『マンション』からの反撃 3
『はい、こちら4号機ドローン担当アンパです……!現在位置は辺境伯邸裏林……と言いたいですけど、見て下さい!この空間を!』
殿下達が敵の本陣を制圧した後、スクリーン画面には見覚えのある真っ白な空間が映し出されていたんだ。
「あら。ここってルスラーンちゃんのスキル内じゃないかしら?」
「へえ、こんなスキル持ちがいるんですか?」
「あ、そっか。エイダンは知らないんだっけ。うちの諜報員にカーゴマスターっていてね。本来は補給品輸送の要なんだよ」
「本来は……って。まあ、戦闘中はそこが避難所にもなるって事か……!」
「そおねぇ。こんなの敵国からやられたら、私達だってお手上げよぉ」
「つくづく味方で良かったわぁ」と頬に片手を当てながらため息を吐くミルリック王子に、「全くですね」と頷くエイダン。
そんな二人の会話に頷きながらもスクリーンを見ていると、どうやら亜空間倉庫内には、負傷者もいるらしくドクターのジョリーが手当てを施している様子が見えたんだ。
そして実況騎士が居るって事は、自警団員やダノン父様やセレナ母様も居るって事で———
『うちの者達はこれで全員か?セレナ』
『ええ、どうやら全員がここに避難できたみたいね。騎士達もほぼ全員……悔しいけれど亡骸までは回収できなかったわ』
『仕方あるまい……!この状況じゃなければすぐにでも弔ってやりたいが……』
そっか……犠牲者が出てしまったんだね。辛いけど、全員を助けられる訳じゃないのも戦闘だもんね……
『だが、拠点の制圧が済んだらしい。今はマンションの派遣自警団も出て居るそうだ。……結局スティール家だけで対抗は無理だったが、これで思いっきり動ける……!』
『あなたはほどほどにして下さいね。屋敷が破壊されちゃうわ』
『……わかっている』
そう言いながらもつまらなそうな表情のダノン父様。その手に持っているのは拡声器っぽいんだけど……?
それに側にいる自警団員はシェインさんかな?手に持っているのってライフル型水鉄砲みたいだけど……?
緊張感ある雰囲気に似合わない武器?に僕が頭を傾げていると、ルスラーンが『ダノン様!』って呼びに来ていたんだ。
『やっとか……!』
『貴方、頼みますわ』
動き出すダノン父様とどうやら亜空間倉庫で待機するらしいセレナ母様。辺境伯家の騎士団はセレナ母様の後ろで整列しているね。
『さあ、遂にウェルダント国最強の男!ダノン様が辺境伯邸奪還に動き出します!後に続くは自警団員からシェイン部隊6名!我らも動き出しましょう!』
実況のアンパさんが動き出し、ルスラーンの亜空間倉庫から出た途端に広がる林の風景。そしてその奥に建つ辺境伯邸。
その辺境伯邸をみながら拡声器を口元に持って行くダノン父様の姿が映し出されるのを見て、スクリーン画面に割り込んできたのはなんとジム。
『皆!急いで耳を塞げ!』
ジムに鍛えられている騎士達は勿論、僕達も何かあると思って即座に耳を指で塞いだらね……
『うおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉ!!!』
それでも聞こえて来たダノン父様の雄叫び声。そしてビリビリと肌に感じる程の衝撃が見ている僕らにも届いたんだ!
『凄い声量と威圧感![保険]がかかっている我らにも衝撃が伝わって来たという事は、生身の人間が聞いたらどうなるのでしょう!?ジム教官?』
『あー……それを知りたければ、後ろを見ろ……』
スクリーン画面には頭を抱えたジムが映っていたけど、現場のドローンがクルリと後ろに向きを変えると……なんと!亜空間倉庫の入り口が開いたままだったんだよ。
ルスラーンもまさかの声量と威圧感に驚いていたのか、ハッと気付き中を確認していたんだ。
で、中を見たルスラーンが頭を抱えて撮影班に来い来いと手招いたから、また亜空間倉庫の中が映し出されたんだけど……
『あーなーたぁあああ!!』
まず映し出されたのは、[保険]が適用されている故に無事だった怒れるセレナ母様と額に手を当てため息を吐くセラさん。
そして中に避難していた辺境伯邸に勤めるメイドさんや執事さんは、どうやら全員失神しちゃったらしいね。
更に映し出されたのは、全員が床に倒れてピクピクしてた辺境伯家の騎士さん達の姿……!
これには、ダノン父様の後ろに控えていた自警団員全員が頭を抱えていたねぇ。シェインさんに至ってはダノン父様に説教していたし。
『だからダノン様!あれほど言いましたよね!?きっちり扉を閉めたのを確認してから、ちゃんと宣言して使って下さいって!!!』
『あ〜……その、済まん。気持ちが昂ってしまって……な?』
『アンタ魔力量もハンパないんすから!後ろであれだけの被害があるって事は、前で直撃した奴らは絶対一人も立ってないっすよ!!!』
……シェインさんってば、ダノン父様に敬語忘れてるねぇ。
「あらぁ、ダノンってば……音による衝撃波でも作り出す魔導具を与えられたのかしら?」
乾いた笑いが出ている僕の横で、全く被害を受けていないミルリック王子。
どうやら【予見】で何か来る事はわかっていたから、しっかり自分だけ耳栓を用意していたらしいんだ。
うん、流石としか言いようがないね。
チラッと隣を見ると、エイダンも手が痺れたのか指を触っているところだったんだ。それでもその目はキラキラしてたから、ダノン父様の声の威力に感動していたんだろうね。
でも全く感動どころじゃない現場では、自警団員が見守る中セレナ母様に説教を受けているダノン父様の姿が映し出されていたよ。
辺境伯家の皆さんは、亜空間倉庫に居たドクタージョリーの治療によって無事意識を取り戻したみたいだけど。
『えっと……一応ジム教官説明宜しいですか?』
なんとも言えない雰囲気に遠慮がちにリポートするアンパさん。ジムもため息を吐きながら教えてくれたんだけどね。
『魔導拡声器[麻痺]バージョンですか!?』
『ああ、ダノンが持っているのはマンション製魔導拡声器だ。魔力を込めれば込めただけ、音が聞こえた者の身体を麻痺させるというもの。それに、受ける側の魔力量が高ければ更に効き目が絶大というものだ。
……恐らくだが、あのダノンの声量と魔力量で辺境伯邸にいる全ての人間に麻痺がかかっているだろう。いや、街にも被害が行ったかも知れんな……』
呆れたように説明するジムが言うように、その後の辺境伯邸の戦いはダノン父様の雄叫びで終了するという、なんとも呆気ないもの。
実況するアンパさんも、ただただ捕縛されて行くグリード軍の騎士達の様子を映すだけに終わり、なんだかもの足りなさそうだったんだよ?
でも1番物足りなかったのはやっぱりこの人。
『くっ!何故……何故貴様が気絶しているんだ!立て!立つんだ!ゼリアとやら!!!』
そう、ただ気合いを入れただけで終わった辺境伯邸制圧に、ダノン父様本人が1番消化不良を起こしていたよ。
その後ろでは最早上司に敬語を使わず『アンタのせいだろうが』と呟くシェインさん。
シェインさんも僕が水鉄砲に見えた魔導水圧銃[疼痛]バージョンを使えずに、敵の騎士をツンツンと突くだけで終わって不服そうにしていたからね。
因みに魔導水圧銃[疼痛]バージョンは、剣にも銃にもなる魔導剣だったりするんだけどね。その水圧銃から出る水に、漆の木の成分が含まれているんだって。
水圧で痛い、そして酷い痒みに襲われるその銃が使われなくて、画像的によかったのでは?って僕は思っちゃうけどねぇ。
あ、それより気付いたかな?僕の実の兄さんも執務室で気絶してた事。
あの人、騎士の腕も高かったけど、[身体強化]スキル持ちだったから魔力も高くてね。
だから魔導具の効きがよかったんだろうねぇ……本来は厄介な相手だった筈なんだけど。
でも起きてたら起きてたでうるさかっただろうし。まあ、結果オーライって感じだね。
ん?余りに呆気ないって?……仕方ないよ、ダノン父様だもん。
でも辺境伯領もどうなったかも気になるよね?
街の方には自警団のポーター部隊が行ったんだって。え?女性騎士団も応援で行ったの?
そっか……うん。大人しくしている訳がないよねぇ、あの方達。
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