ウェルダント家と初対面
まあ、あっという間に謁見当日なったわけだけど———
僕がきっちり着替えてエントランスロビーに行くと、同じくきっちりと着替えたダノン父様とセレナ母様の姿があったんだ。しかも……
「どうだ?この格好も似合うだろう?」
ダノン父様は僕と同じ型のフォーマルスーツを着用しているんだ。紺のジャケットとベストに赤のシャツに白のネクタイというスーツ姿だけどね。
……うわぁ、ムッチムチのスーツ姿って凄いね……!
ダノン父様のスーツ姿、ちょっと引くぐらい迫力があったんだ。どこの国のボディーガードだ?って思っちゃったよ。
「私もこのようなドレスは初めてですわ。でも、選んでいてとても楽しかったのよ」
そんなダノン父様の隣で上品な笑顔のセレナ母様は、ネイビー色のロングドレス姿。肩出しレースありのAラインのドレスなんだけど、アクセントに金の刺繍が入りエレガントって言葉がぴったりなんだよ。
そして勿論、二人の服を頼んだお店もアパレルショップの店舗の一つ、オーダーメイドヤミン店。
あのお店注文して一日で届く辺り凄いよねぇ。あ、採寸は勿論メイドさん達が測ったみたいだよ。
因みに、エイダンとレナちゃんは今回は留守番。レナちゃんはともかく、エイダンは不満顔。
どうやらマナーの点で、僕を守るつもりでいてくれたらしいんだ。うん、宮廷マナーはちょっと心もとないからね、僕。
「大丈夫だ。エイダンの分も我らがアラタの助けになってくるからな」
人を思いやるエイダンの成長を見たダノン父様は、嬉しくてエイダンの頭を撫でて褒めてあげていたよ。
エイダンも「僕はもう子供じゃありません!」なんて言いながらも嬉しそう。うんうん、よかったね。
「みんな集まったか?」
そんなほのぼのしているところに最後に現れたのは、ボルグド殿下とグエルさん。
「……殿下って、格好良かったんですね」
「お前……!今更か?」
マンションではシャツとジーンズ姿の殿下が、今日はモデルのようにベルベットのジャケットスーツ姿が似合ってたから、つい思った事言っちゃったよ。
あ、一応説明しておくね。今日は王宮から迎えの馬車が手配されているから、殿下はそれに乗って迎えに来た設定で一緒に行くんだ。
王族側にはもう[エントランスキー]の事も報告済みだからね。
ちょっと拗ねてしまった殿下を煽て持ち上げつつ、エイダンとレナちゃんに見送られて迎えの馬車に乗り込んだ僕ら。
手配された王家専用馬車には、殿下と僕とフェイとダノン父様とセレナ母様が乗り、グエルさんは御者席。ゲンデは騎士達と一緒に馬に乗って移動中なんだ。
「それにしても、フェイ。今日はまた気合いが入ってるなぁ……」
改めてフェイの格好を見て呆れた表情の殿下。
ダノン父様はうんうん頷き、セレナ母様がうっとり見つめるフェイの今の姿は、パンツタイプのキャビンアテンダント姿なんだ。
首にはトレードマークのスカーフを巻き、髪をきっちりアップにして伊達眼鏡をかけるまでの徹底振り。そんなフェイ曰く……
「私はアラタ様のサポート役ですから」
なんて言って伊達眼鏡を指でクイっとあげる姿は、ちょっと楽しんでいるようにも見えるけどね。
アテンダントって付き添いって意味もあったけど……単に、着てみたかったんだろうなぁ。
なんてぼんやり思っていると、あっという間に王城到着。
そもそもそんなに離れていなかったんだ。そう考えると、セレナ母様の御実家であるフィッセル家の地位が高いってのがすぐわかるよね。
このフィッセル家については、後で登場するから今は置いておくね。
それよりも、今は馬車を降りて王宮内を歩いているんだけどね———
『フェイ、すっごく視線を感じるんだけど』
『当然ですね。ボルグド殿下を始め、全く異質な服を纏った一行が歩いてくるんですよ。明らかに殿下が拾って来た異質な存在だと自ら明かしているようなものですから』
『まぁね。それが一つの狙いだからね』
『そうでしたね。それに、殿下は勿論かなり前のめりでダノン様もセレナ様も協力してくださいましたから良かったですね、マスター』
『うん』
———だって、これは一つのデモンストレーションなんだ。
僕の力の有用性だけじゃなく、僕は国には媚びないという意思表示のね。
僕は僕が選んだ人だけを信用するし、協力するって意味を込めているんだ。
だから、多くの貴族が居る場所で怯んじゃいけないよね!
って決意を固めていると、殿下がピタっと一つの扉で止まったんだ。
「さて……アラタ、驚くなよ?」
ん?待合室になんか仕掛けがあるのかな?
振り向いて僕にそんな忠告をする殿下に首を傾げながら部屋をノックする殿下。
あれ?なんでノック?
疑問と共に『入れ』という声に一抹の不安を覚えた僕。
うわ、よく見たらなんか立派な扉なんだけど……?
「ようこそ!我がウェルダント国へ!歓迎するぞ、アラタ君!」
案の定、部屋の中には高貴な佇まいの方々がすでにお待ちかねで、中でも王冠をつけた立派な体格の方が立ち上がって僕を歓迎してくれたんだ。
あまりの事に「へ?」と間抜けな声をあげてしまった僕。そんな僕にフェイがすぐ念話でフォローをくれたんだ。
『マスター、どうやらウェルダント王家が集結しています。王と王妃に王太子夫婦と第二王子ですね。……現在警戒すべき人物はおりません』
警戒どころか、僕が驚きすぎちゃったからね。フェイがいてくれるのは本当に助かる!
「驚かせてすまないね。皆、今日という日を楽しみにしていたんだ。ああ、ダノンにセレナも久しぶりだ。そんなに畏まらんで良いぞ」
どうやらダノン父様とセレナ母様は王家の前という事で最敬礼をしていたみたい。うっかり驚いてしまった僕もちょっと遅れて最敬礼の仕草を真似してみたんだ。
うう……最初が肝心なのに。
「ああ、アラタ君は気にするな。君は本来王家と同等なんだからな」
王様にパチンとウィンクされてしまったけど、え?どういう事?
今の状況が掴めないまま「さあ」と王様に席に促されて席に座ったんだけど……気が付けばダノン父様とセレナ母様に挟まれる形で座っていた僕。
あ、殿下は王家側に座って、フェイは僕の真後ろに立ってくれているよ。
『マスター。どうやらウェルダント王家は、マスターの背景をすでに理解している様子です。……やはりこの国には残っていたのですね。[勇者録]が』
『ちょっと待った!あれでしょ?昨日フェイが教えてくれた日本人の転生者が残した本だったよね?』
『その通りです。……マスター、どうやら心を読んでいるのが気付かれました。心を通して話しをさせて欲しいと仰られています』
フェイに言われてハッと前に視線を戻すと、苦笑していた王家の皆様。
「……やはり、書物の通りだな。アラタ君、君の後ろにいるのが君のスキルの補佐だね。補佐の方には明らかだろうが、歓迎の意味も込めて我らから自己紹介させて欲しい」
……まさかこんな展開になるとは予想外だったなぁ。
それから王家の皆さんが一人一人僕に自己紹介をしてくれたんだけど、実際に再現すると長くなるから僕がまとめて紹介するね。
現王様の名前は、パライバトル・ウェルダント(45)。
王妃様は、スウィート・ウェルダント(44)。
王太子様は、サンタリア・ウェルダント(28)。
王太子妃様は、アーガイル・ウェルダント(27)。
第二王子様は、ミルリック・ウェルダント(25)だそうだよ。
やっぱり王族だけあってみんな美形が多いの。それでいて、きっちり鍛錬もしているんだろうなぁ。男性陣、身体付きが良いんだ。
女性陣も美女美人揃い。うん、目の保養だね。ん?何、フェイ?……?
あ、えっと話し戻すね。当然その後、僕も王家の皆様に挨拶したんだ。勿論、今度はきっちり挨拶出来たんだよ。
でもその後、パライバトル王様に質問されたんだ。
「アラタ君は[勇者録]については知っているかな?」
そうそう!みんなは[勇者録]って何?って思うよね?僕はフェイに聞いていたから少し説明しとくね。
どうやら歴代の転生者はほぼ日本人だったみたいでね。[勇者録]はそんな転生者が好んだ食べ物や嗜好や生活についてかなり詳細に記載されていたみたいだよ。転生者の日記もあったんだって。
あ、僕の他に転生者がいるのか気になるところだよね?
[勇者録]によると……転生者が存在する時代には、他の転生者は混乱を避ける為に存在しないみたい。
これについて聞いた時は、ちょっと残念なような、ホッとしたようなって感じだったなぁ。
転生者にも色々な性格の人がいるからね。
後、転生者が発見された場合なんだけど、見つけた国でその時代の転生者を保護する条約を国々が交わしているらしいよ。
……結構水面下では争いもあったみたいだけどね。
大概、強力な力を持って現れるのが定番の転生者だからね。これも予想がつく展開だったよ。
だけど、今までの転生者はどうやら武力や聖魔法や生産に特化していたらしく、僕みたいに居住系は初めてみたい。
まあ、歴代の転生者が色々しでかしてくれたおかげで、転生者の地位は高く、国の王族と同じ権威を持つんだって。
うーん、僕はそんなに偉くなりたくないんだけどねぇ……
因みに後で聞いた事だけど、殿下やグエルさんが僕が転生者だって確信したのは、やっぱり食べ物らしいんだ。主に日本酒の存在だね。……かなりお酒調べていたからなぁ、殿下達。
それで、確信した時点で国に報告していたらしいよ。これはフェイも気付いていたらしいけど、僕の為になるからそのままにしていたみたい。
だからこそ、今この場があるんだって。
じゃ、そろそろさっきの場面に戻るね。
「はい、知っています」
「そうか。では、ちょっとだけ時間をくれるか?アラタ君は見ているだけで良い」
何が始まるのかな?って思っていたら、パライバトル王様が一旦メイドさんや騎士さん達を部屋から下がらせたんだ。
僕らと王族しかいなくなったのを確認して、パライバトル王様が一枚の紙をテーブルの上に置いて、王家の皆さんに視線を向けたんだ。
「我らウェルダント王家一同が宣言しよう。アラタ君を拘束や束縛する事はせず、アラタ君自身の意思を尊重する事をこの【魔導契約書】に誓う。誓える者は宣言を持って答えよ」
パライバトル王様が宣言すると、テーブルの上に置かれた紙から光る魔法陣が飛び出してきたんだ!
「「「「「「【誓う】」」」」」」
ボルグド殿下も含め王族全員が迷いもせず揃って宣言をすると、魔法陣が六分割されて、王族の胸にスウっと吸い込まれていったんだよ。
「契約は成立した。これで、違反をする者は王族としての立場と一切の魔力を失う事になる」
ひとしきり見回して、全員に確認するように言い切ったパライバトル王様。
僕といえば……突然の事で驚いていたんだけど、不意にフェイから念話が届いたんだ。
『マスター。どうやらこの王家は、マスターの存在にどんな意味があるのか正しく理解しているようです。私としては、この者達の魔力登録を推奨致します』
どうやら僕が僕の思いを宣言する前に、ウェルダント王家がフェイのお眼鏡に叶ったみたいだ。うん、フェイが言うなら大丈夫だね。
それに……
「どうだ?アラタ。ウチの家族はお前の『マンション』に招いて貰えるだろうか?」
ボルグド殿下がしてやったりとニヤッと笑った事で、殿下が僕の為に裏で動いてくれた事がわかったんだよ。
そっか。……殿下の気遣いが嬉しいなぁ。
「勿論です!皆さんを僕の『マンション』へご招待させて下さい!」
うん!王家の皆様には、是非ロイヤルパレスを案内しないとね!
アクセスありがとうございます!




