るので、今回の場合は火属性で炭化させながら、念の為に風属性で発生する音自体を内部に留めておいた。

広範囲に消音の魔法が使えるならばこんな手間は必要無いのだが、残念ながら結構高レベルの風魔法にしかないらしい。

残念。


 物置に侵入したのは、私と幽閉施設の一小隊。

エグフォルドタイガーの部隊には、側面の警戒を頼んだ。

側面は隠れ家と洞窟の隙間が一m程度の幅しかないのに加えて横向きに柱があって行動を邪魔する為、それすらも足場にできるエグフォルドタイガー達が適任だったからだ。


 ……侵入の準備は整った。

後はリーナに《通話》で向こうの状況を確認して、同時に突入予定。

事前情報で、通信系の魔法具がある可能性が否定できなかったからだ。


 リーナとの連絡で双方準備はOK。

それじゃ、突入!

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