王家からの呼び出し
あの後のフィッセル邸での生活は穏やかそのもの。
だって、従業員も含めて『マンション』登録者しかいないもんね。
もはや、スティール家に付いて来た騎士やメイドや従者さんは、ほぼ『マンション』の住民のようになっているかなぁ。
寝るのだけはフィッセル邸で寝て、普段の生活は『マンション』内で過ごしている感じだもんね。
あ!……そういえば穏やかでもなかった人達いた……!
「ちょ、ちょ!アラタ!」
到着したその日の晩、バタバタと『マンション』に帰って来た殿下とグエルさん。
その時は、僕ら2FのダイニングBAR・緋にいたんだよ。ゲンデがやっぱり飲みやすいのはこっちだって言ってね。
「あれ?殿下?帰ってきて早々どうしたんです?」
何か僕したっけ?と思っていたら、殿下が僕をガクガク揺らし始めたんだ。
「お前、俺になんてもん与えるんだよぉ!あんなん時間がいくらあっても足りないじゃねえか!俺に寝るなって言ってるだろう!」
「あわわわわ……!」
どうやらマンション購入特典の事だったみたい。殿下は購入特典をシネマパラダイスにしたんだね。
あ、因みに「殿下?」というフェイの一言で、僕は殿下から解放されたんだけどね。ふぅ……助かった。
どうやら、殿下の突然の奇行の理由を、グエルさんも知っていたみたいで教えてくれたんだけどね。
「アラタ様。これは素晴らしい贈り物ですが、殿下に関してはいささか問題が。現状仕事が溜まりまくっているのです。今のままではとてもじゃありませんが、殿下に時間を与える事などできかねます」
「グエル!?」
悲鳴に近い言葉をあげる殿下に「あの書類の山が終わるまでは殿下に暇な時間などありません」ときっぱり言い切るグエルさん。
そのグエルさんの手を見ると、エイダンが持っていたのと同じ魔導辞書があったんだ。
「あ、グエルさんは魔導辞書にしたんですね」
「はい、アラタ様。これは私にとっての秘密兵器になります。殿下のスケジュール管理に書類決済。更には他国の公的文書の翻訳、更に疑問に対して即時音声での返答!これで今日の仕事がどれだけ捗ったか……!」
よっぽど嬉しかったのかグエルさんは両手で僕の手を握って感謝してきたんだ。殿下は「管理される側にとっては困るがな」と腕を組んで嫌そうにしてる。
そして此処にも一人、購入特典について知ってしまった人物が……!
「なあ?マンション購入特典ってなんの話だ?」
ゲンデ……聞いてしまったか……!
これには、すかさずフェイがフォローしてくれたんだけどね。
「ええ、マンションの『購入者』が受け取る特典ですよ?このマンションの権利を『買った』人だけが得られる特典です。ですから、ゲンデには関係ありませんね?マスターの好意で一括で部屋を『与えて』貰った人には、当然それが特典ですから……文句などありませんよね?」
「ぐぅっ……!」
流石に二の句が告げないゲンデ。……うん、フェイ強し。
そして、フェイの言葉に反応したのはゲンデだけじゃなかったんだよ。
「そうか!その手があったか!」
「アラタの騎士になれば、『マンション』の部屋が!」
「しかもずっと『マンション』に居られる!」
ゲンデの状況に目を輝かせた殿下の付き騎士さん達。ギラリッと獲物のように見られた時は、僕思わず逃げ腰になったけどね。
「阿呆か、お前ら」
スパパパパパンッと騎士さん達の頭を、なんとハリセンで叩く殿下。……殿下、日本文化に馴染んできましたね。
「イッテェ、殿下!」
「それ結構威力あるんですって」
「てか。阿保ってなんですか、阿呆って」
ふんっと、呆れ顔で騎士に諭し出す殿下。
「お前らその時点で失格だわ。ゲンデはアラタに忠誠を誓っているが、お前らはどうだ?忠誠はどこにある?」
うわぁ……これ、答え間違えちゃいけないやつだ。
「「「我が忠誠はボルグド殿下に!」」」
流石にキッチリ敬礼し、声を揃えて答えた騎士達。殿下はそれを見て頭に手を当てながらため息を吐いていたよ。
「ったく。いざとなれば揃う癖してお前らは……!良いか、この『マンション』に住む以前に、お前らは俺の貴重な部下だって事覚えておけ。その上で正当な手順で住むなら文句はねえが、それ以外なら容赦はしない。
アラタが王家の庇護下に入ることが既に内々で決定している。アラタに迷惑や害を与えたものは俺だけではなく、ウェルダント王家を敵に回すと思え!」
キッチリと部下を矯正する殿下。これには騎士さん達も「「「ハッ!」」」って揃って返答していたよ。
おお……!殿下格好良い!
ん?でもちょっと聞き逃せない言葉があったね。
「あれ、殿下?もう決定したんですか?」
「ああ。それに関してはグエルのせいでもあるがな。コイツが俺の執務室でそれを使って仕事をしていたのを、面倒な奴に見られちまったんだよ……」
「おや、殿下。ご自分のご兄弟を面倒とは失礼ですよ?それも王太子殿下に」
うぇ!王太子殿下!?……って、そんなにフットワーク軽いの?
「しかもそれを聞いた親父とお袋も来るわ、ミルリック兄上も来るわ……!頼む、俺に仕事をさせてくれって……!」
更にため息を吐き、腰に手を当て俯いた顔を片手で覆う殿下。
えっと、殿下の言う親父とお袋って現王様と王妃様だよね?……家族仲が良いって本当だったんだねぇ。
「状況はわかりました。では、早いうちに王宮から呼び出しされるのですね?」
事態を把握したフェイは「これは忙しくなりそうですね……」と何やら嬉しそう。ゲンデも何か思うところがあったのか「ちょっと鍛錬行ってくる」って席を立ったんだ。
ゲンデ飲み始めたばかりなのに良いのかな?
「ああ、悪いがアラタ。呼び出しは三日後だ。三日後には王宮に行く用意……ってなんもねえか。此処で1番良い服着て来りゃそれで良いわ。で、お前はお前で気楽でいろ」
フェイ達の様子に苦笑しつつ、僕の頭をポンポンッと軽く叩いてから向きをかえて歩き出した殿下。
「おら、お前らの部屋行くぞ」と声をかけて「「「待ってました!」」」と答える愉快な騎士達を連れて三階に行ったんだ。
僕といえばゲンデに付き合っていただけだったから、自分の部屋へ戻る事にしたんだけど……
「では、マスター。ここは一つ、気合いを入れてこちらの服はいかがですか?」
「は?」
フェイがリビングで寛ぐ僕の元に持ってきたのは……大量の服が詰まった移動式大型ハンガーラック。
今フェイが手にしているのは、ブルーのジャケットにこれでもかと金の刺繍が入ったフロックコート。更に金の刺繍が入ったベストとフリフリブラウスにパンツという一式セット。
「フェイ……どこの王族だよ……」
「駄目でしょうか?ではこちらは?」
「更に却下!どこの劇団?」
次にフェイが手にしたのは、羽が後ろについているキラキラジャケット一式。
「では、マスター。貫禄を出す為にこちらを着てみませんか?」
「……僕が着たら、唯の着物問屋の坊っちゃんだって」
そう。今度はどこから出したのか絹短羽織の黒の着物スーツ。っていうか着物スーツってあるんだね。
「おもしろ……いえ、失礼しました。ではこちらはいかがですか?」
「フェイ?今、面白いって言った?言ったでしょう?というか、自衛隊の制服って買えたの!?こんなん警戒してますって言ってるようなものだって!」
「いえ、マスター。むしろこちらが警戒されるかと」
「わかっているなら勧めないの!っていうか、このオーダーメイドヤミンってメーカー、どっかで聞いたような……?ううん、フェイのする事をいちいち気にしちゃ駄目だ!僕が選ぶよ!」
結局、僕がガチャガチャ服を掻き分けて探していると、最終的に出て来たグレーのフォーマルスーツ一式。
ネイビーのベストに白のシャツって、前世の僕が愛用していた色合いのスーツじゃないか……
うん、これかな。
僕がグレーのフォーマルスーツを手にすると、にっこり笑うフェイ。……もう、わかっているなら始めからこれ見せてくれても良いのに。
だけど、フェイの事だから僕が密かに緊張しているのをほぐそうとしてるんだろうなってすぐわかるよ。
———だって、僕は国を信用するわけじゃない。
僕は僕が信用できる、と思った人を選ぶんだ。
だから、例え殿下の身内でもしっかり見極めなくちゃね!
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