『マンション』管理をしよう
「マスター、良いですか?働きたいのならまずは私に相談して下さい。……よく考えてください。この『マンション』のマスターが自ら働く事で、肩身の狭い思いをする人達がいる事を」
……はい。現在、フェイにお叱りを頂いている最中の僕です。
あの後、セミナーの申し込みはどこかフェイに聞きに来たら、マスタールームに笑顔で強制送還されました。
穏やかな日本庭園を眺めるリビングのソファーに座らされて、フェイの言葉を聞く僕の前では、カラカラ笑っているゲンデが自分でお茶を淹れて飲んでいるんだ。
む?ゲンデ、いつの間に来てたのさ。
因みに、現在マスタールームへ入れるのはこの三人だけ。まだスティール家や殿下でさえ僕が頷いてないからなぁ。
理由?信頼出来る人達だけど、不安要素がまだあるからかな。そう、周囲との兼ね合いでね。
「アラタ、変わっているなぁ。なんで働きたいんだか」
「ゲンデは働きたくない派かぁ。でもさ、いざ何もやっていないとなると、不思議と働きたくなるんだよ。これ前世で働いていたからだろうなぁ」
「そりゃ、難儀な事で。あ、フェイ。そろそろ良いか?アラタに報告したいんだけど」
「仕方ありません。私の話は後に回しましょう」
ふう、とため息を吐いてキッチンに向かうフェイさん。最近、本当は人間なんじゃないの?って思うよ。
「そういえば、ゲンデ。最近飛び回っていたんだっけ?」
「おお、アラタがマンションにいる間は動きやすいからな。殿下の諜報部員と動いてみたけど……アイツら本当に人かってぐらい動くんだよ!こちとらようやくついて行ってるっつーのに!」
「それでも【気配遮断】と【索敵】を覚えたらしいですね。ゲンデも成長していますが、貴方護衛だったのでは?」
ゲンデがぼやく中、キッチンから戻ってきたフェイが僕の前にコーラフロートをコトリと置いてくれたんだ。
やった!今日はアイス付き!
はい、そこでツッコミ入れないでね。一応この世界での僕13歳だし、まだ大人の味覚になってないんだから。
「俺は護衛なの!諜報部員じゃねえってのに、殿下が提案するのをアラタが頷くからじゃねえか!」
「んーでも、気になるじゃない。辺境伯家の現状や僕の実家の追手の事とか」
「美味そうにアイス食っていうんじゃねえよ……気が抜けるわ。でも、少しずつ粗が目立ってきたのは確かだな。たった一週間で辺境伯家の戦力が落ちて来ている。魔物の侵攻を何度か許しているから、民衆にも動揺が見え始めた」
「それに関してはすっごい同意するよ……ダノン父様の力の凄さを目にしてるし」
「あ、フィットネスジムのアレか!俺もやってくるかな」
「ゲンデ。それよりも、もう一つの方はどうなりましたか?」
すぐ話が逸れる僕とゲンデの様子に、しっかり話を戻してくれるフェイ。もう一つって、グリード家からの追手の事かな。
「……俺の完全な休みはいつだろうな……ってまあ、仕方ないが。
で、グリード家だがアインス様と繋がっていたのが判明した。今はまだ追手についても大丈夫だし、アラタの事は気づかれていないが……辺境伯家と関わって行くと、足がつくのは目に見えているぞ?」
「……ふむ。アラタ様はどう思いました?」
フェイ、こういう時こそ僕の考え読んでよ……でも、はっきりと明言させたいんだろうなぁ。
「当然!スティール家を擁護するに決まっているよ!後は殿下かな。まだウェルダント国は信用出来ないけど……」
殿下は信じられても、まだ会った事のない人は信じられないからねぇ。仲が良い王族って見たことないし。
「畏まりました。では、当『マンション』はマスターの意向に添い、スティール家とボルグド殿下を擁護致します」
「了解!なら旦那様……じゃねえ!グリード家当主に、敵対するって事で良いな!くぅ〜、腕がなるぜ!」
「ならば、ゲンデはもっと力をつけて貰いたいところですね」
「え?俺頑張ってるだろ?」
「いささか足りないかと。まあ、しばらくマスターの保険で支えますが……」
「だ———!アラタ!フェイの奴、俺を休ませないつもりだ!俺は今日こそ休むんだ———!!!」
本音で話す賑やかなやりとりに、僕も思いっきり笑ってしまったけどね。
……うん、やっぱり僕だけじゃないって力強いなぁ。
信頼出来る存在に感謝しつつ、とりあえずゲンデを庇う事にした僕。いやいや、13歳に庇われる23歳ってどうなの?ってツッコミ入れないの!
「流石アラタ!じゃ、とりあえず此処の風呂借りるな!」
「マスター。……ゲンデに甘いかと思いますが?」
「良いんだって。ゲンデも補給しないと。本当はフェイにも何かしてあげたいんだけど……」
「私はマスターのお世話が1番の褒美ですから」
「そう言うと思った」
フェイは、本当にずっと僕を守ってくれているからね。感謝している事は毎日伝えておこうかな。
「では、丁度いいのでマスターに仕事をして頂く事に致しましょう」
「え?話の内容、元に戻るの?」
「当然です。アレで終わったわけじゃありませんよ。まずは、マスター。ステータスを確認して頂けますか?」
仕事とステータスと何が関係しているんだろうって思っていたら、見慣れないマークが右上に出ていたんだよね。
『アラタ(ディゼル) 13歳 男 人間 ☆←NEW
HP 160/160
MP 800,000/800,000
スキル マンション
取得魔法 付与
開放設備 オートロック 宅配ボックス コンシェルジュ マンションカスタム『低層マンション/タワーマンション』 テナント/ゲストルームフロア(低層マンションに設置済み)
称号 転生者 創造神の加護 』
「あれ?右上にある星ってなんだろう?」
「マスター、押してみて下さい」
フェイに言われてタップしてみると———
『【管理画面】
マンション名 : リュクスマンション藤
入居者数 44
本契約者数 1
投書箱 未設置
申し込み状況 本契約 8人
駐車場契約 2件
共有設備 鍵保有者
会議室 1 ボルグド・ウェルダント
会議室 2 ダノン・スティール
会議室 3 ブライアン
[設備状況]
照明 異常無し
エレベーター 異常無し
エントランス自動ドア 魔力認証装置作動中
消防設備 【保険】常時作動中
魔導分電盤 異常無し
24時間ゴミ箱 各階作動中
[追加可能施設]
エステティックサロン 規定居住者数 残り40名
図書室 規定居住者数 残り30名
増改築 規定居住者数 残り15名
ワーキングフロア 規定居住者数 残り10名 』
「え?何これ?」
「これこそマスターのお仕事です。毎日のチェック、これがマンション管理に必要な事ですから」
なんて言うフェイ曰く……僕に最終決定権があるからなんだって。
因みに、現在本契約をしているのは、ゲンデ唯一人。
本契約に申し込みしている人は、辺境伯家サイドからスティール家四人とブライアンさんイヴァンさん。殿下サイドからは、ボルグド殿下とグエルさんなんだって。
騎士達やメイドさんや従者さんは、王都に着いたら通いになる予定らしいけど、かーなーり抵抗されている模様。
……うん、お金には上限があるからねぇ。これは、個人的に頑張って稼いで、本契約をとってくれるようにお願いしよう。
後は、僕の許可さえあれば本契約成立するんだって。そうすれば辺境伯家は一括で購入。
殿下とグエルさんとブライアンさんとイヴァンさんは、リュクス藤銀行で住宅ローンを組んでいるそうだよ。
思わず、殿下一括じゃないの?と思った僕にフェイが一言。
「殿下は専属騎士達の為にマンスリー契約を続ける決断をされたようです」
ニヤリと笑うフェイに、殿下が今回はフェイに負けた気がするのは気のせいじゃないだろうなぁ。
うん。殿下、お支払いよろしくお願いします。
えーと……後は、共有設備の鍵についてかな。
例えば、今は殿下が会議室の鍵を持っていたとしても、僕がタップすると強制的に鍵が戻ってくるんだって。
これは、使用者のマナーが悪い場合の緊急措置らしいよ。
理由は、設備状況で異常が発生すると僕のMPを用いてじゃないと修復しないからなんだって。だから常にチェックが必要らしいんだ。
え?今まではどうしていたのか?って?
フェイが見ていたらしくて、異常があったら僕に言うつもりだったんだって。
……なんかさぁ。フェイが敢えて仕事を作ってくれた感じがするんだけど……?
「いえ、そろそろお伝えする時期でしたので」
だから考えを読まないでって……まあ、楽で良いけど。
「っは————!生き返ったぁ!」
あ、ゲンデがお風呂から上がって来たね。
「ゲンデ。今回の慰労会にオーセンティックBAR・紫炎を予約しているけど、どうする?」
「アラタ様!喜んでご同行致します!」
「こんな時ばっかり様呼ばわりするんだもんなぁ」
「いつも敬っているって!ほら、フェイも行こうぜ!」
「……仕方ありませんね。アラタ様のお世話をしに行きましょうか」
「いやいやいや……功労者は俺だって」
「殿下の諜報員の方がより詳しい報告だったので、ゲンデはまだまだかと」
「く〜!アレと比べられんのかよぉ!」
なんて言いながらマスタールームを出る僕ら。
今日も何事もなく美味しく食べれるのって、マンションが異常がないからなんだよねぇ……うん!僕は僕の仕事をしっかりやらないといけないね。
みんなの生活の為に!
アクセスありがとうございます!




