ガイドがいなけりゃわかんないよねって話。
———って格好よく言った筈だったけどさ。
「おい、アラタ。そんな隅っこで拗ねんなよ。余計に皆んな困惑するだろうが」
「そうですな。折角館内を自由に歩けるようにしてくださったじゃないですか」
「ア、アラタ。き、気に、すんな、よ……プククッ!」
……はい。現在、僕は隅っこで膝を抱えて拗ねています。
そんな哀愁漂う僕の背中に、本気で憐れんで声をかけてくれる殿下とダノン様。そして笑いが堪えきれないゲンデ。
ゲンデ……君、覚えていたまえ……!
「マスター、皆さんが狼狽えています。ここが立ち直り時期です」
フェイ……うん。そうだけど、恥ずかしいんだって。だって、殿下の騎士さん達も笑い堪えているんだもん。
『マスター、この後パフェあげますから』
うっ、パフェ!!この身体になってまだ食べてない!……うん、それは仕方ないよね。
スクッと立ち上がり、皆さんにお詫びをする僕。
「……突然大変失礼しました。僕、実は見習いじゃないんです。このスキルの為に殿下の庇護下にいて、王宮に報告へ行く途中だったんです。
ですので、これからはこのスキルマスターとして皆さんと一緒に移動しますのでよろしくお願いします」
ペコリと頭を下げて顔を上げると、今度は全員から笑顔で拍手を貰えたんだ。ホッとしたぁ。
前回は沈黙だったからね……あれは二度と経験したくないよ……
「改めてマスターからの挨拶も終わりましたので、初来館の皆さんに案内役をお付け致しましょう。辺境伯御一家は殿下とマスターにお願い致します。執事様やメイド様方や従者様方は私が、騎士の皆様はセラがご案内致しますので、それぞれの案内人に詳しい事はお尋ね下さい」
そして、フェイが場の雰囲気を読んで提案したのは、それぞれの立場の人達で集まりガイドをつけるというもの。
考えてみたら目新しいものって、教えてもらわなきゃわかんない事多いんだもんね。
という事で改めて辺境伯御一家にご挨拶。
「醜態をお見せしました。このマンションスキルのマスターアラタです。ダノン様、セレナ様、エイダン様、レナ様よろしくお願い致します」
「あら、私共に様などお付けしないで下さいませ。むしろアラタ様にこそ私共が敬称をお付けしなければならないのに」
僕が挨拶した後、申し訳なさそうにお気遣いをして下さるセレナ様。
「そうですよ!僕はアラタ様と同じ年なんですし。むしろ僕こそ敬わせて下さい」
同じ年の僕とは違い、優雅で王子様然しているエイダン様にもそう言われて、逆に気を使っちゃうよ。
なんてアワアワしていた僕の服を、クイクイッと引っ張る小さな手。
「お兄さまがもう一人ふえるの?」
うわあ、可愛い。ふわふわの髪の毛にぷっくりほっぺ。ニコニコ顔のレナ様にお兄様って言われたら、そりゃ降参するよね。
「えーと、じゃあ僕もお兄様にしてくれるかな?」
「うん!レナにお兄様がふえてうれしい!」
ってぎゅっと手を握ってくれるんだよ。前世でも可愛い妹が欲しかったし、僕もにっこり。
「まぁまぁ!じゃあ、私はお母様でお願いしたいわ!」
「俺はお父様で!」
「僕は兄弟ができるんだね。どっちが早く生まれているのかな?」
なんてグイグイ距離を詰めてくる辺境伯御一家の迫力に負けて、僕は辺境伯御一家を家族呼びにする事になったんだ。ん?殿下、何ニヤニヤしているんです?
「アラタも年相応に見えてなぁ。なんか面白い」
む?殿下にそう言われるのは心外ですね。フェイに告げ口しますよ?
僕がムっとした表情をすると、すぐに読み取って謝る殿下。
「悪い、悪い。いや、それよりも俺らも移動しようぜ。まずどこから行く?」
……殿下も腰が低いからなぁ。本当に調子狂うよ。
「えっと、まだ食事には早いと思うから、先にシネマ・スプリングはどうかなぁ、って思っているんだけど」
「お!良いじゃねえか!この間の続き見たいんだよ、俺」
殿下やっぱりハマったね。星大戦争の面白さは世界を超えるんだねぇ。とはいえ……
「駄目ですよ。今回はレナちゃんが居るんです。レナちゃんが楽しみつつ、皆さんも楽しめるものにしましょう」
渋る殿下を嗜めつつ皆さんをエレベーターにご案内して、二階のシアター劇場へと向かうと……やっぱりダノン父様(こう呼べって言われたんです)以外の三人がすっごく驚いてたよ。
まあ、エレベーターには慣れて貰わないといけないよね。移動の基本になるんだもん。
そして二階に到着すると、まだ解放していない施設はシャッターが降りていたけど、これ解放しちゃったらまた説明が長くなるから後回しに。
唯一解放しているシネマ・スプリングは、重厚な両開き扉の横に埋め込み型の宅配ボックスがついているんだ。
そう!映画を見るのに必須なドリンクやポップコーンやスナック菓子が買えるようになっているんだよ!
でも、今回説明はスルー。この辺はメイドや執事や従者がするだろうからね。まずは、皆さんを中へとご案内。
シネマ・スプリングはその名の通り、大スクリーンに音響設備が整った、いわば高級なミニシアターになるんだ。
収容人数は60名。独立型一人用椅子が並び、長時間の鑑賞でも疲れやストレスを感じさせないレザーシートに、重厚な造りの木目調の肘掛、ドリンクホルダー、荷物置きスペースまで備えているんだよ。
「おお!この椅子は座り心地が良いな」
「凄いわぁ。この椅子ずっと座っていられそうね」
「この穴はなんだろう」
「おっきな白いものはなあに?」
「それはだな……」
辺境伯一家の反応に、すでに経験者の殿下が自慢気に応えているけど、殿下もこのグレードには内心びっくりしているみたいだね。質問に答える時にどもっていたもん。
まあ、簡単な説明は殿下にお任せして、僕は皆に飲みたい飲み物の注文を取っていったんだ。わかるの僕くらいだしね。
ダノン父様とセレナ母様は紅茶、エイダンとレナちゃんはオレンジジュース、僕と殿下はコーラをチョイス。ついでに全員に揚げたてフライドポテトを付けてみたんだ。
指で食べるのが初挑戦の辺境伯一家は一瞬戸惑ったけど、ここではこれがマナーだと教えたら柔軟に受け入れてくれたんだ。
そして初めて見る辺境伯御一家の為に選んだのは、某有名ランドを所有している映画会社のアニメ。一人の王女と雪魔法を使える女王の話を選んでみたよ。
スクリーンに映像が映りだし、迫力の音響が部屋を包み込むと……4人から驚きの叫び声が上がり始めたけど、すぐに映像に引き込まれたみたい。
うんうん、大迫力の画面って見応えあるよねぇ。
なんて僕も久しぶりにゆっくり見ようとしたら、フェイからの念話が聞こえてきたんだ。
『マスター、すみません。[スカイラウンジ・蒼]と[オーセンティックBAR・紫炎]の解放をお願いしてもよろしいですか?』
『ん?フェイ、もうそっちに行ったの?』
『私の担当が執事様グループなので、仕える為には知っておいた方が良いと判断致しました』
『そっか。確かにそうだね。後は[スカイガーデン・翔]も解放して良いよ。今日はまだMPそんなに使ってないし』
『ありがとうございます、マスター。マスター達が映画を見終わるまでは、このグループ全員がきっちり仕えられるように仕込んでおきますので』
いやいや、仕込むってフェイさん。いっぱい種類あるだろうに……
『これくらい覚えて貰わなくては、ここでの生活が難しいと思いますので厳しくお願いします、と先方から言質取ってますので大丈夫です』
『そ、そっか。うん、相手がそういうならフェイにお願いするよ』
『畏まりました。マスターもご期待下さいませ』
気合いの入ったフェイの言葉で念話は切れたけど……確かに食事やBARは執事さん達の介助があった方が良いもんね。
さて、映画はどこまで進んだかな?……あ、有名な王女の歌のシーンになってる。
チラッと横を見ると皆集中して楽しんでいるみたいだし、安心してポテトを口に含むと、今度はゲンデからの念話が入ったんだ。
『アラター!頼む![ダイニングBAR・緋]を解放してくれないか!?本っっ当に美味い酒があるって言っても辺境伯の騎士の奴らが信じないんだ!まずはお試しで飲ませたいんだよ!』
因みに、ゲンデには人数の少ない騎士達グループに参加させてたんだよね。殿下の騎士と辺境伯家の騎士との緩衝材になるかと思って。
それにしても……ゲンデも覚えてたかぁ。
そう、解放した日はその日一日サービスdayになるから、どの施設もどれだけ飲んで食べても無料になるんだってフェイが昨日言ってたんだよね。
だから、日をズラして解放して行こうと思ってたけど……仕方ないかぁ……ゲンデが僕の威厳に関わるとか言ってるし。まあ、先行投資だと思えばね。
『良いよ。解放しておく。……但し!セラさんが許す範囲だからね!』
『ウッ!……セラさん結構厳しいんだよ……!でも、馬鹿にされたままじゃ腹の虫治らないし……——わかった。セラさんの言う事聞くよ』
『よし!じゃあ、解放するよ。セラさんにも楽しんでって伝えてね』
『了解!』
ゲンデとの念話の終了後、早速僕はステータスボードを開いて[ダイニングBAR・緋]を解放したんだ。
確か地下一階のスーパーマーケットにもお酒の種類あった筈だけどなぁ……と考えたんだけど、よく考えたらどんな味かわかんないもの買えないもんね。
いずれ僕一推しのスーパーマーケットの有り難みがわかるだろう、と思いつつようやく映画に集中する僕。
久しぶりに見ると、やっぱり面白かったんだよねぇ。
———そして映画を見終わった後の反応といえば……
「なんて素晴らしい作品なんだ!」
「もう一度見たいですわぁ!」
「かなり迫力あった……!」
「あのお歌覚えたいの!!」
「あれで子供向けなのか……!」
とまあ、それぞれ話し始めてなかなか席を立ってくれないものだから、パート2の方まで見る事になったよ。とほほ……
でも、おかげで執事グループからかなり感謝されてね。あ、勿論フェイの念話を通してだけど。
そのフェイ曰く……
『皆さん精鋭なだけあってのみ込みが早いので、鍛え甲斐があります。宜しければ、もう一本見て頂いても構いません』
なんて返事があったけど、フェイの鍛え方半端じゃなさそうだし、執事さん達の為?に映画2本で切り上げたよ。
僕も程よくお腹も空いてきたからね。
次は、[スカイラウンジ・蒼]へ移動を提案したら、全員が承諾。どうやら皆、お腹空いてきたみたい。
「では、待望の[スカイラウンジ・蒼]へ向かいましょう!」
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