動き出したウェルダント国
『はい!こちらは辺境伯領の主要防衛ラインの城壁に来ています!現場をお伝えするのは、お馴染みサトゥです!』
「あら、もう動き出していたのねぇ」
「捕虜が多いのですもの。無駄は省かないといけませんわ」
意外そうなミルリック王子に、既に動いていたしっかり者のセレナ母様。
そう、僕らの目の前にあるロールスクリーンに映る映像には、辺境伯領の城壁を修繕する捕虜となった敵国の兵士や騎士が映っていたんだ。
首に何か嵌められた状態で、石を加工したり運び出したりいるようだけど……
あ、そういえば、みんなは今僕らがどこに居るのかわからないよね。
えっとね。前回(56話)でソシスさんから今後どう動くのか質問があったの覚えてる?
その話をする為に、喫茶店から2階の多目的共用大部屋に移動したんだよ。
でもレナちゃんだけはストロワと一緒に商店街に残って遊んでいるんだ。可愛い小型犬AIと一緒に遊びたいんだって。
だから此処に居るのは、ミルリック王子にボルグド殿下、ダノン父様とセレナ母様とエイダンとヴルストさんとソシスさん。後は、僕とフェイとゲンデと王家の護衛の騎士さん達だよ。
因みにこの部屋の準備は、既に手の空いている商店街AI達が整えてくれていてね。大きなロールスクリーンを正面に、それぞれが席について見ているところなんだ。
今回も辺境伯領各地に散っているドローンからの映像なんだけどね。
特殊なドローンに撮影班もついて行って居るという事で、またリポートして貰う事になったんだよ。
撮影班の騎士達は前回の経験からリポーター魂に火がついたのか、現場の状況を自ら進んで取材して録画していたみたい。
編集はセキュリティシステムのドローンがしていたみたいだね。だからこれはライブ映像でもあるけど、時々録画映像も出てくるんだって。
「セレナ。奴らが首につけているのが魔鉱石を使って作った隷属首輪か?」
どうやらダノン父様も首輪が気になっていたみたいだね。僕も気になっていたんだけど……そういえば図書室AIのサーチが何か協力していたって言ってたっけ。
「ええ、そうですわ。装備者の魔力を吸収して、逃亡と自殺と反抗を抑制する半永久的に使える魔導具ですのよ。これに関しては、タワーマンションの図書室で見つけた文献を元に、王家専属魔導具師達が作り出してくれましたわ」
セレナ母様の説明に、「ああ!」と声を出すミルリック王子。
「うちの魔導具馬鹿達が喜んだものね。サーチちゃんがかなり手伝ってくれた理由はこの為だったのねぇ」
ミルリック王子が言うには、王家専属魔導具師さん達に結構前に図書室担当AIのサーチがまとめた資料を、王家に渡していたみたいなんだよ。
「アレ怖いわよー。ちょっとでも反抗しようものならすぐに雷属性魔法が流れるんだから」
「ミルリック兄上の部下も協力したんだろう?気絶寸前まで痛みを与えるってどんだけだよ……」
「あら、ボルグド。躾はしっかりしなきゃ駄目なのよ?」
……うわぁ、気絶させてあげないんだ……これ結構辛そう。
なんて思っていたけど仕方ないね。これは国同士の戦いに発展しちゃったんだもん。僕の考えは横に置いておこうっと。
あ、でも僕ね、本当にウェルダント国に逃げて来て良かったと思ったんだ。だってね……
「やはり……現王様は、ほぼ捕虜を生かしておくつもりでしたか」
「ソシス、だから言ったろ?我らの国王は戦争で無駄な血を流すのを嫌う、と」
「だがヴルストよ。領民に起こった事を思えば一概には喜べまい」
「そこはきっちり落とし前をつけて下さっているだろうよ。——そうですよね?ボルグド殿下?」
「勿論だ。一度戦争に赴いたからには、奴らも覚悟はしているだろう。だからこそ、この地で領民に手を出した奴らは、同じ首輪をつけて魔鉱石採掘の深部に送っている。
そこで来る日も来る日も閉塞感と暗闇に悩まされつつ、ただ採掘をして行く事になるだろう。まあ、最も馬鹿をやった奴らはミルリック兄上に引き渡したがな。……命があるだけマシだろ」
「あら、ちょっとボルグド?何その言い方?い〜い?奴らは我が国民の未来を狂わしたのよ?国民を守る糧になる為にちょぉ〜っとくらい役立たないと駄目じゃない」
「……毎日その報告を聞く身にもなってくれ。俺でも引くわ」
「まあ、ヤワな子ねえ。大丈夫よ、体の傷は治してあげているんだから。———自分達が刃向かった国がどう言う国か、しっかり思いに刻んで貰わないと。ねえ?アラタちゃん」
此処で僕の名前を出されても……乾いた笑いしか出せない元日本人の性よ……
でも、どうやら実の兄のゼリアや敵国の首脳メンバーは死ぬより辛い目にあって居るのは間違いないね。
あ、でも勘違いしないでね?僕は戦いを更に招くような決断をしなかったこの国の姿勢に感銘を受けたんだ。
捕虜の命を取る事は、争いを激化させ見えない禍根を残すだけだろうからね。
とはいえ攻撃は最大の防御。戦時中に黙って居るなんて事は有り得ないよね。
「ミルリック王子の手腕は信頼していますよ?それに今のゼリース国の状況も掴んで下さったんですよね?」
「ふふふ、勿論よアラタちゃん。ダノン、貴方の憂さ晴らしが来たわよ?奴らが強気なのは、ヘーゼル国から飛龍軍団の援軍があったからなのよね。どお?やってみない?」
「ほほう、それは面白い……!是非とも志願させて頂きたいですな」
うわぁ……ダノン父様嬉しそう。そういや、消化不良気味だったのか暇さえあれば鍛錬していたもんね。
「思いっきり暴れちゃって。だけど、これ以上我が領土で暴れさせる訳にはいかないわ。だから、奴らをおびき寄せるわよ」
そう言ってミルリック王子がパチンと指を鳴らすとフェイが頷き、映像画面が平原へと切り替わる。
『はい!こちらは現在仮拠点構築中のリーマです!敵国の捕虜を使っての罠構築も現在進行中です!ミルリック王子順調ですよ!』
リーマさんが映っている背後では、拠点を設営中の捕虜達の姿と監視する王家の騎士さん達の姿が映されていたんだ。
因みに、この平原は辺境伯領から馬で1日の距離にあるゼリース国との国境の境目になる平原なんだよ。
でもさ。飛龍は空飛んでくるんだから、平原なら相手の思う壺だと思うでしょう?
だからこその罠なんだって。これに関しては後でわかるらしいよ。
そしてね。呼び寄せる為に使うものは、ウェルダント国の鉱山にしか生えない『竜の秘薬』と呼ばれるキノコ。
これ竜にとっては抗えない程美味しい匂いがして、竜が食べると体力増強効果があるんだって。
でも、ウェルダント国はこの情報を王家が秘匿していたんだよ。人間にとっては劇薬になるからね。
それに、ファールーブラックと呼ばれるウェルダント国が誇る魔鉱石鉱山は、希少な植物と鉱石の宝庫。
それの一部を表舞台に出すという事は、王家も本気でゼリース国とヘーゼル国を叩きのめすつもりなんだろうね。
「ですが、ミルリック王子。そうなると、辺境伯領や国の守りが手薄になるのでは?」
話を聞いて防衛力の低下を指摘するヴルストさん。確かに、ダノン父様がそちらにかかっている隙を突かれる可能性もあるからね。
「そこはボルグドの出番でしょう?」
「だからぁ、俺はアラタとマンション専属護衛だっての!———とはいえ、アラタが動くなら俺らは動けるけどさ」
うぇ!殿下ってばニヤっと笑って僕に振ってきたけど、これ僕に拒否権がないようなものじゃん。
「ボルグド殿下……僕が最早辺境伯領を見捨てるなんて思ってないですよね?それに、協力して欲しいなら素直に言って下さいよ」
「悪いな。一応アラタからの言葉が優先だって言われてたからなぁ。その上で確認するが、アラタにどこまで頼れるんだ?」
あぁ、ボルグド殿下は覚えているんだね。僕のマスター権限が有効な期間の事を。
「フェイによると後二日ですね。その後はクールタイム……と言うかマスター権限がまた使えるようになるまでは、1か月はかかります。ですが、通常のスキルは使用可能ですよ?」
「だとしたら、今回アラタに頼めるのは支援のみだな。因みに、分譲マンションが完成するとアラタのスキルから切り離されるだろ?[エントランスキー]の紐付けやら管理はどうするんだ?」
「それは心配ありません。分譲マンションは僕から切り離されて魔石が動力になりますが、[ポータルスポット]を設置しておきますから」
「アラタ?それ初めて聞くよ?」
「エイダンだけに伝えてない訳じゃないって。これもマスター権限が有効な時だけしか設置出来ないけどね。[ポータルスポット]ってね、僕のマンションスキルと完成した分譲マンションとの間を中継する役割を果たす魔法石の事なんだ。
これを設置した場所は、マンションAI達の行き来が自由になるのと[エントランスキー]との紐付けが可能になるんだよ」
「ちょっと待て、アラタ。それだと分譲マンションじゃなくても、[エントランスキー]を使えば[ポータルスポット]を設置した場所に行けるように聞こえるぞ?」
「流石、ボルグド殿下!その通りです!あ、でも一先ず分譲マンション管理の話に戻りますね。
基本はスティール家を始め住民達で管理して貰いますが、[ポータルスポット]を設置する事でアフターサービスとしてマンションAI達が毎日決まった時間に巡回する予定です。
ですから支援が途切れる事もありませんし、僕が移動しても構わないという事になります」
とはいえ、この[ポータルスポット]……マスター権限の有効期間内でもMPの消費量がかなりかかるものでね。今は毎日一つ設置するのが精一杯なんだ。
えへへ。実はこれには嬉しい誤算もついてきたけど、話が混乱するからまた後で伝えるね。
「おっし!なら移動可能だな。ミルリック兄上、出来そうだぞ?」
「そうね。セレナ、辺境伯領の復興は一先ず貴方に任せるわね。私達は国内の防衛の強化に移るわ」
「畏まりました。しっかり領内を安定させますわ。エイダン、貴方もこの機会に領地経営を実地で学びなさい」
「勿論です!」
エイダンってば役に立てそうで嬉しいんだね。気合い十分の返事なんだもん。
「私は更に仕事の斡旋をしましょう。やる事がいっぱいありそうですからな」
「ああ、俺は冒険者達に働きかけて街の護衛依頼を増やそう。素材の採取や街の復興援助依頼も多くなりそうだし、低ランクの奴らも仕事が増えて喜ぶだろ」
気合い十分といえば、ソシスさんも頭の中で色々算段つけていたみたいだね。ヴルストさんも敵国の動きや国内の動きが見えて、安心して復興に力を入れて行けるみたいだし。
戦時中とはいえ国のトップがしっかりしていると、国民も協力しやすいんだね。よっし!僕もやるぞ!
「フェイ。僕らももうひと頑張りしよっか」
「畏まりました。ダノン様より許可も出ましたし、明日には低層マンション型分譲マンションの発動も可能です」
「うん、ありがとう」
————こんな感じで次から次へと問題は起こるけど、それを一つ一つ乗り越える事で僕らはまた強くなる。
だからこそ、僕は僕の為にもきっちり実家とのけじめをつけよう。うん!逃がさないからね、グリード家!
アクセスありがとうございます♪これにて第二部 辺境伯編は完結です。明日から第三部 ゼリース国編に入ります。




