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リセット  作者: 若葉月
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現実

次の日の授業中。退屈な先生の話を聞いているだけの眠たい授業は基本受けない。出席はしてるしノートもとるけど、もっぱら携帯で小説を書いている。思いついたときにいいものを仕上げることもあるけれど、大概は落書き程度だ。ぼくの理想を詰め込んだくだらない夢物語。

主人公は容姿端麗、成績優秀、運動神経抜群の優等生。そんでもって現実世界にいながら特殊な能力を持っている完璧な主人公。今書いているのは小学生の時に完成させた殺し屋が主人公の物語。彼の中にはもう一つの魂が宿っていて一つの体を二つの魂が共有しているという特殊な設定を設けている。殺し屋最強の男の話。


「お、これリメイクしてんの?できたら読ませて!」


昼休み、授業中に区切りのいいところまで書き上げたものを悠真にメールで送ったらものすごい長文で褒めちぎられ、昼休みに突撃されたというわけだ。一度一番最初のものを読ませたらとても気に入られた。だからこそ、リメイクしようと思ったのだけれど。

悠真のお気に入りはこの主人公らしい。主人公らしい主人公でとても格好いいんだそうだ。それと、扱いやすいとも言われた。悠真も自分の世界観を持って時々書いたりしている。まあ、書けないっていっていつも想像で終わらせているけど。その想像でぼくのキャラを使って物語を進行していたりするから、殺し屋の彼は主人公とかヒロインとして動かすのに重宝しているらしい。それならそいつ使って物語り仕上げろよって言ったけど、無理って問答無用で断られた。理由が『上手く書けないし、上手い具合に扱えないから』だそうだ。いや、いつも頭の中で動かしてるんじゃないのかよ。


「いやいや、それとこれとは話が別だって。文にして書き起こすって言うのは本当に大変でうまくいかないもんなんだって」


「そんなもんか?」


「そんなことより、この話聞かせろって」


机の上にお弁当を広げながらリメイクした物語のあらすじやキャラの詳細などをねだられた。話していく内にお互いに火がついてどんどん話しが広がっていった。しまいにはお互いの世界を混同したところまでいってしまった。歯止めがきかなくなるのはいつものことだ。うん、実に楽しい。

午後の授業は話しの続きも思い浮かばなかったから妄想して過ごした。頭の中で想像するのは、すでに存在しているアニメや漫画、小説の中に自分をキャラ化して登場させることだ。これがなかなかに楽しい。知っているストーリーをなぞりながらちょこちょこ自分のオリジナルを織り交ぜて進行させていく。こうしているだけで時間はあっという間に過ぎていく。なんて、そんなことをしているせいか最近妙なことが起きる。


「      」


ほら、まただ。声が小さい上に唐突に聞こえるからなんて言っているのか把握できないが、いつも知らない人の声がする。振り返っても辺りを見回してもみんな授業に集中しているか寝ているか好き勝手なことをしている。ぼくに気をやっている奴なんて一人もいない。これは、空耳だ。妄想にのめり込みすぎて頭の中で再生している声が現実のように聞こえてしまっただけにすぎない。すごい危ないことなんだろうけど、とくになにか支障があるわけでもないからすぐに忘れる。帰り道も悠真と時間が合わないときは妄想しながら帰っているし、そのせいもあるんだろうな。

それにしても、現実のように妄想していた声が聞こえるなんていよいよ末期だな。こんな話をしても悠真は笑うだけだろうから誰にも言わない。悠真以外の人に言うなんて論外だしな。正気を疑われておしまいだ。無駄に高いプライドのせいでバカにされるのだけは我慢ならない。ほんと、何の取り柄もなく何も出来ないクズのくせにな。

放課後、部室のない文芸部はパソコン室に入り浸っていた。パソコンに向かって執筆している人もいるけれど、大概は仲のいい人同士でお喋りしたりゲームをして遊んでいる。ぼくと悠真は隣同士の席に座って互いにパソコンを起動していた。小説の続きを隣同士で書きながら、時々覗き込んだりして話し合う。書き終わったものは必ず一番最初にお互いに見せ合う。そうして誤字脱字やおかしなところを見つけては指摘しあって訂正する。一通り終わればお互いの妄想を語り合って次のなりメの内容を決める。今が一番と思えるほどに楽しい時間。


「…………」


「え?」


誰かに呼ばれた気がして振り返る。けれど、部員のみんなはそれぞれのことに没頭していてぼくらに見向きもしていない。突然振り返ったぼくに不思議そうな視線を向ける悠真。


「どうした?」


「いや、今誰かに呼ばれた気がしたんだけど…」


「ふーん?なんにも聞こえなかったけど、気のせいじゃない?」


思い出すように一拍置いてから返答してくる悠真。彼には何も聞こえなかったのか。周りの人達にも聞こえていなかった様子だ。悠真には気のない返事を返した。妄想話の続きを悠真は語っていたけれど、ぼくはそれどころではなかった。なにやら、とても胸騒ぎがした。

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