狼に変わる旦那様、離縁状をくわえてこないでください
「待ったは一度までのはずだ、クロエ」
「まだ駒には触れておりません」
「三度、手を伸ばした」
「考えるのは何度でもよろしいでしょう」
夫は笑いをこらえる時、唇の端だけを少し上げる。
私はそれを見るのが好きだった。自分が負けそうな時でなければ。
ギルベルト公爵に嫁いで三週間になる。
冷酷で気難しく、笑顔を見た者がいないと噂の夫は、毎晩私と盤上遊戯に興じていた。昨夜までの成績は私の十八敗。引き分けすらない。
実家では父にも兄にも勝っていたので、最初はたまたまだと思った。五敗した頃には相性の問題を疑い、十敗目でようやく夫が強いのだと認めた。
だからといって、負けてよいわけではない。
「そこまで悩むなら、明日に持ち越そう」
夫は壁の時計を見た。
夜半を過ぎていた。侍女のヘルガがお茶を替えに来て、今度は私のカップにだけミルクを多く注いだ。
眠る時間だと言いたいらしい。
「この盤面のままで?」
「誰にも触らせない」
「私がいない間に、駒を動かしませんわね」
「そんなことをしなくても勝てる」
私は夫を睨んだ。
彼はとうとう笑った。冷酷な公爵の笑顔を見たいだけなら、私を夜更かしさせればいい。
白い駒が私、黒い駒が夫。
今は私の手番で、盤の右端には彼の騎士がいる。その駒は取れる。けれど、取ってしまえば中央を守る私の駒が一ついなくなる。
前にもそれで王を追い詰められた。
今度こそ、あの騎士に手を出さずに勝ちたい。
「では明日の夜、同じ時間に」
私が立つと夫も腰を上げた。
左手の銀の指輪を、右の親指でくるりと回す。
難しい手を考える時の癖だった。盤から離れた今もしているのが気になったけれど、私は明日の勝ち方を考えるので忙しかった。
「クロエ。君に、話しておくことがある」
「盤の攻略法でしたら、伺いません」
「そうではない」
夫は指輪から手を離した。
私は続きを待ったが、彼は窓へ目を向けてしまった。
「……明日、話そう」
「忘れないでくださいませ。勝っても負けても」
夫の腕を取って廊下へ出た。
彼は私の歩幅に合わせ、寝室まで送ってくれた。扉の前で手に口づけるのも、いつものことだった。
明日は私から頬にしてみようか。
勝てたら、きっと気分よくできる。
◇
ところが翌晩、夫は来なかった。
私は小広間で本を読み、冷めた紅茶を飲み、もう一度同じ頁を読み直した。
盤は昨夜のまま。右端の騎士も動いていない。
「旦那様は、お加減でも悪いの?」
尋ねると、ヘルガはお茶を注ぐ手を止めた。
「書斎にいらっしゃいます」
「呼んできてくださる?」
「今夜は、お会いにならない方がよろしいかと」
私は本を閉じた。
その言い方では、会いに行かずに済むはずがない。
廊下へ出ると、ヘルガも後ろからついてきた。
どういうことかと尋ねても、旦那様からお聞きになるのが一番ですとしか答えない。書斎の前で呼びかけると、中で椅子を引くような音がした。
「ギルベルト様。お約束の時間を過ぎております」
返事はなかった。
もう一度叩こうとしたら、扉がこちらへ開いた。
大きな狼がいた。
銀色の毛が灯火を受けて光り、肩の高さは私の腰ほどもある。灰色の目が私を見上げた。
口には一枚の紙をくわえていた。
私は一歩退き、ヘルガの腕をつかんだ。
狼の背後へ目を走らせる。誰もいない。窓辺の椅子に夫の上着が掛かり、机の上には眼鏡と銀の指輪が置かれていた。
「……旦那様は?」
「こちらに」
ヘルガは狼へ目を向けた。
私も見た。狼は紙を落とさないまま、気まずそうに耳を伏せた。
「ご当家の血筋でございます。旦那様は満月の夜だけ、このお姿になられます」
廊下の窓から丸い月が見えた。
もう一度、狼を見る。
「ギルベルト様?」
狼が頷いた。
その拍子に、紙の端が揺れた。
「お言葉は話せませんが、奥様のお話はすべてお分かりになります。お心も普段の旦那様のままで。夜が明ければ元のお姿に戻られます」
ヘルガの説明は、あまりに落ち着いていた。
私だけが、ひどく場違いな顔をしている気がした。
狼は私に近づこうとして、つかまれたままのヘルガの腕へ目をやった。それから足を止め、紙を持ち上げた。
「それを、私に?」
頷く。
私は片手を伸ばした。紙の端をつまむと、夫はそっと口を開けて放してくれた。
白い紙には二つの歯形と、夫の見慣れた署名があった。
離縁状だった。
驚きすぎると、本当に声が出なくなる。
持参金の返還。住まいの用意。今後の生活に不自由のないように、と続く文面を読み、最後に空白の署名欄を見た。
そこへ私が名前を書くようになっていた。
「昨日、お話があるとおっしゃったのは、これですか」
狼は少しためらって頷いた。
私にとっては、姿が変わることより、こちらの方がよほど分からなかった。
「十八回も負かしておいて、お別れするおつもり?」
狼が顔を上げた。
「昨夜、明日もいらっしゃるとお約束したでしょう」
返事の代わりに、喉の奥で低い音がした。
体が少し強張った。狼はすぐに口を閉じ、顔を背けた。
私は紙を握る手から力を抜いた。
怖くないと言えば嘘になる。けれど少なくとも、この人は私を怖がらせないようにしている。
「怒っているのでは、ないのね」
彼はゆっくり頷いた。
「なら、今はお声を出さなくて結構です。何がおっしゃりたいか、余計に分からなくなりますから」
私はようやくヘルガの腕を放した。
◇
「私が嫌いになったのですか」
狼は大きく首を振った。
その勢いに少し安心したけれど、ではなぜこんな紙を出したのかは分からない。
私は離縁状を裏返した。こちらには何も書いてなかった。
「理由くらい書いてくださればよかったのに」
夫の目が泳いだ。
紙の端を引こうと鼻先を寄せ、途中でやめる。取り返したいのか、もう一度読めというのか、それさえ分からなかった。
「筆をお持ちしましょうか」
ヘルガが聞いた。
私は夫の前足を見た。大きな毛の塊の先から、爪が少しのぞいている。
「それで書けるの?」
「以前、お試しになりました。机が傷だらけになりまして」
夫がヘルガを見た。
声はなかったが、言うなと聞こえた気がした。
「では、お話は朝に伺います」
離縁状を畳む。
紙が鳴るたび夫がこちらを見た。私は紙を持ったまま小広間の方を指した。
「その前に、昨夜の続きを」
夫は動かなかった。
「忘れたとは言わせません。あなたの騎士を取るべきか、私は午後いっぱい考えていたのです」
灰色の目が私を見つめた。
戸惑っているのは分かる。私だって戸惑っていた。夫が狼になったことも、離縁状を渡されたことも、まだうまく飲み込めない。
けれど昨日の勝負が終わっていないことは確かだった。
「私が勝ったら、その紙を撤回して――」
言いかけて、やめた。
そんな条件をつけたら、十九敗目と引き換えに屋敷を出ることになる。最初の一勝もしていないのに、ずいぶん分の悪い賭けだ。
「いいえ。これは賭けません。朝、あなたのお話を聞いてからです」
夫の耳が少し立った。
「盤の上では、いつもどおり勝ちにいきますからね」
私は向きを変えた。
数歩進んでも足音がしないので振り返ると、夫はまだ書斎の戸口にいた。
「来てくださらないの?」
今度は少し、声が小さくなった。
明日は私から口づけようと思っていた人が、昨日よりずっと遠くに見えた。
夫は床へ目を落とした。それから戸口を出てきた。
爪が床石を踏む音が、私の後ろをついてきた。
小広間に戻ると、夫は扉の前で止まった。
いつもの椅子と、自分の足を見比べている。
私はヘルガに低い卓を出してもらい、二人で盤をそちらへ運んだ。駒が倒れないよう両側を持ち、ゆっくり下ろす。
「ひとつくらい動いていても、気づかないのでは?」
夫はこちらを見た。
私は笑った。少なくとも、今の目の意味は分かった。
「冗談です。ずるをして勝ってもつまらないでしょう」
離縁状は畳んだまま、盤から離れた脇机へ置いた。
私は敷物の上に座り、向かいの場所を掌で叩いた。夫はしばらく私と盤を見比べていたが、やがて黒の側へ回り込んだ。
大きな体を横たえると、銀の毛の向こうに卓の脚が隠れた。
「お茶は、どうなさいますか」
ヘルガに聞かれ、私は夫を見た。
彼は首を振った。私は自分の分だけ頼み、それから侍女へ少し身を寄せた。
「ヘルガ。お水なら飲める?」
「いつも、浅い器をお使いです」
「では、そちらをお願い」
侍女が下がると、部屋が急に静かになった。
火のはぜる音と、夫の息遣いがする。
私は膝に触れそうな前足を見た。昨夜まで、同じ場所に夫の靴の先があった。盤を覗き込むと時々触れて、私は気づかないふりをしていた。
「本当に、全部お分かりなのよね」
夫が頷く。
「では今朝、私が朝食のジャムをこぼしたことも?」
また頷く。
ついでに、私の口元へちらりと目をやった。
「そこについていたのは、もう知っています」
あの時、夫は私に何も言わずナプキンを渡した。今も似たような顔でこちらを見ている。
私は肩の力を抜き、盤へ向き直った。
「私の手番からでしたわね」
夫が黒の駒へ鼻を近づけたので、すぐに制した。
「まだです。考えている途中」
鼻先が下がった。
意外に大きく、息を吐く音がした。
「ため息も、お上手ですこと」
私は取れる騎士を見ないことにして、中央を守る駒を動かした。
◇
夫は盤を覗き込み、前足を持ち上げた。
厚い肉球が駒へ近づく。
「待って。ご自分で動かしたら、周りの駒まで倒れそうです」
前足が止まった。
「私が動かします。どれを、どこへ?」
夫は黒い駒の一つへ鼻を寄せた。
私が持ち上げると、今度は空いている升目を見る。そこを指で示して尋ねると、彼は頷いた。
「ここですね。では、こちらへ」
駒を置く。
それだけで、夫に仕えているような気分になった。自分の王を追い詰める手伝いまでしているのだから、ずいぶんよくできた妻だ。
右端の騎士には触れず、守りを固める。夫は反対側の駒を示した。
私は指示どおりに動かし、すぐ次の駒へ手を伸ばしかけた。
鼻先が、私の指を押し戻した。
冷たかった。
普段なら「考え終わってから手を伸ばせばいい」と返されるところだ。
私はその鼻先を指で軽く押し返した。
「そういうご注意は、明日まとめて伺います」
夫は驚いたように目を開いた。
私は何事もなかった顔で駒を進めた。
しばらくして、夫が次の手を考え込んだ。
黒い駒を見比べ、私の側へ目を移す。
大きな前足がもう片方の前足に重なり、何かを探すように爪先が動いた。
「指輪なら、書斎です」
夫が顔を上げた。
「難しい手を考える時、いつも回していらっしゃるでしょう。ようやく私にも、あなたを悩ませる手が指せたようですわね」
私は隠さず笑った。
夫は前足をきちんと並べ直し、盤に向き直った。
肩の毛が少し盛り上がった。
「悔しい時に黙る癖も、そのままですのね」
今度は長くこちらを見た。
私も見返した。
やがて夫が先に盤へ目を戻したので、私は勝った気になった。
ただし、そちらの勝負だけだった。
数手後も、右端の黒い騎士が私の守りを脅かしていた。
中央は固めてある。以前のように飛び込まれても大丈夫。そう思っていたのに、夫が次に示したのは反対側の塔だった。
私が彼の指示どおりに駒を置くと、自分の王の逃げ道が一つ消えた。
「……あら」
盤の右端を見た。
取らなかった騎士はまだそこにいる。それを警戒して駒を寄せたせいで、今度は左の守りが薄くなっていた。
「騎士を取ると思っていたのでは、ないんですか」
夫は首を振った。
「取らないと分かっていて、置いておいたの?」
頷いた。
私は盤を睨み、夫を睨み、もう一度盤を睨んだ。
「昨日から?」
また頷く。
私は両手で顔を覆った。
午後いっぱい考えた時間を返してほしい。
それでも諦めきれず王を逃がした。
夫が次の駒を示す。私はそれを動かしてから、しばらく自分の王を見つめた。
どこへ動かしても、助からなかった。
「負けました」
十九敗目を認めると、夫はゆっくり顔を上げた。
いつものことながら、実に腹の立つ落ち着き方だった。
私は白い王を倒し、深く息を吐いた。
夫も息を吐いたが、こちらは勝った後とは思えないほど長かった。その視線が脇机へ動く。
畳んだ離縁状が置いてあった。
「もう一局」
顔を上げた夫に見えるよう、私は白い駒を並べ始めた。
「今度は最初からです。あなたが黙っている分、私も少しは集中できるでしょう」
彼は動かなかった。
「……お疲れですか」
首を振る。
「では、よろしいでしょう。私はまだ、あなたと遊んでいたいの」
そう言ったら、夫はようやく盤へ顔を戻した。
黒い駒を片づけようとする私の指に鼻先が触れ、止まる。私が手を引かずにいると、彼はそっと頬を寄せた。
銀の毛は、見た目より温かかった。
ほんの一瞬触れただけで夫は離れ、何事もなかったように並びかけの駒を見た。
「今ので、手加減すると思わないでくださいね」
夫は長い息を鼻から抜いた。
どうぞご心配なく、と聞こえたのは私の勝手な想像だ。
その後、私は二十敗目を喫した。
二十一敗目をどうにか免れようとしている頃には、時計の針はずいぶん進んでいた。
夫は相変わらず容赦なく駒を取り、私のうっかりした一手を見逃さなかった。
こちらを慰めようとして負けてくれたら、たぶん私は腹を立てただろう。
けれど勝たせてくれないのも、やはり腹が立つ。
「あなたと遊ぶのは、本当に忙しいわ」
私があくびを噛み殺すと、夫は盤と私の顔を交互に見た。
やめるか、と聞かれている気がしたけれど、私は首を振った。
「決着がつくまでは眠りません」
そう言ってすぐに、王を追い詰められた。
◇
窓の外が白む頃、ヘルガがやってきた。
私たちを見ても驚かず、夫へそっと声をかける。
「お着替えは、隣室にご用意しております」
夫が立ち上がった。
大きな体が盤の向こうから消えると、急に部屋が広くなった気がした。
私は足を伸ばし、ようやく敷物から椅子へ移った。立ってみて初めて、腰が固まっていたことに気づく。
ヘルガが温かいお茶を注いでくれた。
「旦那様は、お強うございますね」
「嫌になるほど」
侍女は笑い、空いた器を下げていった。
ほどなく隣室の扉が開いた。
銀の毛も長い鼻もない。シャツの襟元を整えながら、いつものギルベルト様が入ってきた。
ただ、書斎から戻してもらった指輪をはめる手が、少し落ち着かなかった。
「クロエ」
一晩ぶりの声だった。
私はカップを下ろした。
「ようやく、お返事を伺えますわね」
「まず、謝らせてほしい」
夫は向かいへ座った。
「結婚する前に話すべきだった。分かっていたのに、君を失うのが怖くて、言い出せなかった」
「なぜ離縁状を?」
「姿を見てからでは、私に申し出ることさえ怖いだろうと思った。私の署名があれば、君はいつでも……」
そこで言葉が止まった。
夫は膝の上で手を握り、脇机の紙を見た。
「本当は、使ってほしくなかった」
私はそれを取って卓上へ置いた。
折り目を開くと、端に残った歯形がよく見えた。
「だったら、その一言も書いてくださいませ。私には、あなたが私を追い出したいように見えました」
「すまない」
夫は俯いた。
指輪を回そうとした右手を、左手で押さえている。
「昨日も、話すつもりだった。君が明日の勝負を楽しみにしているのを見たら、また延ばしてしまった。こんなふうに過ごせるのは最後になるかもしれないと思って」
「私も、楽しみにしていましたよ」
顔を上げた夫に言った。
「今日は勝てるかもしれない。勝ったらどんな顔をなさるかしらって。あの騎士を取らずに済む手も、ずっと考えていました」
「知っている」
「ご存じだからこそ、さらに罠をお張りになるんですものね」
夫の唇の端が少し上がった。
私はその顔を見て、大きく息をついた。
「狼には驚きました。唸られた時は、怖かったわ」
笑いかけた顔が曇る。
「でも、あなたが来なくて、今夜はもう遊べないのかと思った時の方が寂しかった。お会いできて、ほっともしていたんです」
夫は私を見つめた。
「君は、昨夜も楽しめたのか」
「三回とも負かされましたけれど」
「それは、すまない」
「そちらは謝らないで。次は私が勝ちますから」
彼は少し笑った。
それから笑みを収め、私の方へ身を乗り出した。
「私は、君と暮らしていたい」
朝の光の中で聞く声は、夜会で誰かに命じる時より低く、小さかった。
「君が明日の勝ち方を考えながら眠り、夕食になると私の顔を見に来る。そんな毎日が、この先も続いてほしい。来月も、その先の満月にも」
私は眠い目を瞬いた。
夫は逃げずに見返してきた。
「君が好きだ、クロエ。帰らないでほしい」
私は手を伸ばした。
夫の左手を取り、落ち着かない指輪を一度だけ回してから、指を絡めた。
「私も、あなたが好きです。おかげで毎晩、負けた後もお顔を見たくなるの」
彼の手に力がこもった。
「この先も、私を負かしてよろしいわ。その代わり、次の勝負には必ず付き合ってください」
「約束する」
夫は私の手を離し、離縁状を持ち上げた。
紙が二つに裂ける音がした。さらに重ねて破り、歯形のついた端まで小さくして、屑入れへ落とす。
私の署名欄は、最後まで空白だった。
「これで、よろしいだろうか」
「もう一つ」
私は椅子を立ち、夫のそばへ行った。
「昨夜、私から頬に口づけようと思っていたんです」
「そうだったのか」
「ええ。でも、あなたに先を越されてしまいました」
夫は不思議そうにした。
私が自分の指に頬を寄せる仕草をすると、彼は口元を片手で覆った。
「……あれは」
「ですから今度は、こちらへ」
唇を指さした。
夫が椅子から立ち、私の腰へ手を回す。
近づいた顔は少し赤かったけれど、口づけは狼だった時よりずっと上手だった。
「来月も、同じ時間に小広間でお待ちしております」
「ああ」
「離縁状はお持ちにならないで。駒にもなりませんから」
夫は笑った。
私はその腕に寄りかかり、低い卓に残った盤を見た。白い王は倒れ、黒い駒はきれいな顔でこちらを見ている。
「今夜こそ、私が勝ちますわ」
頭の上で夫が小さく笑う。
「楽しみにしている」
今度は、私も疑わなかった。




