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裏・代役勇者物語  作者: 幸田 昌利
第四章
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93◆エルナリア邸からの避難に関するあれこれ6

 ルークの装備に二種類の素材を使う事にしたのだが、通常の縫いつける方法は強度的に納得できない為、この二つの素材を接着出来ないかと考えたのが事の始まりだった。


 まず試したのは、粘着性のある蜘蛛の糸から作りだした中間素材を作り出し、二つの素材を貼り合わせた後に蜘蛛の糸を《錬金術》を駆使して固めてみた。

普通に固定出来たし、特に問題も無い様に見えたのだが……残念ながらしばらく衝撃を加え続けると剥がれ落ちてしまった。


 理由を調べた所、付与魔法で強化された素材に対して蜘蛛の糸由来の接着素材が表面に貼りついているだけとなっていた為、硬くなった段階で窓ガラスに吸盤をくっつけた様な状態になっていた様だ。


 今度はその事を踏まえ、接着素材にしている蜘蛛の糸由来の物に魔素を流しながら土属性を付与してみた。

結果、蜘蛛素材に流した魔素が土属性を得ながら両素材の接触部分を侵蝕し、完全に融合させる事に成功した。

予想はしていたのだが、見事なまでに上手く行ったので笑みがこぼれたものだ。


 因みに、完成した品を調べた結果、高密度の魔法物質である魔素が上手く働いた結果だと判った。


 魔法物質は純粋な状態だと肉体や物を通過してしまうので、魔法具を作る際には魔法物質が停止した状態で留まっている物が望ましい。

魔法物質の留まっている素材で一般的な物は魔物素材となるが、通過できるとはいえ地中等で物質の密度が高い所に長い年月存在していた魔法物質は、動きが鈍くなって物質内に安定した状態で存在している物もある。

そういった物は宝石や貴金属等に比較的多いのだが、魔物素材から比べると圧倒的に量が出回らない為に高価である事が多い。


 魔物は魔法物質を生命活動の一部として使っている者が多く、それ故に本来通過してしまうそれらを捕獲出来る肉体構造を持っており、捕獲された魔法物質が蓄積している部位を素材として使っている訳だが、捕獲されている魔法物質に属性や特性を与えて変化させる事によって更に位置を安定させる事で魔法具等に使用しているのだ。


 そして、そうやって属性を持たせて位置固定されている状態でも隙間はある為、フリーの魔法物質は普通に通過して行く。

逆に、固定段階で属性や特性を混ぜた場合なら問題なく存在できるのだが、流石に固定化された後では他属性の侵入を拒んでしまう。


 イメージとしては、属性という袋に包まれた状態になっている感じかな?

フリーの魔法物質はこの袋に開いた大きな穴を通って素通りできるが、他の袋に入った魔法物質は袋同士が干渉してしまうと言う訳だ。


 そこで今回の成功談になる訳だが、先に存在する魔法物質よりも圧倒的に濃密な魔法物質が押し寄せたらどうなるのか?

答えは……勢いがあれば壊されて押し流される事になるだろう。


 しかし、ゆっくりと押し付ける様にしてみたら?

袋とはいっても穴だらけの袋だ。

その穴に植物が根を張る様に侵蝕して行く事も……出来たという訳だ。


 そういう訳で、蜘蛛の糸由来の素材に魔素を流せばどうなるか? といえば、当然隣接した加工済みの素材側へも広がっていく。

先に加工した素材にも加工時に魔素を込めてあるとはいえ、それよりも密度の高い魔素があれば侵蝕される上、土属性で強化された魔素がゆっくりとした速度で押し寄せてくるのでジワジワと隙間に侵入されてしまう。

結果として、二つの素材の表面付近に土属性で強化された魔素のくさびが無数に突き刺さっている状態になっていたのだ。


 この楔をどこまで侵食させれば一番強度を増すのかを調べるのは今後の課題とし、取り敢えずはこのテストと同じ魔素の量で固定する事によって問題の無い効果が得られたので、ルークに渡した物はこのテスト時の物と同じになっている。

今回の件が落ち着いたら、他属性に影響を与えないで最大の侵蝕が出来る魔素量のテストしようとは考えている。

侵蝕させ過ぎると他属性の方が機能しなくなるからなのだが、今は時間が勿体無いので放置しておこう。


 さて、問題の装備自体の性能についてなのだが、相手が判明しているので選択は楽だった。

炎の王女として有名なメリルリアナ王女に対してならば、当然火と土属性が有利だ。

本来ならば魔法物質系攻撃全般に有効な水属性でも良いのだが、今回の用意出来る水属性素材だと火属性素材に比べて魔法防御も含めても火耐性が五割程度になる事が予想されている為、ここは確実線で火属性素材にした。


 何故ここまで火属性と水属性で違いが出るかと言えば、水棲の魔物をあまり狩っていない上、火属性に適した良い素材が手に入ったからという点が大きい。

その素材とは、老魔術師じじいの迷宮に居たソードドラゴンと同じ亜竜種で、実家にある固定迷宮の七層にボスとして出現していたのを発見した奴だった。


 名前はファイアドレイク。

名前の通り、火に強い亜竜だったので素材の為にありがたく鱗を剥いで来た。

当然だが、剥ぎ取ってはいるが殺してはいない!

勿体無いからね!!


 この亜竜の出現条件なのだが、爬虫類系の階層に湧いた訳でもないので現在は謎となっている。

何らかの条件でボスとして亜竜種が選択される可能性があるのだとは思うのだが、今の所はルークやリーナの迷宮を含めてこいつしか出現して居ない。

老魔術師じじいの所のソードドラゴンが同じ迷宮に居る中でも明らかに別格の強さだった事を考えると、おそらく亜竜種は強い代わりにレアな存在なのだろう。


 まぁ、条件は不明だが湧いた事は事実なので、有り難く素材を頂いた。

迷宮の主である私に対して無抵抗な事をいい事に、サックリと《スティールMP》で昏倒させ、痛みすら認識できないうちに鱗を剥ぎ取った。

丁寧に剥ぎ取ってはいるのだが、どうしてもある程度は出血してしまうので即魔法で治しておいた。


 当然ではあるが、私の魔法程度では傷は塞がるのだが鱗等の欠損部位は再生できない。

もっと上位の魔法が必要だ。

そこでゲルボドの《快癒》に頼る事になるのだが、《快癒》の欠点は全てが急激に治る代わりに効果時間内に欠損部位の素材となる物質を供給しないと駄目な点にある。


 この世界の上位魔法の場合は、再生がゆっくりではあるが魔法物質を変異させていくのでそういった条件は無い。

場合によって使い分けを出来た方が当然良いので、私も早く使えるようになりたいものだ。


 因みに亜竜の鱗なのだが、実は魔法で再生させなくてもそのうち元の状態に戻るらしい。

しかし相当な時間がかかるようなので、再生には期待はせずに強引に治した方が良いと判断し、《錬金術》を駆使して構成素材を調べた結果、メインはカルシウムと数種類の金属である事が判った。

カルシウムは魔物の骨から抽出可能であり、金属に関しては鉄がメインでその他も王都で何とか調達可能な品だったので、それらを与えてからゲルボドに頼んで再生してある為現在は無傷となっている。

鉄以外の金属素材は魔法物質が含まれていない普通の素材だったのだが、特に問題は無いようだった。


 まぁそんな訳で、この亜竜は今も健在だ。

先の勿体無いと言う発言でも分かる通り、こいつには色々と使い道があるからである。


 まずは素材として。

今回の件が終わった際にレックス達にもルークの装備と同じ素材で作った物を渡そうと考えている為、間違いなく何回も再生させて剥ぎ取らなくてはならないだろう。

因みに、故郷の迷宮四層で亜人部隊が回収してきた金属ゴーレムの中に、鱗の再生に使える金属が幾つかあったので今後はそれを使う予定でいる。


 次に《迷宮の虜》を使用して、従魔として使役する事だ。

現状は一郎達で連れ出せる定員が埋まっている事と、迷宮内で放置する事によるレベルアップを狙っている為にそのままにしてあるというのが理由となっている。

とにかく図体が大きい為に使い所が難しい為、このまま有効な使い道を思いつくまでは保留でもいいだろう。


 そんな訳でルークには一新した防具一式を渡し、他にも幾つか便利な魔法具を作って持たせてあるのでそれで頑張って貰う方向でいる。

不安材料であるMP不足に関しては、MP補給専用の魔石を十個一セットにしてプレートに固定した物を結構な数作成してある。

因みに、十個というのはルークが魔石を直接見ないで位置を個別認識出来る最大の数なので採用した数だ。


 プレートを交換するという思考と《ショートカット》からの魔法だけでMPを回復出来るため、隙の少ない回復手段となっているので満足がいく出来と言える。

ルークもプレートに手を触れないで《アイテム》へ出し入れする事にも慣れ、専用の固定具への交換も失敗する事無く出来る様になっていた。

多少強引ではあるものの、MP不足という欠点はある程度クリア出来たと言えるので、是非とも今後は魔法に関しても頑張って貰いたいものだ。


 それでは、今日も私はリーナと一緒にサクサクと作業を進めていこう。

今日の目標は設置する予定の全部屋に《危険感知》の魔法具と捕獲用魔法具を付ける事だ。

亜人部隊共々、頑張っていくとしましょうかね。

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