『マンション』からの反撃 1
虫嫌いの方、要注意!
ザワザワザワザワザワザワ……
「ふふっ、こんな使い方も出来るのねぇ」
あの宣言から翌日の早朝———僕の右隣に座り、優雅にコーヒーを飲むのはミルリック王子。
「流石にメインエントランスに『マンション』住民が全員集まるのは無理ですからね。だから、僕ら非戦闘員はこっちで見る方が良いかと思ったんです」
「僕も助かるよ。今日ばかりは、一人で待っているのは難しくてね」
「そうよねぇ。わかるわぁ」
ミルリック王子が同意したのは、僕の左隣に座っているエイダンにだよ。因みに、エイダンの隣にはレナちゃんとストロワも居るんだ。
当然、僕の後ろの座席にゲンデもフェイもいるからね。
そうそう。座席って聞いて、僕達はどこにいるんだ?ってみんな思うでしょ?
実は、僕らが居るのは『マンション』二階のシネマ・スプリング。
なんたって今日は、シネマ・スプリングの巨大スクリーンに映し出されているのは映画じゃないからね。
『良いか!今日の戦いの目的は『格の違いを見せつける』事だっていうのを忘れるな!感情に任せて目的を見失わないように三人一組で動け!』
『『『『『『『ハッ!』』』』』』』
そう。今スクリーン画面に映し出されているのは、『マンション』のメインエントランスに集まった専属自警団30人と指示を出しているダノン父様。
因みに今撮影しているのは、防犯カメラじゃなくて……
『はい!こちらマンションシステム搭載ドローンを担当する栄誉を頂きました、撮影班のサトゥです!』
覚えているかなぁ。カルチャールームで映画を作りたいって言って学んでいた騎士5人組。
そう、その5人に依頼を出してみたんだ。ドローン撮影した画像で実況中継をお願い出来ないかって。
そしたらなんて言ったと思う?
『自分は騎士でもあります!仲間と共に戦いながら実況させて下さい!』
って言うんだよ!?
イヤイヤイヤイヤイヤ……!何をハードル上げてくれてんの!?って思わず突っ込んじゃったよ。
でもそこで出て来たのが、専属自警団以外の騎士達。
『自分達も出れます!我らはマンション騎士団でもあるんですから!』
『我らは国の未来を守り、己が楽園を守るのが信条です!』
『マンションマスターを馬鹿にした奴らに目にものを見せてやりたいんです!』
『『『『『我らにも戦う機会を与えて下さい!!!』』』』』
……なんて何十人からも詰め寄られるのを想像して見てくれる?僕、結構怖かったなぁ。
そして、現在マンションセキュリティシステムから出した魔道捜索ドローン15機。
5機は特殊設定をしているけど、10機はオートモードで撮影をしているよ。勿論、全機[対物][人災]保険付きで。
だから、スクリーン画面内の外側に15機それぞれから送られた映像が映し出されていて、真ん中の大きな画面に動きのあった映像が映し出されているんだ。
更にマンション内のTVというTVに放送されているよ。今は、実況中継する騎士さん達の自己紹介が順次に映し出されているんだ。
ん?……今映っているのってジムじゃないかな?
『はい!こちら第五機担当のリーマです!今隣に居るのは、我らマンション騎士団の鍛錬には欠かせない存在のジムさんです!ジムさん、本日はサポート役を引き受けて下さりありがとうございます!』
『我らがマスターの敵に向かって行く君達に協力するのは当然だ!良いか!鍛錬の成果を思いっきり出して来い!実況は俺がサポートする!』
『勿論です!俺達派遣自警団員にも魔剣と魔法陣を出して下さったんです!しかも保険も[人災][火災]付きで!流石は我らがマンションマスター!』
うええええ?君たち王国騎士団でしょう?
僕が内心で突っ込んでいると「あら、騎士達が取られたわね」「ああ、これが胃袋を掴まれたって事でしょうね」と冷静な感想が左右から聞こえて来たんだけど?
『あ!どうやらサブエントランスが開いたようです!第一陣が動き出します!我らも動き出しましょう!』
僕が二人に反論する前に事態が動き出しちゃったから、何も言えなかったけどね。
でももっと驚く事に、中継組がサブエントランスから出たら映し出された場所はなんと敵陣の真っ只中!
応戦しているのはあれはトッドさん!?そして、敵陣を掻き回していたのが、ウチのAI諜報員の二人……の筈。
僕が確信を持てないのは、どう見ても男性にしか見えないからなんだよねぇ……だって、諜報員って女性の筈だったんだけど?
「あれは双子のノールとフィアットですね。上手く男性体に擬態して敵を二分させています」
僕の疑問を読み取ったフェイさんが状況を説明してくれたんだけど、その説明の間にも動き出していたのが第一陣の専属自警団スレッド部隊。
『第一魔法陣解放!』
スレッドさんが指示を出すと、3名の自警団員がマンションセキュリティシステム仕様の魔法陣に魔力を流したみたいなんだ。
何が起こるんだろう?って首を傾げて見てたらね……ブワッと魔法陣から大量に出て来たのは無数の黒い霧。
……って、アレ?動いてる!霧じゃないの!?
『スレッド部隊が無情にも第一陣から使ったのは、なんと!生物兵器です!見て下さい!無数の蚊とブヨの群れが敵陣を覆っていきます!』
第一陣リポーターのサトゥさんがちょっと嫌そうに実況してくれたからわかったけど、アレ全部が蚊とブヨって聞いて思わず腕を掻いてしまった僕。
あ、エイダンもメチャクチャ嫌そうな顔してる。レナちゃんは……ストロワ偉い!目を覆って上げてるね。
画面からは悲痛な叫び声を上げる兵士達の声が聞こえて来たよ……!逃げまどう兵士達も、結局黒い動く霧状の虫達に覆われて行ったんだ。
その間およそ一分強……!
黒い霧状の虫に襲われる兵士達には地獄の一分だったろうね。
ようやく黒い霧が晴れて映し出された光景は、着ていた防具を投げ出して全身を掻きむしる大勢のグリード軍の兵士達の姿。
あ、ストロワ……上手くレナちゃん連れ出したね!グッジョブだ!
『これぞ!マンションセキュリティシステムが生み出した脅威と奇跡!襲いかかる時間は約一分!それも身体を満遍なく刺して行くんですよね!解説のジムさん?』
『ああ!そうだ!しかも、この生物兵器の凄さは敵と味方を判別する事にある!見ろ!殿下の諜報員は無事だ!』
映し出されたトッドさんは何一つ刺されている様子はないけど、なんか表情が悪い気がするのは僕だけじゃない筈。
これまた更に解説のフェイさんによると、特殊設定のドローンにはマンション内にいるジムとの通信が出来るようになっているんだって。
それにしてはリポーターの騎士さんも実況しながらあちこち痒そうに掻いているけどね。
うん、見てるだけでも痒くなるからね……!
そんな騒ぎの中、スレッド部隊は地獄絵図の敵陣内をどんどん進み、中でもまだ向かってくる兵士達を一撃で倒して進んで行ってたんだ。
これは他のオート設定のドローンが撮影しているみたいだね。サトゥ騎士リポーターはちょっと反応が遅かったのか、遅れて走り出したし。
でも僕が注目していたのは、このスレッド部隊が持っている武器なんだけど……アレは一体なんだろうね?
なんて僕が思ってたら、ジムが解説し始めてくれたんだよ。
『現在映し出されているスレッド部隊が持って居るのは、マンションセキュリティシステム仕様の打撃武器!一撃必殺!骨を砕いて痣しか残さないと言う長さ自在の黒い魔導棍棒!こんな奴らに剣なんか必要は無い!やれ!スレッドオオオオ!』
ジム……!結構どころかかなり怒ってたんだね。
叫びながら応援をするジムに応えるように、画面上では敵陣を破壊、撃退しつつ前進して行くスレッドさん部隊。
でも、先頭を行くオート設定のドローンが映し出したのは、被害を受けていない様子の兵士の大群が、兵士達を薙ぎ倒すスレッドさん達を囲もうとしている映像だったんだ!
一瞬、ザワッ!とするシネマ・スプリング内。
だけど不思議な事に、スレッドさん部隊の遥か前方にいる敵の兵士達が次々と倒れて行く映像に切り替わったんだ。
え!?なんで?と思ったら、今度は別の特殊設定ドローンから割り込み映像が届いたんだよ!
『こちら第二陣ケイン部隊に密着取材しているドウーワです!今我らが居るのは、敵陣が一望出来る上空なんです!そう!輸送機からケイン部隊はスレッド部隊を援護しています!あ、今度は何かを輸送機から投じましたね!』
『それじゃ説明不足だ、ドウーワ!悪いが割り込むぞ!』
『ハッ!ジム教官お願いします!』
『ケイン部隊が使用しているのは、マンションセキュリティシステム仕様の魔銃型魔剣だ!近接では剣にもなるが、この魔剣の凄さは遠距離攻撃が可能な事!
どんなに遠方にいる敵でも見えるズーム画面機能と、[必中]の付与が搭載された魔銃型魔剣だからこそ連弾しても外さないと言う利点がある!』
『ジム教官!では彼らは何を投じたんですか?』
『正確には、魔法陣を展開したと言えるだろう!抱腹絶倒魔弾の雨を降らせる魔法陣をな!』
『なるほど……!だから地上では煙が覆っているんですね……!しかもピンク色の煙が……!』
ジムとドウーワの会話を拾いながら特殊設定ドローンが降下して行くと……煙の中から聞こえて来たの大勢の笑い声。
ドローンがズーム機能を使ったんだろうね。地上の敵の兵士達が映し出されたけど、表情と動作があって無いんだ……!
苦痛を受けた表情で全力で笑う動作をさせられているんだよ?ある種のホラー映像だね。
「あらこれ良いわね」ってミルリック王子の声は、僕は聞いてないったら聞いてないよ!
うん、エイダン。そのちょっと引く気持ちわかるよ……
因みに、当然だけどスレッドさん部隊は無事だよ?ただ「ケインの馬鹿野郎!使うならもっと距離を取れ!」って怒っているみたいだったけどね。
地上の様子をサトゥ騎士リポーターも映し出してくれたけど、戦場の一般的な光景とは違う異様さにうわぁ……って引いていたなぁ。
専属自警団員達は、なんか慣れているみたいだったのもちょっと驚いたよね。
ジム……!一体どんな訓練してたのさ……!
ひえええええ……と驚く僕の周りではフェイにあの魔法陣を交渉するミルリック王子と、どんな光景でも驚かないように受け止めようとしているエイダンの姿があったけどね。
そんなエイダンでも「アレ?」って声を出したのが第三陣が映し出した人物が例のあの人だったからなんだ。
『よっしゃ!ようやく出番だな!』
……って、ボルグド殿下。なんでいるんですか……!
朝から虫の登場回で失礼しました。
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