グリード家
「だあああああ!俺らばっかりこの罰ゲームは何なんです!」
……えっとね。僕らがマンション1階の自警団事務所に入ったら、事務所内にシェインさんの叫び声が響いていたんだ。
どうしたんだろ?って思って見ると、団長席にいるダノン父様に苦情を申し立てているシェインさん始め自警団員の皆さん。
「済まんな。その分特別手当てを出すと約束しよう」
「絶対っすよ!見て下さい、ボッツなんか持病が悪化しそうなんすから!」
「わかった、わかった。今からゼリアは俺が見ているから、お前らは辺境伯領に戻って余った力を消化して来るといい」
「へーい……(他に発散出来ねえからなぁ)ボソッ」
シェインさんがボソッと言った言葉は僕は聞き取れなかったけど、ここでフェイがスッとシェインさんに近づいて行ったんだ。
何故か僕はゲンデに耳を塞がれてしまったけど、ゲンデが手を離した途端に聞こえてきたのはシェインさん達の歓喜の声。
「早速全部終わった後、みんなで行こうぜ!必ず休み下さいね?!ダノン団長!」
「ああ、わかっている。その為にも戻って復興に手を貸してくれ」
「「「「「「ハイ!!!」」」」」」
ダノン父様は「こんな時ばっかり声揃えおって……」と呆れていたけど、フェイ曰く「福利厚生の一環です」ってくらいしか教えてくれなかったんだよね。
まあ後で調べたらわかったけど……シェインさん達が喜んだ理由は、マンション一階奥に成人男性限定の施設が増設されたからなんだ。
そういえば、「フェイに施設を一つ追加して宜しいですか?」って聞かれてたからなぁ。
ん?どんな施設かって?健全な男性が喜ぶ場所だって事だけ言っておくよ。
フェイが「押し切られました」って言ってるけど、これもフェイなりに人間を理解してくれてるって事だしね。
あ。僕も知っている事、ゲンデに報告するの忘れてた。だから耳を塞いでくれたんだね。
なんて考えていたら、父様が席を立って近づいて来たよ。
「おお、ミルリック王子とエイダンまで来たのか。……ふむ、アラタよ。確認するが、[保険]は特殊牢の効果も防いでくれるのか?」
ダノン父様が心配するのも当然だね。特殊牢は通常、自警団と僕やゲンデしか入れないんだから。
「フェイ、大丈夫かな?」
「勿論です。全保険を適用している今ならば可能です」
「そうか……ならば、特殊牢に連れて行こう。どうやら効果が一つ追加されているようでな……」
先頭を行くダノン父様も嫌そうな表情で僕らも案内してくれたんだけど……行ってみてわかったよ。
『ぶえっっくし!えっくし!ズビイイイ……!くそおおおお!痒い!ぶえっくしゅ!』
特殊牢の中で居たのは確かにゼリアだったけど、涙と鼻水に塗れた酷い顔だったんだ。
更に、靴を脱いで足をボリボリと掻く間抜けな姿でいるもんだから、本当にあの高飛車なゼリアなのか?って思っちゃったよ。
因みに、僕らがいるのはゼリアとは別室だよ。よくあるマジックミラーで仕切られた部屋にゼリアは入っているんだ。
だからゼリアからはこちらは見えないし、声も聞こえない状態って事だね。
それにしても……
「フェイ。この部屋って追加した[カビの間]ってやつ?」
「はい。入れば酷いアレルギー症状と水虫状態に陥る人間には辛い部屋です。とても悔しいですが、一応他国の貴族ですし現状で手は出せませんから」
フェイってばチッって舌打ちしてるよ……
「あら、フェイちゃん?あれるぎーって森が近い村で起こるアレかしら?」
「その通りです。ですから、貴族として生きてきた罪人にこそ相応しい部屋でしょう」
ミルリック王子はアレルギーって言葉は知らなくても、症状は知っていたんだね。……フェイはそれでも、不服そうな表情だけどね。
「みずむしって、貴族と騎士の呪いの事だよね?……僕はまだなってないからわからないけど……」
「はい。その理解であっています」
エイダンも理解したのか、ちょっと嫌そうにしているね。それにしても、貴族と騎士の呪いかぁ……確かに何度もかかる厄介なものだもんね。
アレルギーと水虫の症状がかなり酷い状態だと、精神がかなり疲労しそうだよねぇ。じゃ、その前に……と思った僕。
「ゼリア兄さん、お久しぶりです」
フェイに頼んで僕の声を隣の部屋に届けて貰ったんだ。
『ぶえっくしょいっ!その声……ブシュッ!ディゼルか!』
うーん……話し辛い。って事で、一旦フェイに効果を消して貰ったんだ。すると、ゼリアから罵詈雑言が出て来るわ出て来るわ……
『貴様がすぐに出て来れば、この俺がここまで来る必要はなかったんだ!役立たずは役立たずらしく、黙って従っていれば良いものを!』
なんて、次から次へと『無能』だとか『グリード家の屑』とか『恥晒しが!』とか言うもんだから、僕の周りの空気が段々冷えて来たんだよ……!
その冷気の主な発生源は、ダノン父様とフェイとゲンデ。
鬼の形相のダノン父様は、「聞くに耐えん」ってボキボキ指を鳴らしながら隣の部屋に行こうとするし。
同じく、背景でゴゴゴゴ……!って付きそうなくらい怒りの形相のゲンデは「嫌、此処は俺の出番でしょう」なんて言って、良い笑顔のフェイから巨大魔導ハンマーを受け取ってるしで、止めるのが大変だったんだよねぇ……
それに、ミルリック王子は王子で「うふふふふふふ……」ってずっと笑っていて逆に怖かったし、エイダンはエイダンで「貴族に対して行使できる最悪の罰は?」って魔導辞書に聞いているし……!
部屋の温度が更に下がった気がしたよ……!
でもね。僕を思ってくれるからこその状況って考えると、みんなの気持ちが嬉しかったんだよねぇ。
うん!此処は僕がディゼルだったからこそ、ゼリアと話さなければいけない場面だね!
「ゼリア兄さん、いや、ゼリア。グリード家はまだ勇者の家系に拘っているんですか?」
『っ!!……何故お前がその事を!!』
よし!まずはゼリアに一発おみまい出来たね!
「僕だってただ逃げていた訳じゃありません。グリード家のあの厳しすぎる教育や訓練、スキルを重視し過ぎる要因は何かずっと不思議に思っていたんです」
『待て……!声はディゼルだが、口調が違う……!お前は誰だ!!』
「僕はディゼルであってディゼルじゃありません。その事は、貴方達グリード家こそ知っている筈です」
『……まさか!!お前が!?』
「はい。グリード家が、そしてゼリア、貴方が1番求めていたものです。……残念でしたね。僕に現れましたよ?」
『……嘘だ!嘘だ、嘘だ嘘だ嘘だあああああ!ふざけるなああ!落ちこぼれの貴様に起こる筈が無い!俺こそが、勇者の末裔に相応しい資格を持っている……っ!ぶえっくしょ!えっくしょ!えっくしょい!!!』
「すみません。聞くに耐えませんものでしたので」
フェイさんや……ちょっと部屋の効果戻すの早いって。
「あら。手を下さずに相手を悔しがらせるなんて、アラタちゃんもやるわねぇ」
また涙と鼻水くしゃみに痒みが復活したゼリアの様子に、「いい気味ね」と言ってフッと笑っていたミルリック王子。
僕はまだやり返したかったけどね。だってディゼル時代にゼリアがよく僕に突っかかって来ていたからね。
今思い返してみると、ゼリアは殊の外勇者の家系に起こるであろう現象を求めていたんだ。自分こそが選ばれた者だと思っていたんだろうなぁ。
それも、グリード家の力こそ全てという教育がゼリアをそこまで追い立てていたんだと思うけどね。
以前のディゼルの気性が荒かったのだって、今思えば強さを履き違えていたからだし。
「勇者の家系か……!グリード家を動かす根本の要因は……!」
「そっか……!だから、たかが騎士家が動いたんだ」
あれ?そういえば、ダノン父様とエイダンに言ってなかったっけ?ゲンデにはチラッと話していたから、ハッて気がついた様子だったけど。
ミルリック王子は仕事柄知っていたんだね。って事はウェルダント王家は既に情報共有していそうだなぁ。
んー、まだまだ突っ込める事もあるけど……いいか。ゼリアに伝えたい事は最低限伝えたし。
これで実父も動き出すだろうし……!
本家が動き出した時こそ、僕がグリード家の腐った執着を断ち切ってやるんだから……!
なんて決意してたら、フェイが諜報員達から念話を受け取ったみたいだね。
「マスター、報告します。現在、捕獲した敵兵はルスラーンの亜空間倉庫にて収納中。治療もせずにそのまま放置しているようですね。
ドクターのジョリーは、街の住民達をほぼ治療し終えたようです。そして住民達や専属・派遣の自警団員達、女性騎士団員達が街の復興に動き出したとの事。
トッドを始め諜報員達は残党の確認に動き出しているそうです。
辺境伯家の執事の指揮により一先ず住民達の休憩所は確保出来たものの、現状まだ足りていない状況です。
そして、ボルグド殿下とセレナ様は先に王宮へと報告に向かったそうですね」
「そっか。ありがとう。だったら、僕も現地入りして手伝うよ」
「アラタが行くなら、僕も手伝いに行こうかな。レナもそろそろ気になって仕方ない状況だろうし」
僕が行く事でエイダンも領地の現状が気になったみたいだね。[保険]はまだ適用されているから、レナちゃん行っても大丈夫でしょ。
「あたしは、部下を呼んでゼリアを王宮の牢へ連れて行くわ。聞きたい事た〜くさんあるのよねぇ」
とっても嬉しそうなミルリック王子は、王宮にゼリアを移すみたいだね。フェイがとっても残念そうにしているけど、これは仕方ないよ。
「俺はアラタ達と戻ろう。現場をブライアン達に任せっぱなしだったからなぁ」
ダノン父様は僕らと一緒に戻るみたいだね。今なら住民達だってダノン父様を受け入れるだろうし。謝罪の嵐の予感がするけどね。
さあて、今度こそ僕の出番だね!……そろそろアレのお披露目かな?
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