高級ってどこで感じる?
ポーン……
「つぎは、とうにとじこめられたお姫様がいいの!」
「僕は動物の王様の話がいいと思うよ?」
「あら、獣に変わった王子様と町娘のお話も気になるわ」
扉が開いて話題になるのは次の上映予定の映画の話。あの後、今週のシネマ情報って流れてきてね。もう、レナちゃんはお姫様シリーズが気になっているみたいだね。
エイダンは迫力の百獣の王になる話が気になったみたいだし、セレナお母様は実写版の獣になった王子様と美女の話に興味を持ったんだね。
ん?僕?僕は久しぶりにネズミが料理する話が見たかったけど、まだ特集されないみたいだし。それよりも……
「クッ!あの続きは一週間後かよ……!」
「あんな世界もあるとは……!防衛の常識を覆しますな」
こちらは殿下とダノンお父様。はいはい、殿下は星大戦争のブームがまだ続いているみたいだね。
結構不朽の名作がラインナップされてたけど……スキルに任せているとラインナップされている作品を三日毎に一つセレクトして、朝昼晩にその作品だけを上映するらしいんだ。
映画に慣れていないこの世界の人達には、それで丁度いいのかもね。今日は、王女と雪の魔法を使える女王の話があと二回見れるんだね。
……って、いつのまにか周りの皆さんの会話がなくなっていたけど?
「凄い……!あんなに大きな一枚ガラスがあったんですの……!?」
「……まさか、雲と同じ高さの景色を見れるとは……!」
あ、セレナお母様とダノンお父様が景観に圧倒されているね。かく言う僕も「ほわあ……!」と間抜けな声を出しちゃったけどさ。
エレベーターを降りると目の前に広がった空の景色。まるで、空中にいるみたいなんだ!そしてその景観を邪魔しないモダンな内装。
天井はオーロラの層をモチーフにした照明、黒の大理石の床にダークブルーの革デザインチェアとオフホワイトの大理石テーブル。
その他の調度品は白を基調としていて、高級感が漂う開放的な空間が僕らを迎えてくれたんだ。
「皆様、お待ちしておりました」
「ん?ブライアン?お前ここで何しているんだ?」
「あら?うちのメイドと従者達がいるわ?」
そう、迎えてくれたのは辺境伯家の執事ブライアンさんを始めとした辺境伯家のメイドと従者の皆さん。とはいえ、人数は半数らしいよ?
『失礼します、マスター。スカイラウンジ・蒼に控えさせているメンバーは、しっかりとそこの設備を覚えた者達ばかりです。私がサーブせずとも安心して任せられるぐらいに仕込みましたので、安心してお楽しみ下さいませ』
……うわぁ、うちのフェイさんのお墨付きって、辺境伯家のレベルの高さがわかるよ……!
あれ?でも人数足りないよ?
『もう半数の者達は、18階の辺境伯家の部屋を整えさせております。この部屋で何が出来、どのように快適にお過ごし頂けるかを現在教育中ですので、出来ればごゆっくりお食事をお楽しみ下さいませ』
ヒエエエ!今も尚教育中とは……!メイドさんや従者さん、頑張って下さい…!
心の中でフェイの扱きに耐えるメイドさん達にエールを送る僕。何かご褒美的なものを用意してあげよう、と心から思ったよ。
そんな感じでフェイとやりとりする間に、ブライアンさんに案内されて席に着いた僕達。
殿下とダノンお父様とセレナお母様という大人組のテーブルと、僕とエイダンとレナちゃんの子供組テーブルに分かれて座っているよ。
本来はレナちゃんの年齢はまだ一人で食べるのが通例だけど、レナちゃんはもうしっかりマナーが身についているらしいから、皆と食事が出来るんだって。
お貴族様って大変だなぁ……って庶民の僕はつくづく思うよ。
「エイダンお兄様、すごくたのしみです!」
「そうだね。見た事のない雰囲気だし、アラタと初めて一緒に食事が出来るんだ。僕も期待しかないよ」
貴族のマナーについていけるか不安になった僕だけど、レナちゃんの満面の笑顔とエイダンの少年らしい一面を見て、ちょっと気が抜けたんだ。うん、僕も楽しみになってきたよ!
そして、会話に邪魔にならない程度のピアノの演奏が聞こえてきた時に、僕ら付きの従者さんとメイドさんがメニューを持ってきたよ。
今回はレナちゃんはキッズメニューだね。プレートにグラタンや唐揚げサンドイッチにフィッシュ&チップス。スープはカボチャのポタージュ、デザートにミニフルーツパフェ。
僕とエイダンはコース料理。サラダ仕立てのオードブル、クラムチャウダー、クラブハウスサンド、デザートにミニフルーツパフェ、紅茶。
殿下達は食前酒にワインを頼んで飲んでいるね。コース料理だけど、三段スタンドのオードブルやメインがナスとペンネのアラビアータとちょっと違う。
あ、セレナお母様はデザート頼んでいるや。
「アラタお兄様!このグラタンっておいしい!」
「アラタ!凄いな、このクラブハウスサンド!様々な具材が入っていて、量があるのに飽きずに食べられる!」
レナちゃんもエイダンも心から楽しんでいるのがわかって、僕もホクホク。しかも、僕も食べた事のない美味しさ!
僕らが楽しんで食べていると、エイダン付き従者さんが教えてくれたんだけどね。
「全て我らも見た事のない素材ですが、野菜の新鮮さ、熟成された肉質、厳選された海産物の数々には舌を巻くばかりでございます。
そして、料理の工程一つ一つとっても丁寧に調理されて、見た目とそれ以上の味わいに、最高をお届けしたい料理人達の思いが詰まっており、我らも感動致しました。
そんな思いを削ぐ事なく皆様にお届けできるように、フェイ様よりこれからも鍛えて頂ける事で、殿下やスティール家の皆様ならびにアラタ様に、寛ぎつつ快適にお食事が出来るように提供させて頂く所存でございます」
なんて言ってくれるんだよ?こりゃもう、毎回の食事が楽しみでならないね!
ところで誰が料理を作っているの?って思うよね?
このスカイラウンジ・蒼のMPが高かった理由が、料理人の存在なんだ。フェイによると、スキルで作られた料理人は独自なAI搭載らしくて、常に向上を目指して調理するように設定されているんだって。
だから、辺境伯家の使用人の皆さんと会話だってできるんだよ。執事のブライアンさんは、常に向上を目指すその姿勢に触発されて、わざわざ今回給仕に回っているんだって。
そんなブライアンさんは、今のところ辺境伯家の使用人の中でフェイが認める唯一のスーパー執事さんなんだ。
ほぼ短時間で[スカイラウンジ・蒼]と[オーセンティックBAR・紫炎]を覚えたらしいよ。
凄い人だと思ったら、記憶スキルの持ち主だったよ。うわぁ、羨ましい!僕、少しでもいいからその能力欲しかったよ……!
と、周りのメイドさんや従者さんのおかげで、肩も張らずに楽しく食事ができて満足満足。
高級感って、人が作り出すものでもあるんだなぁって思った一幕だったんだ。
さて、念願のパフェも食べて紅茶で一息ついていると、やっぱり気になるのは自分達が過ごすプライベート空間だよね?
「セレナ、エイダン、レナ。三人共思いっきり期待していいぞ!」
先に内覧したダノンお父様が、三人の期待値を更に上げたんだよねぇ。これには、僕も殿下も苦笑い。
今奮闘しているメイドさんや従者さんの頑張りもあるだろうけど、更に個人の好みに合わせて空間を作っているんだろうなぁ。
『マスターの部屋は私が誂えておりますので、期待してきていいですよ?』
フェイ、いつもありがとう。
でもさ……僕は豪華すぎると落ち着かないんだよね。できたらほどほどでお願いしたいんだけど……どうなっているんだろ?ベースルームって?
「アラタ!じゃ、俺はそろそろ護衛組と合流するわ。グエル、俺の部屋は宜しくな」
「畏まりました」
あれ?そういえば、殿下の部屋って何処なんだろう?
アクセスありがとうございます♪




