さて、生きる準備をしよう
窓から差し込む明るい光。穏やかな日本の朝とは違い、ギャーギャーと鳴く魔物の声が響く朝。そして……
「全く!側にいてくれないと、こっちが心配するじゃないか!」
朝から響くゲンデの怒鳴り声。……まあ、心配してくれたのは嬉しいけどね。
「同じ部屋にいたでしょう?」
「普通はこういう時、隣にいると思うだろうが!!……まあ、いい。で、魔力は戻ったのか?」
「あ、そうだね。確認しなきゃ」
まだ納得いってないゲンデをとりあえず置いといて、僕はステータスを確認する。
アラタ(ディゼル) 13歳 男 人間
HP 100/100
MP 100,000/100,000
スキル マンション
解放設備 宅配ボックス
称号 転生者 創造神の加護
(あ、大丈夫そう)
「ん、戻ってる。じゃ、朝ごはんにしよっか?」
「……頼む。というか、現状頼りっぱなしだが……」
「いーの、いーの。やってもらう事はいっぱいあるんだから」
「やる事……か。そろそろ馬車の後始末や、一応偽装をしておくとは思っていたが」
「そうだね。今日はそういうのをゲンデはお願いするよ。僕はちょっとやりたい事あるし」
「やりたい事?」
「うん、それも食べながら伝えるよ」
グウウとお腹を鳴らせるゲンデを横目に、僕は宅配ボックスのコンビニを開いて注文を始める。今朝はコレがいいね。
バケットサンド×2 MP740
BLTトーストサンド×2 MP760
照り焼きチキンサンド×2 MP720
アイスカフェラテ×2 MP400
飲むヨーグルト×2 MP280
合計 MP2,900
うん、こんなもんでしょ。
ゲンデは僕のやり方を見てトーストサンドを開けて齧り付いてる。「うんまっ!」って満足そう。
僕も久しぶりに味わいながら、ゲンデにやりたい事を説明する。
「まずは能力の確認だね。ゲンデ、ここで作業するにあたって魔物や盗賊の危険はないかい?」
「ほりゃ……(ゴクン)。そりゃ、当然だ。この辺りは街道沿いとはいえ油断は禁物。どこからでも出てくるのが奴らだからな」
「だよね。だから、ゲンデには実験体になって欲しいんだ!」
「待て……何をやらせる気だ?」
「僕のスキルに保険ってあったんだけど、詳しく見たら外作業や移動に使えそうでね」
胡乱げなゲンデに僕は保険の概要を伝えたんだけど、詳細はこんな感じだったんだ。
『[保険]*対象を選んで下さい。(入居者のみ使用可能) 重ねがけ可能。2種類まで。
・耐震 MP1,000
建物対象の場合:災害時による倒壊を防ぐ
人物対象の場合:大地の変化に対応。(例:落とし穴→落ちない。衝撃→吸収等)一日保険。保険の重ねがけ可能。
・対物 MP1,000
建物対象の場合:故意や過失による倒壊を防ぐ
人物対象の場合:魔物や人からの攻撃を防ぐ。(例:悪意の伴った物理攻撃からの保護)一日保険。保険の重ねがけ可能。
・火災 MP1,000
建物対象の場合:火事による被害や損失のからの保護
人物対象の場合:魔法攻撃を反転。(全属性魔法攻撃からの攻撃無効)一日保険。保険の重ねがけ可能。
・人災 MP1,000
建物対象の場合:人が原因の損失を防ぐ
人物対象の場合:人や魔物からの物理・魔法・精神攻撃無効化。一日保険。重ねがけ可能。
[入居者追加]一人に付きMP10,000 』
「でね?ゲンデに外で作業する時、是非保険を試して貰いたくてね」
ニコニコ笑顔でお願いすると、ホッとした表情のゲンデ。
「それなら、構わない。むしろ頼みたいくらいだ。元々食料は外で調達しようと思っていたからな」
「あ、もしかして。ゲンデって狩りとか解体とかできるの?」
「田舎者だからな。俺の住んでた辺りじゃ当然の事だ」
「うわぁ、やった!ある程度スキルに頼らずできるんだね!流石年長者!」
僕が手を叩いて褒めたら「俺はまだ23だ!」とゲンデに突っ込まれたけど。そういえば、ゲンデの年齢初めて知ったなぁ。
……うん、ゲンデ老けてるから30代だと思った事は黙っておこう。
「じゃ、じゃあさ!狩りに必要なナイフとか出したらいいかな?」
「それは頼む」
余計な考えを誤魔化す為に言ってみたら、ため息とともにお願いされたよ。考えている事バレてたみたいだね。
アレ?ところでコンビニで包丁ってあったっけ?果物ナイフがあれば良い方だよね……
念の為宅配ボックスのテナント[ドラッグストア]MP50,000を選択。薬も欲しいし、キッチン用品も必要だからね。
「コレは切れそうだな……!よし、行って来る!」
MP10,000の包丁を握りしめ、どこぞに強盗でもやりに行くのかというゲンデを一旦止めて、慌てて保険をかける僕。
[保険]をタップして対象をゲンデに指定すると、とりあえず[人災]保険MP1,000を選んで確定をタップ。するとゲンデが一瞬ぽわっと緑に光って元に戻ったんだ。
「これで、良いのか?」
「多分……?」
「おいおい……」
とりあえず「無いよりましだよ」とゲンデを追いたてて見送った僕。ゲンデもゲンデで「まあ、そうか」と納得していく辺り、僕らは大概かもしれない。
まあ、気分を変えて、僕は早速開いたドラックストアの商品を見る。
「へえ……最近のドラックストアって便利だよねぇ」
見てみると、ミニスーパーとも言えるお肉や生鮮野菜や食料品。それに薬や化粧品やシャンプー石鹸はもちろん、下着やパジャマ、洋服まである!
「衣類は助かるよね…あとは……」
僕はゲンデに合いそうな服や僕の代えの服をメインに、調味料や食材をカートにどんどん入れていったんだ。
夢中になっていたのは仕方がないと思う。必要なものいっぱいあるんだから!
でも、ヨシ!このくらいで……とカートの清算をすると、目の前が真っ暗になったんだ。
……どうやら僕はMPを使いきっちゃったらしい。
******
………タ……アラタ!大丈夫か!
アレ?ゲンデどうしたんだろう?
僕がぼんやりする間も、ゲンデは僕の頬をペシペシ叩いてくる。ゆっくり瞼を開けると、そこには泣いてぐちゃぐちゃな表情になったゲンデが見える。
「……ゲンデ?なんで泣いているの?」
「アラタッ!この馬鹿っ!無理したんだろっ!」
まだぼー……としている僕に容赦なく怒り出すゲンデ。それでもホッとしたのか、横になっている僕にガバっと抱きつき「良かった……!」とまた泣き出すゲンデに、僕はとりあえず背中をポンポンと叩く。
あちゃー……心配させたかぁ。
大丈夫だからと声をかけつつ、なんとか泣き止んだゲンデの話によると……
一通り様子を見て兎を狩って帰ってきてみると、リビングで倒れていた僕を見つけたらしい。
ゲンデは慌てて入ってきて様子を見るも、青白い顔で息をしているように見えず、思わず頬を叩いて生きているかどうか確認したそうだ。
すると、僕が「うぅ…」と声をあげて生きている事はわかったものの、心配の余り名前を呼び続けていたら気づいた僕。←今ココ。
「俺はまた一人になるかと思って……!」と涙を拭きつつ言い訳をするゲンデ。
ゲンデは過去に家族と死に別れをしていたらしい。それを思い出して、涙が出てしまったとか。
……うん。コレは僕が悪いね。
僕も魔力を使い切ってしまった事を素直に話しゲンデにお叱りを頂いたけれど、そこはそれ。
即座に宅配ボックスから飲み物を持ってきてくれたゲンデ。その後、宅配ボックスからごろ寝クッションを見つけてタオル枕と共に持ってきてくれたりと甲斐甲斐しく世話をしてくれたんだ。
ん?宅配ボックスの使い方をよくゲンデが知ってたな、って?
そこら辺は柔軟なゲンデ。今朝の僕のやり方を真似して宅配ボックスに手を入れたら、頭に目録が写真と共に浮かんできたんだって。それで、大体の商品を理解できたらしいよ。
まあ、僕と一緒にいるなら、僕のスキルにはどんどん慣れて行ってくれないとね。
それで、色々こちらの事を報告しながらも、ゲンデの方の報告も聞いてみたところ……
「馬車はどうやら盗まれたみたいだった。まあ、馬ごとそのまま置いていたから、盗めって言ってるようなものだったからなぁ……。で、馬車は諦めて辺りを探っていたら、何か音がしたと思って振り返ったら兎が伸びていてな。すかさず仕留めてきたって訳さ」
しっかり[保険]も効いていたらしい。兎とはいえ一角兎っていう魔物。肉は結構美味しく、農民でも狩れる程度の魔物だけどさ。
「で、ついでに盗賊に襲われた事にしようと思ってな。すぐバレるだろうけど、アラタの着ている上着貰って良いか?破いて兎の血つけて街道横に置いてこようと思うんだ」
と、結構考えていてくれたらしいゲンデ。僕もやらないよりは良いかと納得して上着を脱がして貰う。
いや、ものぐさって言わないでよ?だって、動くと頭痛いし身体が重くてキツイんだって。
だからこの日は、ゲンデに偽造証拠を残す作業だけしてもらって、今後の予定を考える事にしたんだ。
僕のマンションスキルは入居者しか見えないみたいだから、ディゼルの追っ手が諦めるまでしばらくこの場にいる事にして、色々揃える事にした僕達。
———結局1ヶ月くらいその場に居座り続けた結果、僕達の暮らしは劇的に変わった。
「アラタのスキル無しではもう生きられん!」ってゲンデが言うくらいにね。
現代日本人の生活ってやっぱり贅沢だよなぁ。
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