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裏・代役勇者物語  作者: 幸田 昌利
第四章
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99◆エルナリア邸襲撃に関するその後の後始末2

 現在の状況として、リーナにはヴァルツァー五爵領へ、ドール一号にはルークの居る方向へ向かって貰っている。

リーナの移動迷宮は故郷の村周辺にある迷宮探索の為の移動用に使っていたのだが、今回の五爵領への移動に必要なので進んだ地点で呼び出して貰い、夜にはこちらへ戻って来て貰っていた。


 その為、本日からヴァルツァー五爵の件が終わるまでは迷宮探索は中止となった。

そこで、亜人達にはやりたい事を好きにやっていていいと伝えてある。

スキルの幅を広げる為にも、たまには良いだろう。


 私の方でもやっておきたい事はいくつかあるので、先ずは準備を進めておく事にした。

まぁ、基本的には対ヴァルツァー五爵用の捕獲用魔法具なのだが。


 それにプラスして、最近はMPを色々な製作の為に使っていたのでサボり気味だった《魔獣の牙城》アイコンにもMPを供給しておいた。

正直な所、もうあまり期待はしていないのだが……まぁ、折角なので余裕がある時くらいはと言う奴だ。


 襲撃が終わった為に時間にはある程度余裕が出来たので、若干ダラダラとしながら製作を続けてから寝た。

もっとも、一時間程度で起きてしまうんだけどね。




 ☆ ☆ ☆




 短い睡眠を終え、リーナはヴァルツァー五爵領への移動を再開してしまった。

まだまだ日が出るには早い為、もっとゆっくりしても良いとは思うのだが、


「……大丈夫。《暗視》があるし、どうしても必要なら魔法の灯りを使えば暗くても問題無いから」


と言って、行動を始めてしまったのだ。


 私の方はそこまで急いでやる事も無いので、念の為と言う事で砲台ゴーレム用に使う大型の奴を量産する事にした。


 今回使用するかどうかは不明なのだが、あれは迷宮以外でも攻城兵器として使えるからだ。

いや、むしろ攻城兵器としてこそ真価を発揮できるとすら言える。


 あくまで予想の範囲でしかないのだが、何となく今後はこれらが必要になる機会が来る気がしてならない。

特に王家やレックス達と繋がりを持ってしまった事からも、いずれ何かの機会が……という気がしてならないのだ。

私的にはそれが問題だとは思っていないので、どうでも良いんだけどね。

何かあった時、こんな事もあろうかと! と言う為に事前で準備をしておきたいと言うだけだ。


 ただ、折角実戦を経験した訳だから、改良点が無いかの検討はしておいた方が良いだろうと作り始める直前に考え直した。


 今回でまず気になった点は、起動にかかる時間がどうしても長い事だ。

現状で知っている回路ではこの時間を短縮する事はできない為、その間をどうするかの方で解決する必要がある。


 現在でやれる事は限られている為、取り敢えず追加するのは私が魔素を込めた使い捨ての魔素石と《アースシールド》の発生魔法具を組み合わせた物になる。

全周囲に張って起動時に外部からの攻撃を遮断したり、砲撃戦の最中に普通の使い方である盾として使うのも有りだろう。

前回は私やリーナがその役目を担当していたが、複数体作る以上は各個で対応を行う必要がある為、絶対に組み込んでおくべき機能と言えるかな。


 次に、足回り。

元が土木用である為、不安定な場所でも問題なく移動できる多脚方式で作ってある。

しかし、その反面機動性はある程度捨ててある。

理由は簡単で、安全第一なので慎重に動くようにしてあるからだ。


 そのため、行動ルーチンには安全確認を一動作毎に行う様に念入りに組んであるのだが、戦闘用となれば話は変わる。

安全を確保しながらも、最速で動ける挙動制御用のパーツ構成にする必要があるのだ。


 今までは動きを止めながら確認作業を行えた部分を、各パーツの方で俊敏かつ高レベルな安定を確保する必要がある。

そこまで考えてしまうと、……今量産するのは控えた方が良いかなと思い直すに至ってしまった。

やはり、師匠や先生の意見も聞いてから再設計の方が良いだろう。


 そうなると、どうせ後で必要になるのだからと、純粋な土木用を量産しておくことにした。

既に大型ゴーレムを作る直前という所まで、用意してあることだしね。


 必要になるという根拠なのだが、砲撃ゴーレムに改造した奴自体がそのために用意している奴だったからに他ならない。

ここ数日のレックス達との会話から、王都軍関係にもある程度供給する事になりそうな雰囲気があると聞かされていた為だ。


 もちろん、レックス達が欲しいという訳ではない。

エルナリア領で使い始めた土木用ゴーレムの話が、私を含めた師匠や先生の会話から王城関係者に漏れた結果らしい。


 漏れたといっても別に隠していたのに漏れたわけではなく、普通に会話に混ぜていた内容が軍上層部の耳に入っただけの事だ。

もっとも私が作ったという事は知られていなかった為、現在エルナリアへ向けて実物の有用性の確認と譲って貰うための交渉役が馬車で向かっているらしい。

ただ、そのエルナリア六爵が現在は王都に居るというのだから、可哀そうとしか言えない訳なのだが。


 流石に無駄骨を折らせている担当者に悪いと考えているらしく、王都に居るエルナリア六爵に対しては何の話も今の所は無いようだ。


 今回依頼された分は私が製作してエルナリア六爵経由で売る事になると思うのだが、その後の追加注文はあまり受ける気は無い。

理由は簡単で、初回はどんな物かを理解させるための餌のようなものなのだ。


 この大型土木用ゴーレムは、実の所大量に魔法物質を含む鉄が必要な以外はそれほど難しい構造はしていない。

そもそも私が作っている以上、師匠や先生から学んだ回路を使用しているのだから。

素材さえあれば、当然王城にいる人員でも製作出来ない訳がない代物である。

MPが大量にかかる分は人数でカバーして貰う方向になるだろうが、自作が可能な品なので頑張って貰う方向に話を持っていく予定。


 そして、一番の問題となる素材についてだが、こちらの方は準備万端だ。

エルナリア郊外には現在私とルークの迷宮が隣り合って置いてあるのだが、一般開放する前に私の迷宮は破棄する予定なので、ルークの方の迷宮でアイアンゴーレムが湧くようになるまで出現魔物を変更しながら階層の入口付近に湧くまで頑張った。


 アイアンゴーレムが湧くのは第六層で、レベルは30前後。

本当ならもっと浅い階にして重要な資源である鉄の収集量を増やしたかったのだが、この位のレベルが無いと魔法物質の含有量がんゆうりょうが少なくてゴーレムが製作出来る域まで到達していなかったのだ。


 どうやら最初から魔物として生まれてくる迷宮産のゴーレムは、行動を戦闘関係の基本的なものだけに絞る事で簡略化しているらしく、レベルが低い者ほどお粗末な動きしか出来ないのはこういった許容量不足によるものらしい。


 私は後から魔素をぶち込むので低品質でも問題は無いのだが、純粋に冒険者が回収した物を使用するのならば最低でもレベル25は超えていないとゴーレムの素材としては使い物にならなかった。

そういった理由から、硬い為に少し強敵となってしまうのだが六層が選ばれていた。


 私が調べた範囲では王都近郊の迷宮地下二十層辺りに、少しだけ金属製ゴーレムの出現が確認されているらしい。

しかし、現在存在が確認されている地下二十一層に次ぐ深さだ。

しかも、王都近郊の迷宮は私達が持つ七層タイプの迷宮から比べれば、一層辺りの広さ自体も相当大きい。


 上層は冒険者の人数も多い為、魔物の数もそこまで多くは無い。

しかし、十層を超えると探索人数が極端に減る為に出会う魔物の数が倍増し、ルートが確定していても一層クリアに一日では済まなくなるのが常識だという。


 戦力的に十分なパーティーでも、単純な計算で往復一か月以上かかるこの行程。

更に、金属の塊を持ち帰れる量などたかが知れている。

即ち、どう考えても安定供給など出来る訳がないという訳だ。


 それに対し、エルナリアの迷宮には地上から六層まで直通の階段を入口付近に用意してある。

要は、目の前にアイアンゴーレムが居る階層へ直接へ行けるのだ。


 ただ問題点として、これだとより高額な素材目当てに無茶をする奴らが間違いなく出るのだが、各階層の入口に兵を置き、入場許可証の提示をさせる事で対応予定だ。

入場許可証代わりに使えるアイテムは、各階層ボスの固定ドロップに《迷宮創造》によって設定出来たので、上から順番に踏破しないと入れないようするのは簡単だった。

他人に譲渡すると効果が失われる機能もあるので、実力の無い者が持てない安心仕様だ。

因みに、亜人達が探索している迷宮のようなエレベーターは、まだ私達には作成不可能であった。


 この仕様にした理由は、ぶっちゃけ実力さえあればどこの迷宮よりも儲かるからだ。

他の迷宮ならば、実力があればある程適性の狩場まで遠くなるのが普通だ。

王城近くの迷宮がいい例だ。


 今回一般に解放する迷宮は一層が基本レベルを0~9の魔物にし、それ以降は一層毎に基本レベルが5づつ上がっていくシステムだ。

当然、冒険者を育成する為に段階を踏んでいる。


 因みに、0というのは魔物ではない餌用の生物なのだが、本当に0レベルなのかといえばそうではない。

大抵は草食動物が湧くために脅威にはならないというだけで、1~3レベルは普通にあり、一部の動物は10すら超える事もあるらしい。

まぁ、攻撃しなければ大抵は襲われないらしいので手を出さなければ脅威とはならない……はず。


 一層だけレベル幅が広い理由は、ぶっちゃけると六層で湧く魔物の基本レベルを30にしたかったという事もあるが、《迷宮創造》で同じ階層内でも基本レベルを5刻みでならエリア毎で分ける事が出来る為、比較的すぐ通り抜けてしまうであろう低レベル帯を一層の前半と後半で分けたのだ。


 このように冒険者を成長させながら、徐々に進めさせる最低限の仕組みは取り敢えず出来ている。

出現する魔物の種類もリセットを繰り返しながら調整し、この大陸に居ないもので素材的に使えそうな奴らをメインにしたので希少性もあり、冒険者を引き付けるには十分な価値を出せたと思う。


 本来ならばそろそろエルナリアの街にいる冒険者に対して開放する予定だったのだが、今回のヴァルツァー五爵のせいで延期されている。

もっとも、それももうすぐ終わるはずだ。

後は、エルナリア六爵の方で頑張って貰おう。


 因みにレックス達が休息時間内で狩りをしたいという事で許可を出してあるのだが、現在はここの六層をメインにして貰っている。

理由は、素材的な問題があったからだ。


 レックス達が狩る目的は金策……即ち、現金にしなくてはならない。

しかし、私やルークの迷宮には何故か珍しい魔物が多数混じっている……と言うより、珍しい方が多い。

王都近郊や老魔術師じじいの迷宮にもこの大陸以外の魔物はほぼ居なかった事から、どうやら私達の迷宮の方がおかしいらしい。

考えられるのは……魔素かな?


 そんな訳で、私達の迷宮内から適当に狩って行くと珍しいものが混じってしまうのだが、私はそれで若干苦い思い出を作ってしまっている。

その思い出とは、エルナリア領への帰り道で、盗賊と化したヴァツツァー五爵の手下共の為に食糧不足となっていた村人を助けた時の事だ。


 魔物の肉を加工した食糧と一緒に魔物の素材を置いて行った事が原因で、【迷宮の魔女】などという微妙な名前で噂が広がってしまっていたのだ。

村長から売却を依頼された素材を持ち込んだ商人から私のやったことが噂になり、いつの間にかそんな名前で呼ばれていた訳だ。


 私は顔を隠していたし、あまり情報を残していなかったので正体はバレてはいなかった。

しかし、レックス達がそんな物を王都で売れば即バレる……間違いなくだ。


 そこで、現在の六層での狩りに話は繋がる事となる。

いずれこのゴーレム産の鉄は、エルナリア迷宮の主な産出物の一つになるのは間違いない。

これを早いうちに軌道に乗せるため、一般の冒険者が六層にたどり着くまではレックス達が独占状態で狩って貰う事で、事前にある程度貯め込もうという訳だ。


 レックス達は硬い敵にも対応できるように、鈍器系の武器にもある程度精通している。

メンバーの中には、そちらの方が得意な人も居るくらいだ。

それに加え今回は魔法が使えるリリアーナの部隊まで同行しているため、このたった数日間で相当な成果を上げているとの事。


 レックス曰く、


「いや~、相手がレベル30付近で鍛錬にも丁度良く、一体狩るだけで恐ろしい金額が儲かるこの狩場を独占とか……笑いがとまらねぇな!」


だそうだ。


 事実、王都ではゴーレム一体分の魔法物質を含んだ鉄だと、とんでもない金額で取引されていた。

ここから大量に産出される事で流石に値段はそれなりに落ち着く事になるはずだが、それでも間違いなく通常の鉄の数倍は維持するだろう。


 そんな品を、八時間ある休息時間の二時間を使って狩っている。

それも、担当が変わる度に毎回行うために一日三回、計六時間も狩っているのだ。

予想売却額では、既に数年分の給料と同じだけ稼ぎ出した事になっているらしい。


 流石に今はまだ流通させられないのでほぼ全て保管してあるのだが、数体は王城にいる先生経由で早急に売却され、全員に給料の数か月分が渡る手はずになっている。


 ここで余談だが、私達は王都に初めて行った時に十数体分のアイアンゴーレムを鉄として売却している。

あの時の物は30レベルも無かったので、今回流通させる物程は高値はつかないはずではあるのだが……価値を知らずにただの鉄として売ってしまっていた。


 売却した相手も同様だったので普通にただの鉄として使っていたらしいのだが、ある時先生の部下がこの鉄で作られた品を発見したらしく、すぐに残りを全て買い取ったそうだ。

その時に当然売却した人間を捜索したらしいのだが、運良く私達は見つかる事もなく、その後を平穏なまま送っていたのだ。


 ……所詮は過去の話なので忘れよう、というか忘れるべきだ。

まぁ、今は先生という協力者も得たし、多少やりすぎてもどうとでも誤魔化しが効く。

なんせ、王国最高の錬金術師が隠れ蓑になってくれるのだから!




 ☆ ☆ ☆




 時々ドール一号の様子を確認し、亜人部隊にアイアンゴーレムの素材を確保して貰いながら延々と製作を作り続けた末……ようやくミルファからの連絡が来た!!


 すぐに王城へ向かうと、数名のお偉いさんに加えて第一王子まで待ち構えていたのは驚いた。

気にするだけ無駄なので、失礼にならない程度の挨拶だけしてメイドに案内された席に着く。


 どうも私待ちの状態だったらしく、すぐに報告は始まった。

……こんなお偉いさん達が居る席じゃなく、私は後で個別に教えて貰えればよかったのだが……。


 まぁ、そんな私のどうでもいい感想は置いておくとして、担当者からの最終結果で二か所にまで絞れたという報告が伝えられた。

その後で全体的な流れもあらためて伝えられたが、流石プロと納得させられるものだった。


 当然明日からも更なる情報収集は続けるのだが、正直な所これ以上は厳しいとの見解もでている。

状況次第ではあるが、二か所同時の襲撃を想定して準備といった感じになるだろう。

うん……余裕かな!

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