『マンション』からの反撃 2
『オラオラオラ!こちとら少人数なんだぜ!かかって来いや!』
画面の中で映し出されているのは、絶好調のボルグド殿下。但し、持っている物が物だけに僕は開いた口が塞がらないんだけどね……
『遅れて登場の鬱憤を晴らすかの様に大暴れのボルグド殿下!現在映像をお送り致しますのは、3番機ドローン担当ティガです!先頭を行くボルグド殿下に続いて、後方を守るのはクライブ部隊!凄いです!人がドンドン飛ばされて行きます!』
うん、実況からすると普通に戦っているように聞こえるよね?
「フェイ……僕の目がおかしいのかな?ボルグド殿下が振り回しているのってチェーン付きのサンドバッグに見えるんだけど……?」
どう見てもボクシングの練習で使う重量級のサンドバッグを、ボルグド殿下は軽々と振り回しているんだ。
しかも、サンドバッグで剣を受けているのに、サンドバッグから砂が出る事もないんだよ?
「その認識であっていますよ、マスター。ボルグド殿下には殺傷力を下げて頂くために、魔導サンドバッグが与えられています」
「いや、アレでやられたら死ぬんじゃね……?」
ゲンデ……それは僕も思うよ。
「そこは今ジムが説明するようですよ?」
フェイが画面を指差すと戦闘画面が小さくなり、マンション内にいるジムが映し出されていたんだ。
『さて、補足しよう!今ボルグド殿下が振り回しているのは、魔導サンドバッグという我がジムでもお馴染みのものだ。そう、安全安心を保障する[マンション]印!
あの魔導サンドバッグで殴られても死ぬ事が無いのが最大の特徴だ!———但し、かろうじて生きている程度に負傷は受けるが……命があるだけマシだろう!さあ!殿下!思う存分に暴れるがいい!!!』
……うわぁ、ジムってば何を殿下に持たせているんだか。というか、殿下がここに居る理由ってやっぱりあれが理由かな?
「狡いわよねぇ、ボルグドだけ参戦なんて……!でも、マンション自警団の副隊長の身分と元部下の尻拭いだ、なんて言われたら建前はあるから仕方ないわねぇ」
ちょっと悔しそうに言うミルリック王子。
あ。みんなはミルリック王子がいつの事を話しているのか?って思うよね?
この話は、僕が【マスター権限】を使った後の事になるんだけどね————
カーゴマスターの諜報員ルスラーンとマンションドクターのジョリーが、辺境伯邸の裏の林で[エントランスキー]を使ってくれてね。
僕を含めた会議室に居た全員が、アインス様とクヴィラさんに会う為に反撃開始前に一度現地入りをしていたんだ。
僕らにはこの時から既に[保険]がかかっていたから、一応何があっても大丈夫だったけど、騒ぎを大きくしたくなかったからね。
すぐにルスラーンの亜空間倉庫に全員が入って、檻の中に一人ずつ入って居たアインス様とクヴィラさんに再会したんだ。
『なんとまあ……!皆さんお揃いで』
久しぶりに会ったアインス様は、なんと言うか全く堪えてなかったんだよねぇ。
そんなアインス様の態度を、ダノン父様やセレナ母様は予想していたみたいでね。
『アインス。お前の事だから、グリード軍に捕まったのも想定内だったんだろう?』
『ああ、ダノン兄さんでもわかったかい?いや、セレナ義姉さんのおかげかな?まあ、流石に今の状況は想定外だけど?』
『アインス……貴方、全く懲りてないのね。人の命をなんだと思っているの?』
『私以外の者の命に何の価値があると?……それにしても、元上官殿までいらっしゃっているとはねぇ。お久しぶりです?ボルグド元騎士団長様?いや、今はマンションとやらの自警団副隊長でしたっけ?』
アインス様が殿下を馬鹿にしたような言い方で煽っているけど、その言葉で煽られたのはこっちだったんだ……!
『マンション《《とやら》》……ですか?』
フェイがユラッと動き出したのには、流石に僕とゲンデで止めたよ。今出てったら話が拗れるからって、こっちは必死だったけどね……!
そんな状態のフェイの前に、スッと手を出したのはボルグド殿下。
『アインス。お前が部下を庇ったのも嘘だったんだな?というよりお前を信頼していた俺が間抜けといえば間抜けだが……ルスラーンだったか?アインスを檻から出してくれねえか?』
殿下は何か考えがあったんだろうね。ルスラーンもそれを察したのか、スッと檻を消したんだ。
『あと……ドクターはアレを治してやってくれないか?』
そして殿下がジョリーにアインス様の古傷を治す事も頼んできたんだけど……え?何で今?
僕が疑問に思っていると、こちらも何かを察したドクターのジョリーが動いてアインス様の古傷を治療したんだ。
因みに、フェイによるとジョリーは常時[医療保険]の回復魔法(大)を使えるんだよ。
だから、アインス様がどうなったのかって言うと……
『身体が動く……!動けるぞ……!』
ドクターのジョリーによると、アインス様の身体が全回復して全盛期のような動きが出来るようになったらしいんだ。
そんなアインス様の前に、ポイッと剣を投げるボルグド殿下。
ええええ?殿下そんな事したら……!なんて驚いている僕の前で、殿下ってば更にアインス様の前に立って煽るんだよ!?
『ほれ、お前が売った国の王族だぞ?しかも丸腰だ。この首持ってヘーゼル国に行けば更に良い地位につけるんじゃねえのか?』
へ?アインス様、更にヘーゼル国に亡命するつもりだったの!?
『そこまで調べられていたなら仕方ないな。……精々私を治させた事を悔やんで死ぬが良い!!!』
驚く僕の目の前ではスッと剣を手に取り、踏み込んで殿下に斬りかかるアインス様。
でも殿下には全種類の[保険]が適用されているからね。当然攻撃は殿下に届く事なくキインッと弾かれたんだ。
即座に後ろに飛んでまた斬りかかるアインス様。何度も[保険]に弾かれていてもなかなか諦めなかったんだ。
『くそっ!何故!?』って叫びながらさっきより焦った表情のアインス様を、無表情で腕を組み眺めている殿下。
『そろそろ良いか……!』
ボソッと呟いたと思ったら、踏み込むアインス様より早く懐に飛び込み、アインス様の腹に拳を喰らわせていたんだ。
『ぐはっ……!!!』
殿下の打撃を受けて、吹っ飛ばされたアインス様。亜空間倉庫の見えない壁に激突して、白目をむいて失神しちゃったんだけどね。
『……クソ雑魚めが……!てめえごときに貶されるいわれはねえ……!!』
どうやらかなりお怒りのご様子だった殿下。
うーわぁ……!生きてるかな?アインス様……?
敵ながら殿下の激怒に触れたアインス様に思わず同情してしまった僕。……あ、もうアインスに様ってつけなくてもいっか。
『……甘いですね。止めをさせば良いものを……!』
フェイさんや。そしたら尋問出来ないって。
未だご立腹のフェイは置いといて……ひとまず気持ちを切り替えたらしい殿下は、ミルリック王子に何やら伝えていたんだけどね?
多分、殿下はこの時ミルリック王子に参戦を伝えたんだろうね。
『うふふ……!後は任せて頂戴!———さあ、何を試そうかしら……?』
えっと……何だか寒気がするのは何でだろう……?
すっごく楽しそうにアインス様に近づくミルリック王子に、僕は一瞬同情しちゃったけど……うん、自業自得だね。
そんな僕らの後ろでは、もう一人の断罪劇があったんだけどね。こっちはかなりの憔悴具合だったからこそ、母親のセラさんの叱責だけで終わったみたい。
『後は国の采配にお任せ致しますわ』
ってミルリック王子に伝えていた気丈なセラさん。うん、セラさんの中で覚悟は決まっていたんだね。
この二人はミルリック王子が一旦マンションに連れ帰って、すぐに王宮にいた王太子殿下に連絡を取って王宮へと連行して言ったんだ。
こんな感じで今に至る訳だけど———
「そういえば、アインスとクヴィラさんは今どうなっているんです?」
やっぱり気になったからミルリック王子に聞いてみたんだ。そしたら嬉しそう僕に教えてくれたミルリック王子。
「ええ、今をしっかり楽しんでいると思うわ!だけど、私の分も残して貰っているから、この後のお楽しみねぇ」
……楽しそうで何よりです。うん、詳細は聞かない方が良さそうだね。
そう思ってスクリーン画面に目をやったらね。
あれ?クライブ部隊が持ってるのって……?
「ねぇアラタちゃん?クライブ達が持っているのって、よくボルグドがツッコミで使っているハリセンってものよねぇ?アレで剣を受けたり、敵を飛ばしているように見えるんだけど?」
「えっと、僕にもそう見えるので……ハリセンで間違いないと思いますけど……」
ミルリック王子と僕が不思議に思っても仕方ないよねぇ。だってあれ本来紙が素材の筈なんだけど?
って思ってたら実況のティガがジムに質問してくれたんだ。
『ジム教官。クライブ部隊が持っている武器というか……アレはボルグド殿下がよく使っているものに見えるのですが?』
『ああ、アレはマンション仕様の魔導ハリセンだ。攻撃吸収機能と3倍返し機能がついているからな。よく飛ぶぞ!』
ジム……敵を物のように扱っているね。いや、良いんだけどね。
圧倒的な殿下達の活躍で、しばらくすると敵の司令官が捕縛できたけどね。どうやらゼリア兄さんはこっちに居なかったみたいだ。
という事は……ダノン父様がいる辺境伯邸かぁ……ゼリア兄さん、生きてるかな?
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