カルチャールームを利用しよう
『本日午後2時(5の鐘頃)、一階の図書室内ワーキングルームにおいて、自警団ご家族の皆さんの要望にお応えする会合を開催致します。可能な限りご家族全員でお越し下さい。
マンションマスター アラタ 』
僕のブランチの後、フェイに頼んで自警団寮の掲示板に張り出して貰ったんだけどね。
ん?ご家族の皆さん、時計の読み方わかるのかって?
だから各階に時計(鐘の音付き)を設置しているよ。ウェルダント国では鐘の音が時刻を知らせるようだからね。
因みに6時からが1の鐘、その後は2時間事に鐘の音が増えていくんだって。それで、18時の7鐘の音で終わりらしいよ。
という事でちゃんと5の鐘って書いているけど、そもそも字が読めるのかって疑問もでるよね。
そこはパメラさんに頑張って貰おうって事になってね。まずは伝達をサーディンさんにお願いしたんだ。
因みに、自警団寮には[エントランスキー]とは違う[自警団専用キー]を渡しているんだけどね。
通信だけは[エントランスキー]と[自警団専用キー]同士でも出来るようになっているよ。
そして、基本的に[自警団専用キー]は常に自警団員が身につけているもの。
更に、自警団の世帯持ち寮には子機とも言える[自警団家族専用サブキー]を取り付けているんだ。
帰り遅くなるとか、ご飯要らないとか家族内連絡が出来るようにね。ん?そういえば……
「フェイ。自警団家族構成名簿も出来たんだって?」
「はい。『マンション』内に誰が住んでいるのかを自警団員内でも理解していた方が良い、という殿下のお達しでしたので」
「うん、それはそうだね。それちょっといい?」
確認する為にフェイから受け取った紙の内容は、自警団員全員に既に配っているらしいよ。こんな内容だったね。
『ー自警団家族構成名簿ー
2ー26号室 自警団員 アーサー(21)
・カーラ 女 (14) 妹
・リベラ 女 (7) 妹
・ヤック 男 (3) 弟
2ー27号室 自警団員 ジェット(22)
・モニカ 女 (18) 妻
・ランディ 男 (1) 子
2ー28号室 自警団員 サーディン(25)
・パメラ 女 (24) 妻
・ティート 男 (8) 子
・マディラ 女 (5) 子
2ー29号室 自警団員 アロンソ(31)
・エーナ 女 (31) 妻
・ダイナ 女 (15) 子
・ジーグ 男 (14) 子
・ライ 男 (11) 子
2ー30号室 自警団員 ディン(23)
・ドルフ 男 (10) 甥
・セアラ 女 (10) 姪
団員家族 計14名 』
なんというか……見ただけで考えさせる世帯があるなぁと思って、思わず詳細をフェイに尋ねると———
アーサーさんの家は、ご両親が二年前に乗り合い馬車で移動中に盗賊に襲われたらしく、その時に二人共亡くなり当時一歳だったヤック君だけ奇跡的に生き残ったらしいんだ。
それでアーサーさんは家に残された妹達と生き残った弟を引き取って、兄弟で協力して今までなんとか暮らしていたんだって。
それで迎えた今回の自警団選抜。絶対世帯持ち専用を手に入れるんだって、かなり気合いが入っていたらしいね。
そういえば……実は、自警団選抜で世帯持ち専用部屋は激戦区だったんだって。
辺境伯家の騎士さん達もこの機会に家族を呼べたらと願っていた上に、更に新しく入った殿下の騎士さん達もかなりの人数が世帯持ち専用部屋を狙っていたらしいんだ。
でも、結果は実力者からどちらに入るかを決定していったから、ディンさんが「世帯持ち専用で」と言って最後の一枠が埋まった途端に崩れ落ちた人が多数出たとか。
そのディンさんも、結構な複雑家庭なんだよ。
三つ違いのお兄さんに憧れて騎士になったディンさん。
そのディンさんのお兄さんのお嫁さんは、双子を産んだ時に亡くなりお兄さんが一人で育てていたらしいんだけどね。
勿論、兄弟であるディンさんもよく手助けには行っていたのだけれど、お兄さんが魔物討伐中に仲間を庇って亡くなってしまったんだ。
残念ながら、その仲間もその後に魔物にやられてしまったみたいだけど———問題は残された双子の子供達。
ディンさんの両親は病気や事故で既に他界していたし、お嫁さんの家は大家族で余裕はないからという事で、ディンさんが引き取って面倒見ていたんだって。
「二人共なんて優しいんだ……!」
そんな裏話をフェイから聞いて、滝のように目から涙が流れる僕。
まぁそんな僕の事はさておき……今、僕とフェイとゲンデは告知していた図書室の中のワーキングルームいるんだよ。
ワーキングルームって言ってもブースがいっぱいあるからね。僕らがいるのはその中のコミュニティブース。
自警団員家族の皆さんがきたら、図書室の管理AIのサーチにここまでの案内を頼んでいるんだ。
あ、そうだ。コミュニティブースがどうなっているか気になるよね?
コミュニティブースでは、30人くらい収容出来る空間に四人用の丸テーブルと椅子のセットが六つあるんだ。
隣に簡易キッチンもあるから、フェイに頼んで紅茶を準備して貰っているよ。子供達はジュースだね。
なんて頭の中で説明していたら、サーチが誰かを連れて来たみたい。
「サーディン様のご家族が到着されました」
「はーい!部屋番号が書いてある席に座って下さいねー!」
案内されて不安気に覗き込む人達に声をかける僕。
どうやら1番最初に来たのは、サーディンさんを含むパメラさん、ティートくん、マディラちゃんの四人だね。
僕が手を振って迎えると、通りすがりにゲンデとハイタッチして家族を席に連れて行ったのはサーディンさん。
ん?仕事はどうしたんだろう?
「マスターからの初呼び出しですから、全員が来ますよ」
また僕の考えを読んだフェイが、紅茶とジュースをサーディン家の席に運んで行ってくれたけどね。
えっと……まさか休んでまで来てくれたの?と、不安に思ってサーディンさんに聞いてみたらね。
「いえ、一応仕事の時間内です」
そんなサーディンさん曰く、僕の護衛という名で殿下が気を効かせてくれたらしい。……うん、殿下らしいね。
そしてサーディンさんを初めとし、その後続々とコミュニティブースに集まる自警団員さん達とその家族さん達。
つい、アーサーさんとディンさんの姿が見えた時にうっかり涙を流してしまった僕。
そんな僕を横目に「アラタは今感情が豊かなだけだから気にすんな」と、心配するアーサーさんとディンさんに説明してくれるゲンデ。
いけない……!このままじゃ、変な人イメージがついちゃう。
気の利くフェイからハンカチとポケットティッシュを受け取ると、チーンとティッシュで鼻をかんでからハンカチで涙を拭いてなんとか顔を元に戻したんだ。
『安心して下さい。自警団員には、マスターの奇行に慣れるように言っておりますから』
……なんとも安心できないフェイの念話をスルーして、出席者が揃った事を確認して貰ったんだ。
あ、やっぱり世帯持ち専用に住んでいる全員が集まったみたいだね。うおぅ……僕の名前って強制力あるんだなぁ。
ちょっと使いどころに気をつけようと反省しつつも、様子を見てみると各テーブルの雰囲気が穏やかだったのが助かったよ。
うん、そろそろフェイに紙を渡して貰おうかな。
そう思った僕は立ち上がって「皆さん」と声をかけたんだ。するとザワザワしていた声が徐々に静かになっていき、安心して話し始める僕。
「皆さん、突然の呼び出しに応じて下さってありがとうございます。僕の話を始める前に、まずは皆さんに見て貰いたいものがあります」
言い終わった僕が目でフェイとゲンデに合図を送ると、フェイとゲンデによってそれぞれのテーブルに渡される数枚の紙。
うん、自警団員のみんなが居てよかったかも。字が読める人が必ず各テーブルにいるからね。
「一枚目の紙をご覧下さい。これはカルチャールームでの時間割りです。自警団員の皆さんは、ご家族にわかるように読んであげて下さい」
僕の言葉に困惑しつつも団員達が読み上げ始め、再度ザワザワし始めるコミュニティブース。あ、一応みんなにも見せておくね。
『 まずは必要な常識を覚えよう!
7:00(1の鐘と半刻) 『文字の読み書き』 講師 AI
8:00(2の鐘) 『数字と計算』 講師 AI
9:00〜10:00(3の鐘)まで休憩。
10:00(3の鐘) 『マンション講座』 講師 カル
11:00(3の鐘と半刻) 『マナー講座』 講師 セラ
12:00(4の鐘) 昼食と休憩(ダイニングキッチン・新にて)
14:00(5の鐘) 選択講座
『料理教室』 講師 オラン
『掃除・配膳教室』 講師 セラ
『騎士訓練教室』 講師 ボルグド殿下
『マンション整備士教室』 講師 フェイ
『絵画・音楽(歌/演奏/ダンス) 教室』 講師 セレナ&AI
16:00(6の鐘) 終了
*カルチャールームには託児室が完備されています。各種おもちゃ・知育玩具・遊具・運動空間付きです。
辺境伯家のメイドや従者の方々が責任を持ってお世話しますので、安心してご利用下さい。
カルチャールーム担当 カル 』
……いや、殿下何やってんの?って最初思ったけどね。
しかもセレナ母様やフェイもだけど、セラさんや辺境伯家のメイドさん達や侍従さん達も協力してくれているんだ。
あ、勿論全員に給料をきちんと払っているよ?セレナ母様と殿下にも。
あの二人はいいお小遣いだって喜んでいたよ。初めは受け取ろうとしなかったけど、各種サービス券付きにしたら受けとってくれたんだ。良かった、良かった。
あ、みんなを待たせているね。
「各テーブルで読み終わったでしょうか?」
僕の問いかけに各テーブルの自警団員が代表で頷き返してくれるのを見て、説明を続けたんだ。
「僕の考えを説明しますね。まずは先日、皆さんが僕の為に役立ちたいと願い出てくれた事に感謝します。
ですが、皆さんもご存知のようにこの『マンション』は色々複雑且つ高度な運営をしています。
僕の為に働くことは、それに対応していく事なんです。
ですから、もしその心が変わらず最終的に『マンション』内で働いて下さるならば、この訓練期間の受講料は無料で行わせて頂きます。
将来の有能な人材は宝ですからね。勿論、提案ですから断ってご自宅でご家族を待つ事を選んでも大丈夫ですよ?
それに、二枚目以降の紙にはカルチャールームでの他の講座についても紹介させていただいています。こちらは申し訳ありませんが有料です。
ですが、自警団員家族料金になっていますからお手頃価格になっているはずです。
自分がやってみたい事に取り組んで『マンション』生活を楽しんで下されば、それも僕の喜びの一つになりますから
ご検討下さいね?………って、アレ?」
ど、どうしよう……?僕、何かしたかな?
周りを見て見るとね……大人の自警団員さん達や奥さん達や若者まで涙を流しているんだよ……?
あ、マディラちゃんやヤック君やランディ君はポカーンとしているね。うんうん、気持ちわかるよ。
そうしていると、この自警団員の中で1番年齢の高いアロンソさんが立ち上がって話し出したんだけど———
「……っぐぅ…す、すみません。醜態をお見せしました。ですが、まず言わせてください。……家族の為にここまで手配をして下さり本っ当にありがとうございます!!!」
アロンソさんがガバっと勢いよく上半身を折り曲げてお礼をすると、すぐさま立ち上がり同じように「「「「ありがとうございます!」」」」と声を揃えてお礼を言う自警団員達。
なんと、その様子に各家族達も立ち上がってその場で頭を下げてきたんだ。
「え、えっと?!皆さん、分かりましたから、顔をあげて下さいませんか?」
突然の事に逆に僕がオロオロしちゃったよ。なんとか全員顔をあげてくれたんだけどね。すると、今度はサーディンさんが話し始めたんだ。
「アラタ様のお心遣いに感謝致します。……正直言って、家族には迷惑かけてばかりだったので、何もしてやれない事が心残りでした。
ですが、ここにきて貴族のような生活環境、家族と顔を合わせられる頻度、安心して暮らせるとはどう言う事かを身を持って体験させて頂いてそれだけでも十分でしたのに……」
制服の袖で目をぬぐい、言葉が途切れたサーディンさん。今度はディンさんが話し始めたんだ。
「字や計算も教えてやりたくても、生きるので精一杯だった俺らにアラタ様は希望を下さったんです。……コイツらの本当の意味で笑った顔を久しぶりに見る事が出来ました」
振り返って義弟や義妹のドルフ君やセアラちゃんの頭に手を置くディンさんの笑顔は本当に優しい表情だったんだ。
「俺の家もディンと一緒です。家の事を妹達に押し付けて俺は何もしてやれなかった……!だから、妹や弟の将来の為にこの場所を与えて下さったアラタ様に俺は生涯の忠誠を誓います!」
そう言って騎士の礼を取るアーサーさんに続けて声を上げたのは、ジェットさん。
「俺も、俺もアラタ様に誓います!家族を安心して預けられるこの環境を与えて下さったんです!何より苦労をかけていたモニカが望んだ事を叶えてあげられる事に、俺は感謝をしてもしきれません!!!」
一歳になったばかりのランディ君を抱えるモニカさんを抱き寄せてお礼を言うジェットさんの姿を見て、ボソっと僕の隣でフェイに話しかけるゲンデ。
「……出たぞ。アラタの人たらしが」
それに対してフェイはご満悦の表情で頷き「マスターですから」とか言ってる。
ま、まぁそれはともかく、全員喜んでくれているようで良かったかな。
アクセスありがとうございます!




