表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

まったりシリーズ

ダウト~偽りの生徒会長~

作者: 天川 七

 生徒会室で、生徒会長である橘翼たちばなつばさは、役員達ににっこりと笑みを浮かべた。

「お疲れ様でした。今日の部はこれで終了です。皆がいてくれて、とても助かったよ」

「そんな、会長お礼なんていいんですよ」

「そうだよ、お前が一番頑張ってたじゃんか」

「会長の為なら、私まだまだ頑張れますから!」

 素直な役員達の言葉に、翼は穏やかに微笑んだ。

「そうかい? 僕一人じゃあ、とてもこの量を裁ききれないからね。本当にありがとう。あぁ、戸締りは僕がするから、君達は先に上がっていいよ」

 翼が席を立つと、全員が帰り支度を始める。そして次々に生徒会室を出て行く。

「お疲れ様でしたー」

「会長、また明日っ!」

「お疲れっした」

 全員が出て行くと、翼は深くため息を吐く。そして、ゆっくりと椅子に腰を下ろした。

「……ったく、優等生も楽じゃねぇぜ」

 ガラリと変わった口調を聞くものはいない。

 翼は元々こちらの方が素なのだ。だが、ある事情から猫を通り越して、特大の虎を被っている。

 もちろん、この正体を知るものは生徒会にも、生徒の中にもいない。

「生徒会なんか入るもんじゃねぇな」

 伊達眼鏡をはずし髪をくしゃりとやると、随分と印象が変わる。優等生然としていたものが、今時の高校生に大変身だ。

 今度は一日中首を絞めていたネクタイを取る。それから制服の前を二、三個開くと、ようやく息が出来た気がした。

 本当は常に着崩したいのだが、生徒の見本となるべき生徒会長が、まさかそんな格好をするわけにはいかない。なので、誰もいない時を見計らってこうして息抜きをしているのだ。

 その時、ふいにドアがガチャリと鳴り、止めるまもなく、少女が顔を出す。

「す、すみません。会長、忘れ物──」

 彼女はそこまで言うと目を見開く。

 大人しそうなこの少女は、確か一年生の坂峰鈴さかみねすずだったはずだ。

 翼は舌打ちをして、鈴を無理やり引っ張り込むと、後ろ手に鍵をかける。

「えっ? えっ?」

「見ーたーなー?」

 混乱している鈴に、翼はおどろおどろしく近寄る。すると、彼女は半泣きでへたり込んだ。

 そしてぱかりと口を開くと、か細い声で助けを求める。

「た、助けてくださいっ! どこですか、かいちょうぅっ!!」

「はっ?」

 助けを求められたのはなんと、自分だった。

「あ、あなた誰ですかっ!? 会長はっ? 会長をどこにやったんです!?」

 しかも、彼女は翼のことをまったく気付いていないらしい。

「さっきまでここにいたはずですっ! はっ、ま、まさか、あなたが食べたんじゃっ!?」

 混乱しているのか、突拍子もないことを言い出す鈴に、翼は噴出すのを堪える。

「く……っ」

「くっ?」

 しかし、びくびくしながら首を傾げる少女に、翼の腹筋はとうとう限界に達した。

「あっはっはっはっはっ!!」

「えぇっ!? なんで大爆笑!?」

 突っ込みつつも怯えるという器用なことをやってのけた彼女は、どうやら本気でわかっていないらしい。

 翼は、害がなさそうな鈴なら自分の秘密を守れそうだと判断して、正体を明かす。

「わからないかな? 僕だよ?」

「え? えぇぇぇーっ!?」

 眼鏡をかけながら、にっこり笑ってやると、彼女は大きな目を落ちそうなほど見開いて驚いてくれた。

「か、会長ですか?」

「そうだよ?」

「ほ、ほんとに?」

「あぁ、もちろん」

「ふ、双子とかじゃなくて?」

「く……っ、オレに双子はいないぜ?」

 こんなに笑ったのは久しぶりだ。なにしろ、毎日虎を被っていないといけない立場なので、馬鹿笑いもやすやすと出来やしない。

 自分の笑いのツボを押しまくってくれる鈴が、翼はすっかり気に入ってしまった。

「……いいな、お前」

「はい……っ?」

 不穏な言葉だとでも思ったのか、鈴はべったりと壁に懐く。

「そんな泣きそうな顔するなよ。もっと苛めたくなる」

「ひいぃぃっ!」

「冗談だって。……半分な?」

「わ、わ、私は何も聞いてませんっ! 私は何も見てませんっ!」

 あわあわと逃げ惑う鈴は、中々可愛らしい。

 翼はにやりと笑うと、鈴に近寄る。そして、へたり込んだ彼女をぎゅっと抱きしめる。

「はわわわわっ!」

「おら、大人しくしろ」

 小さな彼女はすっぽりと腕の中に納まるサイズだった。ジャストフィットな鈴は、ふわふわと柔らかい。

 ──いいもの見つけたな。

 怯える彼女は大変愛らしく、日頃の疲れも癒される。

「オレなぁ、中学の時にちょっとばかし問題児でな。高校でこの学校に入る時、条件がつけられたんだよ。それが、真面目な振りして生徒会長に上り詰めることだったわけ。だから、誰も本当のオレを知らない。お前以外は、な。この秘密、守れるよな?」

 低い声で耳元に囁いてやると、鈴は壊れた人形のように何度も頷く。

「は、はいぃぃ! 誰にも言いませんし、二度と近づきませんっ。だからもう離してくださいぃ!」

 二度と近づかないの一言に、翼はぴくりと眉を上げた。そして、もう一度耳元に囁いてやる。

「オレ、お前が気に入っちゃった。これからよろしくな?」

「いやぁぁぁ!? カムバッーク、純白の生徒会長っ!」

「く……っ、やっぱいいな、お前」

 じたばた暴れる鈴を抱きしめて、翼はご機嫌で彼女を愛でたのだった。


エイプリルフールにちなんで書いてみたのですが、いかがでしたか?

翼の素晴らしい生徒会長振りに思わずにやりとなったなら、貴方は副会長に誘われるかもしれません。

自分はならなかったしと思ったそこの貴方!

そんな心優しい貴方には、不憫な鈴がぜひとも友達にと申し出るかもしれません。


では最後に、読んでくれた貴方が、何かを感じてくれたなら嬉しいかぎりです。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ