移動はいつも通り
本日2話目!
……動き出したのは良いんだけどね?
「休みがいらない……即座に連絡取れる……食事もいらない……移動は輸送機……クッ!!!」
翌朝僕が起きてきたら、ゲンデがベースルームのリビングで体育座りしてたんだよねぇ。
「えっと、フェイ?ゲンデどうしたの?」
「気にしないでいいと思います。自分の存在価値を現在模索しているだけですから」
僕の朝食をテーブルにセットしながら、なんて事ないようにゲンデをスルーしているフェイ。
「あー………昨日のアレかあ……」
僕も思い当たる事があるだけに、ゲンデに声をかけ辛いんだよね……
一応ゲンデに「おはよう」と声をかけて席に座り、箸を手に取って「頂きます」と食べ始める。
「うん!やっぱりお味噌汁ってホッとする……」
今日はフェイにお味噌汁をお願いしていたんだ。いや、美味しいものはいつも食べられるんだけどね。毎日食べるならやっぱり和食だよね。
「そういえば……オランがマスターに朝食も利用して貰う為に、和食に挑戦していましたよ?むしろ簡単に出来るから是非利用して欲しいって伝言をお願いされましたね」
「え?それ本当?嬉しいなぁ!」
焼き鮭とご飯を食べながらフェイとそんな会話していると、「あ“ー!悩んでたって仕方ない!」って叫び出したゲンデ。
「フェイ、俺の分もあるか?」
「あ、ゲンデが戻って来た」
「ありますけど、自分でどうぞ」
フェイは相変わらずゲンデにはつれないけど、ちゃんと二人分は作ってくれているんだよね。なんだかんだでゲンデを認めているからだと思うんだ。
「流石、フェイ」
ゲンデもまたそれをわかっているんだと思う。だからこの二人は結構言いたい事が言える間柄なんだよね。
まあ、僕もこの二人の前では素だからねぇ。とはいえ、ゲンデにはちゃんと伝えておかないとね。
おかずとご飯と味噌汁を乗せたお盆を持って席に着くゲンデの前に、トンッと[自警団専用キー]と似たものを置く僕。
「なんだこれ?」
「ゲンデは僕の専属護衛だからこそ持ってないとね」
なんて言う僕と[キー]を交互に見るゲンデに、フェイが補足してくれたんだけど。
「それは[自警団専用キー]の仕組みとほぼ同じですが、違う点があるとすれば[マンションセキュリティシステムサブキー]が追加されたゲンデ専用のものですね」
「いや、その、え?」
「マスターがゲンデをかなり信頼している、という事です。マンションセキュリティシステムのサブキーなんて私に作らせるぐらいですから」
フウとため息を吐くフェイがゲンデに教えていたように、僕がゲンデ用にと昨日お願いしてたんだよね。
因みに、[マンションセキュリティシステムサブキー]は、僕が出した各種の機材やAI諜報員や魔剣、魔導具、【保険】の適用を統括する権限があるものなんだ。
僕が知らないところで変な動きをする人がいたら、ゲンデの権限で使用禁止や保険を外せるというもの。
こればっかりは信頼できる人にしか渡せないからね。そろそろボルグド殿下やダノン父様にも渡そうと思っているけど……
そうそう。殿下といえば、昨日の事が気になるよね。ちょっと昨日に時間を戻して教えるね。
******
「うおっ!なんだこれ!すっげぇ格好良いじゃねえか!」
「ほう!これが全部諜報員か!」
外に出て興奮した声を上げるボルグド殿下に、感心した声を上げるダノン父様。
その後ろで僕とフェイとゲンデが待機している騎士達と一緒にその様子を見ているわけだけど……
殿下とゲンデが一緒なら、あの特殊牢にいた射手と仲間はどうなったのかって疑問に思うよね。
まずはそこから説明するよ。
あの後、一応マンションセキュリティシステムを見せておこうと思った僕が、自警団事務所の特殊牢に行った時には確実に一発だけじゃないだろう、と言う姿にされていたんだよ。
チラッとゲンデや殿下や騎士達をみると、みんな目線外していたからね。
更にそこに乱入?して来たのは、ガチャに夢中だった筈のミルリック王子。
「あらあら、いい具合に料理されているわねぇ。ふふふ、この私の貴重な時間を奪うぐらいだもの。これくらいじゃ甘いわ……!ボルグド!騎士を貸して頂戴!」
何やら怖いくらいに笑顔のミルリック王子に、若干引きつつ言われた通りにスレッドさんとシェインさんを貸す殿下。
言われたスレッドさんとシェインさんに至っては、「うげ……」「俺も?」と更に青くなっていたけど……?
「アラタちゃん。安心して頂戴。うちの父もやる気になっていてねぇ。ちょ———っとオイタが過ぎるこの子達を預かるわぁ。大丈夫よ、殺すなんて勿体ない事はしないから」
うふふふふふと笑いながら告げるミルリック王子に、僕は「お願いします」しか言えなかったけどね。
どうやら、ミルリック王子はパライバトル王様と連絡を取って王宮に戻って行ったんだけど、わざわざ王様がミルリック王子を出迎えていたらしいからねぇ。
ボルグド殿下の命を狙ったからだろうね……王とミルリック王子の怒り具合がよくわかったよ。
あ。怒り具合といえばね……
「殿下!!!奴らはどこに!?」
トレーニングフィールドで自警団や騎士達の鍛錬をしていた筈のダノン父様が鬼気迫る表情で特殊牢に来たんだよ。
どうやらダノン父様にも連絡が行ったみたいなんだけど……
「その格好である程度予想はつくが……遅かったな。もうミルリック兄上が連れて行ったぞ」
「ぬおおおお!一発も与えられぬとは……!」
「で?何してたんだ?」
「……殿下、悔しがる時間を下され」
「その格好でか?」
「いや、その……今回のトレーニングフィールドを海にしてみましてな。少し潜り過ぎていたようで『ジム』に止められましてな」
「ダノン……騎士達見ないで何やってんだよ……」
事情を説明したらしたで、殿下に呆れられているダノン父様。そのダノン父様の現在の姿は、トランクスタイプの海パンとブーツだけの姿なんだ。
……殿下が呆れて見てる気持ちが、僕もちょっとわかるかな。
因みに、ダノン父様が言う『ジム』は、フィットネスジムのAIの『ジム』だよ。
基本『マンション』内ならどのAIも移動可能なんだ。
まぁちょっと前に、オーセンティックBAR・紫炎のAIストロワが王様をメインエントランスに出迎えした事があるから、みんなは知っていると思うけどね。
どうやらその『ジム』からフェイが受けた報告によると、ダノン父様は水深50mまで酸素ボンベ無しで潜っていたそうだよ。
そろそろ戻ろうとしていた時に騎士達から報告を受けて、急いで戻ろうとしたんだって。
でも基本浮上には、10m上がるのに1分と時間をかけなきゃいけないし、水深5〜6mの辺りで5分圧力の変化に慣れる為に停止しなきゃいけないから時間がかかるのが当然なんだけどね。
そこはダノン父様。
『ジム』の静止という名の拘束がとれると……ジムが持ってた酸素ボンベにも一度しか頼らずに浮上して、休む事なく此処まで走って来たらしいんだ。
そんなダノン父様の事を『ジム』ですら人としてあり得ないってフェイに報告したそうだよ。
うん、僕もそう思うよ……
でも、どんな状況でも駆けつけてくれるダノン父様がいるから僕らも安心出来るんだけどね。
まあ、それから僕がやりたい事を説明して外に出た時は、流石のダノン父様も着替えて出て来ているよ?
そして殿下に一旦移動を止めて貰って、マンションセキュリティシステムを稼働させて今に至るわけだけど———
「「「「「マスター、ご命令を」」」」」」と、全員で声を揃えて僕の前に跪くAI諜報員達の姿は圧巻だったなぁ。
フェイによると、AI諜報員達は現時点までの情報はAI同士で共有しているから、一から説明をする手間が省けたんだ。
だから、僕の実家の動向と辺境伯領とヘーゼル国の三カ所に別れて情報収集をして貰うようにお願いすると……即座に三部隊に別れて輸送機に乗りこんで行ったんだ。
その行動の早さには、殿下の諜報員達も驚いていたみたい。負けられないと思ったのか、素早く姿を消して後を追ったらしいけど……
フェイに頼んで殿下の諜報員と上手く連携を取るようにして貰ったから、もしかしたら途中でピックアップして行ったかもしれないね。
その様子を黙って見ていたゲンデ。
その時は、僕も殿下もダノン父様も垂直離着陸式輸送機の登場にテンションが上がっててね。ゲンデが次の日にまさか落ち込むとは思ってなかったんだ。
さて、これで経緯はわかったかな?それじゃ、時間を翌日に進めるよ。
******
「悪い……アラタ。落ち込んでいる場合じゃなかったな」
「ゲンデらしくて良いのでは?」
「フェイ!お前に言ってないから!」
僕から[キー]を受け取って照れ隠しをするゲンデと揶揄うフェイのやり取りに、思わず笑い出す僕。
やっぱり『マンション』に住む人達にもいつもこんな感じで笑っていて欲しいんだよね。
———だからこそ僕も動いたんだけど……まさかの事態が早速AI諜報員から寄せられるとは、この時は思いもしなかったんだ。
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