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マンションスキルがあるので廃籍されても構いません  作者: 風と空
第二部 王都編

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27/33

王都到着!

「うわぁ——!なんて立派な山脈!」


 ガタゴトと揺れる馬車から顔を覗かせる僕。久しぶりに『マンション』の外に出た理由は、いよいよ王都に到着するからなんだ。


 だから、今日は辺境伯領出て以来の馬車行列で移動しているんだよ。おかげで速度はゆっくりだけどね。


 ん?他の馬車は今まで何処にあったんだ?って?


 勿論、マンションのエレベーターパーキング内に置いてあったんだよ。


 ここまでの移動は馬車一台でずっと動いていたからこそ、かなりの魔物を駆除しながら来れたんだ。


 だけど到着予定日という事で、ほぼ全員マンションを出て久しぶりの馬車移動になったんだけどね。


 やっぱり揺れるしお尻が痛いしって事で、慣れている従者さんやメイドさん達もちょっと辛そうだったね。


 あ、でも、『マンション』で購入したクッションはかなり良い仕事をしてくれているみたいだったよ。


 それでもセレナ母様とレナちゃんとエイダンは、着く直前までエントランスラウンジでゆったりしているんだ。今はマンションの入り口を辺境伯家の大型馬車につけているからね。


 だから、現在大型馬車に乗っているメンバーは、僕とフェイと殿下とダノン父様の四人。ゲンデは騎士達と一緒に外で警戒中。


 僕は窓際の席をゲットして、遠くに見える王都の街をじっくり観察しているところなんだけどね。


 えっと……確かあの山脈の名前って———


「殿下。王都の奥にある山脈が、魔鉱石の鉱脈がある別名ファールーブラックですよね?」


「そうだ。ウェルダントが大国であり続けられる一つの要因だな。その魔鉱石を加工して資源利用出来る工程をも国が支援し保護しているからこそ、王都の繁栄があるといっても過言じゃない」


「確かに立派な城壁だし……街の規模が桁違いですもんね」


「王都は物流の中心でもあるからな。それに王家が率先して腕のある職人や商人を保護する制度もあるから、民が国と一丸になって豊かさを作り出している。


 職人や商人を支える王都の民の結束も強く、街の雰囲気は助け合いの精神があちこちで見られるんだぞ」


 ふふん、と自慢気に語る殿下から、本当にこの国が好きなんだって伝わってくるね。


「まあ……それでも残念ながらこの王都にもスラムは存在するがな」


 ちょっと苦笑しながら殿下は教えてくれたけど。


 例え善政を摂っていても、施政者も人間だもの。全てに目が行き届くのは難しいよね。


「アラタ、でもそのスラムでさえ殿下は手を尽くしているんだぞ。出来るだけ仕事を回そうと努力しているから、スラムにも顔は効くんだ」


 ダノン父様は誇らしげに僕に教えてくれたけど、そんなダノン父様の様子に殿下は「うむうむ」と両手を組んで頷いているんだよ?


 素の殿下を見てるからか、僕にはどうしても近所に住むお兄さんにしか見えないけどねぇ。


「アラタ?何か余り良くない事考えなかったか?」


「そんな事ありませーん」


 まあ、そんな殿下だから気楽で良いんだけどね。


 『殿下、そろそろこちらにお戻り下さい』


 なんてやりとりしていたらコンコンッとノックがあって、外から騎士の声が聞こえてきたんだ。


 殿下には殿下が乗ってきた馬車もあるからね。それに、この後は別行動になるんだし。


「お?もう着くのか?じゃあ、アラタ。また夜に戻るわ」


 片手を上げて「行ってくるな」気楽に馬車を降りて行く殿下。


 そうなんだ。殿下とグエルさんと愉快な騎士達は、王都門を潜ると王宮へと報告に行くからね。


 とはいえ……既に[エントランスキー]を持っているから、王宮からでも気軽に『マンション』に戻って来れる立場だし、殿下とグエルさんは【人災保険】と【対物保険】もかけてるから安心なんだ。


 でもさぁ、王宮に帰るのに【保険】かけて行くって、どんだけ貴族社会って魔窟なの?って密かに僕はドン引きだったんだよね。


 「国は一枚岩ではないからな」


 ……なんて、珍しく王族らしい事言ってたなぁ、殿下。でもそれが理由で、僕は殿下と別行動になったってわけ。


 勿論、僕にも同じ【保険】がかかっているよ。『マンション』から出る時は、必ず【保険】かけるようにフェイやゲンデから言われているからね。


 あ、そうそう。最後まで粘った愉快な騎士達は、結局日替わりでグエルさんか殿下と帰ってくる事になったんだけどね。


 ———ほんと、朝から殿下側の騎士達は賑やかだったなぁ……(遠い目)。




「頼みますー!値段を、値段をもっと庶民寄りにしてください!」

「もう此処の生活に慣れた俺達は、今後どうすればいいんですか!?」

「いや、待て……!今気付いたが、他の奴らにはどう説明する?」

「ウッ……!特に今回行けなかったアイツか……!」

「面倒な奴で言えばもう一人いるぞ……!」

「待て待て待て!酒は?酒はどうした?奴に見つけられると不味いぞ!」

「ぐわあっ!居たな、そんな奴!」

「甘党でもある奴らが『マンション』を見逃す筈がない……!」

「それにしたって……俺フィットネスジムで鍛えて、かなり力ついたんだよなぁ。あそこに通う事だけでもなんとかならんかなぁ……」

「これは対策を練らねばなるまい!」

「おお!題して『マンション隊員の保護と存続』だな!」

「「「「「「「良いねぇ!」」」」」」」

「早速殿下に掛け合わねば!」


 なんて騒いでいたから、殿下こっちの馬車に避難してきたんだけど……うん、部下の統率は上司に任せよう。


 まあ、それを言ったらこっちもだね。


「ポーター、お前『マンション党』の副会長にならないか?」

「は?なんだ、その党派は?」

「俺達の総意だな」

「スティール家と共に『マンション』での生活を守る党だ。主に今回のマンションで過ごした騎士達が全員所属している」

「はあ……?それで活動内容は?」

「今のところ休日でも『マンション』施設を利用出来るように、ブライアンさんかイヴァンさんに会長職を引き受けてくれる様に求める事だ!」

「もしくはフェイさんを落とす事だが……これはかなりの難題だからなぁ」

「……だろうな」

「で、どうだ?やってくれないか?お前が騎士達の中では1番纏めるのが上手いんだ!」

「「「「「「「「頼む!」」」」」」」


 ……なんて姿を朝から見てたからねぇ。メイドさんや従者さんの方も結託してたし。


 今回『マンション』に泊まった人達は、既にフェイの審査を潜り抜けているから、僕としては大丈夫なんだけどさ。


「あら?殿下はもう行かれたのかしら?」


 なんて考えていたら、セレナ母様が『マンション』から出てきたんだ。


「うわぁ、やっぱりゆれる〜」


「レナ、クッションは持ったかい?」


 レナちゃんとエイダンも一緒に戻って来たんだね。


 「良いタイミングだ」


 「ふふふ、便利ねぇ。エントランスキーって。外の様子がエントランスラウンジのTVに映るのよ?」


 セレナ母様がダノン父様に新たな[エントランスキー]の使い方を報告しているけど……実は、マンション内なら[エントランスキー]の特典は多岐に渡るんだ。


 それに……


「アラタお兄様、この『マンション』こうにゅうとくてん?の中にあるものなら、ほんとにお金いらないの?」


「そうだよ?何か気になるものあった?」


「えっとねー![アニメチャンネル]って気になるの!だって、お部屋でガラスのくつをおとした女の人をさがす王子様の話がみれるんだよ?」


「レナはお姫様シリーズが好きなんだよ。僕は[魔導辞書]にしたけど、あれは凄いよ!他国の言葉を瞬時に翻訳するんだよ?それに知りたい事を聞くと答えてくれるんだから!」


 レナちゃんもエイダンも、本契約時の『マンション購入特典』をもう決めていたんだね。


 ん?『マンション購入特典』には何があるのか気になる?


 えっとね、[エントランスキー]を自分の部屋のTVに差し込むと、こんな画面が出てくるんだ。


『本契約をご契約頂きありがとうございます。マンション購入特典として以下の品をご用意させて頂きました。リモコン操作でお好きな品物をお選び下さいませ。


 1・今ならお得!キャッシュバックキャンペーン!一括お支払いした金額の10%が貴方の手に戻ってきます!こちらはご契約時より三日間だけ有効の期間限定キャンペーンです。是非お見逃しなく!(キャンペーン対象者は一括購入者のみ)


 2・〜貴方の生活に潤いを〜[エントランスキー]をお持ちの方に開設可能チャンネルです。選択無料は一つだけ!二つ目からは有料[月契約 金貨1枚(1万円相当)]ですのでご注意下さい。


 ・アニメチャンネル

 ・名曲の調べ

 ・シネマパラダイス 


 3・[エントランスキー]をお持ちの貴方に朗報です!ご契約時より三日間だけ有効の限定キャンペーン!なんと!一年間料金無料パスポート進呈中です!この機会を是非お見逃しなく!


 *以下の施設から一店舗をお選び下さい。

 ・ダイニングキッチン・新

 ・ダイニングBAR・緋

 ・スカイラウンジ・蒼

 ・オーセンティックBAR・紫炎


 4・[エントランスキー]をお持ちの貴方にビックチャンス!なんと、『マンション』監修の『魔導辞書』が貴方の手に!


 魔石対応/コンパクト設計/全ての学習をサポート/全言語翻訳対応/音声機能搭載/メモ機能搭載/スケジュール管理/計算機能搭載/宮廷マナーから最新貴族年鑑まで!


 貴方の疑問や領地経営、円滑な貴族間交流に役立つ一台です!この機会を逃すと再購入は出来ませんよ!さあ、ご英断の時です!



 

 この機会を是非ご活用下さいませ。


             貴方の生活を応援する

            リュクスマンション・藤   』



 ……これ、ゲンデが見たら発狂しそうだなぁ……


 だって、実はゲンデの[エントランスキー]にはない特典だったんだ。ゲンデはマスター権限で一括払いしたものだったし、そもそもゲンデ銅貨一枚(100円相当)も払ってないし。


 うん、黙っていよう……


 結局、ダノン父様は悩みに悩んだ挙げ句にキャッシュバックキャンペーンに。セレナ母様は、名曲の調べとシネマパラダイス(月額金貨一枚で購入)を選択したんだ。


 あ。殿下やグエルさんやブライアンさんイヴァンさんは何を選んだか気になるよね?後で聞いておくね。


「お、アラタ!貴族門が見えたぞ」


 そんな事を考えていると、ダノン父様が教えてくれた通りそこには強固な守りが窺える王都の城壁が近づいていたんだ。


「まあ、やっと到着ね」

「おうと久しぶりだね!」

「このままフェッセル邸に向かうんですね?」

「ああ、セレナのご両親には連絡済みだ」


 ———これで僕らの滞在先がわかったかな?


 そう。王都の辺境伯屋敷では情報がアインス様に伝わる為に、セレナ母様の実家のお屋敷に滞在する事にしたんだ。


 フェッセル邸には今の時期誰も王都に滞在していないから、自由に使って良いって、許可が出ていたんだって。


 王都の辺境伯邸にはセレナ母様の要望でフィッセル邸に滞在する事を連絡済みだし、フィッセル邸の従業員にはボーナスのような感謝金を渡して休暇を与えているみたい。


 ……ダノン父様も稼ぎたい筈だよ……


 とにかく、魔力登録をしているメンバーだけになる訳だから、マンションの入り口扉はフィッセル邸に開ける訳で僕らも安心。


 それに、実質フィッセル邸に滞在するのは騎士さんやメイドさんや従者さんだけで、スティール家や僕は『マンション』暮らしをする予定なんだよ。


 だから実のところ、騎士さんやメイドさんや従者さんの希望通り、休日でも『マンション』への行き来は可能になるんだ。


 殿下の騎士達の手前朝は言えなくて、ブライアンさんやイヴァンさん以外にはちょっとしたサプライズになったんだって。


 うん。……あの様子じゃ言い辛かったからね。


 でも良かった!これなら謁見までの間も気楽に過ごせるね!


 王都の散策も行きたいなぁ。フェイとゲンデに頼んでみよう!楽しみだなぁ。


アクセスありがとうございます!

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