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裏・代役勇者物語  作者: 幸田 昌利
第一章
11/138

11◆ある意味運命的な相手との出会いとルークの帰郷

 ルークの予定は十日程度後からとの事なので、ここは一旦実家への報告をお願いする事にした。

私の方は安定した収益と言えば聞こえはいいが、正直普通に出稼ぎに来た位の収入だ。

しかし、ルークの方は随分と稼げているらしい。

何でも、《魂の回廊》を使ってきた魔物が大当たりだったとの事。

パーティーで回収し切れなかった骨を、密かに《アイテム》で持ち帰って来た分だけでも結構な額だ。

師匠が喜んで買い取っていた。

闇属性の魔法物質を含む、かなりの希少素材らしい。

《アイテム》の事は一緒だった仲間には当然教えていない。

分配金として渡すのは無理なので半分を自分用に、半分をパーティーで必要になった場合用に別保管すると言っていた。

流石、私と違って生真面目な子だ。


 小麦や日持ちする食材等、かなりの量を購入して《アイテム》へ入れ、準備を整えてから出発して行った。

私にも帰るかを聞いてきたが、今は錬金術と変換魔法の修行で忙しいからパスと言って断った。

正直、時間にそこまで余裕があるとは思っていない。

出来る限りの知識を教えて貰わないと!





 ☆ ☆ ☆



 ルークが村へ向かって二日が経った。

その間もMPを余す事無く使いまくって上げた私の熟練度は、かなり順調と言える状態だ。

魔法を使う際に、目的が有るのと無いのでは熟練度の上りに差がでると言うのは定説らしい。

本来なら私の様に街中で魔物との戦闘もしないで魔法の熟練度を上げようと思ったら、かなり効率が悪いのが普通なのだが、私には錬金術での製品作成という目的があるので効率良く上げれるようだ。

師匠のスキルは高い物だと熟練度32、流石と言える状態なのに実戦経験は無いらしい。

すなわち、戦闘しなくても目的を持った行動ならスキルは十分上がるとの証明が成されている。




 ☆ ☆ ☆




 最近は私も、こまめに少量の商品補充をする商店の巡回を担当するようになった。

これらの店は無くなった分を補充する形なので、どの位の数が必要になるかはその時の状況次第となる為、手持ちが無くなったら次の店は翌日に回して、二~三日に一回位のペースで巡っているとの事。

今日もそうやって幾つかの店を回ってきた。

ちなみに、結構重いので《アイテム》に入れて持ち運んでいる。

ダミーの籠から取り出す様にして出すので問題は無い。

そうして工房への帰り道を歩いていると突然後ろから声をかけられた。


「ねえ、君。君は何者?」


その声は明らかに私に向けて声を掛けてきた。


「ああ、突然後ろから失礼。俺はレイク。今はまだ大きな声じゃ言えないけど、勇者なんだ」


私と同じ位の男の子が笑いながら、私だけに聞こえるように小声でそう言った。


「出来たら少し話をさせて貰えないかな」


そう言って、今いる道から少し外れた、私の背よりかなり高い石でできた物を指差して移動を始める。

周囲に階段状に段差が作られており、何かあった時に周りを見渡せるように作られた高さ二メートルを超える岩の台だ。


実の所、私は勇者がこの街に居る事を知っていた。

声を掛けられた時も勇者の方角と同じだったし、勇者と聞いて距離を確認したら目の前になっていた。


あらためまして、俺はレイク。一応勇者だと女神様から神託が下っているから勇者のはずだよ」


レイクは私の目を真っ直ぐに見つめている。


「声をかけたのは、何故か君も勇者だと僕の能力が示しているからなんだ」


私に声をかけてきた段階から、それは予想の一つとしてあった。

それ故に私は何の動揺も見せずにいられたが、逆にその事で私が事情を知っていると見抜かれた。


「その様子だと理由を知っていそうだね。こちらとしては何も隠すつもりは無いので先に言うべきことは言っておくよ。

俺の能力の中に、魔王と仲間を感知する事が出来るというものがある。

なんて言えばいいかな、意識すると頭の中に地図が浮かぶんだ。世界全体の地図から自分の周り三十歩をぐるっと一周させたような感じまで好きに範囲を変えられる」


「自動で地図表示か、いいわね」


ようやく私が反応したからか、ニッコリと人の良さそうな笑顔を浮かべてから話を続けた。


「そこに、自分は黄色い三角(△)、他は丸(〇)で表されていて、仲間と魔王の方角が自分の三角から矢印が個別に出ている。色は仲間赤青緑の3種と魔王の黒だね。」


「なのに、何故か黄色い三角の私が居たと」


「そう、勇者は俺以外に生まれたという神託は下されていない。これは各地の女神神殿で同様の神託しか報告が無い事からも間違いはないはず、となると君は何者かって事になる訳さ」


少年らしい素直で実直な感じを受ける表情と物言いは好感を持てた。


「隠す程でも無いし、女神に聞く手段があればすぐわかるのだから教えるわ。私は予定通りに生まれて来なかったあなたの代役として女神に作られ、そして必要無くなったから勇者として生まれなかった残骸って所かしら」


「俺の代わり……?」


「ええ、私の調整中にあなたが降臨した。そこで私はそのまま普通の一般人に生まれ変わる予定だった。でも、少しだけ能力が残ってしまったみたいなの。例えば私にはあなたの居る方向と大体の距離がわかるのよ。だからあなたがこの街に居ることも知っていたわ」


今まで私が作られていた事など何も知らなかったのだろう。

少し申し訳なさそうに一瞬視線をそらせたが、すぐに私の目をハッキリと見つめる。


「それで事情は御見通しだったって訳だね」


「まぁね。声を掛けられたのには結構驚きはしたけど」


 その後は現状の確認や、困った事は無いかとかしばらく話して、最後にお互いの住んでいる場所を教えあって別れた。




 ☆ ☆ ☆




 翌日、レイクは昼の三時位になると工房へやってきた。

この時間には師匠のMPが尽きて仕事は終了しており、私の練習時間になって居るので比較的自由な時間になって居る。

数日に一回新しい事を教えて貰うが、反復練習する期間を取って居る為に師匠は居ない事も多い。

私が自分で練習に使う薬草なんかを取りに行くのはこの時間になる。

レイクが来た時にはそろそろ素材収集に行こうかと思っていた所だった。

その事を告げると、


「なら、俺も行くよ。収集自体はやった事がほとんど無いけど、その間の護衛位はできるからさ」


そう言って一緒に森まで付いて来てくれた。


 レイクは女神神殿に勇者として引き取られながらも、成人までの間は公表される事は無い。

これは魔王側の襲撃を回避する為、毎回行われているようだ。

レイクは実戦をあまりしていないらしいが、その戦闘に関する実力はここの神殿の誰よりも上回っていた。

理由は《聖気吸収》と《スキル転写》によるものだ。


 この《スキル転写》は勇者の周囲で所有者が居る戦闘用スキルを無差別にコピーして保存される。

効果範囲はこの六爵領よりも大きいとされているらしい。

そこに女神による魔王の能力看破によって神託がなされ、対応策となるスキルを重点的に成長させる事により対魔王用の剣として成長する。

成長に使用されるのが《聖気吸収》であり、世界に満ちている聖気で勇者の身体能力やスキルの成長を促している。


 私が予備の勇者とならずに破棄された理由がこの《聖気吸収》だったようだ。

現在は女神側の世界が維持されている為に、勇者が必ず魔王より強くなれる状況を作り出している。

世界に満ちる聖気を勇者が、邪気を魔王が吸収して成長するのだが、二人の勇者が聖気を奪いあってしまうと魔王に勝てなくなる可能性が出てくるのだろう。

模造品を破棄するのは当然と言える。


 しかし、レイクとしては自分の為に私が運命をもてあそばれていると感じて、申し訳無い気持ちを持ってしまうようだ。

私としては気にしないで良いとは思うのだけれど、成人して旅立つまでの間は手伝いたいと言う彼の言葉に甘える事にした。


 何でも協力したいというレイクに、使って欲しいスキルをリクエストして聖眼により習得した。

聖眼の仕様自体は詳しく説明しなかったが、見ると覚えやすい事を伝えたら積極的に協力してくれた。

問題は、今回の魔王の能力に関する方向性についていまだに神託が下されていない為、勇者専用魔法やスキルをメインに上げている。

それ故に、各魔法は僅かに師匠に及んでいない為、ルークに渡す必要があるものがほぼ無かった。

《片手剣》があれば有りがたかったのだが、《対魔王剣》と言う、名前で既にアウトなスキルしかなかった……。


 《スキル転写》は《簒奪の聖眼》の上位存在である為か習得する事が出来なかったが、《聖気吸収》と《特殊魔法:勇者》は私自身がオフ状態にして自主的に封印した。

《聖気吸収》は当然ながら、《特殊魔法:勇者》は使用に魔法物質だけではなく聖気も使用する。

勇者の邪魔をしない為にも封印する必要があったのだ。




 ☆ ☆ ☆




 その晩、ルークは何事も無く実家へ着いたらしい。

《通話》でそう連絡が来た。

収穫を終えた結果としては思ったほど収穫量は悪くなかったらしく、どこの家庭も余程の事が無い限りは飢える事は無い程度には収穫できたとの事。

私が錬金術師に弟子入りしている事や、その関係で忙しいから当面は戻らない事を伝えて貰った。

結構な量の食料品と多少の現金を渡したようなので、当面は安泰だろう。

私が頼んだ今回の一番の目的は明日にすると言っていた。


 そして翌日にまた連絡が来て、私の目論見もくろみが上手くいったようだ。

今回の一番の目的は、実家に居る中に《魂の回廊》の影響が現れる人が居ないかの確認である。

《アイテム》が使える様になれば物資輸送の手間が無くなり、遠隔地からも連絡する事が出来る。

最低でもルークと会話出来ているので、この距離なら間違いなく大丈夫だ。

《ウィンドウ》が発現したのは母さんだったようだ。

可能性があるのは母さんだと予想していたので、やっぱりかと言う感じだ。

双子である私達を繋いでいたのは母さんだったから、何かしらの影響を受けている可能性はあると思っていた。

ちなみに、条件が解って無い以上、下手に誰かが《ウィンドウ》を使える様になっても困るし、《魂の回廊》で力を親玉に預けた一族の狼達の意識が戻らなくなった等と言った不確定要素が多すぎるため、基本的にはスキルをOFFにする事にしてある。

常時ONにする意味は無いスキルなので、リスクは下げておく。


 そういえば母さんの《ウィンドウ》だが、中途半端な物だと言っていた。

左側に有るはずの部分が無い為、新たにスキルを得られない様だ。

まぁ、ルークのスキルの増え方を考えると、村に居る限りあまり必要は無いから問題は無いか。



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